ガーディアンが行く場所 オレは臆病な君を守り続ける 作:孤独なバカ
「はぁ……はぁ…」
オレはずっと46層のアリ谷でレベル上げをしていた。疲労も眠気もピークをすぎ体の感覚がない。HPがもう一週間も寝ていない。攻略にも参加せずにただレベル上げをしていた。
一区切りついたので上に戻る。そしてウインドウからポーションを飲み込む。しかし味なんてあのときから何も感覚にない。ついでに市販で売っている疲労回復のドリンクを飲む。
しかし味もしないし効果も少ない。しかしそれも今日までだ。明日はクリスマスイブ。恋人同士はいや、ほとんどのプレイヤーにとって休みの日となるだろう。
気にせずに転移結晶を取り出して
「転移、ミーシェ。」
オレは第35層主街区へと飛んだ。
最前線は49層なのでそこにはオレを知っているやつは誰もいないはずだったのに。そこにはあいかわらず黒のコートを着ている男の姿だった。
オレは気づいていながらその横を通り過ぎる。
「ユニバース。お前まだあのときのこと引きずっているのか。」
キリトの声が聞こえる。
しかしオレは何も頷きも反応もできなかった。ただ宿屋に向かって歩き続ける。
キリトがオレのクエストイベの情報をアルゴに買ったと言う情報を買ったのでオレの目的は知っているはずだ。
そしてたぶんそのことも知っているのであろう。キリトが悲しそうな顔をしていた。
「……伝言だ。明日サチが伝えたいことがあるって言っていたぞ。場所はサチが昔隠れていた場所らしい。」
「あぁ。分かった。」
オレは頷く。すると驚いたようにこっちを見る。
「…それで何時だ。」
「えっと、夜の7時って。」
「サチに伝えておいてくれないか?明後日にしてくれって。」
オレはそういって歩きだす。
「ユニバース。お前ももう分かっているんだろ。その蘇生アイテムはガセ情報ってことを。」
「あぁ。でも少しでも可能性がある限りやりたいんだよ。あの時オレが27層について説明しとけば、あの3人は死なないですんだんだよ。」
ダッカー、ザザマル、テツオの3人はオレ達がボス攻略戦を行っている最中に死んだらしい。
階層は第27層、オレ達がケイタと話し合って27層はトラップ多発地帯であることからレベル上げには月夜の黒猫団は使わないと決めていたのが原因だった。
オレがボス攻略戦が死人も出ずに終わり、ケイタとサチにメッセージを送ろうとしたやさきだった。
ダッカー、サザマル、テツオの文字が回線不能、つまりこの世界でHPが0になり現実世界の3人が死んだことを指していた。
オレはその文字を見た瞬間崩れ落ちたらしい。キリトとアスナに支えられオレは宿屋に戻った。するとサチがオレの方に駆け寄ってきた。サチ曰わく買い物に行っていたらしく3人に留守を任せていたらしい。だから自分の部屋に戻ったのだと思っていたらしいが、オレはここで一番残酷なことをサチにさせてしまった。
始まりの街の黒鉄宮で3人が生きているか確認してきてほしいと。
するとアスナもキリトもサチも慌てたようにフレンドリストを見てしまう。すると数分見ていたが全員が無言を貫いた。サチが一番つらかったのだろう。ケイタが戻ってくる前には全員が泣いていた。
ケイタは強いやつだった。オレ達が生きていたこと。それだけが良かったと言っていた。
しかしオレはその言葉が入ってこなかった。
オレが殺した。
たった3つの命さえ守ることができなかった。
その事実がオレを苦しめた。
そこからオレは強さに執着するようになった。
ギルドはケイタに任せて経験値効率のいいソロプレイヤーに移転して、金を防具や武具にかけて、たった一人で全ての階層の攻略に専念していた。いや、ただ強さを求めていただけだろう。
周りからは青い騎士と言われなくなり、落ちた騎士やレベルバカと言われるようになった。呼ばれることは当たり前だった。
元ギルドメンバーやケイタやサチが心配してくれたがオレはそれを拒絶した。ボス攻略戦も別のパーティーに入り、終わっても次の階層の攻略にすぐ進んだので話すこともなくなり関わりはなくなっていた。
そしてクリスマス10日前のいつも通りクエストをしていたらある情報を手に入れる。
ニコラスの大袋の中には、命尽きた者の魂を呼び戻す神器さえもが隠されている。
ニコラスとはクリスマス専用ボスの名前だ。
絶望な状況にたった一つだけの希望。
ずっと死に場を探してきたオレにとっての、唯一の希望だった。それがニセモノだとしても。
「……これが終わったらサチのところでもどこにでも行くさ。」
オレはキリトの方を向かずに一言言う。キリトが今どんな顔をしているのかみたくもなかった。
オレは宿屋に向かって歩きだす。もしも本当に生き返るとしたらオレはどんな批判でも受け付けるだろう。
そして宿屋に入りアラームを設定してすぐに眠る。
もしも無駄になっても最高のコンディションで挑みたかった。
そしてそれはすぐに叩き起こされる。
久しぶりに寝たからであろうか、頭痛が響きめまいもしている。
オレはウインドウを開く。武器、盾、防具をとっておきのやつにしてポーション、結晶アイテムもありったけウインドウの中にぶち込んだ。
そして最後の一つ、回廊結晶を握りしめオレは迷いの森に設定する。
そして宿屋の中に開き歩き始める。そしてマップを開き歩き始めた。
迷いの森の一角にでかい木があるとその時攻略したオレはどうにも思っていなかったがこのクエストボスの情報の出現場所になっていることになっていたのは予測できた。
オレは地図を見ながら走り出す。キリトもたぶん気がついているはずだ。オレがソロで倒すにはあいつらより先につかないといけない。もし止めようとするならたぶん戦闘になる。あいつらを殺したくはない。
しかし、その望みは叶わなかった。
オレがモミの木の前には約30人以上のプレイヤーがいた。いや、オレを待っていたと言うべきか。
先頭にはキリト、後ろにはケイタとアスナがいた。その後ろにはクライン達の風林火山、エギルなどの多くの攻略組プレイヤーが後ろについている。意外だったのはKoB団長のヒースクリフまでいたことだ。
「よう。ユニバース。」
…オレはキリトの姿を見てすぐに舌打ちしてしまう。
「……やっぱり止めるのはお前かよ。」
オレは片手剣を抜く。するとキリトの後ろからざわめきが起こる。
「オレを止めようってしても無駄だぜ。死ぬまで戦う。これがオレの最後になろうともな。」
片手剣は第45層のラストアタックで手に入れた剣で一度も失敗せずに最大強化まで済ませてある。
「ユニバースくん。あきらめてくれないの?」
「……あぁ。」
アスナの声も何も感じなくなっていた。こうしている時も時間がなくなってきている。
「……オレはそれだけの罪を重ねてきたんだ。だからオレが死んでも、これ以上の罪を重ねても。オレはこのクエストボスを倒す。それを邪魔するやつは誰が誰でも殺す。」
もう頭痛も痛覚も何も感じなくなっていた。
ただこいつらを殺す。
やりたくなかったけど、仕方ない。これがオレの最期だとしても。
「な、なんでだよ。お前にも、心配してくれるやつはいるだろう。」
後ろにいる誰かが叫ぶ。
「お前は見たところ高校生くらいだろう。お前が死んだら両親とか悲しむじゃ。」
「いないさ。そんな奴。」
「そんなの分からないじゃないか。なんでそんなことを。」
「オレには、両親も、誰もいないからだよ。」
すると全員が黙りきってしまう。
「オレは父さんは離婚で出ていって、母さんは事故にあって死んだ。最後の家族のじいちゃんばあちゃんもガンで死んださ。」
すると全員が目を伏せる。
「分かるかよ。帰る場所がないって。このゲームに巻き込まれても心配してくれる人は誰もいないだぞ。帰る場所や心配してくれる人がいるならまだいいさ。オレにとったらこのゲームが終わったら生きていられるのかも危ないんだよ。」
オレは片手剣を構える。
「御託は終わりだ。さっさと終わらせる。」
オレが戦闘体制をとる。集中力は切らさずただ突破することだけを考える。
オレが心拍を整えそして突撃しようとしたそのとき、
後ろからもう一つの大軍が現れた。こっちも総勢30人くらいいるパーティーだった。
青い鎧から聖竜連合とだと分かる。
くそったれ完璧に油断していた。つけられてたのかよ。
隠蔽スキルをとっていないのが仇になった。オレにはもうすべきことがない。
もう全て殺してしまおうか。
そんなことを考える。しかし
「ユニバースくん。ここは我々が食い止める。君は行ってボスを倒してくれ。」
そんな声が聞こえた。オレは動こうか迷ったがその言葉を信じて走り始める。
他の誰もオレを止めようとはせずに道を空ける。
最後のワープポイントをくぐり抜け次のエリアと向かう。
最後エリアに入りオレは頭痛が酷くなってくる。
早めに倒さないといや死んでしまってもかまわない。
目の前に赤と白の上着に同色の三角帽子、そして右手に斧を持ったモンスターが出てくる。
「殺す。」
オレは思いっきり雪を蹴った。
どのくらい経ったのだろうか、
最後のソードスキル《ヴォーパルストライク》を放つとニコラスはポリゴン片となり消える。
オレはそれを確認した後によろよろになりながら剣をしまう。達成感も何もなくオレはウインドウを開く。アイテムウインドウを見ると多額のコル、そして武器や防具がドロップしていたがオレは目当てのアイテムを探す。そしてそれはすぐに見つかった。
《還魂の聖晶石》
オレはこのアイテムをすぐにオブジェクト化する。そしてワンクリックして効果を確かめる
《このアイテムを手に持ち、「蘇生、〇〇(プレイヤー名)」と言えば、HPがゼロになった対象プレイヤー(約十秒以内)を蘇生します》
オレはこの文字を見た瞬間崩れ落ちた。
分かっていた。この世界で本当にHPがなくなったら死ぬことを。
オレはそれでも目を背けていた。しかし目の前に書かれてあることは現実だ。現実からはもう目を逸らすことはできない。
オレは蘇生アイテムをアイテムウインドウにしまう。
オレは帰るために立ち上がろうとするが、急に頭痛が立ち上がれないくらいの痛みに襲われる。鈍器で後ろから殴られたような動きに耐えきれなくなる。
オレは視界が暗転していった。