fate/zero ―ただ一人のための矛盾―   作:紅露雨

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――純粋無垢な彼女は下衆な男に拐われた。
生ける天使の様な彼女は卑劣な奴等の餌食となったのだ。



prologue 召喚

「みったせー、みったせー、みたして、みったせー」

 

 ――深夜

 

 軽薄なリズムに合わせ、オレンジ色の髪が特徴の、中肉中背の青年は足先を器用に使い、古い埃を被った古本を片手に、複雑な幾何学模様があしらわれている一つの円を描いていた。

 

「えっと? 繰り返す都度に四度……あれ五度? えーとただ満たされる時を破却する……だよな?」

 

 しかしその内容は、彼自身いまいち把握し切れていないようで、呪文を唱える姿はたどたどしい。明かりを消したダイニングに唯一の光源として光る、ブラウン管に写る連続殺人犯について報じるニュースキャスターにでも渡して読ませた方がより、それらしく言ってくれるはずだ。

 

 少なくとも彼、『雨生 龍之介』のように下手な歌のようには言わないだろう。 

 

「うん。みたせ、みたせ、みたしてみたしてみたせっと、今度こそ五度ね、OK! ……ん?」

 

『――れまでに起こった三件の殺害現場すべてに、被害者の血で描かれた、魔法陣と思われる謎の図柄が残されていたことが――』

 

「う~ん、ちょっとハメを外し過ぎちゃったかな」

 

 龍之介がソファにもたれ掛ると、そこの座っていた男……”男だった物”は、その振動でゆっくりと、崩れるように倒れた。

 

 床は血に濡れており、テレビを消したことで月明かりしか入らない、闇に染まる部屋。

 

 男だった物、女だった物、須らく恐怖に歪めた顔は、その死の直前がどれほど恐ろしいものかを如実に表していた。

 

 このような光景を作り上げたものなど一人。そう思えばニュースキャスターの作りものの表情よりも、血の匂いが充満したこの場で、軽薄な歌のような呪文を唱える龍之介の方がよほど気味の悪い、張り付けたような演技だと思われても仕方がない。

 

 映画に登場する殺人鬼のような狂った感性を、彼自身は表しているのかもしれない。計算してやっているかは別にしてだが。

 

 龍之介は唯一の生存者……この場においては不幸な者といった方がいいか、とにかく龍之介が気まぐれで生かしている少年に、龍之介は語り掛ける。

 

「ふー……ねー坊や、悪魔って本当にいると思うかい?」

 

 やや芝居がかった口調で語りかける龍之介。

 観客は年端もいかない少年だ。家族を目の前で殺されており、もはや恐怖でまともに話せるはずもなく、ガムテープで縛られた体は風邪でも引いたかのように震えている。

 そうでなくとも猿轡を噛まされているので取れるリアクションなど限られている。

 

「新聞や雑誌だとさぁ、よく俺のこと悪魔呼ばわりしたりするんだよね。でもそれってもし本物の悪魔ががいたりしたらちょっとばか相手に失礼な話だよねーそこんとこすっきりしなくてさー」

 

 子供相手だから少し幼く話しているのか、元々このような話し方なのか、どちらにしても少年は答える事など出来ない。もっとも、龍之介にはそんな事はどうでもいいことであり、この会話ですらただの気まぐれでしかない。

 

「ちゃーす! 雨生龍之介は悪魔でありまーす!! ……なんて名のちゃっていいもんかどうか。それを考えたらさ、もう確かめるしか他にないと思ったわけよ」

 

 親しい者に話しかけるように、あくまで軽快に語る。これから人を殺すとは到底思えない態度、だがだからこそ彼は饒舌に語るのだ。

 

「そしたらこんな物見つけちゃってさ、家の土蔵にあった古文書? みたいな奴なんだけど」

 

 少年に見えるように、手に持っている本を見せる。

 

 それはかなり古いもので、所々虫食い穴で読めないが、辛うじて日本語としてわかる。恐らく数十年前の古い言い回しで書かれたものだ。

 

「どーも家のご先祖様、悪魔を呼び出す研究をしてたみたいなんだよね~、そしたらさ、本物の悪魔がいるかどうか確かめるしかないじゃん?」

 

 最近マンネリ化してきた”死の探求”。映画やゲームで始め、偽の死を見て興味が出始め、死とは何かと考え始めた、次第に蟲から動物。果ては人にまでエスカレートしていった。

 

 初めて手に掛けた姉は今でも覚えている。あれが真に命と、そして死と向き合った瞬間であり、そこから決壊するのは早かった。その後は日本各地をフリーターとして回り、すでに三十人近く殺してきた。そのどれもが違う殺し方で、一人殺していけばいくほど死についてわかり、そして遠のいていくのが分かった。

 

 近くて遠い、龍之介にとって”死”とは永遠のテーマであり、彼は異端の芸術家、探究者でもあった。

 

 元来人より無気力な人間で、しかし死の本質を見分けるのが得意なあまり入れ込み、拘りと好奇心に突き動かされ生きている芸術家肌。それが彼、『雨生 龍之介』であった。

 

 ただ最近は、彼の芸術活動が一時スランプ状態になり、ここは一旦原点回帰と初めて殺した姉を隠した実家の土蔵まで来て見つけたのが、彼が今持っている本であり、書かれている内容を読んでいくと龍之介はすぐさまインスパイアされたというわけだ。

 

 言葉の節々からも、その行いを楽しむかのような喜色を孕んでいる。これから行うことに対する純粋な好奇心や、もしかしたらという淡い希望を龍之介は隠そうともせずに。

 

「でもねー、万が一本当に悪魔とかが出てきちゃったらさー、何の準備もなく茶飲み話だけってのも間抜けな話じゃん?」

 

 どちらかと言えば自分の危険よりも、相手に対しての敬意。そういったものの方が、龍之介は悪魔に対しての深い尊敬の念を抱いていた。

 

 故に……

 

「だからねー坊や……もし悪魔さんがお出まししたら――一つ殺されて見てくれない?」

 

 くぐった悲鳴、縛られた体を必死に動かし彼から逃げようとする少年。

 そんな少年の様子がおかしかったのか、龍之介は何気なしに見た番組が、思いのほか面白かったかのように笑う。

 

 元々あまり期待していなかったことだ。できたらいいな程度の感覚、龍之介自身重要なのは結果ではなくその過程、儀式を行うことて、今まで違った視点で死を知るということが何よりも重要なのだ。

 

 もちろん本物の悪魔が来てくれたらうれしい、そこからは少年を生贄にでもして、自分の死について語らい、できれば教えもいろいろ乞いたいとも思っている。

 

 しかしここまで良い反応をしてくれるとうれしいものだと、龍之介は思う。

 

 両親を目の前で拷問し、殺し、血を抜き、今の至るまで見せたかいがあったものだと。

 

「悪魔に殺されるのってどんなだろうね? 貴重な体験だとは思うよ。そうそう滅多にあることじゃないし――痛っ」

 

 少年の反応に笑っていると、龍之介は左手に鋭い痛みを感じた。

 

 次第にそれは僅かに発光しながら浮かび上がり、次第に消えながら、残ったのは血のように赤く、羽のような文様が浮かび上がる。

 

「……なんだ、これ?」

 

 その直後――異変は起きた。

 

 血で描いた魔法陣に光が灯り、プラズマが舞い、エーテルが部屋を充満する。

 作り物ではない非現実。形容するならこれ以外は無いだろう。

 普段なら鼻で嗤うような子供騙しの演出。軽蔑していた低級なホラー映画を見ているような感覚。

 ただ一つだけ違うのはこれがブラウン管に映し出された虚像ではなく、目の前の現実に起きているという点。

 龍之介はただその光景に目を奪われながら呆然と立ち尽くすだけであった。

 

 次第には立っているのも危うくなるほどの突風が吹き荒れ、虚像であるのならばそこに映るはずであろうテレビ等の家具ですら吹き飛ばし壊していった。

 淡く光っていた魔法陣は光度を増していき、中心からは赤黒い霧が吹き出した。

 

「――問おう」

 

 立ちこめた霧の中から、悪意に満ちた部屋に似つかわぬ、悪魔とは程遠い年端もいかない少女の声が聴こえる。

 

 風は止んだ。光もまた闇へと帰っていった。霧が引き出てきた影は年端いかない子供のもの。

 

 月明かりに照らし出された姿は凄惨な部屋にはあまりにも場違いで、しかし、その紅き双眸は見るものに恐怖を与えただろう。

 

「聖杯を求め、神の奇跡にすがりつく愚かなる子羊よ。此度、キャスターのクラスとして、ここに私を喚び、求めた召喚者と言うのは貴方で間違いないかしら」

 

 結果として成功に終わった悪魔召喚の儀式は、同時に龍之介の聖杯戦争への強制参加を告げる合図になった。




あびゃぁぁぁ……まどマギ打ちたいんじゃぁぁぁ~
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