みをつくしてや 恋ひわたるべき
―皇嘉門院別当―
『この蘆の根のひと節のように短い、一夜かぎりのあなたとの恋。あの難波の海のみおつくしのように、この身をつくしてあなたを恋し続けるのでしょうか』
はるかとひびき
『しのぶれど 色に出でにけり
わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで――』
私は先生に指定された文を読み上げる。
先生は、はい、と一呼吸置くと、次は隣の席のひびきに意訳を問うた。
ひびきは立ち上がるとゆっくりと答えを返す。
『人に知られないようにずっと思いを秘めてこらえてきたが、とうとう気持ちが素振りに出てしまったようだ。「何か思い悩んでいるんですか」と人から尋ねられるほどに――』
言い終えると、ひびきはそのまま席に座る。
国語の先生、鈴木先生は一つ、手を叩いた。
「はい。さすが塚原さん。国公立医学部も夢ではないわね」
「ちょっ、ちょっと先生……。言わないでくださいよ……」
照れているひびきが可愛い。けど、私と目を合わせるとすぐにそっぽを向いてしまった。
むー……ひびきちゃん、まるであの子みたいだよ。
正々堂々、卑屈で陰湿な、けど誰よりも優しい一つ下の男の子。
愛でようとすると離れてしまう。
私はひびきとその子を重ねると、夜更かししてしまった眠さも相まって、眠ってしまうのだった。
× × ×
輝日東高校に入学して、気づけば一年が経過していた四月。
学生にとっての一大イベントであるクラス替えを終えたばかりの教室は盛り上がっていた。
その盛況に、変わらずぼっちで無関係な俺は、休み時間に屋上へ来ていた。
屋上はどうしてか施錠されておらず、ぼっちな俺のベストプレイスになっている。
何気なく空を仰ぐ。久しぶりに見る晴天だ。陽が目に刺さって仕方ない。
俺は誰も来ないことを願いながら、ゆっくりと寝そべった。
四月の暖かな日差しと、穏やかな風にうとうとしていると、突然、戸が開く音が聞こえた。
「あれー? ここじゃなかったかな」
立ち上がって声の主を見ると、そこには見知らぬ女子が立っていた。
俺は間違っても話しかけられないようにゆっくり壁に沿って歩く。
そう、皆さんご存知ステルスヒッキーです。
女子生徒はゆっくりと周りを見渡す。不意に目が合ってしまった。
「君だね?」
「……」
いきなり、君だね? って……。こういう危ないやつは気をつけた方がいい。
不審者対策のお・は・しを忘れるな。
おしゃべりしない。走って逃げよう。社会の窓は閉めよう! の三つだ。
俺は自分の社会の窓を確認すると、おしゃべりすることなく走り出そうとした。しかし、彼女の一言に止められてしまった。
「ごめんなさい」
「え?」
思わず声を漏らしてしまった。
しかし、仕方ない。いきなり謝られたのだから。
「それってどういう……」
「私はあなたとはお付き合いできません」
「は……?」
話が噛み合わない。俺が一人、困惑していると、彼女の長い髪が揺れて、シャンプーの香りが漂ってきた。……すーっ。はあーっ。
というかこの人すげー美人だな。
「手紙は嬉しかったわ。でもなんていうかズキューンと来なかったのよね」
「ズキューン……」
「そうそうズキューン……。それじゃ、そういう事だから! じゃあね!」
俺のことなどつゆ知らず、目の前の女生徒は矢継ぎ早に言い残して去ってしまった。……なんだったんだ。
同時に、始業の鐘の音が聞こえた。
――気づけば、あれから二週間。
こんにちは。こんばんは。
評価待ってるからね!!!