トリッパーと雁夜が聖杯戦争で暗躍   作:ウィル・ゲイツ

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第12話 降霊術の結果(憑依二十ヶ月後)

 魔術刻印の移植が完了して、一ヶ月。

 

 今までの訓練の成果と魔術刻印のフォローのおかげで僕の降霊術がそれなりのレベルに達したので、ついに英霊の縁の品を使って『英霊の分霊を対象とした降霊術』を試すことになった。

 試す場所は、例によって冬木市から遠く離れた遠坂家の秘密の拠点である。

 

 さて、初めて八神家の降霊術を実施するわけだが、……さすがの時臣師もまだ英霊を降霊できるレベルではなく、雁夜さんも当然無理なため、僕が英霊の降霊を試すことになる。

 ……いや、僕の素質が降霊術に特化しているせいもあるけど、八神家の魔術刻印があるからこそ、僕がこんなレベルの高い魔術を使えるわけだ。

 

 ちなみに一緒に訓練している3人で比較すると、相変わらず集中力ならダントツで雁夜さん、魔力量なら桜がトップだが、(魔術刻印なしでも)降霊術なら僕がダントツである。

 そうそう、最近は降霊術の授業に凛ちゃんも合流し、凛ちゃんは魔力量も魔術の技量はこの3人よりも上だが、降霊術だけは僕が勝っている。

 もっとも、言うまでもないが魔術刻印なしで比較すれば時臣師の降霊術のレベルは、僕の遥か上である。

 ほんと、魔術刻印を残してくれたご先祖様には、何度感謝しても足りないな。

 

 

 で、話を戻すが、まずは僕が英霊の降霊術を試す。

 そして成功すれば、そのデータを元にして時臣師が遠坂家の降霊術と組み合わせて、『より安全に、より確実に使える英霊の降霊術』の完成を目指すらしい。

 しかし、その降霊術が完成しても、凛ちゃんと桜ちゃんたちの行使は時臣師から禁止されており、凛ちゃんはものすごく不満そうだった。

 ……まあ、普通の子供に降霊術は危険すぎるよな。

 万が一にも英霊に体を乗っ取られたり、精神を上書きされたら取り返しがつかないし。

 

 ところで今思い付いたんだが、『降霊術で英霊の分霊を自分の体に憑依させた状態』でサーヴァントの召喚を行ったら、ほぼ確実に『憑依中の分霊と同じ英霊が召喚される』んじゃないだろうか?

 英霊の『縁の品』を持っているどころじゃない、英霊の分霊、つまりコピーが召喚者に憑依しているのである。

 これで別の英霊が召喚されたら詐欺だろう。

 

 うん、ちょっと考えた限りでは特に問題なさそうだ。

 後で、時臣師と相談してみるか。

 こういう小細工と言うか、裏技的発想は僕の得意分野である。

 ……もっとも、実現性とか、コストパフォーマンスとか、周りへの影響や迷惑を正確に判断するのは苦手ではあるが。

 

 

 時臣師は縁の品として、『エルトリアの神殿から発掘されたギリシャの古い地母神縁の物品にあたる鏡』と『コルキスにあったメディア縁の文献』、そして『ランスロットが使っていたとされる兜』『クー・フーリンが使用したとされる戦車(チャリオット)の一部』をすでに入手していた。

 最初の予定では、僕がライダークラスかキャスタークラスで召喚できそうな英霊の縁の品を選んで買うはずだったが、『降霊術に使うからサーヴァント召喚に使わなくても構わない』『敵への撹乱情報になるからちょうどいい』と時臣師が判断し、すでに購入されていた。

 ……いや、スポンサーは時臣師だから、時臣師が勝手に買うのは自由ですけどね。

 多分、『仮契約(パクティオー)』の特許申請をすれば、それぐらいのお金はすぐに取り返せるとは判断し、金銭面で強気になっているんだと思う。

 まっ、あれの特許料は相当期待できそうだから、これぐらいの無茶は大丈夫かな?

 

 

 そうそう、タマモと真凛以外には内緒だが、僕は士郎少年と友達となり、すでに彼の髪の毛を回収済みである。

 そのため、実は縁の品には『英霊エミヤとなる可能性を持つ少年の髪の毛』も加わっている。

 

 聖杯戦争においてサーヴァント召喚を行う場合、『縁の品がなければ召喚者と相性がいい英霊が、縁の品があれば縁の品と強い関わりを持つ英霊で一番召喚者と相性がいい英霊が召喚される』らしい。

 しかし、降霊術の場合は、ある程度召喚する英霊をこちらから指定できるらしい。……少なくとも、八神家の降霊術の場合は。

 『英霊の一部の力しか借りれない代わりに、召喚対象を指定できる』と利便性が向上しているのだと思う。

 

 もちろん、指定した英霊を召喚できるだけの技量がなければ、全く意味がないのだが。

 エミヤを除くと、これらの聖遺物で召喚可能な原作キャラは、メディア、メドゥーサ、ランスロット、クー・フーリンの4人だけだな。

 てっきり、メディアの縁の品は『アルゴー船の破片』だと思っていたのに。

 『アルゴー船の破片』なら、ヘラクレスを含め、アルゴー船の搭乗員の英霊多数が召喚できる可能性があったんだが、これでは他の英霊を召喚できる可能性はほとんどなさそうだ。

 

 『時臣師が購入したメディア関連の聖遺物』がこれしかなかった以上、『第五次聖杯戦争で魔術協会から派遣された魔術師(名前不明)』もこれを使って召喚した可能性が高いが……、その予想が正しければ、メディアを召喚した魔術師は『狙ってメディアを召喚しておいて、なぜかメディアを虐めた挙げ句に逆襲されて殺された』わけで、……そいつはただの馬鹿か?

 何を考えて行動したのか、全く想像できないぞ?

 

 それはともかく、降霊術も英霊との相性がいいと効果が大きいらしい。

 というか、サーヴァントの場合、相性は「連携が上手くいく」とか「サーヴァントがマスターの命令を守ってくれる」とかのレベルだ。

 しかし、降霊術の場合は相性が良くないと、英霊の分霊から借りれる力の質と量と種類が相当劣化するらしいので、かなり切実な問題である。

 相性が良すぎると、それはそれで問題が発生する可能性もあるらしいが。

 となると、同性で性格が近い方がいいだろうか?

 

 ……いや、初めての降霊術なんだ。

 自分が召喚したいと思う相手を呼ぶのがベストだろう。

 それなら僕が最初に召喚するのは、魔術師として尊敬すべき対象であるメディアだな。

 サーヴァントの場合、メディアを召喚するとなると裏切られる危険性が怖いが、降霊術で意志のない分霊を呼ぶだけなら全く問題ない。

 時臣師も「降霊術を使う相手を自由に選んでいい」と言ってくれているし。

 

 

 こうして、記念すべき初めての英霊の降霊術は、メディアを対象として行うことにした。

 

 ちなみに降霊術は、

 

1.英霊の分霊の召喚

2.肉体への憑依=魂の空間(ソウルスペース)へ格納

3.英霊の分霊が持つスペックやスキルなどの解析

4.英霊の分霊から力や能力の引き出し

 

という順番で実行される。

 

 

 なお、降霊術の失敗は、

 「1」で英霊の分霊を召喚できなければ失敗。

 「2」で英霊の分霊を魂の空間(ソウルスペース)に格納できなければ失敗。なお、魂の空間(ソウルスペース)の容量を上回る魂を無理に格納しようとすれば、『自身の魂が消える』とか『自分の魂が上書きされる』とかで死ぬ可能性もある。

 「3」で英霊の分霊が持つスペックやスキルを解析できなければ、当然英霊の特殊能力やスキルを借りることはできない。

 「4」で英霊の分霊から力などが引き出せなければ失敗。引き出しすぎて、力に耐え切れずに体が壊れるとか、オーバーフローで魔術回路が焼ききれても失敗。

といったものだ。

 

 うん、改めて考えると結構危険な魔術である。

 まあ僕の場合、「3」は原作知識というチートがあるから、原作キャラの英霊ならどんなスキルか宝具を持っているかは知っているけど、これも『原作においてサーヴァントとして召喚された場合』であり、フルスペックじゃないのが残念だ。

 例えば、公式設定で言われていたが、『クー・フーリンはアイルランドで召喚された場合、宝具に戦車と城が追加され、『不眠の加護』のスキルが追加される』らしいし。

 

 

 サーヴァント召喚の場合、『英霊に現界可能な魔力を与え』て、『サーヴァントと仲良くする』だけで、『聖杯戦争期間中は生前に近いスペックをマスターの技量に関係無く発揮できる』んだから、その規格外ぶりに改めて驚かされてしまう。

 まあ、マスターの技量が劣悪すぎると、サーヴァントのスペックも大幅ダウンさせ、魔力不足の状況が発生しやすくなるが、逆にいえば技量が劣悪な魔術師が召喚しておいて、それしかデメリットがないというのも本当ならありえない。

 大聖杯が召喚のほとんどを肩代わりするとはいえ、魔術を学べば学ぶほど、聖杯戦争の恐ろしさと凄さをいやというほど思い知っている毎日である。

 

 で、まずは『可能な限り弱体化させたメディアの分霊』の降霊を実行したところ、意外なほどあっさりと魂の空間(ソウルスペース)への格納に成功した。

 降霊させるとき、魔術回路に負担が掛かるかと危惧したが、魔術回路とは関係無く直接分霊が魂の空間(ソウルスペース)へ格納されたため、僕は分霊の降霊のみに僕は集中できた。

 ちなみに、今回は降霊しただけであり、降霊した状態で彼らの力やスキルを借りることは一切しなかった。

 一段階ずつ順番に、安全かどうか確認しながら試した方が安全だしな。

 

 

 で、予想以上にうまくできて、まだまだ魔力も精神力も余裕があったので、調子に乗った僕はメドゥーサの降霊を提案した。

 

 かつて前世において僕は、『アルトリア、メドゥーサ、メディアの3美女サーヴァントハーレムを目指すSS』も書いていたことがあり、せめて分霊だけでもそれに近い状態にしたい、なんて思ってしまったわけだ。

 今はアルトリアの縁の品はないが、いつかはゲットしたいものである。

 最悪、聖杯戦争中にセイバーの血とか髪の毛を回収すればいいだろう。

 聖杯戦争が終わるまでならセイバーの物も消滅しないだろうし。

 

 

 少し考え込んだ時臣師だったが、僕はそれほど疲れた様子もなく、降霊中に採取したデータにも異常は一切なかったため、「今日は次の降霊が最後」ということで許可してくれた。

 そして、メディアの降霊と同じく、メドゥーサの降霊も全く問題なく終了した。

 

 うん、予想していたことだけど、僕に降霊術は一番合っている。

 いくら最弱状態の分霊とはいえ、これほど降霊に負担がないとは自分でも驚きだ。

 明日以降は、いよいよ降霊&力を借りることを行うわけだから、気を引き締めていかないと。

 

 

 そんなことを考えていると、時臣師が僕の体を検査しつつ、意外なことを言ってきた。

 

「体に異常はないようだが、メディアの分霊は問題なく魂の空間(ソウルスペース)から解放できたのかね?」

 

 詳しい話を時臣師に聞いてみると、(八神家の魔術書に書いてあったことだが)『術者と英霊の相性が良すぎると、まれに魂の空間(ソウルスペース)から分霊が解放されないこと』があるらしい。

 

「むろん、降霊術の適正や熟練度が低い者は集中を切らした時点で勝手に解放されるようだが、……君の家は降霊術の大家であるし、何より君は降霊術に適正が高く、霊媒体質まで持っているからね」

 

 へっ、降霊した分霊って、解放されないこともあるのか?

 分霊は降霊するだけなら魔力がいらないようだが解放など簡単にできる、というか分霊を意識して捕縛していなければ、勝手に魂の空間(ソウルスペース)から出ていくと思っていた。

 で、自分の内部に意識を集中されると、……嘘だろ!?

 メディアとメドゥーサの分霊が、二人とも魂の空間(ソウルスペース)内にいたままだった。

 慌てて魔術刻印を調べ、当然登録されていた『降霊した分霊の解放魔術』を行使するが、……効果がなかった。

 ありえない!!

 

 慌てて時臣師に報告すると、さすがの時臣師も驚いた表情を見せた。

 

「それでは、……君の魔術刻印に登録されているものより強力な魔術を開発しない限り、分霊の解放は難しいと言わざるを得ないだろうね。

 ……幸い、君の体には異常は一切見つけられない。

 そこまで相性がよければ、ほとんどロスなしで分霊から力を引き出せるだろう。

 解放するのは後回しにして、まずは力を引き出す訓練を始めたまえ。

 大丈夫だ。

 私が八神家の魔術書で解決方法がないか調査するから安心なさい」

 

 時臣師はそう言ってくれたが、僕は動揺しまくっていた。

 

 あ、ありえなさすぎる。

 もし分霊の解放ができない場合、『英霊の降霊がやり直しができない一生に一度の選択』って、なんだそれ?

 『念能力』の『発』を決めるような重要すぎる選択じゃないか!

 

 あまりの事態に頭を抱えてしまうと、慰めるように雁夜さんが僕の肩に手を置いた。

 そして、タマモもまた慰めてくれた。

 

『マスター、安心してください。

 マスターの魂の空間(ソウルスペース)の余裕はまだまだたっぷりあります。

 ですから、メディアやメドゥーサ以外の英霊の分霊も格納できますし、それ以前に多くの英霊の降霊なんて歴代の八神家当主ですらできなかったことですし、問題ないですよ』

『でも、より強い力を使おうと思ってより力を持った分霊を降霊したら、当然その分空間を喰われてやり直しはできないわけだから、どちらにしても選択は重要ね』

 

 タマモがフォローしてくれたが、容赦ない真凛に即行で否定されてしまった。

 

『ま、まあ、真凛の言う通りだな。

 念能力において、多すぎる or 厳しすぎる制約を付けて使えない技になってしまうようなミスを、僕がするわけにはいかない。

 幸い、メディアは『高速神言』スキルを、メドゥーサは『石化の魔眼』スキルという魔術師ならば誰もが欲しがるスキルを持っているから、これを僕が使えるようになれば問題はない。

 ……僕の脳や眼が過負荷で焼ききれなければ、という条件付きだけど、ね』

 

 

 予想外の事態は発生したが、当初の予定通り今日の降霊術実施はここまでとなり、後は時臣師が降霊術の改良案を検討し、将来降霊術を使う予定の雁夜さんも戦闘に使う観点から色々と提案していたようだった。

 

 僕は動揺が抜けきらず、今後のことを考えるので精一杯だったのでよく聞いていなかった。

 時臣師たちも、衝撃的事実を知りショックを受けているのだろうと僕を放置していてくれた。

 

 が、そのこともショックだったが、僕はそれ以外のことをずっと考えていた。

 

 それは、『メディアとメドゥーサの分霊を解放する方法が見つからなかった場合、聖杯戦争開始時もこの状態のままという可能性が高い』ということだ。

 つまり、『分霊を宿したマスターがサーヴァントを召喚した場合、分霊のオリジナルの英霊が召喚される』という予想が正しい場合、この二人をダブルキャスターとして召喚しなければいけないということだ。

 いや、この二人、あるいはメディアの二面性として『王女メディア』と『魔女メディア』が召喚されるなら問題ない。……メディアが裏切りさえしなければ。

 しかし、メドゥーサの暗黒面と言うか、邪神面である『ゴルゴン』が召喚されれば、……まず間違いなく僕が破滅する。下手すれば冬木市も壊滅する。

 召喚直後に『自害しろ』とか、『自滅せよ』とか令呪で命令できればいいが、そんな暇はあるか?

 それ以前に、ゴルゴンに令呪が通用するのだろうか?

 うわ~、不安要素だらけだ。

 

 

 しかし、この状態に加えて、さらにクー・フーリンやエミヤの分霊を降霊し、ゴルゴンの召喚確率を下げるという対策もとれない。

 『最弱状態とはいえ英霊の分霊を4人同時に抱え込んだマスターが、ダブルキャスター召喚用の特殊な召喚陣を使ってサーヴァント召喚実行』なんて真似をすれば、どんなイレギュラーな事態が発生するか全く予想できない。

 ……うん、どう考えてもリスクが大きすぎるね。

 

 ということで、選択の余地はなく、『メディアとメドゥーサ』、あるいは『王女メディアと魔女メディア』のダブルキャスターを召喚できるように何とかする必要がある。

 そして、余計なトラブル発生を避ける為、サーヴァントを召喚するまでは、メディアとメドゥーサ以外の分霊は降霊できない。

 

 あああああ、色んな英霊の分霊を降霊させて、可能な限り色んなスキルや宝具の力を借りようと思っていたのに!

 ぎりぎりまで考えて、ベストなダブルキャスターを召喚しようと思っていたのに!!

 

 ……はあ、世の中ままならないものである。

 

 

 この後帰宅した僕は、精神世界においてタマモと真凛と一緒に作戦会議を開いた。

 

「マスターには降霊術の才能があるとは思っていましたけど、……さすがに想像以上でしたね」

「そうね、まさか分霊を解放できなくなるなんてね」

 

 二人は苦笑しながら話していた。

 

 しかし、雑談する余裕がない僕は、すぐにタマモに指示を出した。

 

「とりあえず、分霊の解放に関する魔術の開発は時臣師に任せる。

 ……まずは状況確認だ」

「はい。では呼びますね。

 えい!」

 

 タマモの掛け声と同時に、ボディコン姿のメドゥーサと、何でか知らないが王女(少女)姿のメディアが夢の世界に出現した。

 しかし、さすがは英霊の分霊というべきか、感じられる魔力はかなりのものだった。

 もっとも、分霊のため意志は全く感じられなかった。

 

「一応確認するけど、彼女たちが僕の魂の空間(ソウルスペース)にいる分霊かい?」

「ええ、そうです。

 精神世界をマスターの魂の空間(ソウルスペース)と接続して、彼女たちの状態を直接確認できるようにしました」

 

 その二人、特に王女姿のメディアを見て、真凛が意味ありげに僕の方を見つめた。

 

「ふ~ん。

 メドゥーサはいいとして、メディアがこの姿なのは貴方の趣味かしら?」

「確かに、魔女よりも王女の方が好みだけど、僕は何もしてないよ」

「たぶん、マスターのその願望が影響して、分霊の姿が変わったんでしょう。

 この少女もまたメディアなのは間違いありません」

 

 あまりフォローになってないフォローを言ったタマモだが、それとは別に僕は気になることがあった。

 

「僕は最弱状態の分霊を呼んだつもりだったけど、それにしては魔力が多くないか?」

「確かにそうですね。

 でも、マスターには負担などはなかったんですよね?

 ……ああ、そうです。

 分霊のパラメータを確認しましょう。

 それが一番確実ですよ」

 

 タマモのアドバイスに従ってじっくり二人を眺めていたが、いくら見つめてもサーヴァントのパラメータのようなものは見れなかった。

 

「やっぱり、『サーヴァントに対する解析(パラメータ閲覧)能力』は聖杯からサーヴァントのマスターに対して付与された能力だから、降霊術の術者が分霊のパラメータを見るのは無理かな?」

「大丈夫です!

 この精神世界はマスターの世界、そしてこの分霊はマスターが降霊した存在。

 マスターが望めば、彼女たちのパラメータは見えます!

 見れるはずです!!」

 

 タマモの力強い言葉に励まされ、『聖杯戦争のサーヴァントのパラメータルールで分霊のパラメータを表示しろ』と強く念じたところ、いきなりパラメータが視界に表示された。

 

「おお、出てきた!」

「よかったですね。

 それで、パラメータはどうなっていますか?」

 

 タマモに尋ねられてさっそくパラメータをチェックしてみると、見事に原作のサーヴァント風にパラメータが表示されていた。

 

 

<分霊のパラメータ>

種族     分霊

真名     メディア

属性     中立・悪

ステータス  筋力 E  魔力 A+

       耐久 D  幸運 -

       敏捷 C  宝具 -

保有スキル  【高速神言】:A

宝具     なし

 

 

<分霊のパラメータ>

種族     分霊

真名     メドゥーサ

属性     混沌・善

ステータス  筋力 C  魔力 B

       耐久 E  幸運 -

       敏捷 B  宝具 B

保有スキル  【魔眼】:A+

       【怪力】:B

宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B

       【自己封印・暗黒神殿】:C-

 

 

 なんじゃい、これは!?

 パラメータを見た瞬間、僕は本気で目を疑った。

 このパラメータをタマモと真凛にも見えるようにしたところ、二人とも絶句していた。

 

「スキルや宝具の一部がないのはいいとして、それ以外が原作のサーヴァントと同じランクだぞ!?

 何でこんなに強いんだ?」

「……多分ですが、推測はできます。

 まず、今回マスターは最弱状態の分霊を召喚しようとしましたよね?」

「ああ、したぞ」

「ですがマスターは、『最弱状態』という言葉でしかイメージできなかったのはありませんか?

 それよりも、マスターが持つ観測世界の彼女たちの記憶やイメージが強くて、結果として『原作における最弱状態のイメージ』で彼女たちは召喚されたのではないでしょうか?」

「言われてみれば、……確かにこれは、葛木キャスターと慎二ライダーのステータスの一部ね。

 慎二ライダーが桜ライダーより弱体化しているのは今さら言うまでもなく、魔術師でない葛木をマスターにしていたキャスターも、間違いなく弱体化していたはずよね」

 

 あ~、なるほど。

 それはありそうな話だ。

 

「クラススキルとかがないのは、サーヴァントじゃないから当然ね。

 それから、魔術や結界以外の宝具とかがないのは、八神家の降霊術は英霊の分霊を降霊させるもので、実体を持つ宝具は対象外ってことかしら?

 多分、宝具用の降霊術があるんじゃない?」

「さすがですね、真凛。

 あなたの予想通りです。

 マスターの英霊の降霊術成功により、降霊術に関する新しい情報が解放されました。

 その中に、専用の魔術具を作り、そこに宝具の概念を召喚して融合させ、宝具の力の一部を発揮する魔術具の作り方がありました」

「うわ~、やっぱりあったんだ。

 でもそれって、ものすごく効率が悪くないかしら?」

「ええ、その通りです。

 専用の魔術具は、宝具の概念に耐えきれずすぐに消耗してしまうので、時間制限と使用回数制限がある使い捨ての魔術具になります。

 魔術具の作成にはそれなりの資金と魔力と技術を必要としますので、八神家でも降霊術のみ使用することがほとんどで、本当に重要な戦いのみ、この幻想魔術具を使用されていたようです」

「ほんの一時のみ、宝具の一部の力を発揮する魔術具、ね。

 仮にも宝具の力を一部とはいえ使おうとするんだから、それぐらいの対価は当然なんでしょうけど」

「ええ、衛宮士郎という規格外の存在を知ってしまうと、そのレベルの違いに愕然とします」

 

 全く同感だよなぁ。

 だから、いずれ降霊術で英霊エミヤの力を借りて、投影魔術で宝具の投影品を量産しておこう、なんて考えていたんだけど。

 予想外の事態が発生してこのざまである。

 それができるようになるのは、いつのことになるやら。

 ……まあ、降霊術で英霊エミヤの力を借りることができたとしても、投影魔術を使おうとしたら、僕の魔術回路が焼き切れる可能性も十分あるけどね。

 

 

「……いけない、話がそれたわね。

 そういうわけで、これだけ強い分霊が降霊したには全てあなたのせい。

 普通ならそんな分霊は、魂の空間(ソウルスペース)に収まるはずがないから、強制的に降霊がキャンセルされるか、許容量オーバーで術者が死ぬんでしょうけど……」

「マスターの魂の空間(ソウルスペース)の広さは、本気で規格外ですからね。

 違和感なしでメディアの分霊を収め、続けてメドゥーサの分霊すら収めてしまった、と」

「……本気であなた人間?」

 

 真凛から化け物でも見るような眼を向けられたが、……自分のことながら否定できんな。

 意志と宝具の一部がないとはいえ、原作のサーヴァントクラスの分霊二人を平気で格納できるって、僕の体は一体どうなっているんだ?

 

「マスターの言葉を借りれば、これがマスターのチート能力ですかね?

 観測世界の魂とこの世界の魂が融合することで、この世界の人間ではありえないぐらいの広さを持った魂の空間(ソウルスペース)を持ったってとこでしょうか?

 ちなみに、八神家の記録に残る一流の降霊術の魔術師の場合でも、このクラスの分霊ですと一人分格納できるだけでも相当稀少みたいです。

 だからこそ、サーヴァント7体分の魂を格納できたアインツベルンのホムンクルスや、黒桜の存在がとんでもないんですけどね」

 

 そこまで言って、タマモは真面目な顔に変わった。

 

「さすがはマスター、と言いたいところなんですが……」

「どうした?」

「強力な力も使いこなせなければ意味がない、ってことよ。

 彼女たちの分霊を、あなたが問題なく格納できているのは見ればわかるけど、……彼女たちの力を借りることはできるのかしら?

 私は所詮仮想人格で、あなたが作った影しか使ったことはないけど、……その私でも下手に触れれば消し飛ぶぐらいの威力が伝わってくるわ」

 

 それは僕も同感。

 何も考えずにスキルを借りた場合、高速神言を使えば脳みそが、魔眼を使えば目が焼ききれ、宝具を使えば魔力どころか生命力まで全部吸いとられ干からびてしまいそうな予感がひしひしと感じられる。

 

 だが、せっかく英霊を降霊しても、何もスキルが借りられなければ、降霊術の存在価値はなくなってしまう。

 ましてや、僕は英霊の分霊の召喚やり直しができないのだ。

 いや、別の英霊の分霊は召喚可能だが、魂の空間(ソウルスペース)の残りスペースを消費し、将来の選択肢をさらに奪ってしまうから、うかつなことはできない。

 

 

 くそっ、使い方によっては凄く強力な能力なんだろうに、現時点では悉く役に立たないというか、足を引っ張るというか……

 ……いや、小説でもそんなものだったな。

 強力すぎて未熟な技量では使いこなせない能力は、『能力の持ち主を振り回し、術の行使は失敗ばっかりで、時には持ち主を破滅させること』はよくある話だ。

 まずは、『今できること』と『できないこと』をはっきりさせるべきだな。

 そして、『できないことは、少しでもできるように努力』し、『今できることのうち、さらにできることとできないこと』に分け、『さらにできること』を増やしていくべきだろう。

 

 まずは、現時点における『できること』と『できないこと』のリストアップだな。

 とりあえず、『今やるべきこととできること』を見つけて精神的に持ち直した僕は、さっそく真凛と協力してそれらのリストアップを始めた。

 そんな僕たちに対して、

 

「私はマスターの剣となり、盾となるため、この能力を使いこなしてみせます」

 

と涙が出るほど嬉しいことをタマモが宣言した。

 その言葉は嬉しかったのだが、タマモは無謀にも『僕とのライン経由でメドゥーサの分霊に接続し、彼女から力を借りて使いこなそうとした』ので、僕と真凛で慌てて止めた。

 

「いくらお前が特別性の使い魔でも限度はある。

 気持ちは嬉しいが、そこまで焦る事態じゃないし、まずは落ち着け!」

 

 僕は必死で止めたが、タマモは聞く耳を持たなかった。

 

「心配してくれるのは嬉しいですけど、多分大丈夫ですよ」

「その根拠のない自信は、一体どこから湧いてくる?」

「そうよ、いくらなんでも今のは無茶だわ」

「それはですね、メドゥーサは『元女神であり、魔物になる前の存在』ですから、どう考えても人間ではありません。

 そういう意味で、狐を素体にした使い魔である私はメドゥーサと相性がいいはずです」

「……確かにタマモの名をもらった玉藻御前は、元神の分霊で最後には大妖怪か悪霊になった存在らしいから、……確かにメドゥーサとかなり近い存在だな。

 もし本当に、タマモに玉藻御前の加護があるのなら、……メドゥーサの力を借りるのを助けてくれるかもしれない。

 ……加護があるなら、だけどな」

 

 そこまで言うと、僕はタマモを正面から見て話しかけた。

 

「気持ちはわかったから、そこまでにしろ。

 リスクは全部避けられるわけないけど、これは回避できるかもしれないリスクだ。

 まずは一緒に解決策を考えよう」

 

 僕の真剣な思いが通じたのか、やっとタマモは頷いた。

 

 

 まあ、タマモの気持ちもわかる。

 マスターと使い魔は一心同体。『いくら強力な英霊の分霊を降霊させていてもその力をマスターが使えないなら、分霊のスキルを従者である自分が使いこなし、自分が最強になれば問題ない』と考えたのだろう。

 タマモは魔術回路を持っていて、自力で魔力を作り出せることができるし、先日は変化スキルまで覚えたが、それ以外は魔術もスキルも特殊能力も使えない。

 まあ、魔術解析とか、その成果である令呪作成などの能力を持っているがどれも支援系能力であり、直接戦闘力は乏しい。

 そこで、メドゥーサの魔眼や怪力スキル、結界系の宝具に目をつけ、直接戦闘力を身に着けようと思ったのだろう。

 

 確かに、『メドゥーサのスキルと宝具を使いこなすタマモ』とか、実現したら頼もしいと思うけどね。

 

 だが、まだ聖杯戦争開始まで1年ぐらいあるはず。

 焦らず、しかし着実に努力して、3人が笑顔でそして自信を持って聖杯戦争を迎えられるようにがんばっていこう。

 




【にじファンでの後書き】
 いきなり怒涛の展開です。
 設定に矛盾などがありましたら、お知らせください。

 PV36万達成しました。
 どうもありがとうございます。


【備考】
2012.05.22 『にじファン』で掲載


【設定】

<分霊のパラメータ>
種族     分霊
真名     メディア
属性     中立・悪
ステータス  筋力 E  魔力 A+
       耐久 D  幸運 -
       敏捷 C  宝具 -
保有スキル  【高速神言】:A
宝具     なし

<分霊のパラメータ>
種族     分霊
真名     メドゥーサ
属性     混沌・善
ステータス  筋力 C  魔力 B
       耐久 E  幸運 -
       敏捷 B  宝具 B
保有スキル  【魔眼】:A+
       【怪力】:B
宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B
       【自己封印・暗黒神殿】:C-

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