どくされ者のくされ道   作:ちんどん屋

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三話です、よろしくお願いします
今話から生意気にも章に分けてお話を書かせていただきます


第一章:政変獄道
第三路:『絡み道』


 

 晩春

 

 冬の雪融け滴り桃の花芽吹くこれからの陽気を感じさせる季節。

 

 にも関わらずこの地味を体現し平凡を持する男、王允子師…希才は元来持ち合わせる仏頂面に増し眉間の谷を奈落に深めていた。

 希才がこうなるのも流石に理由がある。それは昨夜…()()()()()の夜。『出来るかもしれない』という意味深な言葉を放った筋肉達磨変態乙女こと貂蝉が、結局その答えを言わず五年前と同じように言うだけ言って忽然と消え去ってしまった事にある。

 

「チッ…」

 

 何が『出来そうね』だ。希才の正直な心持ちはこうだ。平凡平穏に生きるためには一時期の苦労は致し方ないと考えるさしもの彼も訳の分からぬ問題、いや問題以前の産物をこうも乱雑に、投げるように任されては不愉快になるのは当たり前の事だ。いや誰だってそうなる、故に彼だってそうなる。

 

「…クソッタレ共が…」

 

 しかし彼が本来に苛つく原因は他にある。それは自らの苛立ちを笑羽化の様に囀ずる春の小鳥の鳴き声のせいでも無く、政を省みず遊興に耽る皇帝のせいでも無い。

 そう、全ては十常司である。

 

「あのクソッタレのカマ野郎共がッッ!!!「あの~」ああん!?「ヒイッ?!」」

 

 そんな希才の隣に座り、政務を行っている()()()()彼女の名は皇甫嵩義真、真名を楼杏と言う妙齢の淑女である。彼女は彼女でどうも上の人間からするとあまり主張せず、かといってそれなりに有能な事から命令されやすい体質らしい。故にこの様な『面倒事』を押し付けられたのである。

 

「…あの…お気持ちはそのぉ…わ、分からなくもないと言いますかそうとも言えると言いますか…」

 

 言い辛い事を隠さず言い辛そうに漏らす彼女に、希才は誰がどう見ても面倒そうな顔を隠さず面倒そうな態度で答え始める。

 

「…何ですか皇甫嵩殿、「え」言いたい事があるならハッキリ申して下さいますか皇甫嵩殿、「あ」そう口ごもられても困るのですが皇甫嵩殿「は、はあ…」」

 

それが流暢に言えるなら苦労は無い

 皇甫嵩は心中で行く宛を持たない愚痴の矢を穿つしか他無かった。

 無論彼…王允の苛立つ理由は知っている。それは十常司筆頭、国の父と母とも揶揄される張譲と趙忠の発した令…

『先日の北方鳥丸の国内侵入への防衛の処理』に原因があり、つまりはただの朝廷側の過失及び責任の擦り付けである。そして彼はその諸問題を目下調整中という訳だ。これには皇甫嵩も同情を感じているので『押し付けらた仕事』とは言え、なるべく王允の負担を減らそうと粉骨していた。幸か不幸か、先程からの王允の怒りの波動さえ無ければ砕身まで頑張れたものを。

 

 さて、その『問題』の顛末はと言うと。

 結局中央からの軍事派遣は叶わず、飢饉災害の煽りを受け、疲弊した北方周辺諸侯のみで混成された軍は多大な被害を受けながらも鳥丸の猛攻を苦しくも凌ぎきった。

 が、当然問題が発生。元々諸害で荒れてしまった土地が戦乱で直の事荒れ切り、農地としての有用性が大きく下がった事により根本からの食料問題が起きたのだ。

 それだけでは無い。この時代は基本的に民と言われる層の主だった食い扶持は農耕…つまり荒れ土地と化した北方の農民が一斉に職を失い、近隣の村町や城下に流れる流民、果ては賊徒へ身をやつす輩も現れ、食料問題から来る治安悪化が最たる問題として発生してしまったという訳だ。

 

 いつの時代も食えねば悪へ身を染めるのは人の性。富んでもまた悪へ染まるのも性なのか。

 困窮する北方、富貴豊かな中央、対比的な両者を取り持つ立場の希才。彼はおよそ一季の北方着任を終え、北方各州の刺史や太守らと共に七日ほど前に中央洛陽に帰還した。

 希才の郷土である并州もまた今回の戦乱で疲弊した土地である。特に異民族に近い州でもある事から経済・食料・治安の荒れ具合は他の州よりも群を抜いていたが、無論特別扱いは出来ない。

 希才も想うところがあったのか、愚痴を吐き出しながらも北方全体のためか自分のためか、注力して政務を行う他無かった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(な、なんで私がこんな目に………)」

 

 

 

 

 

 

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「幽州刺史、董仲穎でございます。本日はよろしくお願い致しますね、皆様」

 

 時所変わって宮中は評議所。先達の北方問題解決のため、董卓を主とする北方各州郡の刺史・太守の面々に加え、当然今回の()()()である希才本人も出席していた。

 更に董卓を含めて希才の知己である盧植・丁原・蔡邕の三人も参事しており、各々が各州の刺史を担い、それぞれの州内の郡長…太守の面々も参事している程である。

 

「ああよろしく頼むよ!しかしこないだはホンット大変だったよなぁ!俺は戦は楽しいけどよ…立場が立場だからなぁ」

 

 ほんの子供程の低い身長を補うかの如く背伸びをするかの様に快活なこの女性を丁原、真名を『絹』という。青いショートカットと体躯に似合わぬ大きな胸元、常に装備している青白い薄鎧が特徴だ。

 

「絹、風鈴、月、才君…皆相変わらず…」

 

 ボソボソとした声で話す彼女は蔡邕、真名は『日向(ひなた)』。絹とはうって変わって女子には珍しい上背と無表情な目を隠すまで伸びた前髪と所々跳ねた長い黒髪が特徴である。 

 

「絹ちゃんも日向ちゃんも希才ちゃんも懐かしいね~!みんないっ~ぱいガンバってたねっ!」

 

 ほんわかとした口調で話すのは盧植、真名を『風鈴(ふうりん)』という。

 性格同様ふわりとした長さの巻き髪の銀髪に眼鏡をかけている女性である。

 

「……悪いが…思い出話をするのは後だ。やるならさっさと問題を解決にしてからにしようや」

 

 希才の提案に頷く面々、本来であれば特に盧植や丁原が雪崩の様に喋り出した上、止まらなくなる所だが、そんな彼女らでさえこうして素直に従う辺り今回の騒動の重要性が見て取れる。

 彼女らもまた多くの民の命を預かる刺史。性格も生まれも見た目も違えど為すべき事を判断する才女としての謂れは大いに持ち合わせている。 

 議論開始から三刻程、問題の話し合いも既に佳境。いよいよ問題の根幹に入ろうとする中、居住まいを正した丁原は書簡を部下から受け取り、口調を改めてそれを読み始める。

 

「希才…いや、尚書令殿。失礼ながら北方各州全体の代表として、陳情を述べさせて貰おう」

 

 畏まりながらその陳情を述べる丁原。様々な内容があるが纏めとしてはこうだ。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

一つ:此度の戦乱で被害を受けた北方各州への食糧・人材・復興資材の支援確約

 

二つ:北方の再三に渡る物資及び武力派遣要請の無視における中央の責任所在の明確化

 

三つ:これ以降の北方及び漢全土の緊急を要する事態への早急な支援策の立案及び実行

 

四つ: …………

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

 と言ったもので、形としては至極真っ当な陳情である。

 読み上げた陳情に興味があるのかどうか。果たしてどちらとも取れるような顔立ちの希才は()()()()()をする丁原に内心苦笑しながら手助けとばかりに賞賛を送る。

 

「いやぁ良いじゃないか、実に良い文書だ。文行に潜む韻律、高品さ、礼節。どれをとっても申し分無い物だ…」

 

 

おお!

 

素晴らしい!

 

これならば陛下も…

 

 ()()()()()()()()称賛。希才の目配せを貰った各諸侯は誰もが決まった動きしかしないカラクリの様に頷き、同じ様な称賛の言葉を口にする。

 ただ一人を除いて。

 

 

「その陳情の内容、それで()()()()()のかしらぁ?」

 

 

 賛辞の渦を切り裂かんとその艶かしい唇から()を放ったのは蔡邕や董卓ら北方の才勇に引けを取らぬと名高い名士の一人、劉虞その人である。

 彼女もまた高い名声を持つ民草からの評判も良い有力者である。

 

「…い、意見があるならはっきりと申してみて下さらぬか、劉虞殿?」

 

 丁原は苦手意識があるのか、口元を少しヒクつかせながらも劉虞へ疑問を投げ掛ける。しかし当の劉虞は席を立ち、くるりと踵を返しつつ、その長く伸びた睫毛が映える妖しい目線を此方へ向けながら飄々と応じる。

 

「意見なんて大層なものじゃないわぁ。誤字脱字が無いかなーって思ったのよ、丁原ちゃんは()()()()()()()()()()からね…うふふ。良いのよ、無いならそれで…」

 

 丁原は言い知れぬ薄ら寒さを心に感じつつも、とりあえずは了承らしき了承を得た事に安堵した。

 あくまで一諸侯としての劉虞の賛成だが、刺史という立場であるはずの丁原が表情を独楽の様にくるくると入れ替え、一喜一憂するのもまた当然である。

 彼女…劉虞は劉の名を冠し、実際の能力も優秀な事から朝廷上層との密接な関係も囁かれ、影では北方における中央公認の実質的な支配者とも言える発言力と決定権があるとも言われている。故にこの場にいる北方の諸侯全体も彼女の存在自体に大きな威圧感を感じている。

 更にそもそもこの北方問題評議を会したのも、丁原のこの陳情の作成を頼み…という名の指示を出したのも彼女であり、この場における()()()()()()()()()を持つのも表には多数決な民主的権利ではあるが、実際の所この劉虞ただ一人が権利を持つ独裁的なものである。

 

「んなら、評議は終わりだな」

 

 不穏な空気を切るような希才の閉廷の言葉を機に、逃げ道が出来た諸侯は州長である丁原らに礼を取った後、こぞって各々に割り当てられた部屋や市内散策にぞろぞろと向かい始めた。

 そして興味無さげと言わんばかりに足早に評議所から退場した劉虞の座席近くには、まるでその場の人間をを魅了し、()()()()()()()()()()()女の残り香がまだ残っていた。

 

「才くん…劉虞さんとは、その……男女の「知らん」…そう……」

 

何をもって親密な関係だと思ったのか

 というのが希才の心中である。そもそも彼は『才くん』と呼ばれることも嫌に思う、というのが本心である。なるべく仲良くなろうとせずになあなあな知り合い程度に彼女らと付き合って来たが、いつの間にかそう呼ばれていたのは希才がそれを許すような雰囲気を纏っているからか、はたまた色々な意味で女を知らないからなのか逆に()()()()()()()()()なのか。

 

「確かに…劉虞さんってば、希才ちゃんを事ある度に見つめてた様な気がする様な~…」 

 

 そんな事に気付くのか女は…恐いものだ。

 女性特有の洞察力…もとい、第六感の様な力に霹靂としながらも、希才は既に旧知の5人組しかいない評議所の座っていた座椅子を乱雑に退かし、机上に乗り上げ、見る者が見れば不遜以外の何者でも無い態度で本日の()()を切り出し始める。

 

「さ、そろそろ真面目なお話し合いの続きだ。…絹、さっきの陳情だが………」

 

 希才には陳情の文面においてどうしても気にかかる部分が合った。それは二つ目の『責任の所在』という項目だ。

 そもそも前提として文書を書く、という政務を行うにおいて、丁原本来の性格はこれ以上に無い程の純粋かつ荒々しい武人肌である。

 しかし彼女もまた一人の武人であると同時に今は一人の刺史…州の長としての責務と冷静な判断が必要となる立場の人間。故にこういった陳情の様な書簡を纏める政務など、慣れない物に苦心しつつも何とか執り行えている事は目に伺える。 

 だからこそ取り繕うとしても()()()()()部分にどうしてもボロが出てしまうのもまた事実であった。

 

「お絹、確かに…これは少し…不味い……」

 

 蔡邕は常に無口無表情で、言い方を悪くすれば無愛想とも見える振る舞いをしているが、その実、事象や人の心情への観察力・洞察力という物に関しては他の追随を許さぬ程長けている。

 当然丁原のぎこちない刺史としての無理な立ち振舞いにも気付いている上、相変わらず呆けた面持ちでいるはずの希才の懸念にも感付いていた。

 

「そうだね…これだと朝廷の人は多分………あと希才ちゃん!後で劉虞さんとの関係っ!聞か「いやだから知らんて」せてねっ!」

 

 今こそ刺史を担っているが、過去には漢を背負う人材育成のための塾を開く程の逸材であり、中央からの依頼で刺史を任された程の盧植もまた蔡邕と同じ懸念を抱く一人である。

 

「うえぇっ?!な、何かダメだったか…?」

 

 自分としては()()()()()の文面に容赦の無い駄目出しを喰らった丁原は、文書を考え、書き表すという不得手な事を行った苦労を表情に滲み出す様に狼狽する。

 

「ああ、劉虞は気付いていたみたいだが…」

 

「そうなの絹ちゃん、これだとまるでほとんど支援を行わなかった『朝廷側』が悪いって言う様なものなの」

 

 ここで盧植は()()()()()()()()()()という事が重要では無く、責任を被る側が()()()()()()()()()と言った問題がこの文書に存在している事を示唆した。

 健全に稼働する政府が責務を背負ったのならしっかりと精算し、負うべき負債を負う事を選ぶはずであるし、正しい政のためにある種選ばざるおえない事である。

 しかし残念ながら現政府は()()()()()とも言い表せる程のシロモノである。仮に責務を背負ったとしても負債を負うとは考え辛いばかりか、下手を打てば中央への反抗と見なされる可能性も十二分にあるとも言える。

 

 「劉虞…さん……少し、怪しい……」

 

 「ああ。分かりやすい位に、な」

 

 そもそも希才が中央勤めになる以前、五人が北方での市政を担っていた頃。こういった文書作成に慣れず、政務においても暴走しがちだった丁原の体のいいストッパーは希才らの役目であった。

 しかし劉虞が中央から実質的な北方の支配権を賜るのと同時に希才が中央へ召還されたばかりか、各々が州長への昇格を任命された事で丁原の不慣れに対するストッパーが無くなったのだ。

 その上劉虞は盧植や蔡邕では無く、明らかに彼女らに比べ政務能力の落ちる丁原に公的文書の作成を常に命じ、更には先程の意味ありげな発言のタイミングあり。この事から希才、蔡邕らの懸念が浮上したのである。

 

「あの、わたしが文書の手直しをしましょうか…?詠ちゃんにも政務に関しては認めて貰いましたし…」

 

 話に割り込むのを躊躇っていた董卓が意を決したかの様に提案を始め、それに希才が間髪いれずに返す。

 

「頼む……と言いたいトコ何だが、それは了承しかねるな。これはあくまで絹の仕事だし、それに劉虞に代筆が露見しては何かと面倒だ」

 

 ()()()()()には言及せず、()()を述べる希才、ただそれは確かに正論である。

 

「命に背いたから厳罰、って事か?」

 

「ううん惜しいっ、ちょぉ~っと違うかなぁ」

 

 つまりは『駒を作る事』。

 過去に多少の接触があったからこそ、劉虞の人となりもある程度は判明している。というのは彼女が『人を使うのに長けている』という性質を持つという一見聞こえは良いが、彼女の性格を考慮するならば非常に厄介極まりない事実。

 故に無能ならば不要故、命に背けば厳罰を即断する可能性がある。しかし此処にいる五人は過去より中央に届くほどの能力を持った北方の名士。

 下手に処断する選択肢を取るよりも彼女の『性質』を考えるのならば、その州長としての()()()()()にした方法…つまり断罪をちらつかせ、それを理由に自らの駒として利用する…というやり方を取る可能性が高い。

 

「だから…少し、『言い方』を変える。そしたら…陛下に、上奏しても、大丈夫…でも……」

 

「ああ、()()()は…ちと厄介だ、下手に俺らの意見を使えば恐らくバレるだろうよ」

 

「そうしたら…きっと劉虞さんはその行為をわたし達を『脅す』材料に使うかもしれません…」

 

 だからこそ自らで考えなければならない。

 一時的に自分を解放していたプレッシャーがまた自分を襲う事を予見し、悲壮感のある面持ちの丁原。するとそこに助け船を出すかの様に盧植は特有の緩やかな雰囲気を出しながら丁原に話しかける。

 

「ほらほら、そう悲しそうなお顔してたら幸せもぴゅーって逃げ出しちゃうよっ?」

 

「そう、だよ…お絹。バレなきゃ、いい…から……ひなも…手伝う、よ……フフッ…」

 

「風鈴…日向……」

 

 二人の言葉にほっとした表情になる丁原、優しい目で笑顔でその光景を見つめる董卓。先程までの劉虞が作り出した刺すような緊張した雰囲気から一転、和やかな空気が冷たい石造りの評議所を芯から暖めていく様に包んでいた。

 

 そんな中、希才は()()()睨むかの如くその相貌を細め、眉間を深く寄せていた。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば希才ちゃん、さっきの劉虞さんのお話しだけど…」

 

「…いやだから知らんて………」

 

 

 

 

 

 

 

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 北方問題評議から丸一日。

 

 その同じ評議所内は昨日の評議に輪を掛けて異様、かつ重苦しい空気が場を包んでいた。それもそのはず。

 今日は前日の北方の面々に加え、漢全土から各諸侯や有力豪族が参内し、終春の挨拶をする特別な日。

 故に集まる、この洛陽に。悪鬼羅刹魑魅魍魎様々な幽気が都市を包む地獄へ。

 そんな中、果たしてどれ程の諸侯が真の忠誠を誓っているのか。それとも忠義など当に棄て、来るべき乱に備えているか。はたまた()()()を求めて飛び入るただの無力な夏虫か。

 

「(虫だけなら楽なんだがな…)」

 

 参内を明日に待つ連中は今回の北方問題を起首とする地方各所への諸問題と情報交換等を論議すべく、中央高官である希才及び漢に何代にも渡り高官を輩出してきた袁家の袁紹。更には昨日に引き続き劉虞を中心にこの評議所での会に臨まんとしている。

 他にも有力な諸侯が犇めく評議所内でも特に、希才も注視する才雄を持ち合わせる人物が何名か存在した。

 

 

 

 

 

苛烈で公正な取り締まりを行う新進気鋭の北部尉、曹操

 

 

猛虎と名高い漢南東の雄士、孫堅とその娘孫策

 

 

楚の名古として漢国経済物流の中心地・荊州を一手に司る清流派儒者、劉表

 

 

北西に蔓延る蛮族に恐れられ、馬勇溢れる漢の忠臣、馬騰とその娘馬超

 

 

古くから漢政に携わり、その深謀で成都を代々護り続けて来た南東の侯、劉焉

 

 

白馬長史の異名を持つ北漢の守護者、公孫瓚

 

 

 

 

 

 この六雄、いずれも一筋縄ではいかない傑物。漢土十三州と各々が抱える多くの郡太守や豪族、名士ら有力諸侯がいくら雁首を揃えたとしても、彼ら彼女らが放つ光に影の一筋すら差す事はない程の英傑。

 更には当然上の六雄程では無いにしろ、他の諸侯も武・政・金・暴…何の力にせよ各々の土地を治め、反乱や賊などを種から毟取る事で憂いを無くし、ここ洛陽まで来る事が出来る有力者である事は間違いない、油断の出来る人物など今この場においては一人たりとも存在し得ないのだ。

 よって悲しいかな、先の希才の()()など元より無いに等しい。だがそれもまた彼の理解の範疇であり、あくまで朝廷側の立場の希才としては厄介事が何乗にも増えた様に感じる物である。

 

 

 

 

 会議の前談として、丁原や董卓ら北方組を始めとする互いに知己や仲の良い諸侯とその側近ら同士が会話を楽しむ中裏手から文官が現れ、希才へ耳打ちを囁く。

 

「朱儁様がお呼びで御座います。さ、こちらへ…」

 

面倒な奴がまた現れた

 突然のお呼び出しに非は無い目の前の文官を内心訝しみながらも希才お得意の『瞬間外づら作り』で切り抜ける。

 北方時代、さして付き合いも無い高官や賓客に対してよく彼が使っていた物だ。その効果足るや付き合いも長く、勘の良い盧植や蔡邕ですら良く騙し通せる程である。

 

「は。して…朱儁様が何用にて私めをお呼びなされたのでしょうか」

 

「さあ…」

 

 見方によっては無愛想どころか失礼とも見えかねない態度。しかしこれも『蹇碩の一件で割りを喰った連中』にとっては至極当然の事であり、末端の使い走りにすらその影響が及んでいる事が十常司の権勢の強さを垣間見える瞬間でもあった。

 さて目的地までは大した距離では無かったが、終ぞ文官とのさしたる会話も無く希才が通されたのは宮中内の庭園。

 そこに広がる池のほとりには男にしても中々に大柄な体躯を持ち、偉丈高に伸ばされた髭を蓄え、装飾がふんだんに施された椅子にふんぞり返っている態度からして傲慢そうな男、朱儁。更にその隣には以外な人物が朱儁にしなりかかる様に座っていた。

 

「あらん子師くん、さっきぶりねぇ」

 

全く何故さっきまで評議所にいたのにいつの間に此処にいるのか

 といった事を考えそうにもなる希才だが、少なくとも彼の中では常に何をするか分からない不思議生物の女という生き物の中でも、この女に関しては特に何をしでかすか分からないとも考えており、心中ですら突っ込む事を放棄していた。

 どちらかと言えば今希才が気にしているのはこちらを睨み、今にも熊の様に襲いかからんと身を乗り出す朱儁である。それを察してか定かか、()はまるで冬眠を邪魔した相手を怒り殺すかの如く希才の胸ぐらを掴み、大きく息を吸い込み始める。

 

 

 

 

「…貴様、は…貴様はぁ…伯安の何物だぁあああっっ!!!!」

 

 

 

 

 突然雄叫びの様な大声で叫び始める朱儁。流石の希才も面喰らった様子でただ呆然と立ち尽くしているのみである。

 

「な…何物、とは一体…何の事でしょうか?」

 

「シラを切るか貴様ァ!!俺様の伯安に手を出しおって!何も無い相手に字で呼ぶわけも無いだろう!!」

 

 暴論である。ひたすらに暴論。

 『字で希才を呼んでいる』のは劉虞自体であるというのに、希才へその嫉妬から来る怒りをぶつけるあたり、朱儁という男の器量の小ささが見てとれる。対応しようにも困惑の色を隠せない希才は何とか表情だけでも冷静に努めようとする。

 

「さあ、劉虞様が御勝手にそうお呼ばれなさる物でして…私めには如何様にも…」

 

「黙れ!言い訳無用だ、それ以上口を無駄に開けば体も真二つに開くハメになるぞ!!!」

 

 普段飄々とした冷静な希才もこれには珍しくも焦りを感じ始めた。

 それもそのはず。基本的に彼が上手く立ち回るに最もな相手は『ある程度以上論議する能力・頭脳がある人間』という物であり、特にこの様な教養ある人間が集まる宮中では本来抜群の対応力を希才に授けているはずである。

 しかし事こういった『人の話を聞かない性格』の蛮者には全くと言って良いほど彼の『対応力(おはこ)』は通用しない。それどころかその飄々とした態度が更なる怒りの火に油を注ぐらしい。この事は希才の弱点の一つであり、天才ではない凡夫故の事故とも言える。

 そんな希才が形振り構っていられる余裕も無いのか、助けを求めるかの様に劉虞を見ると彼女は底意地の悪そうな笑みを希才に向け、剣を抜こうとする朱儁の右腕を抱き締め、猫なで声の様に幼げで、それでいて妖艶な声色で朱儁の怒りを受け止めるかの如く話しかける。

 

「ねえん公・偉・さ・ま。もう子師ちゃんをいじめるのは止めてあげて?」

 

「……伯安、お前はこの男を助けるのか?俺様では無く、このナヨっとした貧弱男を取ると言うのか?!!」

 

 先の叫びで逃げ立ち、何とか落ち着いて桃木の枝葉へ戻り帰った小鳥達がまたもや()()()()()から逃げていく。その木の下には胸ぐらを掴む太腕から投げ捨てられる様に解放され、尻餅をつく希才。平穏を願う彼の心中は、謂れの無い嫉妬に狂う鼻息荒い大男、という風情も糞も無い情景への溜め息で嵐が巻き起こるかの如く荒んでいた。

 騒がしさの後の静寂の間。嫌な予感を感じた希才がふと朱儁を見上げると、更に畳み掛けると言わんばかりに劉虞がわざとらしく啜り泣きをしながら朱儁の胸元へすり寄って行くではないか。

 

「そのような事はございませんわ公偉さま、ぐっすん。彼と北方の頃…過去に少し()()()()()()()()だけ。わたくしを虜にする貴方の愛渦に嘘偽りはありませんわ…ウフフ…」

 

この(アマ)、『けしかけやがった』

 これからまたもや起こるであろう()()に身構える希才。

 明らかに希才を意識して流し目を送る劉虞。

 一時は落ち着いた表情を一瞬で憤怒の形相へ変える朱儁。

 三者三様の所作が周囲を嵐の前の異様な雰囲気に似た物を作り出す。

 そして朱儁が剣を抜き、怒りの唸りをあげんとしたその瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでよ」

 

 

 

 

 

 

 

 曹孟徳、その人であった。

 一歩の距離も無い希才と朱儁の間に、彼女の体格では本来扱えそうにもない大鎌に似た武器をいとも簡単に操り、彼らの互いを阻む壁の様に入り塞がる。周囲を見渡せば、彼女の部下であろう秀麗そうな女性二人が細かな動作すら見逃さんと警戒の目線を此方に送っている。

 二度到来する静寂の間、劉虞は非常に()()()()()()()顔で、突然の曹操の登場に呆気にとられる朱儁の右腕を軽く二回叩き、意識を覚醒させる。

 

「…ハッ!?き、貴様何を「あらぁん曹操さん。そんな物騒なモノを振り回して、どうしたのかしら?」は、伯安…?」

 

「どうしたもこうしたも無いわ、全く。…朱将軍閣下。不躾な行い、誠に申し訳が立たぬ事を深く、深く謝罪致します」

 

 大鎌を地に置き、礼を取り頭を垂れる曹操。供に頭を垂れるも、その下げた顔には苦渋の表情を浮かべる部下達。

 しかしこれは致し方の無い事、あくまで曹操の位は洛陽の北門を警備する部尉でしか無い。故に朝廷でもトップクラスの将軍位に就く朱儁に対し、仮に何も無かったとしても頭を下げるのは当然。

 それは曹操が朱儁と比べ物に為らない程の大器であったとしても。

 さて本来であれば刑罰を処してもおかしくは無いこの状況だが、この朱儁という男はどうも美しく、可憐な女性には弱いらしく、希才の事など最初から意にして無かったかの如く曹操に近付き、彼女の女性らしい華奢な細肩に両手を置く。

 

「いや、そうか。良いのだ、良いのだ、ぐっふふ……聞いておるぞ、最近実に有名な部尉がいると。確か、名は………」

 

「姓を曹。名は操。字を孟徳と申します、お見知り置きを」

 

凛々しいものだ、其処の醜い豚の様な熊とは大違いだ

 自分への注意が外れた希才は改めて余裕を持った視点でその光景を見定める。此処が好機と感じた彼は会合の司会の役割を盾にこの場を一刻も去って行き、劉虞もまた、相変わらずの残り香を置いて、いつの間にかその場から消え去っていた。

 一方残されたのはいやらしい目線と明らかに先の色事しか考えていない目の前の醜夫を細く、冷めた目線で見下す曹操。さしもの彼女も不愉快が限度に近付いたのか、部下である夏侯惇・夏侯淵の姉妹を両脇に置き、避けるように一歩後ろずさり、一礼を取る。

 

「朱将軍閣下、私はこれより評議所にて諸侯方の会合の警備に向かわなければなりません。失礼ながら本日はこれにて」

 

「ぐふふ、そうか。それならば仕方ない…ではまた明日、申の正に供に昼食とでも洒落こもうではないか」

 

「あまりお戯れを為さらない方が宜しいかと、劉虞殿に愛想を尽かされてしまわれるのでは?…私はこれにて……」

 

これだから男という生き物は醜い

 去り際に劉虞を探しているのであろう醜夫を一睨みし、男への苛立ちを心中で沸き立てる曹操。しかしその様な怒りと呆れの混在物すら、その大器に注ぎ、飲み干すのもまた彼女の雄たる証。

 しかし彼女には心に引っ掛かる一つの大きな疑問を抱いていた。

 

「(あの男…確か、王允)」

 

 目付きの悪く、全くもって冴えない顔立ちの掴み所の無い上級文官、王允。

 朱儁ごとき小物に振り回され、あの様な無様な尻餅などをつき、その上自分が仲裁に入ればそそくさと逃げ去った情けない男。

 しかし彼女の大きく凛としたその美しい眼の奥には、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の持ち主』が焼き付き、情けない姿との対比が彼女の疑問心の琴線に触れたのだ。

 

「秋蘭。私達が()()にいる間の情報収集の目、あの男にも向けなさい」

 

「あの男、というと…朱儁でしょ「あの愚物を切れと言うのですね華琳様!?早速私が!」うか?……姉上…」

 

「ふふ…違うわよ、秋蘭、春蘭」

 

 ()()()の避難先であろう評議所の方向を向き、不適な笑みを浮かべる曹操。 突拍子の無い考えを否定され、少し萎縮する夏侯惇にその彼女を諌める妹、夏侯淵。愛い子らだ、と自分の愛臣を愛でる。そして

 

 

 

 彼女は期待していた。

 そして焦燥を感じていた。

 

 

 

 漢は腐敗し、各地の情勢が荒れ始め、明日にも大乱が起こってもおかしくはないこの世に『何かが』起きないかと

 後に『乱世の奸雄、治世の能臣』と畏怖された彼女も今はただの部尉の位

 

 あまりにも小さい

 あまりにも無力

 

 この様な自分がこの世を切り抜けるには、天を掴むには、まずは戦国乱世しかない

 腐った大樹を根本から切り落とし、この世に自分と言う名の樹木を育て、遠い未来には『曹魏の大森林』を打ち立ててみせる、と

 故に焦る、腐りつつも体勢を変えぬ漢に

日和見を続ける有力者達に

濁り続ける国を包む貪気に

 

しかし見付けたのだ!

 

種を

乱世だ

私の望みを作り出すやもしれない()()

 

「というと一体…申し訳ありません華琳様、私には分かりかねます…」

 

 

秋蘭もまだまだね、でも今は判らなくても仕方ないわ

 

まだどうなるか分からない、もしかしたら杞憂なのかもしれない 

 

でも、ただ一つだけ…確実に言える事がある

 

それは奴、男の癖にこの私に珍しく期待を持たせたあの男

 

そう

 

 

「王允……王允子師、よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……これは恐らく、いずれ来る乱世への分岐点

 

 

 

あの男に関わるという大きな選択

  

 

 

その道こそ、私が選んだその道こそ

 

 

 

乱世の雄達と王允子師という男との

 

 

 

混混沌沌の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『絡み道』

 

 

 

 




一応オリキャラの名前と真名を新しく出すたびに書こうかなと思いました、朱儁?知らんな。


姓名  真名

丁原(養慈)  (きぬ)
蔡邕(伯喈)  日向(ひなた)
劉虞(伯安)  由里(ゆうり)

※丁原の名はオリジナルです、どこ調べても無かったゾ…
※劉虞さんのイメージはお色気ムンムンパツキングラマラスねーちゃんです、ストパーにした麗羽様呼ばわりするのはNG

追記・恋姫天下統一伝ですがついに私の嫁のSSRが出ました、やったぜ。
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