思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ
夢と知りせば 覚めざらましを
―小野小町―
『あの人のことを思い続けてみた夢だから、あの人の姿が見えたのだろうか。夢だと知っていれば目覚めずにいたものを』
「なんで、こう、なるの……」
ほとほと呆れて口から漏れる。授業が終わってすぐに廊下に出てみれば、はるかが床に寝そべっていた。必然的に男子の視線が集まる。
「ひびきちゃーん……」
「いやそんなドラえもんみたいに呼ばれても」
「もう、茶化さないで!」
あざとくぷんぷん怒りながら、はるかはゆっくり起き上がる。座りきったところで彼女は静かに微笑んだ。
「どうしたらいいのか分かんないや」
少し寂しそうな顔をして、俯く。長くてさらさらとした髪が下に垂れ、そこから彼女の悲しみが測れたような気がした
私は、はるかに近づいて、そっと手を取る。
「話くらい聞いてあげるよ」
「……うん」
「じゃあここはあれだし、移動しよっか」
返事はなく、はるかはゆっくり立ち上がった。それから私に手を引かれるままについてきた。さてどこへ行こう。屋上以外ならどこでもいいか。
× × ×
「で、どうしたの」
結局行くところもなく、屋上に行くことになってしまった。申し訳なく思いながらも、とりあえず、話を聞いてみる。
「比企谷くんに大嫌いって、うるさいって」
「言われたの?」
「うん……」
また涙声を絞り出すから、まだ泣くのかと思ったのもつかの間。彼女は一転、不思議そうな表情になった。
「でも最後に」
「ん? 最後に何かあったの?」
「比企谷くんが呟いたの、これでいいって」
「え?」
「だーかーらー、これでいいって、私が屋上から出る瞬間に」
「なんでなんだろう」と呟きながら、はるかは何度も復唱する。しかし分からなかったのか私にその真意を質してくる。
「さあね」
あえて、私は適当に答える。これは彼女たちの問題であって、解決すべきは彼と彼女なのだ。
だから私が解決すべき問題ではないし、まして当事者同士の話を仲裁するべきではない。
私はあからさまに時計を見て、焦った振りをする。
「やば、もう一分もない!」
「へ?」
彼女は素っ頓狂な声を漏らす。当然だ。そもそも私は次の授業をさぼって彼女の話を聞こうとしていたのだ。けれど、こういう時は気分転換が必要だ。いつまでも気にしていては仕方ない。
「次は体育だよ、早く」
答えさせる暇も与えず、彼女を引っ張って、教室にめがけて全力で走る。
「ちょ、ちょっと待ってひびき!」
「うるさい、いつも振り回されてるんだから、今日は私の番!」
「えー……」
耳を傾けず、教室でジャージを取る。廊下に出たところで始業の鐘が鳴った。
「もう始まちゃったじゃない」
はるかがジャージ袋を両手で持ちながら、苦笑いする。
「大丈夫、全部はるかのせいだから!」
言い捨てて、彼女の手を引っ張って更衣室に向かう。しかしその前に一応、体育の先生に謝っておいた。
「すみません、私の用事にはるかを付き合わせてしまって……」
言うと、はるかは少し笑って、言葉を継ぎたした。
「楽しかったので、私的にはOKです!」
――ホント、切り替え早いな。
お久しぶりですね。明日にも連続投稿します。
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