トリッパーと雁夜が聖杯戦争で暗躍   作:ウィル・ゲイツ

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第21話 バタフライ効果(聖杯戦争四日目)

 聖杯戦争の三日目は、何事もなく平穏な一日だった。

 

 そして夜になり、いつも通り眠りについて精神世界で覚醒した後、僕はタマモと一緒に魔術の勉強をしていた。

 真凛、真桜の二人は『サーヴァントの体を使いこなす訓練』を今日もずっと行っている。

 そして、その訓練はメディアとメドゥーサが手伝っているので、今日もこの精神世界は二人っきりである。

 二人きりだからとタマモは思いっきり甘えてきたので、狐モードのタマモの頭とか尻尾をなでたり、タマモの体にもたれかかったりしながら僕は勉強を続けていた。

 

 

 勉強を始めてから数時間後、日付が変わって少し経った後、いきなりメディア達が僕の前に現れた。

 

「一体何が起きたんだ?

 舞弥でも発見したのか?

 それとも、もしかしてアルトリアたちがもう冬木市に来たのか?」

「アルトリアとアイリスフィールは美少女と美女のコンビで目立ちますから、発見しやすかったのかもしれませんね」

 

 僕とタマモはそんな呑気な予想をしていたのだが、メディアの回答はとんでもないものだった。

 

「現在遠坂邸に向かって、綺礼から命令を受けたアサシンの一人が移動しているわ。

 多分、例の茶番を始めるつもりよ。

 貴方もリアルタイムで見たいでしょうし、イレギュラーな事態に備えるためにも、全員ここで状況を確認することになったわ」

「ホント?

 ……何でこんなに早まったんだ?」

「メディアさんの行動が原因じゃないですか?

 アサシンの分体を二人も殺されたら、そりゃ時臣師も焦りますよ」

 

 タマモの指摘にメディアは苦笑しながら答えた。

 

「多分そうでしょうね。

 ……っと、そのことは後で話しましょう。

 そろそろ始まるわよ」

 

 慌てて『すでに遠坂邸を表示しているディスプレイ』を見ると、アサシンが遠坂邸の庭へ飛び込んでいくところだった。

 それを見て、僕もまた影を遠坂邸へ飛ばした。

 アサシンは、結界を構築する宝石を礫で連続で破壊し、アサシンダンスと呼ばれた華麗(笑)な動きで動的な結界を躱して、ついに結界の要となる宝石のところへ辿りついた。

 そして、その宝石へアサシンが手を伸ばしたところで、……その手を槍が貫いた。

 

 遠坂邸の屋根を見ると、そこには神々しい姿のギルガメッシュが立ちはだかっていた。

 さすがは、リアルギルガメッシュ。

 使い魔経由の映像でも、その迫力と威厳、残酷さ、ついでに慢心が伝わってくる気がする。

 ギルガメッシュの背後には、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から出現した宝具の原典の数が続々と増えていき、ギルガメッシュの威容がますます高まっている。

 ああ、確かにこんなのをいきなり見せられたら、絶望のどん底に落とされても仕方ないか。

 

「地を這う虫けら風情が、誰の許しを得て面を上げる?」

 

 ギルガメッシュはアサシンを見下ろしながら、冷酷な声で問いただした。

 問いただしておきながら、ギルガメッシュはアサシンの答えを待つことなく攻撃を開始した。

 次の瞬間、背後の宝具の原典群は恐るべき速度でアサシンへ向かって投射され、その爆撃とでもいうべき攻撃により、アサシンはギルガメッシュを見上げることしかできずに殺された。

 始めに剣で頭を割られたところまでは見えたが、あとは舞い上がった粉塵によって全てを覆いつくしてしまった。

 正直、『戦闘』よりも『処刑』と呼ぶのが一番相応しいと思ってしまったぐらいの圧倒的な戦力差だった。

 

「貴様は我を見るに能わぬ。

 虫けらは虫らしく、地だけを眺めながら死ね」

 

 最後にギルガメッシュが、慈悲の欠片もない台詞を投げかけ、そのまま霊体化して姿を消した。

 こうして、全く戦いにならないまま、聖杯戦争の第二戦は終了した。

 ……まあ、他のマスターたちにとっては、これが『初めて確認したサーヴァント同士の戦闘』だから、公式にはこれが開幕戦になるのかもしれない。

 

「あれが、ギルガメッシュですか。

 実物を見たのは初めてですが、……なるほど、あれではまともに戦って勝てる可能性があるのは、アルトリアかエミヤぐらいでしょうね。

 正気を失ったヘラクレスでは勝てなかったのも当然ですね」

「あれっ?

 メドゥーサって、第五次聖杯戦争でギルガメッシュに会ったことなかった?」

「はい、偶然ですが、私がギルガメッシュと会った記憶はありません。

 セイバールートと凛ルートの世界ではギルガメッシュが登場する前に私が倒され、桜ルートの世界ではギルガメッシュが桜に殺されていましたので」

 

 ……そういえばそうだったか。

 確かに、バトルロワイヤルの上、ギルガメッシュは終盤まで出てこなかった(&出てきた直後に桜に殺された)わけだから、最後まで会わないで終わってしまうサーヴァントがいてもおかしくなかったか。

 

 メディアは『原作でメディアがギルガメッシュに殺されたシーン』を思い出したのか、顔を顰めたが何も言わないでいた。

 

「結局このイベントは、起きた時間以外は完全に原作通りですよね。

 お父様は一体何で予定を早めたんでしょうか?」

「……一番簡単に思いつく理由は、青髭が召喚された日よりも早く、私たちがサーヴァント化したせいでしょうね」

 

 真桜の疑問に対して、真凛が自分の考えを教えていた。

 ……ああ、言われてみればそうだった。

 

「原作世界の第四次聖杯戦争において、最後に召喚されたサーヴァントはキャスターの青髭。

 でもこの世界では、すでにキャスターとして私たちが召喚済みでしょ?

 他のサーヴァントも原作通り召喚されていれば、まだ召喚されていない可能性があるのはランサーのみ。

 最後のサーヴァントであるランサーの召喚が確認されたから、予定通りこの茶番を実行したんじゃないかしら?」

「なるほど、そうだったんですか。

 お父様が実行を早めたわけではなくて、『サーヴァントの7クラス召喚が早まったこと』が原因だったんですね」

「普通に考えればその通りね」

 

 真凛と真桜は『サーヴァントの7クラス召喚の前倒し説』で納得していたが、メディアが認識の誤りを指摘してきた。

 

「残念だけどその可能性は少ないわね。

 ケイネスとソラウの二人については、昨日の朝にハイアットホテルに入って以来ずっと盗聴と監視をしているけど、現時点ではランサーの姿はもちろん、声も一切確認されていないわ。

 もちろん、ケイネスやソラウがランサーに対して話しかける様子もないし、二人の会話から判断するとまだ召喚前みたいね。

 当然教会、ひいては時臣もランサーが召喚されていないことは知っているでしょう。

 ……となると、『どうしても急がなければいけない事情』が時臣陣営で発生して、慌てて茶番を実行したという可能性が高いわね」

 

 そう、ハイアットホテル最上階に対する窓の外からの監視、ならびに最上階に設置した盗聴器は正常に動作しており、ケイネスたちの動向は完全に僕たちに筒抜けになっている。

 だから、メディアの分析はかなり精度が高いと考えている。

 

「それと、遠坂邸を監視していた使い魔は、私の使い魔と貴方の影を除くと、計4体いたわよ」

「え~と、ということは、雁夜さん、切嗣……じゃなくて舞弥、ケイネス、ウェイバーの使い魔がいたわけですね」

「ええ、そうね。

 それと、ウェイバーはマッケンジー邸から動く様子はないわ。

 ……この辺は原作と同じ展開みたいね」

 

 『メディアによる使い魔の監視網』と『事前に準備した監視カメラと盗聴器』によって、ケイネス以外にもウェイバーの動向も完全に把握している。

 つまり、やろうと思えば、『サーヴァント召喚前にウェイバーやケイネスを襲って令呪を奪う事』も可能だっただろう。

 半人前のウェイバーはもちろんだが、たかが『超一流の魔術師』が今のメディアやメドゥーサを相手にした場合、勝つことおろか、逃げることすら不可能なのは言うまでもない。

 しかし、メディアの目的は『時臣師の半殺し』と『(生きていて、かつ冬木市にいれば)臓硯の抹殺』である。

 他のマスターやサーヴァントについては、『喧嘩を売ってきたら100倍返し』といったところだろう。

 ゆえに、『将来の敵』ではあるが、現時点では一切こちらと関わりのないウェイバーとケイネスについては、情報収集以外は一切何もしていない。

 

 原作では、第五次聖杯戦争において『令呪を手に入れたがサーヴァント召喚前の魔術師』をメディアが発見&抹殺して令呪を奪ったらしい。

 だが、原作のメディアは『葛木の為に全力を尽くし、手段を全く選ばず聖杯を求めた神代の魔術師』であり、この世界のメディアとは別人と言っていいほどスタンスが違う。

 今のメディアなら、『火の粉が掛からない限りは無闇に人を殺さない』と思う。

 メドゥーサの方は、何度も言ったが『桜、真桜、滴の安全と幸せを優先する』という態度であり、それに影響を及ぼす恐れがない限り、ウェイバーとケイネスについては放置でも特に気にしていないようだった。

 この二人は一般人を巻き込むことをよしとしない魔術師だから、よほどのことがないかぎり、桜と滴の危険性を上げるようなことはしないとは思うけど。

 

 正直に言えば、ウェイバーやケイネスから令呪を奪わなかった理由には、『サーヴァントへの魔力供給量が追いつかないから、これ以上サーヴァントが増えても戦力アップにはつながらない』という切実な理由もあった。

 なにせ、僕たちの陣営には、すでにサーヴァントが4人もいるのだ。

 そのうち二人が『受肉状態の為、自力で魔力回復が可能』とはいえ、これ以上サーヴァントを増やすのは現実的ではない。

 『サーヴァントを召喚した直後に令呪を使ってサーヴァントを自害させて、敵となるサーヴァントの数を減らす』という方法もないわけではないが、『さすがにそれは自害させられるサーヴァントが哀れ過ぎる』という意見が多く、実行には移されなかった。

 『こっちが手を出さなくても、勝手に潰しあってくれる』という予測もあるし。

 

 通常のマスターとサーヴァントは『聖杯戦争期間中に他の6人のサーヴァントを倒さなくて聖杯が手に入らない』という時間の制約があるから、どうしても焦りがあるし、積極的に行動に出る傾向が高い。

 しかし、僕たちは原作情報というチート知識を持っているので、『アンリ・マユに汚染された聖杯はいらない』と全員考えている。

 ……まあ、メディアは『大聖杯を構築したシステムを全て解析したい』とは思っているみたいだけど、『小聖杯はいらない』とはっきりと言っている。

 そのため、無差別殺人や大規模破壊事件が起きない限りは、聖杯戦争を放置していても問題は無く、聖杯が完成しないまま聖杯戦争が終わっても全く問題はないどころか、『アンリ・マユ復活阻止』の目的からすると喜ばしい状況となる。

 さらに、柳洞寺の地下の大空洞という見つかりにくい拠点を構築済みである僕たちは、ひたすら穴熊を決め込むのもありである。

 もちろん聖杯戦争の終盤には、アンリ・マユが復活しないように何らかの対処をする必要があるんだろうけど。

 

 つまり、僕たちの陣営は取れる選択肢が多く、準備にも多くの時間を費やしてきたから、サーヴァントが4人いることを除いても『戦略的に有利』だと言えるだろう。

 『戦術面ではギルガメッシュを擁する遠坂陣営が圧倒的に有利』なのは間違いないから、油断なんてできようもないけど。

 

 

 それにしても、メディアが予想した『時臣陣営の何か急がなければいけない事情』が一体何だったのか、ものすごく気になる。

 メディアがアサシンの分体を襲ってから、もう丸一日以上経っている。

 よって、それが急ぐ原因にしては対応が遅すぎる。

 かといって、他に思い当る要素はないし、他のマスターやサーヴァントもまだ遠坂邸や教会にはちょっかいを掛けていないはずだ。

 僕たちの監視でも、それらしいものは見えなかったし。

 ギルガメッシュもさっきアサシンを蹂躙していたわけで、異常や問題があるとは考えられない。

 ……残った可能性は、『アサシンに何か異常が発生した』ぐらいしか思いつかないが、……一体何が起きたんだ?

 『アサシンの多重人格が仲間割れを起こした』とか、『アサシンの分体の一部が勝手に離脱してどこかへ逃げてしまった』とか、そんなとんでもないトラブルが起きてしまったのだろうか?

 

「もしかして、アサシンの分体を生贄にしたときに、何か呪いとか掛けましたか?」

「いいえ、サーヴァント召喚に集中していたからそんな余計なことはしていないわ。

 ……なるほど、『急がなければいけない事情』がアサシンの身に起きたと推測して、原因が私かもしれないと考えたのね」

「ええ、そうです。

 メディアなら、それぐらいできてもおかしくないと思うので」

 

 実際メディアならサーヴァント、それも分体となって弱体化したアサシン相手なら、呪いをかけるのも可能だと僕は確信している。

 僕がそう言うと、メディアは少し考え込んだ後、何か思いついたのか面白そうな顔をした。

 

「確かに、私はアサシンの分体を生贄にしただけよ。

 でも、その情報が他のアサシンや綺礼に伝わった可能性は十分あるわね」

「それって、『自分を生贄にしてサーヴァントが召喚されている』ってことが伝わっちゃったんですか!?」

 

 タマモが驚いて叫んでしまったが、驚いたのは僕も同じだ。

 この時点で『メディアとメドゥーサがサーヴァント化した』のが時臣陣営にばれると思いっきり警戒されて、面倒なことになるのは間違いない。

 『アサシンの分体による集団攻撃』も面倒だけど、『ギルガメッシュの出陣』なんてあれば、僕たちにできるのは逃げることだけだ。

 ……そう簡単にこの拠点が見つかるとは思っていないけどね。

 

「それはないわ。

 ただ、『生贄にされて自分が消えていく状態』について、『何かに吸収されていく』と感じて、それを報告していた可能性はあるわね」

「つまり、お父様と綺礼からすると、『気配遮断を使っていたアサシンの分体が、何故か誰かに見つかった挙句に拘束され、『何かに吸収されていく』と報告した直後に消滅した』という状況が二回もあったわけね」

「……まるで、あの世界の私に捕まったサーヴァントの最期みたいですね」

「そうね。普通に考えれば、『吸収される』=『魂食いをされる』と判断するわよね」

 

 メディアの推測に、真凛が時臣師の情報を予測したところ、真桜がとんでもない発言をしてきた。

 ……が、確かに考えてみれば、『黒桜がサーヴァントを捕獲&吸収した状況』によく似ているとしかいいようがない。

 

「となると時臣師陣営は、消えたアサシンから受け取った情報を元に推理すると

『アサシンの【気配遮断】スキルを無効化できる探知系のスキル or 宝具を持ったサーヴァントがいて、さらにそのサーヴァントは【魂食い】に類するスキルも持っていて、アサシンの分体を捕獲&吸収した可能性が高い』

ってことになりますか?」

 

 自分で予想しておきながら、とんでもないサーヴァントの予想像が出てきてしまった。

 いや、まあ、その予想像が『探知系スキルを持った黒桜』でしかないことに気付いて、僕自身もちょっと驚いてしまったわけだが。

 実際は、メディアが『魔力操作の『円』でアサシンを発見し、アサシンを生贄にしてサーヴァントの召喚を成功させた』だけだが、……良く考えると、僕が考えた『【気配遮断】スキルを無効化できる探知系スキル or 宝具と【魂食い】スキルを持っている謎のサーヴァント』と大差ない規格外なサーヴァントであることには違いはないか。

 

「多分、時臣たちは似たような想像をしたんじゃないかしら?

 人間の魂食いをすれば、サーヴァントは魔力の補充が可能。

 それが『最弱とはいえサーヴァントと呼べるだけの力を持っているアサシンの分体』の魂食いが可能ならば、当然回復できる魔力量は人間とは比較にならない。

 謎のサーヴァントに時間を与えれば与えるほど、アサシンの分体の数は減り、分体の魂食いによって謎のサーヴァントを強化する結果となる。

 この状態で少しでも自分に有利な状況にするため、茶番の実行を早めて、少しでも早く聖杯戦争の戦闘を起こさせて、アサシンの分体が全滅する前に謎のサーヴァントとそのマスターを見つけようとしているんじゃないかしら?」

 

「「「「なるほど!!」」」」

 

 メディアの見事な推理に、僕たちは感嘆の声を上げた。

 確かにそれなら納得できる。

 

「それと、貴方は時臣師と最後に連絡を取った時に、『メディアとメドゥーサ、あるいは二人のメディアを召喚するつもりです』って言っていたから、多分貴方のことは疑っていないでしょうね」

「そうですか?」

「ええ。悔しいけど【気配遮断】スキルを使われると、事前に強力な結界を張っている場所でないかぎり、魔術でアサシンを見つけることは不可能よ。

 そうなれば、魔術師である私ではアサシンを見つけることは不可能、……本来ならね。

 時臣も同じことを考えているでしょう。

 メドゥーサも魔眼は持っていても探知系の魔眼ではないし、私と同じく探知系の能力や宝具を持っているような伝承もないから、雁夜のランスロットと一緒に、私たちは探索対象外になっているでしょうね」

 

 なるほどね~。

 時臣師もここまでメディアがチートなことができるとは、完全に想定外だったわけか。

 ……まあ、実は『1年以上も前に自意識をもったメディアとメドゥーサの分霊が降霊済み』で、『ずっと大聖杯を調査した結果、ユスティーツァの記憶を読み取り済み』で、『僕が提供した原作情報を組み合わせることで、御三家しか使いないはずの聖杯戦争の裏技まで使用可能』になり、とどめに『僕が発案したネタ技を使うことでアサシンすら探知可能になった』なんて、予知能力者か、読心術者か、あるいは『僕の状況を完全に監視していた人』でもない限り、気づきようがないから無理もないんだけどね。

 ……つまり、『僕が自意識を持ったメディアとメドゥーサの分霊を召喚しておきながら、それを内緒にしていたこと』が全ての原因か。

 ちょっと、悪いことしたかな?

 

 

「そういえば、『アサシンの分体を生贄にしてサーヴァントの召喚を行った』わけですけど、他にも何かに応用って可能ですか?」

「つまり、さっき言った『魂食い』をアサシンの分体に対して私が実行しろってことかしら?」

 

 ちょっとした思いつきを伝えただけだったが、その回答は恐ろしく冷たかった。

 

「いや、強制するつもりは全く、全くありません。

 ……ただちょっと気に成ったから、技術的に可能か確認したかっただけです」

「そう、それならいいわ。

 言っておくけど、技術的に可能だとしても、あんな存在を吸収するなんて考えたくもないわ」

「同感ですね。

 とはいえ、アサシンなどは論外ですが、……アルトリアならぜひ血を吸いたいですね。

 彼女の血なら、とても甘美で魔力もたっぷりあるでしょう」

 

 珍しく願望を露わにしたメドゥーサだったが、真凛やタマモはちょっと引いていた。

 メディアと真桜は全然気にしていなかったけど。

 そういえば、メドゥーサって吸血種だったっけな。

 分霊のときは吸血できなかったら、すっかり忘れていた。

 

「明日目が覚めたら、皆の血を少しずつ提供しようか?

 体調に影響のないレベルの献血で、メドゥーサが魔力回復できてメドゥーサ自身も嬉しいんなら、やって損はないよね」

「ありがとうございます。

 貴方に感謝します」

 

 思いつきを言っただけなのに、何故かメドゥーサにものすごく喜ばれてしまった。

 そんなに嬉しかったのだろうか?

 まあ、こっちに特にデメリットもなく、メドゥーサにとってメリットが大きいならやる価値はあると思う。

 

 

 あっ、ちょっと思いついてしまった。

 地雷を自ら踏むに行く行為ではあるが、……確認するだけなら大丈夫のはずだ。

 それに、これを実行した場合、メリットが大きいのは確かだし。

 

「あの~、あくまでも可能性を確認するだけで、強制するつもりは一切ありません。

 ……聞くだけでも、気分を害する可能性があるかもしれませんが、……」

「なんとなくあなたが言いたいことが想像つくけど、……いいからさっさと言いなさい」

「はっ、はい。

 聞きたいのは真桜なんだけど、……真桜は黒桜の体を今使っているから、大聖杯との接続は切っているとはいえ、体はマキリの聖杯そのものなんだよな?」

「ええ、そうですよ。

 といっても、大聖杯と接続していない以上、サーヴァントの魂を格納することにしか使えませんけど、……って、まさか?」

「うん、そのまさか。

 敵サーヴァント、例えばアサシンの分体の魂を君の聖杯に格納した場合、魔力回復できるとか、アサシンのスキルを借りれるとか、そういう効果はないかな?」

 

 僕の遠慮のない質問に、真桜は顔を顰めつつも、目を閉じて考え込んでゆっくりと答え始めた。

 

「取り込んだサーヴァントのスキルや能力を借りるのは、不可能です。

 八神家の降霊術を身に付ければ、いずれは『メディアさんたちの分霊からスキルを借りている』ように、『聖杯の中に取り込んだサーヴァントからスキルを借りること』も可能になるかもしれません。

 ですが、あの世界の私にそれができたとは思えません。

 それに、それが可能だったら、取り込んだサーヴァントのスキルを使って、もっと有利に戦えていたでしょう。

 私が降霊術を身に付ければ、いずれスキルを借りることは可能になるかもしれませんが。

 ですが、『聖杯を『願望機である小聖杯』として機能させるために、サーヴァントの魂を魔力として変換する』ように、『私が取り込んだサーヴァントの魂を魔力に変換して利用すること』は、……可能です。

 もちろん、そんなことをしてしまえば、アイリスフィールの聖杯へ取り込まれるサーヴァントの魂が減り、大聖杯が起動できなく……まさか!!」

「うん、『真桜が同意してくれて、真桜の体に悪影響がなければ』という前提付きだけど、……今話した通り、真桜がサーヴァントの魂を数人取り込んで、それにより大聖杯を起動できないようにすれば、……アンリ・マユは復活できないよね」

 

 僕のアイデアを聞くと、メディアは冷たい笑みを見せて発言した。

 

「面白い考えね。

 真桜が今使っている桜の体は、『マキリの聖杯として完成した間桐桜』が英霊の座に登録された存在。

 普通に考えれば、ギルガメッシュを含めた英霊7人の魂を取り込んでも問題ないでしょう。

 ……まあ、安全を考えれば、ギルガメッシュを含めても4人以下ってところかしら?

 その人数なら、アンリ・マユみたいな呪われた存在を取り込まない限り、真桜に悪影響を及ぼす恐れはないはずよ」

「メディアの言うことは、……多分、間違っていません。

 『すでに完成した聖杯』を真桜は持っており、この世界において聖杯は空っぽの状態です。

 ですから、サーヴァントの魂を数人取り込むことは問題ないはずです。

 ……この世界において、私とメディアというイレギュラーな存在により、サーヴァントが実質10人存在しています。

 万が一にもこの魂が全てアイリスフィールの聖杯に収まった場合、間違いなくアンリ・マユが復活するでしょう。

 それを防ぐためにも、……申し訳ありませんが、真桜には協力してもらう必要があります」

 

 メディアとメドゥーサの説明を聞いた真凛は、心配そうに真桜へ声を掛けた。

 

「真桜、本当に大丈夫なの?」

「はい、メディアさんとメドゥーサが説明してくれた通り、数人分の魂を格納するだけなら問題ないはずです。

 ……わかりました。

 サーヴァントを取り込む機会があれば、私の聖杯に取り込みます」

「ああ、頼むよ。

 ただし、くれぐれも無理しないで」

「はい、気を付けます」

 

 よし、となるとまずは、あちこちに偵察、防諜をしているであろう、アサシンの分体を片っ端から襲撃して、真桜の聖杯に取り込むとするか。

 メディアとメドゥーサが協力してくれれば、かなりの時間ばれることなく実行できるだろう。

 そうすれば、この拠点がアサシンに見つかる可能性も減るから一石二鳥だ。

 ちなみに、霊体化可能な人は霊体化して、そうでない人はメディアによる瞬間移動によって拠点への出入りをしているから、マスターやサーヴァントの追跡ではこの拠点を見つけることは不可能だ。

 

「そういえば、……あの世界のセイバーオルタと同じように、真桜がサーヴァントを取り込んで黒化&受肉化して、配下にすることはできるのか?」

「……大聖杯との接続を切っているので能力が低下していますが、【黒い影】を使うことでサーヴァントの取り込みができるはずです。

 そして、取り込んだ後、そのまま魂を保管するか、魔力として変換するか、あるいは黒化するかは、私の意志で決められます。

 あの世界の私は、ギルガメッシュは制御できないと判断してすぐに魔力化して、……完全な状態で取り込めたアルトリアさんは、黒化することで支配できました」

 

 

 ……まあ、あのことは触れない方が賢明だ。

 

「じゃあ、練習がてらアサシンの分体を取り込むか?

 で、黒化&受肉化か魔力化を試せばいい」

「その方がいいでしょうね。

 いきなりまともなサーヴァント相手にやって失敗したら、真桜がただじゃすまないわ」

「そうしましょう。

 私たちが可能な限りフォローすれば、事故なども起きないでしょう」

 

 僕の提案にメディアとメドゥーサも賛成し、それを聞いた真桜は静かに、しかし覚悟を決めて頷いた。

 

「わかりました。

 アンリ・マユの復活を阻止するため、そして魔力を得る為、まずはアサシンを狩ります。

 すいませんが、姉さんも手伝ってください」

「任せなさい。

 ……もっとも、メディアさんとメドゥーサさんの二人がいれば、私の出番はないでしょうけどね」

 

 こうして、『気配遮断スキルを使ったメディアとメドゥーサが『円』でアサシンを見つけだし、そこへ真桜が黒い影で襲撃を掛けて、一瞬で取り込む』という作戦が始まった。

 綺礼は原作通り、『サーヴァントを失ったマスター』として教会へ保護を依頼して、そのまま教会の中にいることが確認されている。

 綺礼も警戒していたようだが、やはり教会の防諜にはどうしてもアサシンを使う必要があったらしく、アサシンの分体4体でチームを組んで教会の周辺にいたことが確認できた。

 そして当然ながら、位置を確認次第、アサシン四体を一気に狩りつくした。

 狩った後、即座に瞬間移動で拠点へ撤退したこともあり、襲撃時の光景を目撃されることなく、無事にミッションを終えた。

 

 で、聖杯の中にいるアサシンの分体(全員男)をどうするか相談したのだが、メディアの強い希望によりアサシンは4人とも魔力に変換された。

 ……やっぱりメディアは、男のサーヴァントを仲間にする気は欠片もないんだろうなぁ。

 う~む、僕の最初の予定では、一人ぐらいは『使い捨ての強行偵察用アサシン』にする予定だったのに、……どうしてこうなった?

 まあ、女性のアサシンの分体を捕まえれば、メディアも黒化して支配下に置くことに賛成してくれるだろう。

 ……ただ、アサシンの分体の女性というと、『指揮者の役割を持っていた人格』しか思い当らないから、捕獲できる可能性はものすごく少ないけど。

 

 

 そして、僕たちがアサシン狩りを終えた直後、他の陣営で僕たちと同様に独自の行動を開始していたことが判明した。

 

 メディアの連絡により、いつもの通り『精神世界にあるディスプレイ』にハイアットホテルの最上階の部屋を表示すると、そこにはすでにサーヴァント召喚陣が描かれていた。

 どうやら、『聖杯戦争が始まるまでの時間がない』と判断したのか、ケイネスたちは急遽ランサー召喚を行うことにしたようだ。

 今朝、いや昨日の朝、ケイネスたちは冬木市に到着した後、最低限の防御システムを構築し、その後から旅の疲れをとるためにずっと休んでいた。

 よって、『体調も整った今ならサーヴァント召喚に問題ない』という判断もあったのかもしれない。

 

 なお、ケイネスたちは魔術的な防御システムを構築したので、魔術による盗聴や監視は難しいが、未だに機械を使った(室内の)盗聴や(窓の外からの)監視には気づいていないあたり、やっぱり実戦経験が足りてないんだろうな。

 ケイネスって、『魔術師同士の決闘』ぐらいはしたことはあっても、封印指定狩りの現場には出たことがないのかもしれない。

 原作の描写を読んだ限りでは、どうみても武闘派とか、戦闘部門所属の経験があったようには見えなかったから、生粋の研究者タイプなのだろう。

 橙子の分類でいえば、『創る者』であり『使う者』なんだろうな。

 そんな人が、『権威付けの為だけに殺し合いの儀式に参加すること』自体が、自殺行為としか言いようがない。

 それが分かっていて、魔術協会の誰かさんが『ケイネスを破滅させるために聖杯戦争へ送り込んだ』という裏事情があったら、その誰かさんは大した謀略家だよな。

 ……否定できないのが怖いところではあるけど。

 

 

 そんなことを考えていると、ついにケイネスがサーヴァント召喚を開始するようだ。

 魔方陣の前にケイネスとソラウが立ち、詠唱を開始した。

 

「――告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ――

 ――誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者、汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」

 

 呪文を唱え終えると同時に、風と光が乱舞し、魔方陣が凄まじい光を放った。

 そして、光が収まると、魔方陣の中央には泣き黒子を持った男が凛々しく立っていた。

 彼はケイネスとソラウの存在に気が付くと、すぐに跪き頭を下げた。

 

「お答えいただきたい、貴公が私のマスターでしょうか?」

 

 ソラウは頬を赤く染めてイケメンを凝視しており、彼の問いに答えられそうにない。

 ……これが一目惚れか。

 一目惚れしたところを初めて見たが、本当に男を見ただけで惚れてるのな。

 こっちの女性陣は大丈夫かな?

 メディアとメドゥーサは絶対に大丈夫だろうけど、真凛と真桜が愛の黒子の魅了の魔力に耐えられるか?

 そんなことを考えながら見ていると、ケイネスはディルムッドに対して言葉を発した。

 

「そうだ。

 私がお前を召喚したマスターだ。

 そして、貴様はディルムッド・オディナで相違ないか?」

「はっ、我が名はディルムッド・オディナであり、生前はフィオナ騎士団に所属しておりました」

 

 ケイネスが実に偉そうに発言したが、ディルムッドは全く気にせずに忠実に答えた。

 ……ほんと、もったいないなぁ。

 ケイネスとディルムッドって、まじで『猫に小判』、『豚に真珠』状態だと思う。

 かといって、ディルムッドが主替えに同意するわけないから、ディルムッドの召喚以降の記憶を完全に消去して、僕に召喚されたと偽の記憶を与えないかぎり、ディルムッドを配下にできないんだろうなぁ。

 ……ああ、真桜の黒化っていう手もあったか。

 原作通り、ケイネスが令呪で自害を命じた後に真桜がディルムッドを回収して、……駄目だ。

 そんなことをしたら、『メディアの死体を黒化して臓硯が操った』のと同じ状況になってしまう。

 メディアの気持ちを考えると、それは無理だな。

 う~ん、やっぱりディルムッドはスカウトできないか。

 残念だなぁ。

 

「そうか、私はアーチボルト家当主のケイネス・エルメロイ・アーチボルトである。

 聖杯戦争に勝ち、願望機たる聖杯を得るためにこの戦いに参戦し、貴様を召喚した。

 私が聖杯を得る為、全力で尽くせ」

「はっ、マスターが聖杯を得る為、全力で忠誠を尽くすことをここに誓います」

「それと、貴様のマスターは私以外にももう一人いる。

 私の婚約者でありソフィアリ家のソラウ・ヌァザレ・ソフィアリだ」

 

 そう言って、ケイネスはソラウを紹介したが、すぐに答えようとしないのを見てソラウに注意した。

 僕から見れば、ソラウがディルムッドに見とれていることは一目瞭然なんだけど、気付いていないのか、無意識のうちに気付きたいくないと思っているのか、ケイネスは『ソラウがディルムッドに見とれていたこと』をスルーしたようだ。

 我に返ったソラウが慌ててディルムッドに自己紹介を行い、ディルムッドはソラウをもう一人のマスターとして認めていた。

 その後、ケイネスは重要なことをディルムッドに尋ねた。

 

「始めに確認するべきことがある。

 ともに聖杯に至った暁には、貴様は何を願うのか?」

「聖杯など求めはしませし、褒賞も必要ありません。

 今生の主たるマスターに忠誠を尽くし、騎士としての名誉を全うすること。

 それだけが私の望みです」

「なんだと?」

 

 ディルムッドは本気で言ったんだろうけど、ケイネスには信じられない内容だったらしく、言葉が続かないようだった。

 ……まあ、普通は信じられないよね。

 原作知識があるとか、ディルムッドの伝説を詳しく調べてディルムッドの心情を深くまで理解できていれば、話は別なんだろうけど。

 あ~それでも、自己中で、自分とは違う生き方や考え方があるとは考えられず、この世の全ては自分の思い通りに進むと思っている世間知らずのケイネスじゃ、……やっぱり無理か。

 ちなみにソラウは、再びディルムッドを見つめてうっとりとしている。

 

 

「馬鹿な!

 それでは貴様は何のために召喚に応じたのだ。

 ……聖杯を得られれば、貴様にも相応の褒美はやるつもりだ。

 私は魔術師としての栄誉のために聖杯戦争に参加したのだ。

 貴様が大それた願望を持っていようとも、よほどのことでない限り、聖杯に願うことを許そう」

「いえ、私は騎士としての面目を果たせればそれで結構です。

 願望機たる聖杯は、マスターであるケイネス様とソラウ様に譲り渡します」

 

 ディルムッドは正直に答えたんだろけど、……傍目で見ててもわかるぐらい全然通じていない。

 その後もケイネスはしつこくディルムッドに問い質していたが、ディルムッドは同じ回答を繰り返し、ケイネスはどんどん機嫌が悪くなっているのがよくわかった。

 

 

 後の会話は聞く価値は少ないと判断して、僕の影を鳥型にしてハイアットホテルの近くまで飛ばした。

 そして、影経由で見ることで、僕はディルムッドのパラメータを確認することができた。

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    ランサー

真名     ディルムッド・オディナ

マスター   ケイネス

属性     秩序・中庸

ステータス  筋力 A  魔力 B

       耐久 B  幸運 D

       敏捷 A++ 宝具 B

クラス別能力 【対魔力】:A

保有スキル  【心眼(真)】:B

       【愛の黒子】:C

宝具     【破魔の紅薔薇】:B

       【必滅の黄薔薇】:B

 何なんだ、この強さは!?

 原作よりも、すごく、いやものすごくパワーアップしているぞ。

 知名度も現地補正も原作と変わるはずがないから、パワーアップするためにはマスターの魔力量が一気に増えることでもないかぎり……。

 まさか、僕たちと同様に、ケイネスとソラウのダブルマスター方式で召喚したのか?

 

 そう思いついた瞬間、ディルムッドのマスター欄に『&ソラウ』が追加された。

 どうやらFateと同じく、観察者が気づくか知ることで、パラメータ表示に追記される仕様らしい。

 しかし、ソラウがマスターに追加されるだけで、ここまで強くなるか?

 いくらソラウが名家の出身だったとしても、……いや、そうだったな。

 ソラウは後継者にならなかっただけで、優秀な魔術回路を多数持っている。

 つまり、魔力量だけで考えれば、『ケイネスに準ずるぐらいの魔力量』を持っていてもおかしくない。

 ただでさえケイネスの魔力量が多いらしいのに、それが二倍になったと考えれば、これだけのランサーのパワーアップにも納得できる。

 

 とはいえ、幾らなんでも強くなり過ぎじゃないか?

 なにせ、筋力、耐久、敏捷、幸運、耐魔力が1ランク、魔力に至っては2ランクも、原作のパラメータより上昇しているのである。

 多分、このステータスが生前の全盛期、つまり本来のディルムッドのステータスなんだろうけど、……やっぱり強すぎる気がする。

 

 

 どうしても疑問が拭えなかったのでメディア達に質問すると、意外にもあっさりと答えてくれた。

 

「そうね。

 マスターの魔力量が増えた以外で強くなる要因となると、……一番可能性が高いのは、能力が上がるスキルが増えたのかしら?」

「ああ、なるほど。

 マスターが強くなれば、スキルが増える可能性もあったか」

 

 ということは、ディルムッドはパラメータが向上するようなスキルを手に入れたのか。

 ……しかし、一体どんなスキルなんだろう?

 

「ディルムッドの伝説からすると、やっぱり加護系のスキルかしら?

 彼は、『妖精王オェングスと魔道王マナナンという二柱の神から宝具を授かったという伝説』があるから、一緒に加護をもらっていてもおかしくないわね」

 

 確かにメドゥーサも【海神の加護】を持っていたし、ディルムッドも【神の加護】を持っていてもおかしくないか。

 そう考えた瞬間、ディルムッドのパラメータが更新され、保有スキルに【神々の加護】が追加されていた。

 

【神々の加護】:B

 養父であり愛と若さと美を司る神である妖精王オェングスと、海神である魔道王マナナンから与えられた加護。

 これにより、【幸運】と【魔力】と【対魔力】のステータスが1ランク向上する。

 

 

 うわ~、これのせいか。

 このスキルが追加されたせいで、ディルムッドがさらに強くなっていたのか。

 この二柱の加護があれば、そりゃ強くなるわ。

 ……もしかして、ディルムッドに一目惚れしたソラウが(正規の)マスター(の一人)になったから、愛を司るオェングスから加護が追加され、ついでにマナナンの加護も増えたのか?

 なんか、ありそうで怖いな。

 ケイネスが知ったら、間違いなくブチギレるだろうけど。

 

 しかし、……ここまで強くなると、原作通りアルトリアとディルムッドの戦闘があれば、……いきなりアルトリアが殺されないか?

 なにせ、原作の状態、つまり『今よりも一回り以上弱い状態で、アルトリアが不覚を取って左腕が使えなくなった』ぐらいだからなぁ。

 まあ、アルトリアが殺されそうになったら、そのときに介入すればいいか。

 メディアもアルトリアを配下(おもちゃ?)に欲しがっているから助けるのを手伝ってくれるだろう、……多分。

 

 

 それと、『ケイネスとソラウが二人ともディルムッドのマスターになっている』のは、偶然……じゃないんだろうなぁ。

 なにせケイネスは『降霊術の天才』と称される存在だ。

 未熟な僕とは違って、サーヴァント召喚において意図したものと異なる結果になったとは思えない。

 ……となると、ケイネスは方針を変えた可能性が高い、か。

 

 原作ではディルムッドが召喚された後に例の茶番が行われたが、この世界では時臣師が焦った(らしい)結果、ディルムッド召喚前に茶番が実行された。

 当然、ケイネスもそれを使い魔経由で見ていたはずだ。

 で、ギルガメッシュの強さ、特に多数の宝具(の原型)を所有していることを知って、ケイネスはギルガメッシュを強敵だと認識して、ディルムッドを強化する必要性を感じたのかもしれない。

 そして、『ケイネスの魔力温存』よりも『ディルムッドの強化』の優先順位が上がった結果、『ディルムッドのマスターをケイネスとソラウの二人にする特殊召喚』に変更した、という展開ならありそうだな。

 原作において、『マスターと魔力供給者を分離する』というカスタマイズをやってのけたケイネスなら、『マスターを二人にすること』など簡単だろう。

 

 どちらにせよ、元から厄介な相手だったディルムッドが、一層面倒な存在になってしまった。

 【対魔力】:Aってことは、魔術は全く意味を為さない。

 キャスターにとっては、一番厄介な相手になってしまったな。

 どうしてもガチで戦う羽目になったら、3人がかりでディルムッドを拘束して、残りの一人でケイネスとソラウを襲撃すれば何とかなるとは思うけど、……決着がつくまでにこっちにも犠牲が出る可能性は高そうだ。

 ……うん、漁夫の利を狙って、切嗣の外道戦法でディルムッドが消滅するまで放置するのが賢明だな。

 

 

 それと、ケイネスはディルムッドに対して間違いなく不信感をもっているようだが、それでも『ギルガメッシュに対抗するため、ディルムッドをできるだけ強化する必要がある』と理解していたらしく、ディルムッドが生前使っていた二本の剣、つまり憤怒の長剣(モラルタ)小怒の短剣(ベガルタ)の捜索を魔術協会へ依頼していた。

 まあ、ケイネスにとっては、『手札で最強の魔術礼装の強化』という考えだけなのかもしれないけど。

 

 とはいえ、『この世に現存するかどうかも分からない宝具が、聖杯戦争が終わるまでに見つかる可能性』はかなり低いだろう。

 『実は魔術協会に秘蔵されていた』なんてことがあれば話は別だろうが、そんなことがあればケイネスはさっさと秘蔵されていた品を手に入れて、それを縁の品としてディルムッドを召喚していたに違いない。

 そして、原作に出てきた『現存していた宝具』は、全て遠き理想郷(アヴァロン)斬り抉る戦神の剣(フラガラック)の二つだけだったことを考えると、宝具はほとんど現存していないと考えていいだろう。

 そう考えると、『実は魔術協会に秘蔵されていた』という可能性はないはずだ、……ないといいなぁ。

 

 ただでさえ原作より大幅に強くなったディルムッドが、憤怒の長剣(モラルタ)小怒の短剣(ベガルタ)を手に入れたら、手に付けられない強さになってしまう。

 相性的に、ランスロットも無毀なる湖光(アロンダイト)を使わないと対抗できないだろうし、アルトリアが勝てない可能性もますます高くなるだろうなぁ。

 まあ、見つかると決まったわけではないし、万が一にも見つかることがあれば、その時に対処を考えればいいか。

 

 

 なお、ギルガメッシュとイスカンダルは、全て原作と同じパラメータなのは確認済みである。

 つまり、第四次聖杯戦争に参加するサーヴァントは、次の点が原作と違う結果になった。

 

・ランスロットとディルムッドのパラメータとスキルが大幅強化

・キャスターは青髭ではなく、英霊リンと反英霊サクラの二人

・(裏技で)メディアとメドゥーサがアサシンのサーヴァント化

 

 そして、なんというか、この6人のうち2人がアルトリアと戦いを希望し、さらに1人はアルトリアの存在、もう1人はアルトリアの血を欲しがっているという、アルトリアが(色々な意味で)モテモテの状態である。

 ……アルトリアは『ディルムッドとの決闘』以外は嬉しくないんだろうけど。

 

 おまけに、原作通りの展開だと、ギルガメッシュからは『玩具』として気に入られ、イスカンダルからは『王ではない』とアイデンティティーを否定されてしまうんだから、アルトリアって本当に不幸である。

 【幸運】:Dは、伊達じゃないな。

 

 アルトリアに少しでも幸せな未来が待っていますように、なんて柄でもないことを考えてしまった。

 ……切嗣がマスターである限り、絶対に不幸な未来しかないんだろうけど。

 




 聖杯戦争が始まって、やっとまともな戦闘シーンです。
 ……まあ、一方的な殲滅戦なんですが。

 バタフライ効果も発生して、いよいよ混沌としてきました。
 次話ではいよいよ、セイバー vs ランサーのシーンを描く予定です。
 楽しみに待っていてください。

  

【聖杯戦争の進行状況】
・衛宮切嗣、アイリスフィール、アルトリア以外は冬木市入りを確認
 注:舞弥は使い魔の存在から推測
・サーヴァント10人召喚済み(キャスター2人、アサシン3人)
・アサシンの分体(最大80体)のうち、7体死亡確認(生贄:2体、茶番:1体、マキリの聖杯への取込:4体)


【八神陣営の聖杯戦争の方針】
・真桜に悪影響がない範囲で、マキリの聖杯にサーヴァント取り込み
 (現時点で、アサシンの分体を4体、魔力に変換済み)
・アルトリアを配下にする(メディアの希望)
・アルトリアの血を吸う(メドゥーサの希望)
・遠坂時臣が死なないようにする(真凛と真桜の希望)
・遠坂時臣の半殺し(メディアの決定事項)
・間桐臓硯の殲滅(メディアの決定事項)
・遠坂家の女性陣と間桐滴の保護(絶対目標)
・八神陣営の全員の生き残り(絶対目標)
・アンリ・マユの復活阻止(絶対目標)


【設定】

<サーヴァントのパラメータ>
クラス    ランサー
真名     ディルムッド・オディナ
マスター   ケイネス&ソラウ
属性     秩序・中庸
ステータス  筋力 A  魔力 B
       耐久 B  幸運 D
       敏捷 A++ 宝具 B
クラス別能力 【対魔力】:A
保有スキル  【心眼(真)】:B
       【愛の黒子】:C
       【神々の加護】:B
宝具     【破魔の紅薔薇】:B
       【必滅の黄薔薇】:B

【神々の加護】:B
 養父であり愛と若さと美を司る神である妖精王オェングスと、海神である魔道王マナナンから与えられた加護。
 これにより、【幸運】と【魔力】と【対魔力】のステータスが1ランク向上する。


<サーヴァントのパラメータ>
クラス    アーチャー
真名     ギルガメッシュ
マスター   遠坂時臣
属性     混沌・善
ステータス  筋力 B  魔力 A
       耐久 B  幸運 A
       敏捷 B  宝具 EX
クラス別能力 【対魔力】:C
       【単独行動】:A
保有スキル  【黄金率】:A
       【カリスマ】:A+
       【神性】:B
宝具     【王の財宝】:E~A++
       【天地乖離す開闢の星】:EX


<サーヴァントのパラメータ>
クラス    ライダー
真名     イスカンダル
マスター   ウェイバー
属性     中立・善
ステータス  筋力 B  魔力 C
       耐久 A  幸運 A+
       敏捷 D  宝具 A++
クラス別能力 【対魔力】:D
       【騎乗】:A+
保有スキル  【カリスマ】:A
       【軍略】:B
       【神性】:C
宝具     【遥かなる蹂躙制覇】:A+
       【王の軍勢 】:EX

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