トリッパーと雁夜が聖杯戦争で暗躍   作:ウィル・ゲイツ

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第13話 想定外の事態(憑依二十一ヶ月後)

 メディアとメドゥーサの分霊を降霊してから一ヶ月が経ったが、僕はずっと『分霊から安全に力を借りる方法の検討と訓練』を続けている。

 

 ちなみに、僕の『英霊の分霊が解放できない事態』を目の当たりにした時臣師は降霊術の研究はするものの、僕と同じ状況に陥ることを避けるため英霊の分霊に対して降霊術を使わないでいる。

 その代わり、雁夜さんが『時臣師が改良した降霊術』を試すことになった。

 『万が一、雁夜さんもランスロットの分霊を解放できなくなっても、元々ランスロットを召喚する予定なのだから問題ない』と時臣師と雁夜さん自身が判断したのだ。

 

 そして、雁夜さんが挑戦し、……意外にもあっさりとランスロットの降霊に成功した。

 相性もあるんだろうけど、未来、いやこの世界だともう平行世界にあたる世界において雁夜さんがランスロット召喚に成功した時点で、雁夜さんはランスロットと縁ができているのかもしれないな。

 雁夜さん曰く、『ランスロットのほんの一部の力しか持たない分霊』を降霊させるのが精一杯だったらしい。

 それでも負担が大きかったらしく、すぐにランスロットの分霊を解放していた。

 

 この予想が正しければ、凛ちゃんは英霊エミヤ、桜ちゃんはメドゥーサの降霊に成功しそうだな。

 この天才少女たちなら、それ以外にもの英霊降霊にも成功しそうだけど、時臣師は時期尚早として凛ちゃんたちに『英霊を対象とした降霊術の使用許可』を出していないから確認しようがないけど。

 

 

 そして訓練を積んだ結果、雁夜さんは……未だにランスロットの力を借りることができていなかった。

 予想通りランスロットのスキルなどの解析ができずにいた雁夜さんに対して、僕が原作の『ランスロットのパラメータ』を教えたことで、この壁は乗り越えることができた。

 やはり、事前知識がないと分霊がどんなスキルなどを持っているか、解析するのはかなり難しいらしい。

 まあ、『降霊した英霊の伝承を片っ端から調査して、全ての伝承を元に思い付く限りのスキルを持っていないか総当たりで確認』をすれば、実際に持っているスキルを見つけられる可能性は高いような気がするが、この発想は時臣師も考えていなかったらしい。

 『英霊の分霊との適合率を上げ、分霊に対する解析能力を向上させる』のではなく、『伝説に基づいて保有するスキルを想像して、実際にそのスキルを持っているか総当たりで確認する』というのはやっぱり魔術使い的な発想なのだろうか?

 魔術を目的ではなく手段として使うという意味では、やっぱり僕の発想は魔術使いなんだろうな。

 

 それはともかく、雁夜さんはランスロットのスキルや宝具を解析できるようになったのだが、次の段階である力の借用に苦戦していて、まだ一度も成功していない。

 それ以前に、分霊を自身に憑依させ続けるるためには、意識を集中させ、かつ魔力も消費し続ける必要があり、「例えランスロットのスキルや宝具の能力を借りれたとしても、魔力量が少ないからすぐに魔力切れになってしまう」と、僕とは逆の意味で悩んでいた。

 この問題は『訓練を続け分霊との親和性を向上させれば、分霊を憑依させ続けるのが容易になり、魔力消費量も減っていく』と八神家の魔術書に書かれていたので、ひたすら訓練あるのみだろう。

 雁夜さんには、悪影響がなく魔力が続く限り、ランスロットの分霊を保持し続けるようにアドバイスしておこう。

 

 今はまだ全く使えないけど、いつかランスロットの『無窮の武練』スキルや宝具の力を雁夜さんが自在に使えるようになれば、それがどれほど低ランクでも対マスター戦ならものすごく有利になるだろう。

 あるいは、ケイネスの『月霊髄液』に触れることさえできれば、己の支配下において宝具化することさえできるかも?

 制御できるかどうかは別問題として、それって無茶苦茶強くね?

 ……さすがに、切嗣の起源弾相手には意味がないんだろうけど。

 いやっ、『月霊髄液』が宝具と化して神秘のランクが起源弾を上回れば、起源弾を無効化できる可能性もあるのか……。

 これは雁夜さんに何としてもがんばってもらわないといけないな。

 

 雁夜さんには他にも期待していることがある。

 それは可能ならば、『エミヤの分霊を降霊し、エミヤの投影魔術を使えるようになってもらいたい』ということだ。

 分霊なら固有結界も持っているだろうから、低いランクなら雁夜さんでも宝具が投影できる、かもしれない。

 当時はここまで考えていなかったけど、雁夜さんは衛宮式の自殺的修行をずっと続けているわけだから、エミヤの魔術と親和性は高いと思うけど、……さてどうかな?

 

 理想は、雁夜さんによる『ランスロットとエミヤの二重憑依状態』だが、『事前にエミヤの投影魔術で宝具を投影しておき、それをランスロットの技量と宝具で攻撃』でも構わない。

 このコンビネーションは、二次創作でもチートトリッパーが使うことが多い夢の組み合わせである。

 そう、できればこれは僕が実現したかった!!

 『投影品とはいえ、れっきとした宝具を完全に己のものとして達人の技で扱う』とか、Fateファンの夢だよなぁ。

 

 

 まあ、できないことを語るのはここまでにして、僕の方も訓練を重ねた結果、何とか分霊の能力を使えるようになった。

 

 思い付いてみれば、結構簡単な方法だった。

 魂の空間(ソウルスペース)にいる分霊のスキルが強力すぎるなら、封印して力を抑えればいいのである。

 

 元々魔術というものは、矛と盾を用意するのが基本だ。

 これは『魔術が暴走したときに、沈静化させること』もあるし、『裏切り者や技術を盗んだ魔術師を粛清すること』もあるし、当然の備えだ。

 というわけで、当然八神家も降霊術の対策を十分検討済みで、『降霊した分霊に対して、強制退去、暴走化、封印などを行う魔術』が魔術刻印に登録されていた。

 このうち、強制退去は効果がなく、暴走なんてやったら僕が自爆するだけで意味もなく、軽い封印処理を実施することで分霊の力を弱体化させることに成功した。

 これにより、自滅の危険性を大幅に減らして僕もスキルの力を借りれるようになった。

 

 もっとも、常に分霊に封印の魔術をかけているわけだから、それに魔術のメモリを使う必要があり、それ以外の魔術に使えるメモリが減ってしまうというデメリットもちゃんと存在する。

 いつかは、封印なしで分霊から力を借りられるようにしたいものだ。

 

 こうして、まだランクは低いものの、タマモがメドゥーサの分霊から魔眼スキルを借りることに成功した。

 さすがのタマモも魔眼を制御して威力を抑えることまではできず、『魔眼を使うときだけスキルを借りる』と運用方法の工夫でカバーしている。

 

 また、「現代人には発音できないし、言語として聞き取れない」というとんでもない制約がついていたメディアの分霊の高速神言スキルの方は、……真凛がなんとか使うことができた。

 これは真凛が『仮想人格であり、(限度はあるが)大量の情報を追加可能』という特性を持っていることを利用し、『メディアの分霊から高速神言のスキルに関する情報を少しずつ引き出して、その情報を取り込んで理解する』という行為を繰り返し、ついに高速神言スキルを最低ランクとはいえ、行使可能になったのである。

 ってか、このスキル、『神代の魔術師』か、『制約なしであらゆる能力が使用可能なチートトリッパー』か、『真凛のような特殊な仮想人格』でもない限り使えないのでは?

 

 そう、悲しいかな、魔術師であっても所詮人間である僕では、魔眼スキルも高速神言スキルも借りることができなかったのである。

 ……悔しすぎる。

 

 せめて、『石化の魔眼を劣化させた圧力の魔眼』とか、『高速神言を劣化させた高速詠唱』とかを、僕が使えるようになれないか、現在試行錯誤中である。

 

 こうして、僕の使い魔であるタマモと真凛の二人がスキルを使いこなしていくのを見ていると、つい悔しくて『サーヴァントのクラススキルなら、僕でも使えるようになるのではないか?』 なんて考えるようになってしまった。

 それも『聖杯戦争開始後ではなく、今すぐに使いたい』と。

 

 

 雨生家の魔術書のオリジナルは雁夜さんが持っているが、コピーは僕も貰っている。

 で、そこに記されている英霊召喚の魔法陣を見ていて、ちょっと思い付いたことがあった。

 それは、『サーヴァント召喚の魔法陣と呪文に、八神家の降霊術を使って英霊(の分霊)を召喚したら、どんな結果になるのだろうか?』 ということだ。

 

 もしかしたら、何も起きないかもしれない。

 いや、その可能性は高いだろうけど、ひどいトラブルになる可能性が少ないのなら試す価値はあると思う。

 ならば、やるべきだろう。

 

 本来なら降霊術は『英霊の座から直接己の体に降霊する』わけだが、『大聖杯を経由して英霊を降霊できないか? 』と考えたわけだ。

 分霊を降霊させるだけだから、サーヴァントの肉体を構築する魔力もいらないし、分霊を呼び寄せるのもこっちでするから、大聖杯が担当するのは分霊にクラススキルを与えるだけ。

 それぐらいなら、聖杯戦争のサーヴァント召喚システムに介入できないだろうか?

 

 

 少々危険があるかもしれないが、なに、公式チートの生きた聖杯(完成版)であるイリヤスフィールですら、聖杯戦争の二ヶ月前に召喚するのがやっとだったはず。

 魔法使いでも封印指定でもないたかが一介の魔術師である僕が、聖杯戦争の一年前にサーヴァント召喚の儀式をやっても、サーヴァントが召喚されるはずがない。

 そう思って、サーヴァント召喚の儀式を準備したのだ。

 

 なお、研究したいという理由で、時臣師特性のダブルキャスター召喚陣は事前に教えてもらってある。

 

 

「本気でやる気?」

「ああ、この時期ならサーヴァントが召喚できるはずがないし、分霊にクラススキルが追加されればすごく便利だろ?

 聖杯戦争までまだ1年あるわけだから、道具生成スキルを借りられれば、君の人形も作れるかもしれないし、陣地も十分時間を掛けて作れる。

 失敗してもデメリットはないし、成功確率はほとんどないかもしれないけど、成功すればメリットは莫大だ。

 試してみる価値があると思うけど?」

 

 僕の回答に対して、真凛は浮かない顔だった。

 

「……ええ、そうね。

 確かにこの時期にサーヴァントが召喚される可能性がほとんどない以上、失敗した際のデメリットは存在しない、はず。

 大聖杯はまだ稼働開始前だから、『マスターに相応しい存在を見つけて令呪を与える機能』以外はシステムは停止中。

 だから、『英霊の座から英霊を召喚する機能』も、『召喚した英霊を7つのクラスに当てはめて、基礎知識とクラススキルを与える機能』も、『英霊に魔力で構築したサーヴァントの体を与える機能』も全て使えない。

 そんな状況で、英霊の座から分霊を降霊術で召喚する際に、サーヴァント召喚の魔法陣を使うことで、あわよくば召喚した分霊にクラススキルを付属させられないか試す。

 成功すればその分霊は貴方の魂の空間(ソウルスペース)に格納され、失敗すれば分霊は英霊の座に帰る。

 ……さすがに分霊が大聖杯に格納されることは起きない、はず。

 降霊する英霊の分霊も、貴方が呼ぶ対象を選べるわけだから、ゴルゴンが呼ばれる可能性はない。

 本当に万に一つの奇跡が起きてサーヴァントが召喚されたとしても、キャスターとしてメディアとメドゥーサが召喚されたのなら、聖杯戦争まで現界させる魔力さえ用意できればデメリットは少ない。

 その場合、最悪メドゥーサに吸血と吸精行為をがんばってもらうか、メディアに一般人が少し疲れやすくなる程度の生気収集結界を張ってもらえばたぶん大丈夫ね。

 ええ、リスクも問題もないはずなのに、……なぜか、どうしても、不安が残るのよ」

 

 そこまで起きうる状況を想定済みなんだから、問題ないと思うんだけどなぁ?

 

「まあ、マスターは、『原作で召喚されたサーヴァントに準ずる強さを持つ分霊を降霊』して、さらに『分霊を解放できなくなる』は、『それだけの分霊二人も降霊したまま平然と日常生活を過ごしている』は、想定外と規格外の事態をまとめて起こしていますからね。

 『同じようなことが起きるのではないか?』と真凛が危惧するのも無理はないですね」

 

 タマモはそう言いつつも、僕を止める気はなさそうだ。

 

「えらい言われようだな。

 まあ、万が一何か起きたらフォローを頼むぞ」

「もちろんです」

「……わかったわ」

 

 タマモは喜んで、真凛は『仕方ないわね』と言いたそうな感じで同意した。

 

 

 全ての準備が整い、今僕たちは柳洞寺地下の大聖杯がある大空洞にいる。

 ここなら誰かに見つかる恐れはほとんどないし、地脈の力もたくさん満ちているはず。

 大聖杯のすぐ傍なので、大聖杯経由の降霊という大ギャンブルが成功する確率も少しは上がるはず。

 

 

 

閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)

 繰り返すつどに五度、ただ満たされる時を破却する」

 

 そして呪文を唱えながら、ここに来る途中で捕獲した数羽の鳩の血に自分とタマモの血を少し混ぜて、時臣師特製のダブルサーヴァント召喚陣を作成。

 

 僕の隣にタマモを座らせ、集中するために目を閉じて呪文の詠唱を開始する。

 

「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者、汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ。

 我に従え、ならばこの命運、汝が杖に預けよう」

 

 タマモが何か驚いているようだが、降霊術の構成は順調の為、そのまま続ける。

 ここまでは完全にオリジナルの召喚呪文とほぼ同じ、しかし

 

「至れ、我がパートナーとなりし、メディアとメドゥーサの英霊よ!」

 

 ピンポイントで、二人の英霊に呼びかけてみた。

 さあ、この結果はどうなる!?

 

 次の瞬間、ものすごい量の魔力が吸いとられたが、同時に僕の中に二人の英霊の魂が降霊したのをはっきりと感じ取った。

 よし、上手くいった

 そう思って目を開けると、

 

「うげっ!?」

 

 何と、召喚陣が眩く光り、風が巻き起こっている。

 『まさか、今ここでサーヴァントが召喚されるのか?』と恐れ慄いたが、幸いにも光が消え風が収まった後、誰もいないし何も起きなかった。

 ……ふう、驚かせやがって。

 

「マスター。かなりというか、私が持つほとんどの魔力を吸いとられましたけど、うまくいきましたか?」

「ああ、手応えはばっちりだ。

 パラメータを確認しないと確信できないけど、この反応と感触からすると、サーヴァントクラスが付与された分霊を降霊できたと思う」

『なるほど、そういうわけだったのね』

『ええ、やっと事情が分かりました』

 

 次の瞬間、ラインを通じて二人の女性、それも聞き覚えがある声が聞こえた。

 さらに僕の魔術刻印が起動する感覚と同時に、目の前には頭痛を堪えている様子の真凛と一緒に、メディアとメドゥーサが立っていた。

 って、おい!!

 まさか、この時期にダブルサーヴァント召喚に成功してしまったのか!?

 ゴルゴンが召喚されなかったことに安堵しつつ、『サーヴァント二人に対する大聖杯のフォローなしでの魔力提供』は大変だと考えたところで、……二人のパラメータが見えないことに気がついた。

 二人がサーヴァントであり、僕がマスターなら必ずパラメータが見えるはず。

 それがないということは、……二人とも本体ではなく分身なのか?

 んっ?

 分身、……もしかしてっ!!

 

「え~と、……もしかして、僕の魂の空間(ソウルスペース)内にお二人を召喚してしまいましたか?」

魂の空間(ソウルスペース)とやらが、貴方の中にあった『英霊の座』のような場所を指しているのなら、その通りよ」

「……すいませんが、一体何が起きたか分かりますか?」

 

 ものすごくやばい予感がしてきたが、僕は今できること、すなわちできるだけ低姿勢で相手の機嫌を損ねないように丁重に尋ねた。

 

「大体のところはね。

 私たちの召喚は、明らかに正規の方法じゃなかったわ。

 多分、召喚するべきでない時期に、本来とは異なるイレギュラーな方法でサーヴァント召喚を行ったんでしょうね。

 これだけならただの召喚失敗で終わったんでしょうけど、召喚者が降霊術に関して天才、いえ鬼才と言っていい素質を持っていたことに加えて、令呪まで使って無理矢理召喚を敢行した。

 そして、大聖杯を通さない召喚のため、当然サーヴァントの体を構築するだけの魔力はなかったけど、召喚した英霊の魂を格納可能な場所があったせいで、私たちはそこに放り込まれたってところかしら?

 それにしても、英霊を二人も降霊しつづけて平然としている人間がこの時代にいるなんて、正直信じがたいわね」

「彼女の説明で大体の状況を把握できましたが、より詳細な状況説明をお願いします」

 

 どこか面白がっている感じのメディアと、クールに尋ねるメドゥーサがそこにはいた。

 って、ええ!!

 令呪まで発動したのか?

 慌てて右手を見ると、確かに令呪が二画消えて一画しか残っていなかった。

 どうやら集中しすぎて無意識のうちに令呪まで使い、多分降霊済みの二人の分霊の力まで借りて、無理矢理二人の召喚を行ってしまったらしい。

 ……そこまでするつもりはなかったんだけどなぁ。

 

「失礼しました。

 すぐに事情を説明します。

 ……場所は、僕の精神世界でよろしいでしょうか?」

「ええ、構わないわ」

「わかりました」

 

 二人は承諾すると、すぐに姿を消した。

 予想はしていたが、やっぱり今の二人の体は『僕の魔術刻印に登録されている影の魔術で作った分身』だったか。

 僕の意志を無視して、僕の魔術刻印を利用することができるって、すでに完全に逆らえる状況じゃないな。

 

 

 タマモと真凛と一緒に精神世界へ入った僕は急いで応接室の準備を整え、タマモに依頼してメディアとメドゥーサを呼んできてもらった。

 タマモの案内で現れた二人に対して、私は着席を薦めると、二人は何も言わずに座り、私を見つめてきた。

 

「初めまして。

 意図したものではないとはいえ、イレギュラーな召喚を行ってしまい、申し訳ありませんでした。

 私の名は八神遼平。

 この聖杯戦争において、マスターとして参加するつもりであり、今回あなた達を召喚した魔術師です。

 ああ、私は前世の記憶持ちでして、これが前世の姿です。

 現在の肉体は、さっきご覧になられた通りの幼児ですが、大人として対応していただければ幸いです。

 そして、私の使い魔である狐のタマモ。

 この姿はタマモが変身可能な外見の一つです」

「はい、私がマスターの使い魔のタマモです。

 よろしくお願いしますね」

 

 度胸があると言うべきか、タマモは演技ではない笑顔で挨拶をした。

 

「それから、タマモが作りだした仮想人格の八神真凛」

「八神真凛よ。

 タマモの魂の空間(ソウルスペース)内に存在する仮想人格で、彼の二番目の使い魔でもあるわ。

 よろしくお願いします」

 

 真凛の方も、二人の恐ろしさを理解しているはずなのに、それを一切表に出さずに挨拶をしていた。

 

「以上2名の使い魔と私でチームを組んでいます。

 そして今回私は、降霊術の応用として、『ダブルサーヴァント召喚用の魔法陣を使ってサーヴァントクラスの能力を持った分霊の降霊』を試したんですけど、……現状はどうなっていますか?」

「そうね、私のラインは貴方とタマモの両方に繋がっているから、私のマスターは貴方達二人みたいね」

「私のラインも同様に、貴方達二人に繋がっているようです」

 

 二人ともダブルマスター状態!?

 それは完全に想定外の展開だ!

 ……だがまあ、考えてみれば困ることは何もないから、別に構わないか。

 そんなことよりも、

 

「そうですか。

 それから念のため確認したいのですが、お二人はギリシャ神話に伝承が残っているメディア殿下とメドゥーサ様で正しいですか?」

「ええ、その通りよ。

 なぜか、10代の姿になっているけど、私がコルキス国王女メディアであることに間違いないわ」

 

 そう、今までは突っ込んでいなかったが、なぜかメディアはhollowで1シーンだけ出てきた薄幸の美少女姿なのである。

 

「私がメドゥーサであることも間違いはありません」

 

 一方メドゥーサは、原作通りの長身のボディコン姿である。

 

「で、お二人ともサーヴァントで間違いないですよね」

「違うわ」

「ええ、違いますね」

 

 僕の期待を込めた質問は、二人から即座に否定されてしまった。

 うわ~、あれだけがんばったのに失敗だったのか!

 ってことは、『サーヴァントクラスを持った分霊』ではなく、『自意識を持った分霊』を召喚してしまったってことか。

 しかも、まさか、自意識を持った状態で僕の魂の空間(ソウルスペース)内に入ってしまうとは!

 

「あの~、この状況は私にとっても完全に予定外なのですが、お二人ともここから出ることは可能でしょうか?」

「……さっきも言ったけど、私たちをイレギュラーな方法で召喚した結果、サーヴァント召喚とは違って、魔力で肉体を構築しない状態であなたの魂の空間(ソウルスペース)に格納されてしまったわ。

 おまけに、何度か試してみたけど影の分身を外に作って動かすことはできても、私たち自身はここから出ることはできなかったわ。

 聖杯戦争が始まれば、私たちもここから出て、サーヴァントになることが可能になるかもしれないけど、……それが実現するかどうかは正直分からないわ」

 

 メドゥーサも黙って頷いた。

 

 おいおいおいおい、自意識を持った英霊(の分霊?)ですら、僕の魂の空間(ソウルスペース)から脱出できないのかよ。

 

 メディアは『英霊の座』のような場所と表現していたけど、それってまるで『英霊の檻』じゃないか?

 ともかく、まずは謝罪しかない。

 

「わかりました。

 ……意図したことではないとはいえ、ここに閉じ込めることになってしまい、誠に申し訳ありません。

 私の力の及ぶ限りで、お二人が自由の身になれるように努力します。

 そして、我ながら図々しいとは思いますが、二人が自由の身になれるための研究をする時間を作るため、私たちをマスターと認め、私たちと一緒に聖杯戦争を戦っていただけないでしょうか?

 もちろん、メディア殿下とメドゥーサ様も協力して、です。

 私たちにできる範囲でメディア殿下とメドゥーサ様の希望は叶えますし、一人の人間として、権利と意志を可能な限り尊重するつもりです

 それから、お二人をここに閉じ込めるつもりなど一切なかったことは、この後詳細に説明します。

 現時点のアイデアとして、聖杯戦争開始後に令呪を使えば、さすがにここから出られる可能性が高いのではないかと考えていますけど」

「あら、ずいぶん下手に出るのね。

 ……バカなマスターに召喚されれば、最悪使い魔か奴隷扱いされると思っていたのだけど」

 

 メディアは本気で意外そうだった。

 

「ギリシャ神話に伝承が残っている王女殿下や女神であり、現英霊であり、私たちより遥かにすぐれた技量と力を持たれている方たちです。

 こちらが有利なのは、私たちを殺せば現界できなくなることと、強制命令権を持つ令呪だけです。

 しかも令呪に関しては、英霊が持つスキルや宝具によっては簡単に無効化可能ですし、サーヴァントではない貴女達には効果はないでしょう。

 それ以前に、所詮は令呪もこの時代の魔術師が作ったものですから、解析する時間さえあれば、自力で無効化することも不可能ではないでしょう。

 そこまで分かっていて貴女たちを私の支配下におけると思うほど、自惚れていないし馬鹿でもないつもりです。

 ……そうそう、貴女たちの名において、『侮辱や危害を加えられないかぎり、私たちと私たちの仲間に危害を加えない』と誓っていただければ、こちらが持つ聖杯戦争に関する全情報を提供します。

 また、誓っていただけなくても、お望みでしたら聖杯戦争開始前に、生前暮らしていた故郷へ訪問することも可能です」

 

 これが、現時点で私が思いつく最大限の二人への配慮である。

 これを拒絶されると私が出せる手札は無くなり、後は二人に慈悲を請うしかない。

 祈るような気持ちで二人の回答を待っていると、意外にもメディアはすぐに反応を示した。

 

「ふ~ん、ずいぶん配慮してくれるのね。

 ……いいわ、なかなか気に入ったわ。

 私、コルキス国王女メディアの名において、私に危害をくわえることや、私の名誉を傷つける行為がなされない限り、貴方と貴方の仲間に危害を加えないことを誓いましょう。

 そして、正当な報酬と待遇を受けられる限り、貴方と共に戦うことを誓うわ」

「同じく、メドゥーサの名において、私に危害を加えられない限り、貴方と貴方の仲間に危害を加えないことを誓います。

 そして、よほどのことがない限り、貴方と共に戦いましょう」

 

 ふう、まずは第一段階突破だな。

 

「よろしくお願いします。

 ああ、私たちの記憶や精神を操作するのも、勝手に覗き見るのもなしでお願いします。

「まあ、当然ね。

 ……契約を破ったり、私を騙したり、使い捨てるような真似をしなければ、その条件を守ってもいいわ。

 それから、『貴方達がどんなつもりで何をやったか?』については、ここにいた私の分霊から情報を受け取って大体理解したわ。

 無茶なことを企んで実行したのは事実だけど、……確かにお互いにとって想定外の不幸な事故だったのは間違いないようね」

「私も分霊から情報を受けとりましたが、同意見です」

 

 おおっ?

 分霊がいないと思ったら、それぞれ吸収していたのか!

 っていうか、分霊って自意識がないだけで、見聞きしたことを記憶していたのか?

 ……よし、思い出してみたが、分霊をじろじろ見たり、力を借りるとかはしたけど、体に触れたり、服を脱がしたりとかの不埒な真似は一切、そう一切、全く、欠片もしていない。

 これなら、分霊の記憶を入手しても彼女たちの怒りを買うことはない、はずだ。

 肉体が幼児のせいで、そっち方面の欲望がほぼない状態で助かった。

 前世の私が分霊を自由にできる機会を得ていたら、……触りはしなくても、裸ぐらいは鑑賞していたかもしれない。可能なら、写真撮影ぐらいしていただろう。

 そんなことをしていたら、今ごろ間違いなく地獄行きだったな。

 それも『こっちから殺してくれと懇願するような無限の生き地獄』の方だ。

 

 そんなことを考えていると、表情から考えていることを読み取ったのか、

 

「マスターが紳士的で感謝しているわ。

 もし分霊相手だとしても、妙なことをしていたらそれなりの対処をすることになったでしょう。

 ……お互い、幸せな結果になってなによりね」

「……ええ、全くです」

 

 今のメディアの目は全く笑っておらず、それどころか絶対零度の冷たさだった。

 『僕の下心を凍り付かせるための警告』といったところか?

 ええ、あそこまで言われて妙な真似をするほど、僕は度胸ないし、無謀さも持ち合わせていないです。

 

 

「では、まずは私の聖杯戦争に関する知識と情報を提供します。

 タマモと真凛、『Fate/Zero』を見てもらう準備を頼む。必要なら解説もよろしく」

「しょうがないわね。

 じゃあ、そこに座っていてください。

 これから、『かつてありえた第四次聖杯戦争の可能性の一つ』について、アニメ形式の記憶を送り込みます」

 

 真凛がそう言うと同時に、『Fate/Zero』の記憶が二人に送り込まれた。

 最初は面白そうな表情をしていたメディアはすぐに引き込まれ、相変わらずクールビューティーのメドゥーサも集中して見ている気配が伝わってきた。

 

 今まで言っていなかったが、僕の記憶にある映像を伝える際、ラインが繋がっている相手の場合は記憶をライン経由で流し込めばいいので、全部見せるのにかなり時間の短縮が可能である。

 もちろん、大容量の情報となると、分霊や仮想人格相手だからできる無茶ではあるが。

 

 メディアたちがアニメ鑑賞している間、僕はメディアとメドゥーサのパラメータの確認をしていた。

 

 

<分霊のパラメータ>

種族     分霊

真名     メディア

マスター   八神遼平&タマモ

属性     中立・悪

ステータス  筋力 D  魔力 A++

       耐久 C  幸運 A

       敏捷 B  宝具 -

保有スキル  【高速神言】:A

       【呪具作成】:B

 

<分霊のパラメータ>

種族     分霊

真名     メドゥーサ

マスター   八神遼平&タマモ

属性     混沌・善

ステータス  筋力 B  魔力 B

       耐久 D  幸運 A

       敏捷 A  宝具 B

保有スキル  【魔眼】:A+

       【怪力】:B

       【神性】:E-

       【対魔力】:B

       【騎乗】:A

宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B

       【自己封印・暗黒神殿】:C-

 

 

 ああ、やっぱり二人ともキャスター、つまりサーヴァントじゃないただの分霊だ。

 とはいえ、メディアは宝具以外のステータスは全て1ランクアップして【呪具作成】が保有スキルに追加され、メドゥーサは【対魔力】と【騎乗】が保有スキルに登録されている。

 原作のスキル構成は、メディアの場合はクラススキルの【道具生成】スキルに【呪具作成】が統合され、メドゥーサの場合は元々この二つのスキルを持っていて、クラススキルとダブったからクラススキルだけ表示されていたというオチか?

 メディアは、魔女の技を受け継いでいたわけだから、【呪具作成】スキルを持っているのは納得できる。

 

 そしてメドゥーサも、たしか公式設定で『女神としての騎乗などのスキルと、怪物としての魔眼や怪力といったスキルを併せ持つ存在』と書かれていたし、『元女神にして未来の邪神、その二つの力を合わせ持つ存在』と考えれば、……これだけスキルが多くても全然不思議ではない。

 あと、二人ともクラススキルを持っていないけど、……まあ、イレギュラーな召喚でサーヴァントじゃないから当然か。

 全体的には、私とタマモがマスターになったわけだから、葛木キャスターよりはパワーアップしたものの、桜ライダーとはほぼ同等ってところか。

 

 二人に協力してもらって、1年かけて道具作成、そして魔術を使った拠点作成を行えばかなりのことができそうだ。

 幸いにも、『大聖杯がある大空洞』という拠点にもってこいの場所もあることだし。

 

 ああ、そうだ!

 メドゥーサの武器である『鎖付きの短剣』は宝具でないため、他のサーヴァントに比べて攻撃力に劣るという弱点があったんだった。

 可能なら宝具クラスまで威力を向上してもらおう。

 ……いずれサーヴァントの体を得られた時の為に。

 

 サーヴァントの体が無くても、真凛と同じく影の体を使ってもらえば、それなりのことはできるはずだ。

 さっきも、私の許可なく勝手に使っていたぐらいだし。

 

 それから、人形の体を作ってもらえれば、自力での魔力回復も含め、もっといろんなことができるかもしれない。

 ついでに、真凛の人形も作ってもらえれば、なおいい。

 

 映像の記憶を見終わった後、二人はすぐに影の分身を飛ばして大聖杯を調査しつつ、私との会話を開始した。

 

 

 

「ふ~ん、なるほどね。

 青髭の代わりに、私たちをキャスタークラスで呼ぼうとしたわけね」

 

 メディアは感心はしていても、驚愕まではしてないようだった。

 

「ええ、そうです。

 私の記憶を見てお分かりの通り、私はこの世界を観測可能だった上位世界の情報を、前世の記憶として持っています。

 そのため、身近な人で助けられる人は助けたいと思い、今から1年半前ぐらいから雁夜さんと接触し、予知情報として前世の情報の一部を提供しました」

「あら、彼が仲間なの?」

 

 予想外だったのか、メディアは驚いた声を出した。

 

「ええ、方法は間違えましたけど、彼の『桜ちゃんを助け、葵さんと凛ちゃんを幸せにしたい』という願いは正しいものですし、そのために『命まで掛けて全力で努力した』のは間違いありません」

 

 そう、あのマスターたちの中では、一番多くの読者が彼の目的に共感しただろう。

 ……結果は最悪としか言えないのが悲劇なんだけど。

 まあ、『主人公補正がない魔術回路があるだけの一般人』が聖杯戦争に参加するなんて無謀な真似をしたんだから、ある意味当然の結果だよな。

 

「……そうね。

 もっとも、結果は完全な道化師(ピエロ)だし、葵を殺しかけ、凛をさらに不幸にしたけどね」

 

 メディアは雁夜の行為は認めているようだが、あの結末には不満があるようだ。

 

「ええ、それは私もフォローできません。

 ただ、正しい情報を提供した上で、マキリと関わらない状態ならば、『桜ちゃんたちを幸せにする』という目的の為、彼は頼もしい盟友となってくれると判断しました。

 そして、雁夜さんはその期待に応えてくれた結果、葵さんを説得し、時臣師も説得し、桜ちゃんの間桐家への養子入りの話を完全に潰しました」

 

 いくら原作知識持ちの私でも、所詮今はただのガキ。

 雁夜さんがいなければ、桜ちゃんを助けるのは相当困難だったと今でも考えている。

 

「そうですか、桜は救われたのですね」

「ええ、少なくとも間桐家で地獄を見る可能性は、……臓硯に桜ちゃんが拐われない限り、ありえないと思います」

「それはよかった」

 

 メドゥーサは本当に安心しているようだった。

 もしかして、このメドゥーサには間桐桜の記憶があるのだろうか?

 

「あら、なかなかうまくやったのね」

「はい、可能な限り策を練って、雁夜さんと一緒に努力した結果です」

「それで、『雁夜は聖杯を必要としていないから、貴方と手を組める』という認識でいいのかしら?」

「はい、私の存在が桜ちゃんの幸せに繋がる限り、雁夜さんは私の味方になってくれます。

 言い忘れていましたが、桜ちゃんはすでに私の婚約者になっているので、養子に出させる可能性はほぼなくなっています。

 よって、『肉体改造』や『家族と引き離されること』、そして『本人の意思を無視した結婚』はほぼなくなったと考えています」

 

 それを聞いてメドゥーサは安堵し、対照的にメディアは私を睨んできた。

 

「貴方、相手の意志を無視して桜と結婚するつもりなのかしら?」

「あくまでも婚約者ですよ。

 将来桜ちゃんが私との結婚を嫌がればその時点で婚約を解消するつもりですし、桜ちゃんが希望する相手と結婚できるようにできるだけフォローするつもりです」

 

 これは本気だ。

 いくら桜ちゃんが好みの美女に育つとはいえ、相手が嫌がっているのに無理矢理結婚を迫るような趣味は私にはない。

 

「そう、そのつもりなら私も異論はないわ」

 

 私が嘘を言っていないのを理解したのか、すぐにメディアは大人しく引き下がった。

 

 

「で、ギルガメッシュのマスターである遠坂時臣はどうするのかしら?

 

 貴方の話からすると、多分時臣とも手を組んでいるのでしょう?」

 

「……その前に、お互いの認識を確認していいですか?」

「いいわ」

「別に構いません」

 

 このメディアの問いに答えることは、今後の展開に大きく影響すると感じた私は、まずは認識のすり合わせから行うことにした。

 前提となる認識がずれていると、この後の話で話がかみ合わないどころか、交渉が即決裂しかねないと感じたからだ。

 幸いにも二人から承諾があったので、私はこの世界について確認を取ることにした。

 

「『Fate/Zero』を見て、さらに貴女方自身が分身で大聖杯を調べた結果、『大聖杯にはアンリ・マユが眠っており、聖杯を完成させると高い確率でアンリ・マユが復活して世界を滅ぼす』と判断した、という認識で合っています?」

「その通りよ。

 分身で調べた限りだけど、確かに大聖杯の中には桁違いの悪性の存在が眠っていることが分かったわ」

「『ゴルゴンとなり、ほぼ邪神と化していたかつての私を上回る悪しき気配』を、私も感じました。

 あれは、この世にあってはならない存在です」

 

 さすがは、元女神にして、未来の邪神のメドゥーサ。

 感知力は優れているらしい。

 

「私も同じ意見です。

 よって、私の聖杯戦争の目的は聖杯を完成させないこと。

 もちろん、世界を滅ぼさせないためです。

 そのため、マスターとして聖杯戦争に参加するつもりでした。

 英霊である貴女がたは、この世界が滅んでもこの世界から去るだけで消滅するわけではありませんが、……よろしければ協力していただけないでしょうか?

 ……ああ、聖杯戦争を無事に生き残ることができ、貴女たちが現界を望まれるなら、聖杯戦争後も継続して契約と魔力供給を続けるつもりです」

「そうね。

 せっかく、英霊の座から意識をもったまま出られたわけだから、しばらくこの世界で過ごすのも悪くないわね。

 ……さっきも言った通り、正当な報酬がもらえるなら構わないわよ」

「世界を救った報酬ですか?

 この世界に関する上位世界の情報では足りませんか?」

 

 すでに人としての権利も認めているし、可能な限り希望は聞くと言っている以上、これ以上の対価は正直勘弁してほしいのだが。

 

「それは貴方たちの安全の保証と引き換え、と言いたいところだけど、……確かに等価交換とは言えないわね。

 いいわ、その報酬については後で改めて相談させてもらうわ」

 

 う~む、さすがに手強いな。

 一方、メドゥーサの方はあっさりとしたものだった。

 

「私は桜を守りたいです。

 桜の護衛を最優先とすることを認めるのなら、貴方に協力しましょう」

「ええ、それで問題ないです。

 ただ、貴方達の命と桜ちゃんの安全の次ぐらいに、私たちの安全を優先してもらえると嬉しいです」

「貴方たちが桜にとって本当に大切な存在でしたら、もちろん私が守りす」

 

 メドゥーサはそう言って微笑んでくれた。

 

「それなら結構です。

 よろしくお願いします」

 

 予想通り、メドゥーサは桜が最優先か。

 桜を大事にする限り、僕たちの仲間でいてくれそうだけど、……滴のことを知ったら何て言ってくるかが問題だな。

 

 

「認識と方針が一致したところで、時臣師への対応について話します。

 時臣師が私に求めていることは、二人のサーヴァントを同一クラスで召喚し、聖杯戦争において全部で八人のサーヴァントを召喚させることです。

 これにより、『ギルガメッシュを自害させないで、聖杯に7人のサーヴァントの魂を納めて、根源への道を開くこと』が目的です。

 百聞は一見にしかず。

 時臣師の発言を流しますね」

 

 応接室にある巨大なテレビに、私は時臣師との会話の光景を流し始めた。

 ここは僕の精神世界なので、訓練を積むことでこんなことも可能になったのだ。

 

『サーヴァントを8体召喚する目処が立っている以上、最強であるギルガメッシュを召喚しない選択肢はありえない。

 誰かがギルガメッシュに対して例のことを吹き込んでも、召喚直後に『8体召喚されたサーヴァントのうち7体のサーヴァントを殺すことで、私の願いである根源への道が開かれること』を伝えてあれば、 ギルガメッシュが私を裏切ることはないだろう』

 

「ああ、例のことというのは、すでにアニメを見て分かっていると思いますが、『根源に至るためには7体のサーヴァントの魂が必要である以上、自分が召喚したサーヴァントを絶対に殺さなくてはいけないこと』ですよ」

 

 必要ないかとも思ったが、一応補足説明を言うことにした。

 

「ほんと、召喚した英霊全員に喧嘩売ってるわよね」

 

 メディアがぼそっと呟いたが、声色は物凄く冷たかった。

 うおっ、結構怒ってる?

 

「ま、まあ、根源への道を求めず、『願望機としての聖杯』を求めるだけなら6人のサーヴァントの魂で足りますけどね」

 

 一応フォローしてみたが、さてどうか?

 

「そして、アンリ・マユに汚染されたせいで聖杯が完成した瞬間に世界滅亡、と。

 どこまで私を怒らせれば気がすむのかしらね」

 

 再びメディアはぼそっと呟いたが、さっきよりも機嫌が悪くなっている感じを受けた。

 し、しまったー!!

 思いっきり、藪蛇だった。

 どうもフォローするだけ逆効果のようなので、私は説明に専念することにした。

 

「え~と、……続きをどうぞ」

 

『私が召喚するギルガメッシュは間違いなく無敵であり最強だ。

 ましてや、綺礼君がフォローしてくれるのだから、万が一にも敗れる恐れなどない。

 ならば、余計なことをして八神君に危険が及ぶことをさけ、サーヴァントの自由意思に任せてくれればそれでいい。

 もちろん、召喚したサーヴァントには事情を全部話してくれて構わないよ。

 多分、誇り高いサーヴァントならば、マスターであり君のような子供に八つ当たりすることなく、この挑発に対して私へ怒りを向ける可能性が高いだろう。

 君の役割は、ただサーヴァントを召喚し、魔力を供給するだけだ。

 無論、『八神君が令呪を使って戦いを妨害させられること』をサーヴァントが危惧する可能性が高いが、その場合はサーヴァントの前で彼らの要求通りに令呪を使い切ってしまえばいい。

  令呪を使い切っても、サーヴァントとのラインは繋がったままだから魔力供給は問題ない』

 

「以上です」

「……いいわ。

 誰に喧嘩を売ったのか、嫌と言うほど思い知らせてあげましょう。

 そして『サーヴァントの自由意思に任せていい』と発言した以上、その発言の責任はとってもらいましょうね」

 

 ……こ、怖い、怖すぎる。

 殺気に満ち溢れていて、メディアの方を向く勇気がない。

 メドゥーサは沈黙を保っているが、やっぱり怒っているか?

 

 し、しかし、最低限はフォローしておかなければ、桜ちゃんを悲しませることになってしまう。

 私は(前世を含めて)一生で一番と言っていいほど勇気を振り絞り、恐る恐る発言した。

 

「わ、私としては、婚約者の父ですし、一応恩師ですので、そのギルガメッシュとアサシンと言峰綺礼を殺すのはいいとして、……時臣師は半殺し程度で抑えていただければ嬉しいんですけど。

 ……ああ、こちらとは関係無いところで時臣師が自滅したり、殺されかけたりした場合は、基本放置で構いません。

 ないとは思いますけど、時臣師が血迷って、私や私の家族に危害を加えようとした場合は、もちろん容赦なく始末して結構です」

 

 そう一気に言って恐る恐るメディアの顔を見た瞬間、私は完全に凍り付いてしまった。

 メディアは笑顔だったが、まさに氷の微笑と呼ぶに相応しい冷たさと怖さを兼ね備えていた。

 

「……いいわよ、その条件で。

 一応マスターの恩師ですからね。

 命までは奪わないであげましょう。

 ……ただし、半殺しの方法は選ばせてもらうわよ」

「……お手柔らかにお願いします」

 

 このままだと時臣師が死ぬほど酷い目にあわされそうだったが、……『サーヴァントに任せていい』とか、『全部話していい』とか言ったのは時臣師自身なんだから、メディアの言う通り自分の言葉に責任をとってもらおう。

 

「ええと、メドゥーサ様の方は?」

「私もそれでいいですよ」

 

 口許は微笑んでいたし、短い回答だったが、やっぱりこっちも怖かった。

 藪を突いて蛇を出す趣味は無い私は、何もコメントせずに次の件に話を移した。

 

 

「それでは、次の映像です。

 これは第四次聖杯戦争の10年後に起きた、第五次聖杯戦争の物語です。

 なお、第四次聖杯戦争はアニメでしたが、これはゲーム形式ですので、選択肢によって結果が異なります。

 全部見るのは大変なので、まずはいくつかのルートに絞って見ていただきます。

 なお、第五次聖杯戦争では、メディア殿下もメドゥーサ様も召喚されています。

 よって、お二人にとって物凄く不快なシーンもあると思いますけど、我慢して見てください」

 

 そして二人に、まずはセイバールートのトゥルーエンドまでを寄り道なしで見てもらった。

 そして、セイバールートを見終わったとき、メディアは頭を抱えていた。

 まあ、あの殺され方では、色々と思うことがあっても仕方あるまい。

 下手なフォローは藪蛇だと感じた私はメドゥーサの方を見たが、彼女はいつも通り無表情で反応はなかった。

 特に言うことはなさそうだったので、私は凛ルートを見せることにした。

 

 凛ルートは、最初にメディア勝利エンド(士郎の人工宝具化ルート、胎児化ルート)を見せた後、グッドエンドを見てもらった。

 

「すごい朴念仁が相手だったけど、……あの私は最期まで幸せだったのね」

 

 メディアはそう言って、感慨に耽っている様子だった。

 メドゥーサの方は沈黙を保ったままだった。

 やっぱりコメントできない雰囲気だったので、私はメディアが何か言ってくるまでじっと黙って待っていた。

 

「あら、待ってくれたのね。

 ありがとう。

 まだあるんでしょ。

 次の物語を見せてちょうだい」

 

 メディアは演技ではない笑顔を見せていたので、私はやっと安心して次の映像を見せることができた。

 そして、最後に桜ルートのグッドエンドまでの物語を見てもらった。

 

「……よかった。

 桜は救われ、あの世界の私もまた、桜と共に生きていくことができたのですね」

 

 ここで初めて、メドゥーサが発言した。

 どうやらメドゥーサは、慎二と共に戦う自分には一切興味が無かったらしい。

 嫌われるどころか、完全に無視されていたというか、視界にすら入っていなかった慎二が哀れであるが、……まあ自業自得か。

 

「ええ、それは間違いないはずです。

 士郎は『正義の味方』であることを捨て、桜が一番大事な存在になりましたし、桜を大切に思っている凛もいます。

 多分、4人で幸せな時間を過ごしたんじゃないでしょうか。

 ……士郎を巡って修羅場が発生したかもしれませんけど」

 

 もちろん、修羅場を起こした女性は、当然桜、凛、メドゥーサの3人である。

 

「そうですね。

 士郎の淫夢は、間違いなく私が見せたものです。

 どの程度かはわかりませんが、あの世界の私は士郎を男と認識し、好意を持っていたのは間違いありませんね」

 

 メドゥーサは相変わらずクールな反応だった。

 とはいえ、『あの世界においても、桜が幸せになる可能性があること』を知り、メドゥーサは一応満足しているようだった。

 

 一方、メディアはまたもや沈黙していた。

 ま、まあ、あれもまた酷い扱いだったからなぁ。

 なにせ、『臓硯によってマスターである葛木を殺され、自分は臓硯によってゾンビのような状態で操られていた』んだ。

 平行世界の出来事とはいえ、どう考えてもあれは許せないだろう。

 

「ふ、ふふふ、ふふふふふ」

 

 あっ、これは怒ってる、……いやブチ切れているな。

 

「……いいでしょう。

 臓硯、あなたも私の敵だと認定しました。

 苦しみ抜いた上で死なせてあげましょう」

 

 そう言ったメディアの顔は、やっぱり氷の微笑、それも絶対零度の微笑だった。

 無理もないけど、……怖すぎる。

 

 

 少し時間が経って、多少は冷静になったメディアは私に話しかけてきた。

 

「それにしても、『あの世界の私がマスター殺しをしたこと』、そして『私が令呪を無効化できる宝具を持っていること』を知っていて、貴方はよく私を召喚する気になったわね」

「少し不安でしたけど、王族であり魔術師であるメディア殿下なら、正当な待遇と対価を提供して、お互いが納得した上で契約を結べば、こちらが契約を守る限り契約を順守してくれる可能性が高いと考えました」

「本気かしら?」

 

 メディアは偽りは許さない、と言わんばかりの鋭い目つきで私を睨みつけた。

 

「正直に言えば、さっきご覧になったとおり第五次聖杯戦争では『メディア殿下が契約について曲解に近い解釈をしていたケース』もありましたけど、完全な契約違反とはいえなかったですし、契約者の未熟さにも問題があると感じました。

 よって、メディア殿下との信頼関係を築けていれば、契約を曲解される可能性も減らせると考えたわけです。

 それから、桜ちゃんを保護していることを材料に、メドゥーサ様に味方になってもらい、最悪の場合はメドゥーサ様の力を借りてメディア殿下に対抗してもらうつもりでした。

 ……さすがのメディア殿下でも、正面からメドゥーサ様を相手にするのは避けてくれるのではないかと考えまして」

「それは、……その通りね。

 私ほどじゃなくてもあの時代の強力な魔術の心得があって、魔力量は同等、肉体能力やスキルは圧倒的に負けている状況で、メドゥーサと一対一で敵対するほど私は馬鹿ではないわ。

 もちろん、そんなことを気にならなくなるぐらいの屈辱を受ければ話は別だけど?」

 

 最後の言葉は私に向けられていた。

 

「死にたくないので、そんな真似をするつもりは欠片もありません。

 ……ああ、でも私は人の心がわからないというか無神経なところがあるので、事前にタブーを教えてもらえると助かります。

 現時点では、『過去の話は必要がない限り触れないこと』と『特定の呼び名を嫌っていること』ぐらいしか分かっていませんが」

「とりあえず、それが分かっていれば十分よ。

 あとは、下劣な真似をしてくれば即座に殺してあげるわ」

「死にたくないので、事故でもない限り体に触れるような真似は絶対にしません。

 そもそも、体が幼すぎてそんな衝動は持っていません」

「それならいいわ。

 その言葉、せいぜい忘れないでね」

 

 やっぱりメディアは怖かった。

 くれぐれも、事故でも体に触れないように気を付けよう。

 

「そうそう、普段の呼び方はどうしますか?

 今の時点では、二人ともクラスなしですからね。

 第五次聖杯戦争のクラスである『キャスター』と『ライダー』と呼んだ場合、『ライダー』の方は征服王と重なってしまいます」

「私は別に構いませんが」

「いえいえ、メドゥーサ様の正体を隠すためにも、ライダーとは呼ばない方がいいと思いますよ」

 

 本当にメドゥーサって、自分が興味ないことについてはクールと言うか、完全スルーなんだなぁ。

 

「そうですか。

 ……貴方がそう言うのなら、私のことは……そうですね。

 『桜を守るもの』と言う意味で、『ガーディアン』と呼んでください。

 それから、……メディアの方は『キャスター』と呼ぶのですか?」

「そうですね。

 青髭を呼ばせない以上、キャスターはメディア殿下一人だけですが、……嫌でなければ『プリンセス』はどうですか?

 キャスターより真名がばれやすくなるかもしれま「いいわね、それ。気に入ったわ」

 

 あら、意外なことに即答だった。

 原作のフード姿の美女には合わないが、このエルフ耳美少女には『プリンセス』の名はよく似合う。

 ……性格は原作のままみたいだけど。

 他には『ウィッチ』も考え付いたが、こっちはメディアの嫌いな『魔女』の呼び名そのものだし、提案しなかったのは多分正解だろう。

 

「それにしても、外見に精神年齢が引きずられるって話は本当ね。

 今の私は、第五次聖杯戦争で召喚された私ではなく、王女だった頃の私に近い気がするわ」

 

 よかった。

 それなら、王女殿下として対応すれば問題ないな。

 いくら『私たちに危害をくわえない』と約束してくれたとしても、正直魔女を相手にするのは肝が冷える。

 性格が、箱入り娘(だと思われる)王女時代に近づいてくれるのは、(事実だとすれば)私としても本当に嬉しい。

 

「それでは、これからもメディア殿下と呼んだ方がいいですか?」

「一応貴方がマスターなんだから、メディアかプリンセスで構わないわ。

 好きに呼びなさい」

「わかりました。

 それでは、……では、普段はメディアと呼ばせてもらいます」

「私もメドゥーサで構いません」

「了解です」

 

 ふう、とりあえず二人の機嫌はいいみたいだな。

 

 

「それから、事故でお二人を私の魂の空間(ソウルスペース)に取り込んでしまったわけですが、『この空間が崩壊しそう』だとか『何か異常が感じられる』ようなことはありますか?

 今まではお二人の分霊しかいなかったわけで、当然自意識を持った英霊を、それも二人も取り込んだのは当然初めてです。

 許容量オーバーで近いうちに私が死ぬとか、体の機能が失われていくことがないか、正直不安なんですが……」

 

 この不安はマジである。

 今のところ特に苦痛や違和感はないが、いつか限界が来て破滅が来ないか、不安をぬぐいきることはできていない。

 

「確かに、聖杯のアイリスフィールでさえ、アサシン、キャスター、ランサーの3人の魂を格納した時点で、アヴァロンの加護なしでは立っていられないぐらい衰弱していたわね」

「ええ、その通りです。

 いくら霊媒体質とはいえ、英霊二人がいる時点でいつか限界が来てしまうと思っていますが「心配ないわ」

 

 へっ?

 いきなり何を?

 

「多分上位世界の魂が融合したことが原因でしょうけど、あなたの魂の許容量、つまり魂の空間(ソウルスペース)の広さだけは本気で桁違いよ。

 私たちが入った瞬間に、魂の空間(ソウルスペース)が広がったのを確認したわ。

 さすがに聖杯以上ってことはないでしょうけど、どこまで広がる余裕があるのか、今の段階では測りきれないわね」

 

 まじかい?

 私がトリップして得たチート能力は、『(最大で聖杯レベル)の魂の許容量』ってことか!?

 いや、凄いことは凄いんだが、……さてどんな使い方があるんだ?

 聖杯としての機能をもっているわけじゃないから『倒されたサーヴァントの魂を回収する』なんてできないだろうし、黒桜みたいに『サーヴァントを取り込んで洗脳して手駒にする』のも無理だろう。

 現にメディアとメドゥーサは、ここで自由勝手に過ごしているし。

 ああ、『どうにかしてサーヴァントを取り込めたら、メディアに洗脳してもらう』っていう手はありか。

 もっとも、抵抗できないように完全に無力化した状態じゃないと、魂の空間(ソウルスペース)内で大暴れされて私の精神や魂が破壊される可能性もあるから、ものすごくリスキーな行為だけど。

 

 唯一できそうなのは、今までと同じく『魂の空間(ソウルスペース)の許容量以内で、複数の英霊の分霊を同時に降霊させて、時と場合に応じて最適なスキルを彼らから借りること』か?

 それですら、出力部である私の体と魔術回路がネックとなって、強力なスキルほど、単独で、しかもランクダウンしないと使えないだろうけどな!

 ……全く、チートなんだか、そうじゃないんだか。

 いやいや、こういう縛りがある状態こそ、機転と工夫が有効となる状態なんだ。

 そしてそれは、私が(創作活動で)得意とする分野だ。

 地道にがんばっていくしかないか。

 

 

「ところで、申し訳ありませんが、脱出できる手段が見つかるまでは、ここで過ごしてもらうことになると思いますが、……よろしいでしょうか?」

「本来なら私を閉じ込めるような真似をした愚か者には、その愚かさに相応しい罰を与えるところだけど、……事故であることはわかったし、聖杯戦争開始までの準備期間が十分に作れたわけだから、とりあえずは水に流してもいいわ。

 ……英霊の座にいるよりは、退屈しなくてすみそうだし」

「ありがとうございます」

 

 ああ、なるほど。

 『自意識はあるが、閉じ込められていて自分の意志では外に出られず、暇潰しの記録(自分が召喚された記録)だけはある』っていうのは、英霊の座にいたときと大差ないのか。

 まあ、私が提供する観測世界の記録と、ネット社会でのオタクだったゆえに提供可能な情報量の種類と多さ(注 小説、アニメ、漫画の比率高)は、かなりのものだと思うけど。

 いわばここは、彼女たちにとって、英霊の座もどきの『偽・英霊の座』ってことか。

 ……可能な限り、彼女たちにとって居心地がいいようにして、私を殺してでも外に出たいと思わせないようにしないと。

 目指せ彼女たちのニート化、じゃなかった、インドア派へ。

 ……魔術師だったメディアなら研究の為引きこもり気味だったろうし、王女だった頃のメディアも箱入り娘だったろうから、多分インドア派だとは思うけど。

 

「私はあなたの記憶にある全ての本を読む許可をもらえれば、それでいいですよ」

「もちろんOKです。

 好きに読んでください」

 

 メドゥーサは本当に読書好きなんだな。

 分野は偏っているとはいえ、読書好きの私とは話が合いそうだ。

 それと、本が不足することがないように、図書館で本を借りるなどして本の種類と数を増やしておかないと。

 

 待てよ。

 私が彼女たちに提供できるものはまだあるじゃないか!

 

「すでに使われていますが私の魔術は架空元素なので、影で分身を作れます。

 他のマスターに見つからない範囲なら、これで分身を作ってこの世界を楽しんで結構です」

「ええ、便利だったから使わせてもらっているわ。

 イレギュラーな事態とはいえ、私たち二人を聖杯戦争の1年前に召喚するとか、上位世界の記憶を持っているとか、私たち二人を内部に抱え込んで全く平気だとか、……意外に当たりのマスターだったみたいね。

 でも、本来よりも魔術回路の出力が小さいわね。

 ……これはサービスよ」

 

 メディアがそう言った瞬間、一瞬で身体中にとてつもない激痛が走り、私は苦痛に耐えきれず気絶してしまった。

 

 

 気がつくと、僕はキャス孤姿のタマモに膝枕されていた。

 

「タマモ、僕に一体何が起きた?

 それから彼女たちはどこへ行った?」

「彼女たちは分身による大聖杯の調査を継続し、本体は精神世界で『Fate/hollow ataraxia』の鑑賞中です。

 それから、マスターの身に起きたことですが……」

「そうだ、一体何が起きたんだ?」

「メディアさんが好意で、『マスターの閉じていた魔術回路を全部開いた』そうです」

「へっ、僕にそんなものあったのか?」

 

 時臣師によって、僕の魔術回路は全部開いたんじゃなかったのか?

 

「はい、それなりの数の魔術回路が閉じたままだったそうです。

 全部開いた結果、現在のマスターの魔術回路は、メインは30本のままですが、サブがそれぞれ20本になったそうです。」

「おいっ!

 合計70本って、かなりの数じゃないか!?」

「はい。

 ですが、マスターのご先祖様であり、私を作った五代目の当主様も魔術回路をそれぐらい持っていました。

 考えてみればマスターの代まで魔術回路が減っていなかったとしても、開かなくなった魔術回路が増えていてもおかしくなかったですね」

 

 ……言われてみればそうか。

 数代ぶりに魔術師として覚醒した存在が、いきなり全部魔術回路を開けるはずもなかったな。

 しかし、神代の魔術師であるメディアなら、それを簡単に開けてもおかしくないか。

 

「ただ、メディアさんによると『魔術回路はかなり開きやすくなっていたから、自分が手を出さなくてもいずれ自然に開いた可能性は高い』とも言われていました。

 また、『閉じた魔術回路はこの時代の魔術師では開くのは困難なはずだから、何か特別なことをしたのか?』と聞かれました。

 少し悩みましたが、マスターの修行場面を見ればすぐにばれることですから『魔術回路再構築の修行とオリジナルの魔力制御』について伝えました。

 それを聞いたメディアさんは面白そうな顔をしていましたが、特にコメントはありませんでした」

「何も言っていなかったのか?」

「はい、何も。

 ただ、マスターが目を覚ましたら話したいことがあるとは言っていました」

 

 話したいこと?

 一体何だろう?

 色々考えてみたが心当たりが多すぎて絞り切れない。

 ……とりあえずラインで呼び掛けてみるか。

 

『今起きました。

 そちらはどんな状況ですか?』

 

 すると次の瞬間、目の前にメディアとメドゥーサが現れた。

 一瞬、瞬間移動したかと思ったが、よく考えれば向こうにいた分身を消して、ここに分身を再構築したのだろう。

 

「大聖杯を調査していたけど、すぐに利用できそうにはないわね。

 ただ、それなりの手間をかければ、アンリ・マユの影響を排除した上で、大聖杯から魔力だけ奪うのも不可能ではないわ」

 

 そう言ってメディアは、笑みをこぼした。

 可愛いというよりは、『魔女の笑み』という感じで、ちょっとビビってしまったけど。

 それにしても、さすがは神代の魔術師。

 大聖杯からアンリ・マユの毒を取り除いて、純粋な魔力だけ奪い取れるとは、……本当にこれが実現すれば、魔力面では困らなくて済みそうだな。

 

「そうですか、それはよかった。

 ただ、聖杯戦争の開始時期がずれると厄介なので、できれば準備だけで止めておいてください。

 そして、大聖杯の魔力を利用するのはサーヴァントが7人、じゃなかった8人召喚された後にしてください」

「そうね。

 せっかくある程度の未来を知っているというこれ以上ないアドバンテージがあるんだから、それを活かした方が得でしょうね。

 ……もっとも、遠坂家と間桐家に関しては他ならぬ貴方の干渉によって、本来の歴史が想像できないほど違う歴史を歩んでいるようだけど」

「分かっているでしょうけど、桜ちゃんを助ける為には他に方法はなかったんです。

 それは見逃してください。

 それと、お願いですから、影の分身の作成以外で、勝手に僕の魔術刻印と魔術回路を使わないでください。

 ……せめて、事前に許可をとってください。

 もちろん、いくら好意からの行動とはいえ、勝手に僕の体をいじらないでください!」

「あら、何か失敗でもあったかしら?」

 

 メディアは本気で不思議そうな顔をしていた。

 

「いえ、お陰さまで魔術回路が新しく開いて、特に問題なく稼働しています。

 でも、心の準備ぐらいさせてください。

 いきなりあんな激痛を感じることが続くようだと、心身共にもちません。」

「わかったわ。

 これからは気を付けると言うことでいいかしら?」

「ええ、お願いします」

 

 本人の言う通り、王女(少女)時代の外見に精神が引きずられているのか、このメディアは結構素直かつ可愛いって印象が強いな。

 まあ、僕が一人の人間として対応して、好印象なのが大きいんだろうけど。

 この関係を維持できれば最高なんだが、……さてどうなることやら。

 

 

 その後、メディア達が『Fate/hollow ataraxia』の記憶を受け取り終わった時点で、そろそろ帰宅する必要がある時間になってしまったので、とりあえず帰宅することにした。

 もっとも、メディアとメドゥーサの影はここに残し、継続して大聖杯の調査を続けるらしい。

 

 別にそれは構わないので、僕、タマモ(子狐モード)の一人と一匹が歩いて帰り、後のメンバーとは精神空間で会話しながら帰宅した。

 

 まだ、『月姫」、『空の境界』、『魔法使いの夜』を見せてないし、桜ちゃん関連以外で何をやってきたかは説明できていないけど、……ここまでくれば、メディアとメドゥーサも仲間になったと見ていいかな?

 この時点では、どこまで信用できるかまだわからないし、なにより『僕の魂の空間(ソウルスペース)から出られない』というとんでもないハンデを背負っているけど、全ての事情を話せる仲間ではある。

 それぞれの知識と技術を組み合わせて、解決策を見つけていこう。

 どうしても駄目なら、……やっぱり最後は、本物と同等機能を持つ令呪を量産し、それを一斉使用することによって、力づくで魂の空間(ソウルスペース)らの解放させるしかないか。

 もちろん、僕の心身に影響が出ないようにした上で。

 

 

 それにしても、クラスもなく、サーヴァントとしての体を持たず、僕の魂の空間(ソウルスペース)から出られない彼女たちは、間違いなくサーヴァントには該当しないんだろうなぁ。

 隠れて準備をするため、『教会にあるというサーヴァント召喚探知機』で察知されていないのを望むのは言うまでもないが、大聖杯ですら今回の召喚を『聖杯戦争とは関係無い英霊召喚』と判断している可能性が高く、彼女たちとは別にキャスターが召喚できる可能性すらある。

 

 

 ……あれ?

 もしかして、僕がしたことって、僕の事前の想像を遥かに越えるほどヤバい結果を招いてしまったか?

 

 ……とりあえず、「時臣師にサーヴァント召喚を確認する方法はあるんですか?」と探りをいれるか。

 そして、メディアとメドゥーサの召喚を教会にある魔術具で探知していなければ、……時臣師にも当分内緒にして善後策を考えておこう。

 なにか、『取り返しのつかないことをしてしまった感』を今さらながら強く感じつつ、僕は急いで家に戻ることにした。

 

 ……この聖杯戦争、本当にまともに始まるんだろうか?

 いや、『混乱をまき散らしている諸悪の根源』が言うセリフじゃないのは、十分自覚しているけどね。

 




【にじファンでの後書き】
 さらなる怒涛の展開です。
 『クラススキルを持つ分霊を召喚してパワーアップ』を目指し、『自意識を持つ分霊を召喚してしまい、意図せずに閉じ込めてしまった。さてどうする?』という結果になってしまいました。
 『一体何が起きて、あんな召喚になったのか?』については、次話で解説する予定です。
 それ以外で、設定などに矛盾などがありましたら、お知らせください。


【備考】
2012.05.26 『にじファン』で掲載


【改訂】
2012.05.26 『メディアとメドゥーサはサーヴァントではなかった』と訂正しました。
2012.05.26 メディアの保有スキルに『呪具作成』を追加しました。
2012.05.27 『雁夜がまだランスロットの力を借りることに成功していない』と変更しました。


【設定】
<令呪(二画)使用>
 自意識を持ったメディアとメドゥーサの分霊を召喚


<パラメータ>
 名前 :メディア
 性別 :女
 種族 :分霊
 年齢 :不明(外見は10代半ば)
 職業 :英霊の分霊
 立場 :八神遼平が召喚した分霊
 属性 :風、架空元素・虚数
 ライン:八神遼平
 方針 :喧嘩を売ってきた時臣師を半殺し
     徹底的に苦しませた上で臓硯を殺す
 備考 :分霊だが自意識持ち
     道具系のスキルや宝具なし
     八神遼平の魂の空間(ソウルスペース)から脱出不可

<分霊のパラメータ>
種族     分霊
真名     メディア
マスター   八神遼平&タマモ
属性     中立・悪
ステータス  筋力 D  魔力 A++
       耐久 C  幸運 A
       敏捷 B  宝具 -
保有スキル  【高速神言】:A
       【呪具作成】:B
宝具     なし


<パラメータ>
 名前 :メドゥーサ
 性別 :女
 種族 :分霊
 年齢 :不明(外見は20歳ぐらい)
 職業 :英霊の分霊
 立場 :八神遼平が召喚した分霊
 属性 :土・水
 ライン:八神遼平
 備考 :分霊だが自意識持ち
     道具系のスキルや宝具なし
     八神遼平の魂の空間(ソウルスペース)から脱出不可

<分霊のパラメータ>
種族     分霊
真名     メドゥーサ
マスター   八神遼平&タマモ
属性     混沌・善
ステータス  筋力 B  魔力 B
       耐久 D  幸運 A
       敏捷 A  宝具 B
保有スキル  【魔眼】:A+
       【怪力】:B
       【神性】:E-
       【対魔力】:B
       【騎乗】:A
宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B
       【自己封印・暗黒神殿】:C-

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