トリッパーと雁夜が聖杯戦争で暗躍   作:ウィル・ゲイツ

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閑話(聖杯戦争の準備)

 サーヴァント召喚による魔力不足を回復するために眠りについた僕は、少し時間が経った後にいつも通り精神世界で覚醒した。

 魔力不足のせいか精神的にも疲れていて、魔術の勉強をする気になれず、精神世界のソファーに座ったまま最近のことを思い出していた。

 

 まず、最初に思い出したのは、やはりお世話になった人たちのことだ。

 

 雁夜さんは『時臣師の弟子であり協力者』であることを隠すため、僕や桜ちゃんとの直接の接触は完全に断っていた。

 ……まあ、僕は使い魔や影の体で密かに会っていたんだけどね。

 雁夜さんは、遠坂家の女性陣(+ついでに時臣師)を守れる力をつけるため、毎日厳しい修行を続けていた。

 僕が伝言係となって、『葵さんたちの雁夜さんへの応援メッセージ』を伝えているから、雁夜さんのやる気はいつでもマックス状態だった。

 ちょろい、と思ってしまった僕は、やっぱり腹黒だろうか?

 

 一方僕は、対外的には『凛ちゃんと桜ちゃんの遊び友達』として遠坂家に出入りして、実際には『時臣師の秘密の弟子』として凛ちゃん、桜ちゃんと一緒に時臣師から魔術の指導を受けていた。

 メディアとメドゥーサがいるから、時臣師の指導はなくても問題ないのだが、『自意識を持った分霊を降霊済み』ということは内緒にしているため、それを隠す意味もあって引き続き指導を受けていた。

 午後は時臣師に、睡眠中は精神世界でメディアとメドゥーサを師として魔術について指導を受けていることもあって、時臣師の僕への評価はかなり高かった(降霊術関連だけだが)。

 いや、まあ、「仮にも自分の弟子ならば、時臣に無能だと思われるようなことは絶対にしては駄目よ」と、メディアに満面の笑みで脅迫されたこともあって、文字通り命がけで修行をしていただけなんだけどね。

 

 メドゥーサはメドゥーサで、「桜を守れるだけの強さを早く身に付けてください」と、修行中は常に無言の圧力を加えてきているので、修行中は一瞬たりとも気を抜けない状況が続いていた。

 

 さらに寝る直前の訓練では、魔力生成量を増やすため、『魔術回路の再構築』&『魔力を使いきるまでの訓練』を毎日行い、毎晩気絶同然に眠りについている日々を過ごした。

 

 おかげで、自分でも驚くほどすごい勢いで、降霊術の技量は上達し、魔力発生量もかなり増えていった。

 それにより、僕がメディアやメドゥーサのスキルの一部を(かなり弱体化したが)借りることもできるようになった。

 さらに、僕が『分霊からスキルを借りること』をサポートすることで、タマモたちが借りているスキルのレベルを向上させることができるようになり、パーティー全体の実力の底上げにも繋がったのは嬉しかった。

 

 

 僕の使い魔のタマモと真凛と真桜の3人は、相変わらず元気に毎日を過ごしていた。

 具体的には、タマモは天然のトラブルメイカーぶりを発揮して色々やらかして、真凛は僕に対する魔術の修行をスパルタで容赦なく行い、真桜は滴の世話と治療を毎日がんばっていた。

 

 

 凛ちゃんは最近知恵がついてきて、結構生意気なことを言ったり、背伸びをした言動を取ったりすることも増えてきたが、所詮は子供のすることであり、僕にとってはどれも可愛いとしか思えない。

 誉めたり、お礼を言うと、顔を赤らめて視線を逸らしながら「おれいをいってほしくて、したんじゃないわ」とツンデレのテンプレ台詞を言ってきたりする。

 微笑ましいやら、可愛らしいやらで思わず笑ってしまうと、「なにがおかしいのよ!」と凛ちゃんはますますむきになり、それをまた僕が笑うということを繰り返す光景は最近ではよくあることだった。

 

 桜ちゃんの方は、家族の次に僕を慕ってくれている。

 それはいいのだが、気がつくと僕のことを「おにいちゃん」と呼び始めてしまった。

 婚約者なのにおにいちゃんとはこれいかに。

 ……まっ、いいか。

 年上の幼馴染みに対する呼び方として、そうおかしなものじゃないし。

 

 また、桜ちゃんは真凛や真桜に可愛がられ、楽しみながら魔術を学び、凛ちゃんや僕に追い付こうと日々努力している。

 元々、桜ちゃんは凛ちゃんに匹敵する天才的な才能を持っているわけで、「この調子で技量が上がっていけば、魔術刻印なしでもいずれ一流の魔術師になれる」とメディアが認めるぐらいの成長速度だった。

 

 綺礼には僕が弟子であることを完全に隠しているが、……少し調べれば『僕の先祖が魔術師であること』は分かってしまうだろう。

 だから、『切嗣には確実に、綺礼にもいずればれる可能性は高い』と思っている。

 一応時臣師に依頼して僕も気を付けることで、一度も綺礼とは会わないで過ごしてきたけどね。

 ……綺礼の興味を持たれるようなことがあれば、それは絶対に不幸な未来に繋がることが容易に予想できたので、僕は全力を尽くして避けたのもあるけど。

 

 時臣師との関係も特に問題はない。

 真凛と同じく、『桜ちゃんの外見を参考にして真桜という仮想人格の使い魔を作ったこと』を伝えたが、真桜の正体には気づいていないようだった。

 ……まあ、普通に考えれば、『桜ちゃんの記憶と人格をコピーして、それを一気に成長させた仮想人格』なんて予想できないから、当然といえば当然ではある。

 そういうわけで、秘密の弟子として魔術の指導を受け続け、『降霊術については優秀な弟子』という評価をもらうことができた。

 ……言い換えれば、『降霊術以外は平凡(魔術刻印に登録された魔術を除く)』ということでもあるが、……いいんだ、僕は『降霊術一点特化型の魔術使い』として生きていくから、悔しくなんかない。

 

 それと、気が付くと僕は、遠坂家公認で桜の婚約者になっていた。

 以前から、婚約者候補ではなく、婚約者扱いしているような感じを受けていたのだが、それは勘違いではなかったらしい。

 時臣としても、『魔術刻印を受け継ぎ、魔術の素質もそれなりに期待でき、遠坂家の分家になってくれる存在』として、僕のことはかなり高評価だったらしい。

 僕がすでに令呪を持っていることもあり、時臣師にとって『僕がダブルキャスターを呼ぶこと』は、確定事項なのかもしれない。

 どうせ、

『自分が聖杯を得る手助けをするために、綺礼に令呪が与えられ、さらに助力を申し出てきた雁夜くんも令呪を手に入れた。

 ならば、私の弟子であり降霊術の優れた才能を持ち、すでに令呪を手に入れた八神くんならば、必ずやダブルキャスターを召喚できるだろう』

とか、ご都合主義を展開していたのだろう。

 それだけ自分が作成した『ダブルサーヴァント召喚用の魔法陣』に自信を持っているのかもしれない。

 

 葵さんにしても、『最愛の夫』と『(桜を助けたことで評価が鰻上りの)幼馴染の雁夜』の二人が認めた存在が桜の婚約者となり、『今後、桜を養子に出す必要がなくなった』ということもあって、僕を受け入れやすかったようだ。

 もともと、以前から公園などでよく会っていた間柄でもあったし。

 考えてみれば、葵にとって願ったり叶ったりの状況だよな。

 

 僕が桜ちゃんの婚約者になったことについて、桜ちゃんは無邪気に喜び、凛もすんなり認めていた。

 元々僕に対しては、姉弟子ということでかなり威張っていたが、『桜の婚約者=自分の義弟』と考えたのか「おねえさんとよびなさい」と言ってきたりしたが、僕が家族になることに満更でもないようだった。

 ……もしかして、この世界では僕による凛攻略ルートもありえたのか?

 なんならこれから、姉妹育成&ハーレムルートを目指すのも悪くないか?

 ……やっぱり止めておこう、メディアやメドゥーサを怒らせたら、本気で命がいくらあっても足りないしな。

 そういうわけで、僕は凛ちゃんと桜ちゃんを一緒に可愛がって、愛でるだけにしておこう。

 ただ、その結果『僕は桜一筋でも、向こうから好意を寄せてきて、桜が二股を認めてくれるなら問題ないはず。桜も大好きなお姉さんとずっと一緒なのは嬉しいだろうし』などと、ちょっと妄想してしまった僕だった。

 

 

 ただ、ここまで時臣師から高評価をもらうと、『裏がないか?』とつい考えてしまった。

 例えば、笑顔の裏で『聖杯戦争の際にダブルキャスター諸とも僕を抹殺すること』を画策しているとか。

 そうすれば、凛に遠坂家の魔術を、桜に八神家の魔術を継がせられるし、桜を僕に嫁がせる必要もなくなる。

 桜は八神家の魔術で自衛できるだけの力を手に入れられるだろうから、そのまま遠坂家にいても問題ない。

 そして、時臣師が『色々と裏で何か画策していること』に気づいていたら、僕の存在を危険視していてもおかしくない。

 元々、『前世の記憶持ち』で『魔術関連の前世知識はないはずなのに、(原作知識があるため)なぜか極秘レベルの重要情報を知っていることがある』という怪しい存在でもあるし。

 ……いや、真面目に魔術の授業を受けていたから、気になったことや気づいたことを質問した際に、つい原作知識を元にしたことを言ってしまったことがあったんだよね。

 発想元を聞かれたら、前世の魔術関連の小説や漫画と答えたけど。

 

 聖杯戦争の最中に僕を抹殺してしまえば不安要素はきれいになくなるし、『聖杯戦争中にサーヴァントに殺された』と桜ちゃんたちに伝えれば疑うこともないだろうし、凛ちゃんたちに『魔術師の世界の厳しさを分からせる経験』としてもちょうどいい。

 

 あれ?

 自分で考えておきながら、『時臣師にとっての八神遼平を抹殺した際のメリット』がすごいことになってないか?

 いやいや、八神家の魔術刻印は『八神家の血を引く魔術師』だけが継承できる。

 ならば、万が一にも時臣師が僕の抹殺を計画するとしても、それは僕と桜の子供ができてからのはずだ。

 そうしなければ、八神家の最大の遺産である『八神家の魔術刻印』が使えなくなるというデメリットが大きすぎる。

 

 まあ、魔術刻印の価値以上に僕を抹殺するメリットがある場合は、僕の抹殺を優先する場合もありえるけど、露骨に時臣師を裏切るつもりはないし、……多分大丈夫だろう。

 単に、『聖杯戦争において時臣師に提供する情報を制限し、必要以上にサポートしないだけ』のつもりだし、それで時臣師が自滅してもそれは僕の責任ではない。

 

 ……そういえば、橙子レベルの人形師だと、奪った魔術刻印を元にして人形を作ることで、奪った魔術刻印を使うことも可能だったっけ?

 時臣師なら、魔術協会にいる橙子と接触を取るのは簡単、か。

 

 契約では、……しまった!

 『僕が召喚したサーヴァントの行動自由権』はしっかり書いてあるけど、『時臣陣営による八神遼平の殺傷禁止』を入れ忘れた。

 これだと、時臣師が僕を殺しても契約違反にはならないし、うっかりハサンが僕を殺してしまう事もあるかもしれない。

 

 ……今後は、時臣師の動向をばれない範囲でもっと調査しておいたほうが良さそうだな。

 特に、僕に対するスタンスや方針を重点的に。

 

 なお、聖杯戦争中、つまり今は『葵さんたちを人質にされる危険性』を僕が訴えたこともあって、『無計画、予約なしの飛び込み宿泊、クレジットカードを使わず現金払い』で長期旅行へ出掛けており、連絡はライン経由限定と徹底して情報を隠して安全を確保している。

 ここまですれば、さすがの切嗣や綺礼でもどこにいるか見つけることは不可能だろう。

 

 

 雁夜さんの技量も、使い魔経由で時臣師の指導を受け、研鑽を続けた結果、『技術はまだまだだが、魔力量と集中力はすでに一人前の魔術師レベル』という評価をもらっている。

 これにより、時臣師も『雁夜さんがバーサーカーを召喚すること』に対して不安は全く持っていないようだった。

 

 『僕と雁夜さんが時臣師の弟子であること』は当初の予定通り教会側にも最後まで隠すことが決まっており、『時臣師の指導』ならびに『遠坂邸への出入り』はアサシンの召喚する少し前に終了した。

 そのため、今後は『緊急時のみ使い魔経由で連絡をとること』になっている。

 僕たちが、綺礼のアサシンの召喚を確認できていないのはそのためだ。

 こちらとしても、『真凛と真桜がサーヴァント化したこと』を時臣師に説明しなくてすんでいるので、助かっている面もあるけど。

 

 この最後の連絡において、僕は『自分で避難場所を見つけて、そこに隠れる予定』と時臣師に伝えてある。

 時臣師は、葵さんたちの旅行に加わることを薦めてくれたのだが、「いざというときにすぐに対応できるようにしたいんです」と話して断ったのだ。

 自分の命は惜しいが、『せっかくマスターになるんだから、現地で聖杯戦争の展開を見たい』という気持ちが勝った結果なんだけど。

 

 

 僕と雁夜さんは、直接会うことはできるだけ避けるが、使い魔や影経由で常に情報交換を行っている。

 雁夜さんの目的が『遠坂家の女性3人(ついでに遠坂時臣)を守ること』であり、僕たちというかメディアの目的が『喧嘩を売ってきた遠坂時臣を半殺しにすること』なので、本来なら対立する立場になる。

 しかし、『僕が召喚したサーヴァントの行動の自由』を時臣師本人が認めており、メディアも『時臣の半殺しが目的で、殺すつもりはない』と雁夜さんに明言している。

 そのため、雁夜さんとは聖杯戦争において下記の協定を結んでいる。

 

<八神遼平と間桐雁夜の協定>

1.時臣陣営と八神陣営が戦う場合、雁夜陣営は中立を維持する。

2.遠坂家の女性陣に危険が迫った場合は、協力して敵を排除して女性陣を守る。

3.雁夜陣営と八神陣営は、対時臣陣営以外の戦闘において協力するが、協力していることをできるだけ他陣営へ隠す。

 

 協定の「2」は、綺礼&切嗣対策の為なのは言うまでもない。

 それと、一回だけだが葵さんが買い物帰りに体調を崩したことがあり、そのせいもあって雁夜さんは葵さんに対して過保護気味になっている。

 なお、葵さんは気分が悪くなった後、少しその場で休んだ後そのまま一人で帰宅しており、その後も特に体調に問題はなかった。

 時臣師は葵さんを心配して、念のため魔術を使って調査したらしいが、魔術を掛けられた形跡もなく、それを聞いて雁夜さんも安心しており、問題は何もなかった。

 

 実際、葵さんが誘拐されて外道な魔術師の子供を産まされる可能性は十分にあるわけで、雁夜さんが過保護気味になっても仕方がないとは思う。

 もっとも僕は、葵さんが体調を崩したと聞いたとき、3人目の子供を妊娠したのかな? と思ったんだけど、その兆候はないらしい。

 

 

 滴ちゃんは、当初の予定通り、冬木市外にある拠点で暮らし、メディアに魔術を習っている。

 本気で魔術協会に捕まっている姉を奪還するつもりらしく、凄まじい集中力と努力により、メディアも驚くほどの成長を見せている。

 ……見せてはいるが、所詮はまだ6歳だし、魔術刻印もないため、まだまだ半人前らしい。

 ……たった十ヶ月で、素人が半人前になっただけでも十分すごいと思う。

 才能もあるし、やる気もあるし、メディアという最高の師までついている。

 となれば、『将来、一流の魔術師となり、魔術協会から姉を奪還すること』も不可能ではないだろう。

 ……問題は、『それまで滴ちゃんのお姉さんが、五体満足&自我を保ったまま生きているか?』ということだが、……それは幸運を祈るしかないな。

 桜ちゃんのように特殊な素質を持っていなければ、……多分実験台にされるようなことはないだろう。

 となると、父親の魔術刻印を全部押収され、自家の秘伝の魔術を全て聞きだされた後は、……『魔術協会の下働き』か『記憶を封印されて追放処理』か?

 橙子と連絡を取った際に、一緒に『滴ちゃんの姉の消息と待遇』を確認することにした。

 ちなみに、時臣師には滴ちゃんを助ける義理も意味もなく、聖杯戦争の準備で忙しいときにわざわざ調査をしてくれるとも思わなかったので、時臣師にはこの件について全く話していない。

 

 それはともかく、滴ちゃんはこの1年、冬木市には一度も入らずに過ごした。

 その結果、令呪を手に入れてしまうようなハプニングもなく、現時点ではとりあえず平穏な日々を過ごせているようだ。

 ただし、雁夜さんはとうとう滴ちゃんと会えないまま聖杯戦争に突入してしまった。

 結局『間桐家の人間』ということで滴ちゃんの警戒はとけず、滴ちゃんと会えたのはメディア、メドゥーサ、真凛、真桜の4人だけだった。

 僕は自分の正体を隠すためもあって、あえて会いに行かなかった。

 聖杯戦争を無事に生き残れたら、滴ちゃんに会いに行くのもいいかな?

 みんなが滴ちゃんと仲良くなっているのに、僕だけ会ったことすらないというのは寂しいし。

 

 

 僕の関係者の近況はこんなところで、残りの重要事項と言えば、やはり聖杯戦争の準備だろう。

 

 魔力供給源として有力なプランだったホムンクルス作成はほぼ成功した。

 メディアがユスティーツァの記憶から『アインツベルン製ホムンクルスの作り方に関するデータ』を読み取り、凛ちゃんと桜ちゃんの髪の毛を元に、わずか半年でホムンクルスを二体作り上げてたのだ。。

 もう少し時間があれば、ホムンクルスの肉体年齢を20歳まで成長することが可能だったぐらいだ。

 しかし、『真凛と真桜が聖杯戦争開始までにホムンクルスの体の操作に慣れ、魔術回路などをまともに動かすための訓練期間』が必要だったため、肉体年齢を10代半ばまで成長させた後、真凛と真桜によるホムンクルスの体を使いこなす訓練が始まったのだった。

 たった四ヶ月だったが、(ホムンクルスとはいえ)本物の体を手に入れた二人は、きつくて辛い肉体の訓練(リハビリのような体を動かす訓練)と魔術の訓練を進んで行い、『一般人レベルの運動能力』を手に入れ、『全ての魔術回路を開くこと』で『簡単な魔術行使』まで可能になった。

 魔術回路はほとんど鍛えられていないが、魔術回路数が多いため、かなりの魔力量を生成可能になった。

 

 これで僕の陣営にいて魔力供給が可能なのは、僕、タマモ、真凛、真桜、凛ちゃん、桜ちゃん、滴ちゃんの7人まで増えたわけだ。

 ちなみに魔力生成量は、凛ちゃん>桜ちゃん>僕>タマモ>滴ちゃん>真凛=真桜となっている。

 まあ、凛ちゃんと桜ちゃんと同じ魔術回路を持っているんだから、遠からず真凛と真桜の魔力生成量は僕とタマモを越えるんだろうけど。

 さらに、メディアによって『大聖杯からの魔力供給を受けるシステム』も構築済みであり、これが使えれば僕の陣営で魔力不足が起きることはまずないはずだ。

 

 ……あっ、忘れてた。

 今の真凛と真桜は、(受肉化した)サーヴァントになっているんだった。

 ということは、……魔力生成量も増えているのか?

 そうだったら嬉しいな。

 後で確認しておかないと。

 何でかはしらないけど、今日は真凛と真桜がこの精神世界に来ないし、ライン経由でも連絡がとれないでいるので、事情を聞くことができないでいる。

 

 元々、真凛と真桜は戦闘に参加するのは無理だけど、魔術や使い魔操作で聖杯戦争のバックアップを担当してもらう予定、……だったんだけどねぇ。

 ……寝る前に見た感じだと、『ホムンクルスの体にサーヴァントの体が憑依&融合していた感じ』だったが、本当に大丈夫なのだろうか?

 『アーチャーの腕を移植した士郎』はアーチャーの腕を時限爆弾とまで言っていたし、どんな制約があるかきっちり調べておかないと。

 

 

 拠点の方は、大空洞の内部に作った本命の拠点(サーヴァント召喚を行った場所)、予備用の『青髭が拠点にしていた場所』に作った拠点はすでに完成している。

 そして、ダミー&囮用の拠点として使う予定の柳洞寺についても、陣地作成の完成直前まで作成済みだから、後は必要に応じて陣地作成の最終段階を行えばいい。

 

 戦争をする以上拠点を複数作るのは基本だと僕は考えてメディア達に提案し、その結果三拠点を作ったのだ。

 何が起きてもおかしくないのが戦争だし、手段を選ばない切嗣と狂人の綺礼がいるのだからこれぐらいの対策は当然だ。

 あとは、真凛と真桜の陣地作成スキルで三拠点をさらに強化すれば、準備は万全だと思う。

 

 

 ヤクザ狩りも、警察はもちろん、魔術関係者や教会関係者にばれることなく、無事に終了した。

 雑魚狩りではあるが、度胸をつけ、実践経験を積むため、単独行動中のヤクザ狩りには僕、タマモ、真凛、真桜も参加したぐらいだ。

 

 基本的には、僕たちの本当の姿からかけ離れた影の体を構築し、その影を使って素手で(犯罪者の)ヤクザを半殺しにして、少し生命力を奪い、犯罪の証拠(麻薬、覚醒剤、一発の銃弾、ナイフのどれか)を残して、警察に通報した。

 ……手間賃として、お金と銃器(銃弾含む)は没収したから、やっていることは強盗そのものだ。

 もっとも僕は、もとから『正義の味方』ではなく『悪の敵』になるつもりだから、『犯罪者の人権は認めない』し、『犯罪者に犯罪行為をすることはOK』という考えだから、全く問題ない。

 しかし、ヤクザの方も『銃器を奪われました』と警察に訴えられずはずもなく、『お金を奪われた』と訴えるのもヤクザ仲間での評価を下げるだけのため、結局僕たちが指名手配されることはなかった。

 多分警察には、『ヤクザ(犯罪者)狩り』がいることは結構有名になっているだろうけど、被害者が訴えず、やっていることは『犯罪者を警察へ通報』であり、警察にとっても利益のあることなのでお目こぼしされているのではないかと予想している。

 そんなわけで、薬物の売買は壊滅状態、銃器やナイフを持ち歩くヤクザも皆無となり、冬木市の治安は向上する結果となった。

 

 ……いや、まあ、町を歩いていて、メディア特製の違法物質探知機に反応があったら、影で一人残らず狩り尽くすことを繰り返していたら、ヤクザも学習して違法なものは持ち歩かないようになっただけ、とも言う。

 こりずに時々バカが出てくるが、見つけ次第速やかに刈り取ることで、冬木市は日本でもあり得ないぐらい安全な都市になり、過ごしやすくなったのはいいことだ。

 

 そうそう、藤村組の組員も時には銃器や刃物を持ち歩いていたこともあったが、さすがにそれは見逃しておいた。

 藤村組の組員で違法薬物を持っている人はいなかったから、だけどね。

 

 結果として、影の体なら全く問題なく戦えるまで実戦経験を積め、真凛や真桜も『犯罪者相手なら容赦不要』と、動揺することなく犯罪者を半殺しにできるまで成長した。

 ……成長だよな?

 

 タマモはどうしたって?

 タマモは元々狐の使い魔であり、獣は獲物に対して容赦しないのが当然。

 僕の命令があれば、嬉々としてヤクザをぼこぼこにして、やり過ぎないように止める必要があったぐらいだ。

 

 こうして、僕たちは(影経由で弱い者いじめとはいえ)全員戦える度胸はついた。

 対サーヴァント戦には元々参加するつもりもないから、対マスター戦において、影の体経由で本体へ呪いやダメージを与える特殊攻撃以外は恐れるものはないだろう。

 

 ……あっ、攻撃される可能性は低いと思うが、切嗣の起源弾は要注意か。

 影経由で魔術などを使うときは、当然魔術回路の出力は上がっている。

 そのときに、影に起源弾を食らってしまうと、僕がひどい目にあってしまう。

 メディアに呪いや起源弾の効果を遮断する魔術具の作成を頼んでおこう。

 ……メディアのことだから、実はすでに作ってあって、僕が言い出すまで隠しておく、なんて意地悪をしても不思議でもないけど。

 

 僕はメディアの弟子であり、同時にこの世界での憑代兼魂の空間(ソウルスペース)に閉じ込めた原因でもあるから、愛の鞭というべきか結構厳しく指導とか、対応されることが多い。

 メディアたちにとって、僕の生存が彼女たちの生命線だから、できるだけ早く可能な限り死ににくいようになってもらいたい気持ちは理解できるから、素直に従っているけど。

 早くメディアに一人前と認めてもらえるぐらい色々な意味で強くなりたいものだ。

 

 

 聖杯戦争に話を戻すが、盗聴器や監視カメラ、監視用使い魔の設置など、優先順位が高いものはほぼ予定通り準備を終えている。

 

 ……元々時間があれば、程度に考えていた橙子との接触は、結局聖杯戦争後になった。

 宗十郎の連絡先(=有珠邸の連絡先)は調査済みなので連絡を取るだけなら容易だと思うが、橙子たちが聖杯戦争に関わってさらに面倒になるのを避けるため、という理由もある。

 

 結局、幻想魔術具やネタアイテム作成は、予想通りメディアたちに手伝ってもらうことはできなかった。

 そこで、睡眠時間に精神世界にいるときに、タマモと真凛と真桜と一緒に自作を目指したのだが、所詮魔術具作成の経験者がおらず、知識も貰い物という状態ではろくなものができなかった。

 ……せめて、『プリズマ・イリヤ』のクラスカードは作りたかったなぁ。

 やっぱり、魔法(魔術)関連の世界に転生したからには、クロウカードや仮契約(パクティオー)カードのように『特殊な能力を持ったカード』の存在には憧れる。

 『降霊術で英霊の分霊の一部、あるいは分霊の力の一部をカードに封じ、そのカード(封じた英霊の分霊 or 英霊の力)と適性があるものが、その力を使える』ようになれば、降霊術の適性がない人も英霊の力を借りることができるわけで、ぜひ作りたかったのだが。

 ……まあ、聖杯戦争が終わった後にでも、ゆっくり作るとするか。

 

 こんなことを考えつつ、僕は朝が来るのを待っていた。

 

 目が覚めたら、とうとう僕にとっての聖杯戦争が始まるわけだ。

 さあて、どんなことになるのやら。

 




 話が長くなったので、回想部分を『閑話』として分けて投稿しました。

 おかげさまで、被お気に入り件数が1000件を突破しました。
 どうもありがとうございます。

 評価は残念ながら7点を下回っている状態が続いています。
 今後も、『内容は面白く、展開は(行き過ぎないレベルで)予想外で、文章は読みやすい』をモットーに作品を作っていきます。

 何か気づいたことなどがありましたら、ぜひお知らせください。

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