金木研はヒーローになりたかったのだ   作:ゆきん子

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お気に入り4000人突破しました。皆さんありがとうございます。
お気に入り、感想、評価を下さった全ての皆様に、エトしゃんから一言。
「あなたの事が好きになったわ!」

そして!記念すべき4000人目の方には、なんとCCGのあの方から。
「俺は…!!お前が…好きかもだ……」
まあ!おめでとうございます。そしていつもありがとうございます。

皆様がこの作品を細かいところまで読んで、気付いてくださるおかげで、張った伏線に躓かずにきちんと回収できると思います。伏線と言ってもお粗末なものですが。



20話 打水器

……暇だ。

 

僕は懸垂をしていた室内の物干し竿(とても頑丈)から軽い音を立てて床に降りると、その場に座る。

汗もかかないのに用意された白いタオルは、気だるげに机の上に横たわっていた。まるで夏の暑さにやられた猫みたいだ。

自分ひとりの体を持ち上げる程度では何のトレーニングにもならなくなったが、僕は惰性で何となく続けている。腰に人一人ぶら下げでもすれば、もう少し意味のある行動になるのかもしれない。

 

……それにしても暇だ。

一日目、二日目は有効活用しようとネットで格闘技の解説動画を見たり、本を読んだり、自習をしたり……。思いつく限りの暇つぶしをしたが、もともとインドアとはいえ、外出を最低限にと言われてしまってはそれも限られたもので、すぐに飽きた。というよりはやる事がなくなった。

部屋はその名残で本や空のコーヒー缶がそこらに積みあがっている。自分で淹れた方がうまいはうまいが、暇と言うくせにそんなことをする気力も、高々と積みあがった本を片付ける気力も湧かない。…いかん、あまりにも怠惰的だ。

 

僕はのろい動きで立ち上がると、取り敢えず空き缶は捨てる日になるまでまとめて置こうとそれらを拾っては袋に入れ始めた。

それが終わって部屋を見回すと、中々見れるようにはなった。と思う。

未だに本は積みあがったままだが、それは……後でいいだろう。

 

僕は脱衣所の扉を開けると服を脱ぎ、シャワーを浴びることにした。

かいてもいない汗が自然に流れるのを待つように、上から降り注ぐシャワーのお湯を俯いた後頭部でじっと受け入れる。

ふと目を上げると、鏡に映る自分が目に入った。

水で張り付いた髪は、相変わらず白い。髪が少し伸びたが、監視はされていなくても謹慎中なのだから切りに行くのは諦めた方がいいだろう。

じゃあ自分で切るか…いや、止めておこう。人の髪ならまだしも、自分でやるには特に後頭部の難易度が高すぎる。棚田(たなだ)のようになるのは目に見えていた。

もう暫く我慢するしかないだろうと髪を観察していると、ある事に気付いて僕は一房引っ張る。

……やっぱり、根元のところ、髪が白くなってから伸びた数ミリが、心なしか黒い。

これは伸びたらまた黒くなるのかもしれない。そう思うとここの所塞ぎがちだった気持ちがいくらか軽くなった。

 

例えば焦凍は派手な髪にも負けない整った顔をしているが、僕にはこの白髪は似合わないと昔から思っていたのだ。

昔は戻らなくて諦めていたが、戻るのなら黒髪の方が目立たなくていいだろう。

 

"前"と違うところといえば、身長だろう。

微々たる差だが、現在の僕の身長は168センチ。

これは前世の高校一年の頃よりも高い数値だ。多分成長期の適度な(しんどい)運動と、十分な食事で栄養摂取が出来たからだろう。前は外食ばっかだったし、定食屋に行くよりヒデと安いファーストフードを食べながら駄弁っていた。

今考えると、ありえないくらい不健康な高校生だったな。

 

「……」

 

僕はシャワーを捻って水を止めると、伸びた前髪をかき上げる。

 

今の僕は、個性が発現した小さい頃から喰種だ。

肉さえ食べれば必要な栄養は全て摂取できる。

 

 

 

 

―――後生だ……カネキくん。行かないではくれまいか―――

 

 

 

――もうすぐ謹慎が解ける。こんな時に思い出すのは、どうしてか彼の事だった。

色々と印象の強い人ではあったけど、別に特別仲の良い関係では無かったと思う。少なくとも僕は彼に対して終始警戒を解かなかった。

だが、正直読書のセンスに限れば、良かったと思う。僕と趣味が合っていた。

……だけど、もし。…もしも、僕が普通の人間だったとしたら、彼との友情はありえただろうか。

 

 

 

 

―――怖いわ。あなたの個性は強すぎるし、それに平気で自分を犠牲に出来てしまうのも、すごく怖いのよ―――

 

 

 

優しい女の子の声が脳内に響く。

 

何を馬鹿な事を考えていたのだろう。

そうだ。喰種と人の友情なんて、ありえない。

当たり前のことに気付いた僕は、また鏡を見た。

 

鏡の中の彼は、にっこりと微笑んでいた。

その瞳の中に空虚な悲哀が覗いた気がして、僕は目をそらした。

 

 

 

 

 

 

 

やっと出番の来たタオルでワシワシと髪を乾かしながら、携帯の画面を点ける。

ネットニュースでは、昨日、一昨日辺りから雄英高校が敵に侵入されたニュースでいっぱいだ。

幸い、敵に攻撃されて重傷になった生徒は()()()()()……少なくとも、マスコミはそういう事実の確認が取れていないため、大きな問題になっていない。

既に治っているとはいえ、怪我をした僕がいるのになぜ敵による負傷ゼロ人という扱いになっているのかというと、連絡が来た時に僕と店長が相談してそうするように頼んでいたからだ。

 

店長はたとえワープ系の個性の敵が居たとしても侵入を許したのは学校だし、対応も遅かったと酷く渋っていた――多分、元ヒーローの彼は後輩に少し厳しいのかもしれない――が、僕が彼にまだ大事にすべきでないと説得したのだ。敵の目的が目的だったし、下手にマスコミで刺激をすると、何をしでかすか分からない。

相澤先生たちは、僕の意見を汲んでそうしてくれた。それだけだ。

 

ネットの掲示板でも色々な意見が出ているが、その大半は雄英高校に対するポジティブな意見だった。

警察から発表されている逮捕された敵の人数などの情報などを客観的に見れば、確かに雄英はあの時出来る限りの事はやったし、被害も最小限に抑えた。

だが、謹慎中の僕が言う事でもないが、連絡手段が限られていて、他のヒーローの応援が遅れたのは何とかならなかったのかと思う。

センサー等は電気系の個性の敵に妨害されていたし、クラスに飯田君のような足の速い個性を持った人が居なかったら、それこそ精神感応者(テレパス)系の個性を持った人でも居ない限り、事態に気付かれる事なく、被害は大きくなっていたかもしれない。

電気系の個性の脅威は情報伝達にまで及ぶ事は割と知られている事なのだから、対策はもっと取れたんじゃないかな…なんて。

 

そういうことを考えると、改めて電気系個性が引っ張りだこなのは頷ける。作戦の幅が広がるし、戦闘でも強い。

多くのヒーロー事務所……そして組織性を見せた、確か敵連合と名乗ったような敵達が求める訳だ。

 

 

 

……取り敢えず、あの雄英体育祭が近いらしい今、僕のやる事はこれだな。

 

僕は傍に積まれた本から一冊拾い上げると、立ち上がり構えた。

 

 

 

 

 

 




打水器と書いて、シャワーと読む。(読まない)
金木君といえばシャワーシーン。シャワーシーンといえばカネキクゥンっ!
…違いますかね。

今回のお話、短くてすみません。
あれです。間接のところにあるクッション的な、軟骨的な話なんです多分。
会話がないと文字が増えないの…ナンデェ?

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