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これからも【金木研はヒーローになりたかったのだ】をよろしくお願いします。
新しい人生にも、だいぶ慣れてきた。
小学校の頃は戸惑ってばかりで、気を使ってくれた親に情けなくも応えられず相変わらずのボッチぶりを晒していたが、中学生にもなると色々慣れたというか、もうなってしまったものはしょうがないよねって感じだ。
中学は弁当だが、小学校の給食の懐かしさを思い出して当時もっと楽しんでおくべきだったなんて考えるくらいだ。(味は置いといて)
給食当番なんて義務教育中くらいしか経験できないからね。
「雄英、明日試験なんだろ」
「うん」
いつも唐突な友人が隣から話しかけるのに、コーヒーを舌の上で転がしつつ答える。
「ヒーロー科だろ」
「う、うん」
「よし」
「よしってなんだよ」
彼の中では完結したらしいが、こちらは唐突過ぎて意味が分からない。
彼はこちらに越してきて初めてできた唯一の友人だ。素直に言葉を吐く上に、あまり気を使うという事をしないので、一部では「気難しくてクール」なんて言われているしい。
そんな本人は特に気にするでもなく、推薦で合格している高校入試勝ち組の彼は友人の心配をする余裕があるらしい。自分以外には意外と心配性だ。
「うーん。筆記はまぁ大丈夫だと思うけど、ヒーロー科には実技もあるみたいだから……なにせあの雄英だし、何をするのか」
「お前、フィジカル強いんだろ」
「え?なんで?」
「前に体力テストん時、クラスの奴がお前の事話してたから」
「えぇ、話してたって…絶対変な事言われてるよね、それ」
見かけによらず、なんてことは絶対に言われていそうだ。とげんなりする。
なお、本当にそんな事が言われている事は知る由も無かった。
「筋力を強化する個性か?」
「えーっと、まあそんなとこかな」
この能力をどう説明すべきかわからない。
そもそも何処から話せばいいのだろうと、顎を撫でつつ首を傾げれば、彼はじっとこちらを見た後目を伏せた。
「そうか。がんばれよ」
「ありがと」
「おい、こいつは……」
会議室がどよめく。
審査をするヒーロー達が注目するのは一人の受験生。
スタートの合図とともに走り出す判断力、高いビルを一瞬で上る機動力、高所から視覚を頼りに仮想
何より目立つのは単純な戦闘能力だろう。
空中での蹴りで仮想敵の頭部を粉砕したかと思えば、一瞬で次の目標に接近して今度は手で頭と首を繋ぐ神経回路を引きちぎる。
また次の敵には手刀で装甲を割ったと思ったら、そいつの殴りかかる腕を逆に引っ張って背負い投げの要領で投げ飛ばすと、地面に叩きつけられたそいつの装甲の隙間から足を踏み抜いた。当然仮想敵は戦闘不能。個性を発動しているようには見えないが、個性なしでこの動きだとは自分の個性的に正直考えたくない。
しまいには仮想敵の尻尾を鷲掴んでハンマー投げのようにビルに向かって投げたのには、歓声を上げていたヒーローも少々呆れ気味だった。
「こいつぁーすげぇな!」
プレゼントマイクが興奮して声を上げる。
最初に見せたコンクリートの壁に簡単に穴を開けた、いかにも強力そうな赤い尻尾のようなものを使わずにこれなのだ。言外に「簡単すぎる」と言われているような気分にもなる。
しかしこの年で妙に戦いなれているのは……どういうことだろうか。相澤がじっと画面を見つめる横で、13号の冷静な意見が放たれる。
「それに毎年少数いる"記念受験"の生徒でしょうか。戦うのが苦手な子を時々庇っている様子も見受けられますね」
確かに、目立つ戦闘に隠れてはいるが、そのような場面はいくつかあった。
「だが少し無茶な方法だ。自己犠牲、といえば聞こえはいいが、それで戦闘不能になったらかえって迷惑になる。合理性に欠けるな」
「そぉ?私こういうの好み」
ニッと笑って画面の奥で戦う少年を細い指で指すのはミッドナイトだ。
「……」
ジトッとした目でミッドナイトを睨みつけるが、校長の一声でそれもやめさせられる。
「確かに彼は少し自分を
時間も無いから彼の審査もそろそろ終わらせよう!
校長が円らな黒い目を光らせて言うと、まさに鶴の一声、ざわついていた教師陣は一瞬で空気を切り替えた。
「金木研か…」
教師陣の雰囲気から見てもこいつはきっとここに来るんだろうと、確信にも似た予感を感じた相澤は、映像の中で尻餅をつく男子生徒に手を伸ばす少年をじっと見ていた。
ノックの音が聞こえて読んでいた本から顔を上げる。
扉を開けると、僕の師であり、祖父であり、お世話になってる喫茶店の店長が立っていた。
初老である彼は長い白髪を後ろで結っており、一部だけ青い毛が混じっている特徴的な容姿をしている。
個性と容姿は時々関係性を持つこともあるので、その影響だろう。彼は水を操る個性で、彼の卓越した個性操作は分子にすら影響を与える。お湯を一瞬で作ったり、型に入れた水を短時間で凍らせて氷を作ったりと、飲食店ではとても役に立つ個性だ。前世の店長とはまた違った美味しさのコーヒーはこの店を隠れた名店と言わしめる一因となっている。因みに、若い頃にヒーローをやっていたらしく、きちんと個性使用の資格は持っているので安心してもらいたい。
さて、そんな彼が何の用だろうかと首を傾げると、彼は優しく微笑んで何やら手紙を差し出した。
「僕にですか?……これ、雄英のだ。ありがとうございます」
お礼を言うと、頷いて去っていく後ろ姿を見送ってから扉を閉じた。
不自然に真ん中が膨らんだ手紙は今では殆ど見ない蝋封が施されており、蝋は校章が押し付けられたのか、校門にもあった"U"と"A"のシンボルが刻まれていた。校長の趣味なのか知らないが、中々に渋い。こういうのは結構好きだ。
僕はペーパーナイフをさっと滑らせるようにして封を切ると、まずは外側からでも気付いた膨らみの原因を取り出す。
「?」
何かの機械だろうか。中央部分にレンズが取り付けられているので、撮影するものか、それとも投影するものか。
そんな風に当たりを付けると、今度はスイッチを探そうと指先を動かした。すると裏側の何か突起のようなものにあたって、そのまま押し込んでしまった。
『私が投映された!』
「ぅわ!あっ……」
ブウンという起動音とともに、オールマイトおなじみの台詞と光が漏れる。が、僕は少し微妙な気持ちだった。
下を見下ろすと、スイッチを押したときに胸に向けていたレンズから投映されたオールマイトの後頭部が
彼のアイデンティティである兎の耳のように重力に逆らった髪は、僕の胸に埋まるようにして見えない。
……僕は無言で機械を机の上に置いた。
当たり前だが、僕の失態に気付いていない映像のオールマイトは、高らかな笑い声を上げていた。
『まずは金木少年、私から一言言わせてもらおう』
オールマイトの出す緊迫した雰囲気に呑まれた僕は、ごくりと唾を飲み込む。
オールマイトは咳を一つして声の調子を整えると、スゥッと息を吸い込んだ。
僕も思わず前かがみになる。
『合格おめでとう!筆記、実技、両方とも文句なしの高得点だ!』
はぁーっと詰めていた息を吐く。
まぁ、こんな手の込んだ機械が同封されていた時点で気づくべきだった。
それでも安心する。心配性の友人にもいい報告ができそうだ。
オールマイトは審査の基準と僕の最終的な得点と順位が1位である事を告げると、グイッと画面に寄る。アップで見てもその目がうかがえない彫りの深さは迫力満点だ。
『さて、君達はこう思っているんじゃないのか?"なぜ私が合格発表を行っているのか"ってね』
「確かに……まさか」
『HAHAHA!なんと、今年度から、私が!雄英高校の教師として勤める事になった!』
まじか、と唖然とする。既に合格している友人はもう知っているのだろうか?
そんな事を考えている間に、映像はオールマイトが『それじゃ、学校で会おう!』と告げるとプツンと切れた。
なんとなくもう一度スイッチを押してみると、一応また流れるみたいだ。これは記念に取って置こうと引き出しに仕舞って、資料が入った厚みのある封筒を持って店長のいる階下へと向かった。普段ならこの厚みで気付きそうなものだが、やはり気が付かないうちに緊張していたらしいと苦笑する。
まずは、下の階でそわそわと落ち着きのない気配を安心させよう。お客さんもいるのに気が気でない様子に笑って僕は気持ち早足で階段を下りた。
店長に報告したところを見ていた常連のお客さんに褒められた。
日頃から孫のように接してくれる彼らの裏の無い期待と激励に胸が温かくなるのを感じた。
因みにメールで報告した友人の返信は、「そうか」と一言だけだった。
彼らしいといえばらしいが、僕も「おめでとう」くらいは言ったのだし、そっけなさ過ぎてちょっと傷ついたが、後日直接会ったときにそれっぽい事を言われたので許す事にする。
金木君は、超大型敵…げほ、0ポイント敵を倒していません。
なぜならちょっと遠かったから。周りに沢山敵がいましたしね。逆に周りの仮想敵を放り出して大きいほうを取りに言ったら点数が下がる可能性もあっただろうし結果オーライ。
気になった方もいると思いますが、金木君の得点は80点弱くらいをイメージしてます。レスキューポイントは30点くらいと意外と低め。
レスキューポイントは完全審査制なので、ヒーローの好みで点が大きく変わるでしょう。
青春と泥臭さが好きなミッドナイトやマイク先生は高評価ですが、一方で相澤先生や13号なんかは評価低めです。