さしも知らじな 燃ゆる思ひを
―藤原実方朝臣―
『あなたがこれほど好きだというのに言えないでいます。言えないからあなたはそうとも知らないでしょうね。ちょうど伊吹山のさしも草のように燃えているこの思いを』
――手紙が落ちてきた。
朝、下駄箱を開けるとルーズリーフの切れ端を雑に折った手紙(笑)が落ちてきた。
反射的に書いてあることを読んでしまう。
『ヒキタニヘ これ以上森島に付きまとうことをやめろ。さもなければ、次は森島に危害を加える 正義の神』
……つっこみどころ多すぎるだろ。
そもそも、付きまとわれてるの俺だし。危害を加えるって普通に脅迫文じゃねえか。そして最後。正義の神って何だよ。痛すぎるだろ。
まあ、こんなもんは気にしない方がいいな。丁寧に戻しておくか。
そう思って戻そうとすると、もう一枚紙を見つけた。
マジか、人気者かよ俺。
一応、目を通す。
『冗談じゃないからな。いつものようにお前だけじゃないからな』
お前のように、というのは、話を聞かせろと呼び出しを受けることだ。
まだ一回も行ったことない。
気づけば、悪い噂だけがよちよち独り歩きして、軽蔑は勿論、嫉妬の目で見られたり、軽いジャブ程度のつもりなのかわざと暴力を受けることもある。
というか俺が先輩に絡まれてるのに理不尽過ぎるだろ。
ちなみに流したのは集団じゃない。たった一人の男子だ。確か、御木本?
手紙(笑)に『From Mikimoto』って書いてあったし、多分御木本だ。
友達のいない俺でも、御木本が三年男子人気ナンバーワンだってことは嫌でも耳に入ってくるからな。森島先輩には当然伝わってるだろう。
まあ、でもなかなか森島先輩に強く当たることができない。
あの人、かなりの天然だからな。
教室に向かおうと歩いていると、また視線を感じる。なに? 何なの? 愛なの?
すると、後ろから、最近聞きなれた声が耳に入ってきた。
「にゃ~ん」
「は?」
声と同時に首を掴まれ、思わず振り返る。
「……なにやってんすか」
予想と違わず、森島先輩だった。
「ごろにゃ~ん」
どうやら日本語が通じないようだ。
「先輩」
「にゃ~ん」
「振り払いますよ」
「ごろにゃ~ん」
気づけば周りには野次馬が集まり始め、ひそひそと怪しむ声が聞こえる。
「にゃ~ん」
それでも、森島先輩は続ける。
先輩が声を発する度に、オーディエンスの声はどんどん大きくなる。
中には悪意に満ちたものも混ざっていて、攻撃的な感情を読み取れた。
正直、うんざりしてきた。
好奇の目に晒され始めてから、一週間と少し。時間的にはそう長くないが、いかんせん俺は孤独を貫く孤高の日本男児だ。元に戻りたいと体が叫んでいる。
それに、こいつらのこの攻撃の元を辿っていけばきっと、羨望や嫉妬から来るのが大半なのだ。
それを御木本が煽動した。
なら簡単だ。
ハチマンは、△たたかう をえらんだ。
「先輩、そういうのマジ辞めてくれませんか?」
恐ろしさに定評のある俺の目を更にどんよりさせて、森島先輩を見る。
「にゃん?」
なんだよ「にゃん?」って。ちょっと可愛いな、おい。
だが俺は容赦なく続ける。強めに、攻撃するように、口から出ようとする言葉を尖らせる。
「だから、それの事ですって。しつこいんですよ」
さすがに狼狽える森島先輩。少しかわいそうな気もする。
対して、さらに声を大きくする俺。
いいか? 隠れている奴ら。ファクトはよく見極めろよ。
「先輩、俺のことを振ったからって気にして優しくしてくれるのやめてくれますか」
本当に不思議だ。どうして俺は、息をするように嘘をつけるのか。
俺の言葉を聞いて、影から見ていた聴衆が少しずつ、引き付けられるように近づいてくる。
森島先輩は――思ったよりダメージを受けているようだ。
「え……」
悲しそうな声が小さく聞こえた。
「もう先輩のことは諦めたし、嫌いなんで」
「嘘、だよね? 比企谷くん……?」
「いやマジっすよ、おおマジ」
森島先輩は今にも泣きそうだ。衆人環視のもとで、こんな辱めを受けているからだろうか。俺には何一つ、わからない。
やっと口を開いたと思ったら単純な返しだった。
「ひどいよ……」
「ひどいのは先輩の方じゃないすか。傷口に塩を塗るような真似をして――」
そこから矢継ぎ早に攻め立てるつもりが、始業の鐘が鳴ってしまった。
感覚的に言えば、「ブシモ!」って声が聞こえてすぐにスマホの電源を切る感じ。いや、要件は伝えたし、九人の女の子が最初に出てくるところくらいは来ている。
あとは一つ、画面をタッチするだけ。
単純明快に、話を進めるだけだ。
「とにかく、先輩。もう俺のところに来ないでください」
俺は言いまとめると、返事を聞くまでもなく教室へ急いだ。
――だってほら、朝の読書が始まっちゃうから。
× × ×
朝のLHRが始まる直前。
突然、私のもとへ紙飛行機が飛んできた。同時に、教室の端にはるかが立っているのがちらっと見えた。何やってるの、もう始まるのに。
しかし、はるかは寂しそうにこちらを見るとすぐに去ってしまった。他にも何人か気付いたようだ。
はるかの寂しそうな顔が、言外に何かを伝えていたように思えて、私は手元の紙飛行機をゆっくり開く。
ところどころ涙で濡れたような跡があるし、ぐちゃぐちゃな紙だった。
『どうしよう! 私、比企谷くんに嫌われたかもしれない!』
宛先なども書かずに、簡潔に書かれている。あまり、焦りは感じない短さだ。
けれど、はるかのことだ。相当焦っているのが目に浮かぶ。
仕方ない、LHR終わったら行ってあげるかな。多分屋上にいるし。……そのヒキガヤくんも居たら笑えるけど。
静かに二人の後輩は決意する。の方も進めないとなあ……。
皆さん、僕らはみんな河合荘買いましたか? 買いましたよね???
まあ、あとがきに書くことはあまりないんでそろそろ!
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