物間の人気に思わず嫉妬。
ゲートの前に適当に並び、少年少女は各々自分に必要だと思う最終準備を行っていた。
柔軟をする者、その場で跳んで体を温める者、そして静かに精神を研ぎ澄ますもの。
死の間際に強く願った事が切っ掛けか、前世の知識を持ったまま転生し、髪の色以外は記憶の高校時代とほぼ変わらない見た目の金木研は最後者として、静かに呼ばれるのを待っていた。
入場を直前に控えたA組生徒は、皆一様に表情を緊張に引きつらせている。
無理も無いだろう。この雄英体育祭はリアルタイムで全国に放送される上、会場にはプロのヒーロー達も観戦しに来ている。
今日の成績次第ではヒーローの卵として国民に広く知られるチャンスが与えられるのみならず、同時に今後の就職先候補であるヒーロー事務所の覚えもよくなるというのだ。
そしてヒーロー事務所のみならず、サポート会社などから見に来ている観客も少なからず居る。
アピールを望むライバルは同じヒーロー科以外にも沢山居た。
そんな中金木は、俯き目を閉じて前世の事、死後の不思議で奇妙な世界を思い返していた。
前世では、我ながら大体の人が経験した事のないような人生を過ごしたと思う。
体を作り変えられ、人食いの化け物にされた挙句に長い戦いに巻き込まれ、時に周囲を巻き込み……そして死んだ。志半ばの事だった。
白い死神は圧倒的な強さで僕の前に立ち塞がり、そしてあの血花咲き乱れる花畑で――まるで、道端の花が綺麗だったからといった風に、簡単に摘み取った。
それまで摘む方だった僕は、大切な人たちを守れなかった絶望の最中死に、そして気が付くと死後の世界と思われるあの場所に立っていた。
あそこの記憶を全部はっきりと覚えているかと問われれば正直に首を横に振るしかないが、ただ走馬灯というにはゆっくりした時間が流れていたような気がする。
あの場所で僕は、愛をくれなかった母に見切りを付けて幼い自分…もう一人の僕に会った。
僕は彼と一緒に強くなる。ヒーローになる。そして、今度こそ誰にも奪わせない。その為に欲張らなかった。僕の小さな手では守れるものは限られる。
僕はほんの僅かな友人と、そして家族が守れれば、他はいらない。その為にヒーローになる。
今日はその為のただの一歩で、そして大きな前進になる事を…祈っている。
* * *
1-Aの為に用意された控え室。
それぞれがこれから始まる体育祭を思い緊張し、そしてそれを紛らわすために談笑する中、生徒の輪から離れた位置で一人思い悩むように俯いていた焦凍は、不意に立ち上がると緑谷君に話しかけた。
「緑谷」
「轟君……何?」
緊張を紛らわすおまじないだろうか。手で何やらごそごそとやっていた緑谷君は、側まで歩いてきた焦凍を不思議そうに見上げた。
今まで……というよりいつも自分から発言する事が少なく、無口な焦凍が大勢の前で緑谷君に話しかけたことで、みんなの視線は自然とそちらへ向かう。例に漏れずに僕もそちらに意識を向けた。
「客観的に見ても、実力は俺のほうが上だと思う」
また焦凍は唐突に……。
僕は頭を抱えたくなった。気分は不器用な息子を持った母親だ。
だが彼が言った事は事実でもある。
緑谷君は戸惑いつつも肯定の言葉を返した。
「お前、オールマイトに目ぇかけられてるよな」
「!!」
「別にそこ詮索するつもりはねえが…」
「お前には勝つぞ」
始まる前に堂々と勝利を宣言した焦凍に、クラスはざわめいた。
焦凍オールマイト好きだもんなぁ。そういうとこは普通に男の子なんだよ、焦凍は。
「急に喧嘩腰でどうした!?直前にやめろって…」
「仲良しごっこじゃねえんだ。何だって良いだろ」
ギスギスした雰囲気を察して切島君がいち早く仲裁に入ったが、焦凍にばっさりと切り捨てられた。
焦凍が他人の言う事をすんなり聞く様な性格だったら僕は苦労していない。
啖呵を切られた緑谷君はというと、思い悩むように、又は思考をまとめているかのように真剣な表情で俯いた。
「轟君が何を思って僕に勝つって言ってんのか…は、分かんないけど…そりゃ君の方が上だよ…実力なんて大半の人には敵わないと思う…。客観的に見ても」
「緑谷もそーゆーネガティブな事言わねえ方が」
切島君が気遣いを見せるが、緑谷君の「でも…!!」という声に遮られた。
「皆…他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって、後れを取るわけには……いかないんだ」
他の科、と言われて、僕は先日A組に宣戦布告をして来た二人を思い出した。
一人は名乗らなかったが、もう一人は態々僕に話しかけて自己紹介をしてた。確か…物間君、だったかな。友好的な態度の中にどこかで見たことのある感情が含まれていたような気がする。何となく、初めて会ったときの月山さんを思い出した。
僕の思考が脱線しかけた時、緑谷君はようやく顔を上げると、真剣な顔で焦凍に言い返した。
「僕も本気で、獲りに行く!」
「………おお」
「……っ」
小さな舌打ちが聞こえて目を向けると、爆豪君が忌々しそうな表情で二人のやり取りを睨みつけていた。
彼は緑谷君と幼馴染らしいし、戦闘訓練の時といい何かしら因縁がありそうな様子だった。
疎外感のような物を感じているのだろうか。僕も気持ちが分からなくはない。
若いな、青春だな、いいな。なんて考えていると、油断をしていた僕は馴染み深い名前が聞こえて顔を上げた。
僕の名を呼んだ焦凍はこちらに鋭い視線をくれる。
「カネキ、お前もだ」
「へっ?」
こ、これは…。
「あん時は結果的に勝てたが、俺は納得してねぇ。お前にも勝つ。それで俺は……!」
焦凍の宣言に顔に血液が回ってくるのが分かる。
ホント、いいから。僕はそういうの間に合ってるから。
「お前には負けない」「僕だって!」みたいなのは、前世で成人済みの男が中に入ってるような奴は出来ないんだって!無理なんだって!
僕は恥ずかしさに身を捩りたくなりつつも、不敵に見えるような笑みを貼り付けて応えた。
「うん。僕も、あの時言った事は忘れてないよ」
「…あれか」
「今日はきっと丁度いい機会だからね」
「俺の気持ちが変わる事はない。例えあいつが変わってマシになったとしてもな」
僕はどうかな、という代わりに肩をすくめて先程まで行っていたストレッチの続きを始めた。
にしても思春期をとっくに越えた僕には、この少年漫画のような展開は素面で乗り越えるのはキツイものがある。
焦凍の事情を知らない皆はどこと無くアウェーな空気になっていたが、話が終わった事を察してまた談笑だったり準備に戻っていった。
* * *
先程の控え室で起こった出来事を思い出していた僕の耳に、"ボイスヒーロー"プレゼントマイクの声が聞こえてきた。
皆も聞こえたのか、表情を引き締めている。
『雄英体育祭!!ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!どうせてめーアレだろ、こいつらだろ!!?
ざわっと会場の空気が動く気配を感じた。
プレゼントマイク先生は勿体振る様に、あるいは焦らす様にたっぷりと時間を置いて、会場が静まるのを待った。
『ヒーロー科!!1年!!!A組だろぉぉ!!?』
受験会場ではモロすべりだったプレゼントマイクだが、流石プロというべきか。
観客は盛り上がりすぎるほどに盛り上がり、競技が始まってもいないと言うのに爆発的な歓声が僕らを包んだ。
僕は円形に会場を囲む観客席を見上げる。
形や高低差で、"過去"の嫌な記憶を思い出す。
喰種達による、彼らの為だけの悪趣味な
僕は二回ほど、主役として招かれる事があった。
一度目は愚かにも騙されて。そして二度目は、ある目的の為に伝手を使って自ら堂々と入り込んだ。
……つまりまあ、大人数に見られて戦うのは慣れている。
そういう意味では"いい経験"をさせて貰ったと、むしろ感謝すべきかもしれない。
近くに居る飯田君の考察を聞くともなしに聞きながら、僕は気を引き締めた。
今日何かが変わる。……そんな予感を感じていた。
事後報告で申し訳ありません。IF・番外編のアンケート始めました。
活動報告の方に載せておいたので、誰でもご自由に参加してみてください。既に書いてくださった方も、ありがとうございます。とても嬉しいです。ただの例のつもりで書いた案(アンケートの方を見れば分かります)も以外と好評みたいです。
思いっきりグロいのから恋愛、GL・BL、ストーリーの展開的に影が薄くなり気味の東京喰種キャラの出演とかありがたい事に今まで色々感想覧で皆さんが意見を下さったのには手を出してみたいので、気軽にご参加ください。
リクエスト者様の名前は出しませんので、ジャンジャンご意見待ってます。
2021/2/27
メッセージにて頂いた過去の話と矛盾するような誤解を招く表現を修正しました。