金木研はヒーローになりたかったのだ   作:ゆきん子

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5話 個性把握テスト 前編

 

 

 

 

「個性把握…テストォ!?」

 

僕はクラスの皆が揃って声を上げる中頭を悩ませていた。

さて、どうしようかな。

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

外に出ると八百万さんを見つけたので、僕の足をつつく峰田君に急かされて近づく。焦凍は付き合ってられないと僕を見捨てた。ひどい、友達にすることじゃない。

 

「あら、金木さん。少し遅かったんですのね」

「えっと、うん。ちょっと色々あって」

「おい、金木」

「わ、わかってるよ」

 

こそこそとやり取りをする僕らに八百万さんは僕の足元にいる存在に気が付いたのか、少し目を見開いて峰田君を見る。

後ろから「今だ!」と聞こえて、彼が僕の隣に来たのを合図に、僕は揃えた指で彼を指した。

 

「あの、八百万さん、こちら峰田君。峰田君、こちらは八百万さん」

「オイラは峰田(ミネタ)(ミノル)だぜ…」

「は、はぁ。八百万(ヤオヨロズ)(モモ)ですわ」

 

峰田君、きみそんなキャラだっけ?と疑問に思う僕を置いて話をする二人だったが、なんとなく峰田君の性格を察したらしい八百万さんは、適当なところで話を切り上げて端の方に去っていってしまった。

置いていかれた峰田君は跪き手を地面につけて頭を垂れた。どんよりとした空気が彼を覆っている。

 

「オイラの何が足りねぇんだ…何がいけないってんだ」

「君に足りないのは純粋な心で、下心だけで近づくのがいけないんだと思うよ…」

 

僕が呟くと、後ろから肩を組まれてびっくりする。

 

「まーまー。そういってやんなって!あ、俺切島(キリシマ)鋭児郎(エイジロウ)な」

「いや、今回はこいつの言ってた事が正しいぞ?峰田」

「あいつは上鳴(カミナリ)電気(デンキ)

 

肩を組んできたのは切島君というらしい。落ち込む峰田君を慰めるために寄って行ったかと思ったら追い討ちをかけたのが上鳴君か。

 

「えっと、僕は金木研」

「金木な!よろしく」

「俺ともよろしくー!」

 

峰田君を慰めていた上鳴君が振り返って声を張ったのに頷いて返す。

だんだん集まってきた生徒の前に、いつの間に来たのか相澤先生が立つ。

相澤先生は生徒全員が簡単に並んで集まったのを確認すると、これからやる事を告げた。

 

「全員集まったな。お前達には、これから"個性把握テスト"を受けてもらう」

 

―――

 

「個性把握…テストォ!?」

 

誰かの…いや、皆の疑問の声に、相澤先生は少しうるさそうに充血した目を細める。

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

 

さっき教室の前の方で騒いでいた内の一人、女の子が声を上げる。

しかし多分僕らはその行事に出られないだろう。

入学式開始の予定時間はとうに過ぎているし、何よりさっき遠くの方で沢山の足音と話し声が微かに聞こえた。

喰種の中でも特に感覚が鋭いわけじゃなかった僕の耳に聞こえるほどの音だから、きっと全校生徒のほとんどが講堂辺りに集まったんだと思う。

相澤先生はその女子に「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間無いよ」としれっと言う。プロヒーローはそれが当たり前なんだろう。

 

「雄英は"自由"な校風が売り文句。そしてそれは"先生側"もまた然り」

 

先生のその科白に皆がそろって首を傾げる中、僕はどこか圧力を感じる先生の雰囲気になんとなく嫌な予感を感じていた。

 

個性把握テスト。

ヒーロー科ならではのものなのだろうが、何をやるのかイマイチ分からない。

他のクラスメイトも大体そんな感じだろう。

相澤先生は気にせずに続ける。

 

「ソフトボール投げ・立ち幅跳び・50m走・持久走・握力・反復横とび・上体起こし・長座体前屈。中学の頃からやってるだろ?"個性"禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けてる。合理的じゃない」

 

まあ、文部科学省の怠慢だよ。

と呟くように締めた相澤先生は集まった生徒を見回すと、一人の生徒に声を掛ける。

 

「爆豪。中学のソフトボール投げ、何mだった」

「67m」

「じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ」

 

先生は爆豪君にボールを投げ渡しながら説明した。最後に急かす事も忘れない。

今関係ないが、記録を一の位までよく覚えてるな…。

 

「思いっきりな」

 

その声にギッと釣りあがった目に更に力を入れる。目つき悪くてちょっと恐い。

爆豪君は軽く準備をすると、大きく振りかぶった。

 

「死ねえ!!!」

 

掛け声というにはあんまりな言葉だが、文字通り()()()()威力を乗せられたボールは遥か彼方まで飛んで、落ちた。

それと同時に相澤先生の持つ端末が鳴る。

 

「まず、自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

先生が端末の画面をこちらに見せる。

 

705.2m

 

それが爆豪君の"個性を使った"記録だった。

 

「何だこれ!!すげー()()()()!!」

「705mってマジかよ」

「"個性"思いっきり使えるんだ!!さすがヒーロー科!!」

 

他のクラスメイトが沸き立つ中、僕は目を伏せて自分の手を見る。

8種目……平均的に身体能力が高い僕の"個性"なら、有利な方だろう。他のクラスメイトの個性は分からないが。

 

()()は使わなくてもいいかな…」

 

ジャージも無料(タダ)じゃないんだし。仕送り生活なので、なるべく店長には迷惑をかけたくない。

 

「なんか言った?」

「ううん。何でもないよ」

 

思っていたことが呟きとして漏れてしまった。

隣の尾白君が不思議そうに聞き返すのを誤魔化す。

 

そんな風に生徒が騒ぐ中、相澤先生のボソッとした呟きが不思議とその場に響き渡る。

 

「………。面白そう…か。」

「?」

「ヒーローになるための三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」

「!?」

 

皆が息を飲む。

尾白君も頬に冷や汗を流していた。

 

「よし。トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」

 

 

 

――雄英は"自由"な校風が売り文句。そしてそれは"先生側"もまた然り――

 

 

 

さっき感じた嫌な予感は、この事だったんだろうか。

 

「生徒の如何は先生の"自由"。ようこそ、これが」

 

雄英高校ヒーロー科だ。

先生はボサボサの前髪をかき上げて、重たげにしていた瞼を見開いた。

 

皆が理不尽だと騒ぐ中でも先生の意思は揺らぐ事がないのか、かき上げた前髪をまたくしゃくしゃに下ろす。

 

「自然災害、大事故、身勝手な敵たち…。いつどこから来るかわからない厄災。日本は理不尽にまみれている。そういう理不尽(ピンチ)を覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったならお生憎。これから三年間雄英は全力で君達に苦難を与え続ける」

 

「"Plus Ultra(更に向こうへ)"さ。全力で乗り越えて、来い」

 

効果は抜群だった。さっきまで談笑していた全員が、引き締まった表情で先生を見つめる。

そうはいっても、本当に最下位の生徒を除籍なんてするのだろうか。

分からない。だが先生からは、"本当にするのでは"と思わせる凄みと気迫があった。

鼓舞の目的にせよ、本当に除籍するにせよ、まぁやる事は変わらないかな…。

最悪周りの成績を見て二回目は()()()を変えてみればいいし。

 

入学早々の個性把握テストが、始まった。

 

 

 

 




長くなってしまったので、分けました。
後編へ続きます。

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