皆さん、裏表のない素敵な人です。   作:いろはにほへと✍︎

4 / 9
思へども 験もなしと知るものを 
何かここだく 我が恋ひわたる

―坂上郎女―

『どんなにあなたを想っても仕方がないとわかっているのに、どうしてこんなに、恋しく切ないんでしょう』



はるかとイノセント

 人間万事塞翁が馬。この言葉はまさに全てを言い得ている。

 例えば、最近ぼっちの俺に近づいてくる先輩が現れたり、自分のためにその先輩を切り捨てることになったり、そしてその切り捨てた先輩に屋上で会ったり……。おいおいマジかよ。先輩、なんかもの言いたげにこっち見てるし……。

 HRが終わってすぐに来たのが間違いだったか……、いやいやでも先輩がいるとは。

 森島先輩は思いつめた様子で目下を見ながらフェンスに腕を乗せて寄りかかっている。そして俺はドアノブを掴んだまま立ち尽くす。いいね、嫌いじゃないよ、こういう構図は。うっかり女史のパンツ見ちゃったような感じの構図だ。いや女史はいいや。どっかのアラサーが浮かんだ。

 

 「ねえ」

 「はい?!」

 

 かけられた声は森島先輩ではなかった。前方からでもなく、明らかに後ろから声をかけられた。

 振り向くと、塚原先輩が微笑を浮かべていた。肩を叩こうとでも思ったのか、上に挙げられた手は止まったまま意味をなさず沈黙が生まれた。

 

 「そんなに驚かなくても……」

 「いやいや驚きますよ」

 「ていうかバ……はるかは?」

 「バ……じゃなくて先輩ならそこに」

 

 言いながらフェンスに指の先を向けた。先輩は変わらずいじけたように下を見ていた。

 

 「ありがと」

 「いえ。じゃあ俺はこれで」

 「さあ行くわよ」

 「は?」

 

 言って、止まる。あれ? 塚原先輩って日本語通じないタイプだっけ?

 

 「先輩、確かに日本語は難しいですけど……」

 

 ギロっと先輩の鋭い眼光が俺に突き刺さった。

 

 「い、いやあ最近日本語とブラジル語の区別がつかなくて……」

 「ポルトガル語でしょ」

 「あはは……そうですそうそう……」

 「まったくそれくらい常識よ」

 「さすが、国公立の医学部推薦志望は違いますね」

 

 何気ないつもりで言った。しかしそれを口止めされていたと思い出したのは、塚原先輩が顔を真っ赤にして拳を振り上げたあとだった。

 

 「ちょっ、ちょっと待って!」

 「はるかから聞いたのね!」

 

 俺は首元を掴まれると、そのまま塚原先輩に引きずられて、森島先輩の前に突き出された。

 

 「はるか!」

 「な、なによひびき……」

 「もう一時間目始まるから行く!」

 

 塚原先輩はそう言い残すと俺を先輩の前に捨てて教室に戻ってしまった。

 流れる沈黙。逸らされない視線。

 十分ほどそうしていたような気もする。こういう点でいえば俺はなかなかに我慢強いが先輩も劣らない。

 

 「こ、こんにちは」

 

 やっと出た言葉だった。

 

 × × ×

 

 こ、こんにちはって何よ!

 比企谷くんは私がどれだけ傷ついたのか分かってないのかな!

 もう仕返しするしかないと思うっ!

 

 「なんで……」

 「え?」

 「なんであんなことしたの……」

 

 ポイントは涙目。あとは、声を震わせること!

 

 「えっ、いや、えーっと……」

 

 狼狽えてる狼狽えてる。

 

 「私、比企谷くんに嫌われたの?」

 

 涙目に上目遣い。その上震えた声。

 これで比企谷くんなんて楽勝!

 

 「――そうですよ」

 

 「え?」

 

 まるで比企谷くんとも思えぬようなはっきりとした言葉に、私は俯いていた顔を上げた。しかしそこにいるのは比企谷くんのみで、誰か別の人の発言とは考えられなかった。

 

 「だから、先輩のことが嫌いなんです」

 

 「ほ、ほんとに言ってるの……?」

 

 動揺を隠すこともせず、普段よりもどんより濁った比企谷くんの目を見つめる。そもそも私は廊下で言われたことが比企谷くんの本音だとは思っていなかったのだ。平然と返事を出来るはずがない。

 

 「最初に会った時から大嫌いですよ」

 

 「な、なんで」

 

 震える手を宥めて、歪んだ顔で、私はできる限り笑みを浮かべた。

 

 「しつこい、うるさい、ほら、挙げればキリないですよ。逆になんで嫌いにならないと思うんすか」

 

 比企谷くんの言葉にはまだ続きがあったようで口の端を歪めて、まるで悪魔さながらに、言葉を吐き捨てた。

 

 「美人だから?」

 

 私は言葉に詰まる。

 実際こういう風に言われることは一度ならずあった。嫉妬だよ、なんてひびきは励ましてくれたけれど、比企谷くんの表情がそれは事実だと、如実に私に語りかける。そして私はそれを否定出来なくなってしまった。

 

 「……ごめんなさい」

 

 漏れ出そうになる嗚咽を堪えて出たのはこんな言葉だった。泣いて済むのか、ともすれば哀れみの目で見られるかもしれないのに、それ以上上手く言葉にできるとは到底思えなかった。

 

 「べつにいいですよ気にしてないし」

 

 表情は変えず、されど諦観したような物言いで私はひどく距離感を覚えた。

 今にも泣き出してしまいそうだ。

 

 「ごめんね……私、もう行くから」

 

 嗚咽を必死に飲み込んで、応えも聞かずに踵を返す。あるいは、何か、さらに傷つくことを防ぎたかった。

 音も立てずに、這うように足を動かし、戸のノブを回した。屋上を出る瞬間、寸分違わず、確かに聞こえた声がぽつりと耳に残った。

 

 「これでいい」

 

 まるで自戒の念を込めているようだった。

 

 私はそれを聞き漏らした振りをして、間もなく授業が終わるであろう教室に、今まで経験したことのないような重い足取りで向かうことになった。

 

 助けて……ひびき……。




評価お願いします!!!!
純粋にモチベーションとUAが上がるようになります(笑)
どうも、そろそろ本格的な八オリを描きたい。ラブガイルはモチベーションがずっと低い(笑)
アマガミはそれなり(笑)

元中二病同士の青春ラブコメは、アフターストーリー、静かに二人の後輩は決意する。は本編終了です。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。