うずまきウシオ転生伝   作:zaregoto

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中忍試験

 歌う。

 

 戦場で歌う。ただ、思いのままに歌う。

 

 それがアタシの役目。それがなければ、アタシではない。

 

 首を捻る。切り刻む。そう、歌っている。これがアタシだ。

 

 例え、選ばれなくとも、そうしていく。

 

 しかし。

 

 しかし、選ばれなかったことは、相当なダメージだった。頭を過るのは、あの男の顔。今でも消えない。

 

 だからこそ、アタシは──するのかもしれない。

 

 これでも、善であると定められてきた者だ。誰かのために戦い、殺す。しかし、今回ばかりは、今回だけは、アタシのために、アタシが戦う。そして、殺す。

 

 ささやかな願い。ささやかだからこそ、重く、深い願い。

 

 悪と呼ばれても構わない。元来、アタシはそういう人間だ。それをそうさせてこなかったのは、彼のお陰だ。

 

 ゆえに。

 

 ゆえに、ゆえに、ゆえに。

 

 彼を必ず殺す。アタシの─ゆえに、──する。

 

 それが、アタシの願いだ。

 

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「天の書と地の書は手に入れたな。後は、イタチだけだが」

 

「手こずってるんじゃない?」

 

「そんなはずはない」

 

「だよなー」

 

 ウシオと、アスナは二次試験の予選が行われる死の森の、ゴール手前で待機していた。始まって凡そ三十分。本来なら、これほどの速度で、3つある書を集めることはできない。

 

 しかし、ウシオ班は違った。彼らは、チームワークを優先するが故に、あえて散開し、それぞれが書を見つけることにした。チームワークとは、信頼であり、その信頼があるがゆえの作戦である。

 

 予選の内容は毎回違う。今回の予選は、死の森の中に配置されている三つの書を見つけ、内容を照らし合わせ、暗号を試験官に伝えること。一言一句間違えずに。

 

 内容は少し確認したが、一次試験の時のアホみたいな問題よりも簡単だ。キチンと知識を蓄えていれば、推測は可能。だが、それゆえに確実性が求められる。簡単ゆえに、合っているのか?という疑問が生じてくる。間違えれば即失格だ。制限時間は長い。三つ集めれば、確実だろう。

 

「嫌な課題だ」

 

「え?」

 

 ウシオは眉にシワを寄せながら口を開いた。アスナは、なんのことか分からないような顔をしている。

 

「考えてもみろよ。暗号が分かりさえすればいいんだ。三つの書の数が少ないのは、そういうことだろう。書なんて重要じゃない。重要なのはその後。その書の内容だ。言うなれば情報戦だろうな」

 

「情報・・・」

 

「情報を共有し、手を組むのもよし。偽の情報を流し、ライバルを蹴落とすのもよし。信じられるのは、同じチームの仲間だけ、か。この課題を考えたのは、よほど性格が悪いんだろう」

 

「つまり、情報を精査する力が重要ってこと?」

 

「ま、そんなところか。失敗したのは、これほど早くに集める者がいることを考えていなかった、ことだけだろうな。ざまーみろ」

 

 ウシオは悪い顔をした。そして、天の書と地の書をもう一度開いた。

 

「ここに書かれているのは、忍の三禁についてだろう。酒、金とくれば、恐らく最後は女。初歩中の初歩だな」

 

「え?でもそれって・・・」

 

 ウシオが少しだけ声のボリュームを上げながら言った。しかし、アスナは怪訝そうな視線をウシオに向け、何かを言いかけた。その時、多く存在する巨木がガサガサと動き出した。

 

「何!?」

 

 アスナはその方を向いた。すると、その音がした巨木の上から、草隠れであろう忍が現れたのである。

 

「バカなやつらだ。ここに来るものを狙っていたら、そっちが勝手に情報を漏らしやがった」

 

「・・・」

 

 ウシオは黙ったままだ。

 

「悪いが俺たちは先にゴールさせてもらうぜ。まさかこれほど早くゴールできるとはなぁ!ここにいて正解だった!」

 

 そう言うと、草の三人はゴール付近にいる試験官の元へと走っていった。

 

「ざまーみろだ」

 

 ウシオはさらに悪い顔をした。

 

「情報戦ってこういうことね。いつから気付いてたの?」

 

「最初からだ。風に逆らう動きがあった木があったからな。初めから勝負もしないような臆病者がいるんだろうと思った。だから仕掛けた(・・・・)

 

 三人が消えてから数分後、先ほど啖呵を切っていた男の悲痛な叫びが聞こえてきた。

 

 これは情報戦だ。ウシオが言ったような臆病者も、間違いではない。それも手段であり、正当だ。正当だからこそ、ウシオも正当で返した。偽の情報を流して。

 

「一応言ったつもりだ。偽の情報に惑わされるなよってな」

 

 天と地の書に、本当に書かれているのは、恐怖と侮り。恐らく最後の一文字は迷い。これは、忍の三病と呼ばれる、陥ってはいけない想いである。

 

「これも初歩の問題だが、本当にこれかは分からない。試験官も、問題、とは言ってなかったからな」

 

 そう。暗号だ。別に三病に拘らなくてもいい。ゆえに照らし合わせる必要がある。本当に、嫌な課題だ。

 

「まだ気付いたことがある」

 

「え?」

 

 ウシオはまたもアスナに言った。

 

「二次試験が始まる直前、一次にはいなかった顔があった」

 

「そ、そうなの?」

 

「多分な。そいつらが、この戦場を掻き回す役目を与えられてるんだろう」

 

 それは三人とも木の葉の額当てをしていた。極力目立たないようにはしていたが、隠れてはいなかった。見つけるのも試験の内ということだろう。

 

「つまり、一次の時点で二次の内容も帯びていたわけだ。一次が、ただの忍術に関する問題で、少し難しい程度だったのが気掛かりだったが、二次が始まる時点でその意図に気付いた。恐らく、気付いた者もいるだろう。イタチは気付いていただろうから、言わなかったが」

 

「私は別ですか」

 

 あからさまにむくれるアスナ。ウシオはそれを見て固い表情を崩して笑った。

 

「お前は、すぐに表情に出るからな。猪突猛進的なところがある。悪かったな、黙っていて。情報戦だ。仕方ない」

 

「バカにされてるのは分かってるぞこの野郎」

 

 普段の任務よりは平和だ。だが、この試験にも人死には出る。気を抜いてはいけないが、むくれているアスナを見ていたら、ウシオも気を抜かざるを得なかった。

 

「さて、イタチだが、少し遅いな」

 

「そうだな」

 

 この時間帯でも明らかに早すぎるが、ウシオは些か不安ではあった。イタチの噂は里内外でも広まっている。

 

 袋叩きにされてなければいいが。一応、向かう準備でもしておくか。

 

 ウシオは、少しだけ緩んだ額当てを外し、縛り直した。

 

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 数は12。4つの班が結託しているか。

 

 ウシオの想像通り、イタチは手を組んだ他の受験生たちに囲まれていた。イタチの評判は伝え聞かれている。イタチを潰しておけば、今後の本選が楽なものになるとふんだのだろう。

 

「うちはイタチ!お前をやれば、評判も上がり、これからの試験も簡単になる!大人しく降参しろ。お前でもこの人数を相手にするのは難しいだろ!」

 

「・・・」

 

 イタチはゆっくりと忍全員の顔を見る。他里の忍もいれば、木ノ葉の忍もいる。それだけ、イタチは危険視されているということだ。

 

 しかし、イタチは表情ひとつ変えず、ゆっくりとクナイを取り出した。そして、瞬身の術で一人ずつ倒していく。もちろん峰打ちだ。死んだとしても文句は言われないが、それは避けたい。イタチはそう考えていた。

 

「はっ!!」

 

 一人ずつ、一人ずつ。倒す。

 

「は、速い!くそ、ここは逃げ・・・」

 

「逃がさない」

 

 逃げていく忍も仕留めた。そして、残ったのは木ノ葉の額当てをつけた忍だ。

 

「流石は、うちはイタチだ。我らの一人と互角に戦っただけのことはある」

 

 木ノ葉の忍が、いきなりそう言った。イタチは怪訝な表情を向ける。そして、たまらず、口を開いた。

 

「あなたは、いや、あなたたちは誰だ」

 

 少しだけ口角をあげ、その忍は口を開く。

 

「あの時、うちはシスイと共にいたのは、お前ではなかったのか?うちはイタチ」

 

 あの時。そう言われ、イタチはすぐに距離をとった。

 

「何故、ここに暗部がいる!」

 

「ダンゾウ様からの命令だ。お前たちの班を監視しろとな。と思えば、なんだお前たちは。この試験の趣旨を理解しているか?開始と同時に別れるなど・・・。おかげで、お前しか見つけることができなかった。・・・流石は当代一のエリートチームと言うべきか」

 

「答えになっていないぞ。何故俺たちを監視している」

 

 暗部の一人が、暗部の面を被りながら言う。

 

「三代目の娘は別だが、お前たち二人には興味がある。うちはの金の卵であるお前と、四代目の忘れ形見であるあの小僧。恐らくダンゾウ様が言いたいのはこうだ。お前たち、暗部に入らないか?」

 

 イタチはあからさまに嫌そうな顔をした。それもそのはずだろう。この忍たちのやり方は、イタチのそれとは似て非なるものであるからだ。

 

「もちろん、中忍試験ごときに落ちるような忍はいらない。せいぜい頑張ってほしいものだ。根も、人員不足でね。猫の手も借りたいというわけさ」

 

「断れば・・・」

 

 仮面の奥からゆえ、表情は読めないが、恐らく卑しい笑みを浮かべているのだろう。イタチにはそう感じられた。

 

「そこからはダンゾウ様から直接聞け。我らはただ傍観するのみ。これはまぁ、深からず因縁があるからこそ、直接話したかっただけだ」

 

 そしてそのまま、暗部の者たちは、どこかへ消えてしまった。イタチは、消えていった方向を眺めている。

 

「今のは?」

 

 暗部たちが消えてすぐ、背後から声をかけられた。イタチはすぐに振り返ると、そこにはゴールで待っているはずのウシオがいた。

 

「なんでも、ありません。でもここへは、どうして?」

 

 何か重要なことがあったことを理解している顔のウシオ。しかし、それ以上は尋ねることなく口を開いた。

 

「お前にしては遅かったからな。様子を見に来ただけだが、心配はいらないようだな」

 

 ウシオは周辺に転がっている忍を見る。どれも息をしているのを見て、安心したようだった。

 

「人の書は?」

 

「ここに」

 

 イタチは言われて懐から巻物を取り出した。

 

「じゃあゴールへ急ごう」

 

「ええ」

 

 イタチたちはゴールへと急ぐ。イタチは先程のことを考えながら。そしてウシオは、なぜ暗部がここにいたのかを考えながら。

 

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「第一試合は、イタチと、砂のランダ。イタチ、いけるか?」

 

「善戦はするつもりです」

 

 翌日、本選における対戦表が発表された。本選に進んだのは4チーム。総勢12人によるトーナメントだ。

 

 対戦表の前に群がっている他の忍たちを遠くから眺めながら、ウシオたちは話していた。

 

「ここまでは、順調ってことでいいのよね?」

 

「今年は、レベルが低い。これならイタチ一人でも挑めたかもな」

 

「そんなことないですよ。買い被りすぎです」

 

「ま、唯一注意すべきは、ヒカゲだけか」

 

 日向一族宗家、日向ヒカゲ。忍の才には恵まれなかったが、持ち前の努力と、根性で、成り上がった男。日向にしては、熱い男だ。そのせいか、本家のみならず、宗家からも疎まれている。

 

 なんでも、宗家と本家の垣根を越えた人間になるのが夢だとか。そのために火影になるという。熱い男だ。

 

「僕の噂か?」

 

 近づいてくる男が一人。日向ヒカゲその人だ。

 

「ああ。久しぶりだな、ヒカゲ」

 

「ウシオも。任務でひどい怪我をしたと聞いたが」

 

「そんな大したことじゃない。一次の時は話せなくて悪かった。修行があったからな」

 

 ウシオとヒカゲは、熱い握手を交わした。

 

「流石は下忍において随一のエリート部隊だ。風格が違う」

 

 ヒカゲはウシオの後ろにいる二人を眺めながら言った。

 

「だが本選では別だ。この僕が、必ず勝つ。そして中忍になる」

 

「勝ったからといって、中忍になれるとは限らないぞ?」

 

 ウシオは少しだけ呆れたような顔をしながら、ヒカゲにそう言った。

 

「これは僕の信念の問題さ。敗北より、勝利の方が気持ちいいだろう」

 

 ヒカゲはガッツポーズを取りながら、鼻息荒く告げた。

 

「言っていることはまぁいいんだけど、なんか、こう、暑苦しいというか」

 

 アスナは少し引きぎみで呟いた。ウシオはそれを見て頬を弛めた。

 

「へぇ?あんたがうちはイタチかぁ?」

 

 ウシオたちが談笑しているところに、三つの影が迫ってきていた。そのうちの一人が、ウシオたちに話しかけた。

 

「ひょろっちいやつだなぁ?噂は本当かぁ?」

 

 その忍は気に障る笑みを浮かべながらそう声を掛けた。

 

「あんたは?」

 

 アスナが口を開く。その忍はすかさず答えた。

 

「おらぁ砂隠れのランダ。次の対戦相手さぁ。うちはイタチぃ」

 

「・・・」

 

 イタチは瞳を閉じて無視している。関わるだけ無駄だということだろう。見るからにチンピラ感がしてならない。

 

「無視すんなよなぁ!!」

 

 ランダはイタチに殴りかかろうとした。イタチは少し身構えるが、その必要はなかった。

 

「よさないか、ランダ」

 

「ダンリィ・・・」

 

 同じ班のダンリが、ランダの肩に手を掛けて止めたのである。

 

 砂隠れのダンリ。主に風遁の忍術を使う。そう資料に書いてあった。

 

「うちの者がすまないね」

 

「いや、こちらこそ。イタチは無愛想で通ってて、勘違いされやすいからな。そっちにも理解があるやつがいて助かったよ。試合前に問題を起こすのはよくないからな」

 

 ダンリはずっと笑顔だ。と言っても、貼り付けたような笑顔だが。この男も恐らく、ランダと同じ心持ちだろう。ウシオの嫌いなタイプだった。

 

「俺の最初の相手は君だけど、君は、知らないな。うちはの天才の話はよく聞くけれど」

 

 ダンリは最初、というところを強調して言った。どちらかというと短気であるウシオは、その意味を理解して、ダンリを無言で睨み付けた。

 試合はトーナメント方式。一度負ければ敗退で、次の試合などない。それを目の前の少年は、承知の上で、最初と言ったのである。

 

 その時、遠くの方から駆けてくる少女が視界にはいった。その少女は、ダンリたちの側で止まり、ウシオとダンリを交互に見て、言った。

 

「お前ら、何をしてるんだ」

 

「リラ」

 

 ダンリが口を開く。リラと呼ばれた少女は、その場の空気を察知して、詫びをいれた。

 

「すまない、木ノ葉の人たち。うちの者が迷惑をかけた」

 

 ダンリと同じことを言う。しかし、ダンリほどの嫌な感じはしない。リラは、本心でそう言っているのだ。

 

「い、いや!こっちこそごめん。うちの男どもも失礼な態度をとったから」

 

 アスナとリラがお互いに頭を下げる。原因であったところの四人は全く無関心だ。

 

「君、名前は?」

 

 頭をあげたリラが、アスナに聞いた。

 

「猿飛アスナ。よろしく、リラ」

 

 猿飛、と聞いたリラの表情が明らかに変化したが、悪いものではないだろう。

 

「よろしく、アスナ。いい試合をしよう。出来れば、決勝で会えるといいな。行くぞ、二人とも」

 

 リラは身を翻し、試合会場へと行こうとしている。ランダはそれに潔く従ったが、ダンリはそのまま、そこに立ち、残った三人を睨んでいた。そして、口を開く。

 

「ま、せいぜい頑張ろう。いい試合をしようね、よく知らない人(・・・・・・・)

 

 嫌味な男だ。

 

「お前」

 

 ウシオはたまらず声をかけた。去り際だった3人は足を止め、振り向く。ウシオはダンリを睨んだ。

 

「・・・なに?」

 

 ダンリもそれに気づいていた。ウシオは口を開く。

 

「片手だ」

 

「あ?」

 

 何か分からないような顔をするダンリ。ウシオは続ける。

 

「お前を片手で倒してやるよ、砂の忍」

 

 ダンリの血管が浮き上がる。そのまま、ウシオのところへと向かおうとしているが、それをリラが制した。

 

「やめろ、ダンリ。・・・木ノ葉のウシオくん、だったかな?今君は、自分の首を絞めていることに気付かないか?」

 

「それがハンデというやつだろう。悪いな。お前んとこの二人も失礼だが、俺も失礼なんだよ。舐められたまま、帰してたまるか」

 

「・・・」

 

 リラの表情が険しくなる。

 

「・・・行くぞ、すぐに試合が始まる」

 

 リラは何もせずに、会場へと向かっていった。

 

「ちょっと、ウシオ」

 

「やめてくれ、分かってるから」

 

 三人の姿が見えなくなってから、アスナが声をかけた。対しウシオは、頭を抱えた。

 

「バカなことした。あー、恥ずかしい」

 

「正当な対応だ。僕だったら殴り飛ばしていた」

 

 ヒカゲは握りこぶしを作りながら言う。

 

「本当にやったら失格だからな」

 

 アスナが諫めるようにヒカゲに忠告した。

 

「はぁ・・・」

 

 基本的に冷静なイタチも深いため息をついた。

 

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「第一試合、木ノ葉隠れの里、うちはイタチ。砂隠れの里、ランダ。いざ尋常に、始め!」

 

 イタチの試合は始まった同時に終わっていた。

 

 イタチの写輪眼を、ランダは見てしまったのである。その瞬間、ランダは動きを止めた。幻術にかけられてしまったのだ。

 

 イタチは、動きの止まったランダにゆっくりと近付き、首筋にクナイを押し当てた。そして、審判をちらりと見る。審判は急いで、試合の終了を告げた。

 

「し、勝負あり!勝者、うちはイタチ!」

 

 わずか十秒弱。ウシオやアスナ以外の、会場に来ていた忍が困惑と驚愕が入り交じったような表情をしていた。

 

「ま、相手が弱すぎたか、イタチが強すぎたかのどちらかってことね」

 

「その両方だろ。まぁ第一試合でこれを見せられたら、後の試合のハードルがあがるわな」

 

「やめてよ、そういうこと言うの」

 

 次はアスナの試合があった。ウシオは、敢えてそういうことを言ったのだ。

 

 その時、控え室の扉が開いた。試合を終えたイタチが帰ってきたのである。

 

「お疲れイタチ。流石ね」

 

「そんなことは」

 

「謙遜することはねーよ。流石はうちはの金の卵」

 

 無表情、よく言えばクールに対応するイタチであったが、心なしか嬉しそうであった。

 

「さて、次の試合はアスナ、お前だけど。大丈夫か?」

 

「ま、大丈夫よ。イタチ、あんたほど簡単には終わらせられないかもだけど」

 

 すぐに次の試合が始まる。アスナは肩を回しながら控え室を後にした。

 

「さて」

 

 扉を閉じたところで、アスナは一息ついた。

 

 イタチもウシオも優秀だ。イタチは通過。もちろん、ウシオも次の試合をすることができるだろう。ワタシだけ敗退っていうのは、少し恥ずかしい。

 

「頑張る、か」

 

 アスナは少しだけ重い一歩を、踏み出した。

 

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 犬塚ガルは忍犬を従えていない。本来あてがわれるはずの忍犬が存在しなかった。

 

 だが、できないわけではない。彼は忍犬に愛され過ぎているがゆえに、従えることができないのだ。異常に動物に愛される人間を見たことはないだろうか?彼はそれだ。

 

 彼が一匹を愛すれば、他が嫉妬する。一族内の忍犬に関する均衡が崩れてしまうのだ。専門家が言うには、彼から特殊なフェロモンが溢れているのだという。

 

 ゆえに、彼は一族内では異端であった。

 

「はぁっ・・・はぁ・・・」

 

「息が上がっているぞ、三代目火影の娘」

 

 第2試合目。猿飛アスナ対犬塚ガル。アスナに相対するは、ガル一人ではなく、無数の忍犬たちだった。

 

「ウォォォォーーーン!!!」

 

 ガルは会場内に響き渡るほどの遠吠えをする。試合開始時点もそれを行った。その結果がこれだ。里の中にいる無数の忍犬たちを、ここに呼び寄せたのだ。

 

 ガルの遠吠えに、会場の忍犬が反応する。忍犬たちは狂ったように、アスナの方向へと、牙を剥きながら走っていった。

 

「このっ・・・!!」

 

 アスナは出来る限り傷をつけずに、忍犬を攻撃する。しかし、痛みを感じないようで、飛ばしても飛ばしてもすぐに起きあがって向かってくる。

 

「狂犬の術。俺にしか使えない術だ。深すぎる愛情がなければ、狂うことが出来ないからな」

 

「こんな、もの!」

 

 アスナは風遁の印を組み、群がる忍犬を吹き飛ばす。

 

「これは、大丈夫なのでしょうか」

 

「ん・・・」

 

 上で眺めている班員の二人も、表情が曇る。明らかに多勢に無勢というものだ。優秀といえるアスナでも、この量の敵と闘うのは、困難といえる。

 

「とにかく、黙ってみていよう。アスナは、強いからな」

 

 ウシオも口ではそう言うが、内心不安であった。不安だからこそ、その感情を口に出すわけにはいかないからだ。

 

「牙乱牙!!」

 

 ガルがそう発すると、忍犬たちは空中に飛び上がり、ものすごい早さで回転した。そのまま、アスナの方へと突撃する。

 

「くっ、火遁・灰積焼!」

 

 アスナは忍犬が自分に直撃する直前に、真上に飛び上がった。そして、下方目掛けて火遁を放つ。本来なら、火打ち石を使いこの高温の灰に着火する。火打ち石を持たないアスナは、それを目眩ましのために使った。

 

「キャウン!!」

 

 それでも高熱だ。少しでも吸い込めば、熱さに耐えられないだろう。アスナに向かってくる忍犬は、いなかった。

 

「これで大丈夫かし、ら?」

 

「悪いけどな、この術はそんな柔なもんじゃない」

 

 そうガルが言い放つと、すぐに遠吠えをした。倒れている忍犬の耳が微かに動き、むくりと起き上がる。

 

「狂犬の術は忍犬の脳神経に働かせる音を使う。体が使えないわけではない限り、何度でも起き上がるぞ」

 

 犬塚一族とは思えない術だ。

 

 距離をとったアスナは、少しだけ考えた。このままやられれば、観覧している父に恥をかかせる。それに、イタチやウシオに面目がたたない。

 

 やるか。

 

 アスナは自分の親指を歯で切り、血を流す。それをそのまま片方の手のひらに押し付けた。そして、それを地面へと押し当てる。

 

「口寄せの術!」

 

 アスナの周りに印が広がる。そして少しの煙が発生した。

 

「口寄せ、だと?」

 

 ガルは身構える。そんな情報はなかったからだ。

 

 徐々に煙が晴れる。晴れたところから、少しずつその肢体が露になっていく。毛むくじゃらの腕や足。

 

 ガルの中でひとつの結論に達する。猿飛一族の使う口寄せ動物と言えば、だ。

 

「行くわよ、猿魔さ・・・ってええ?!」

 

「呼んでいただき光栄ですぜ、姉さん」

 

 現れたのは、アスナの予想していたものとは違っていた。父が契約している口寄せ動物ではなかったからだ。

 

「あれは・・・」

 

 ウシオは目を凝らして、煙が晴れた場所を見やった。

 

 アイツは、俺やアスナが小さい頃に遊び相手だった・・・。

 

「なんで小猿魔が出てくるの!?」

 

「いやぁ、親父殿は忙しくて」

 

 小猿魔はそう言ったあと、小声で、本当はあんな小娘の相手などしてられるか、と言ってたなんて口が避けても言えないでしょ、と言った。

 

 それが聞こえてしまったアスナは血管を浮き上がらせながら、小猿魔にげんこつを食らわせた。

 

「大きなお世話よ!」

 

 小猿魔は殴られたところをさすりながらさらに口を開いた。

 

「イテテ。それに、姉さんのチャクラ量で親父殿を口寄せできるわけないでしょ」

 

「それは、そうだけど」

 

 アスナは肩を落とした。しかし、落ち込んでいてはいけない。ここは戦場だ。今まさに戦闘の最中。ガルそれを見ていてくれるのだから、根は悪いやつではないのだろう。

 

「もういいか?」

 

「え、ええ!!もうアンタでいいわ!ここから反撃よ!」

 

「あいよ姉さん!変化!」

 

 小猿魔は如意棒と呼ばれる武器に変化した。三代目が契約している猿魔が変化するものとは大きさが違うが、アスナが小さい頃に目にしていた小猿魔は、変化ができなかった。それだけで、今は目を見張っている。

 

「はぁ!!」

 

 アスナは如意棒を振る。長さが変わるそれは、二人の間にかなりの距離があったのにも関わらず、その一撃を届かせた。ガルは届くとは思っておらず、その一撃をもろにくらってしまった。

 

「がはっ!?」

 

 吹き飛ばされるガルだが、いつの間にか起き上がっていた忍犬がガルを支え、勢いを殺した。

 

「くっ!?」

 

 いくら術で強化しているとはいえ、忍犬たちの疲労は目に見えていた。しかしガルは構わず、その忍犬たちを踏み台にした。

 

「牙独牙!」

 

 そのまま1人で回転し、アスナへと突っ込む。

 

 アスナは如意棒を反回転させ、その回転に対応した。勢いを失ったと悟ったガルは体を半回転させ、足をアスナに向けてから、その如意棒を蹴り飛ばし、即座に後方へと飛んだ。

 

「器用なことを!」

 

「あ、姉さん。人使い、いやさ猿使いが荒いですよ!」

 

「五月蝿い!それどころじゃないでしょ。でも、あいつの戦い方、なんだか・・・」

 

「そうですね。とてもとても歪」

 

 後方へと飛んでいたガルは、近くで倒れていた忍犬を、起きろとでも言うかのように、足でこづいた。忍犬、ゆっくりと起き上がり、アスナたちを睨み付ける。

 

「可哀想。とても」

 

 アスナは決心する。この忍を救うと。父は火影で、みんなの家族のようなものだ。その娘が、可哀想な人を救えなくてどうする。

 

「小猿魔、戻って!」

 

「あいよ、姉さん」

 

 小猿魔は元の姿に戻る。

 

「合わせて!火遁・火炎弾!」

 

 アスナの声に合わせて、小猿魔も同じ術を放った。二つの術が重なりあい、大きな炎となった。

 

「くっ!獣人変化!」

 

 ガルの側にいた二匹の忍犬が、ガルと同じ姿に変化する。

 

「牙風牙!」

 

 そしてそのままそこで回転し、大きな竜巻を起こした。竜巻は放たれた炎を纏いながら、逆にアスナの方向へと向かっていった。

 

「え?!くそっ!」

 

 大きな火を纏った竜巻だ。風遁で押し返すことは出来ないだろう。

 

「小猿魔!変化!」

 

「あいよ!」

 

 再度如意棒に変化させ、その如意棒を地面に突き刺し、長さを伸ばした。そして、空中に飛ぶ。

 

 その瞬間を、ガルは見逃した。アスナの姿を見失ったのだ。そもそも、狂犬の術は膨大なチャクラを使用する。ガルの疲労も当たり前のものだった。焦りか、疲労か、ガルの視界は狭まっていた。自慢の鼻も、竜巻による追い風で上手く作用しない。

 

 辺りをキョロキョロと見回しているガルを、アスナは見逃さなかった。

 

「小猿魔!戻って私を吹き飛ばして!」

 

「はい?!でも・・・」

 

「いいから!」

 

 小猿魔は頷き、空中で元に戻った。そして、風遁でアスナを吹き飛ばす。

 

「くらえーーーッッッ!!」

 

 アスナが叫ぶ。それに気づいたガだったが、時すでに遅し。

 

「・・・そこ、ぐふぅっ!!」

 

 ものすごい速度でガルへと向かっていったアスナは、そのまま、拳を構えて、ガルへと叩き込んだ。

 

 ガルは頭部を地面に叩きつけられた。共に、アスナもその場に叩きつけられる。

 

 その衝撃で砂煙が舞った。

 

 観衆は固唾を飲んでその砂煙が晴れるのを待った。一つ、立ち上がる影。勝者は。

 

「勝者!木ノ葉隠れ、猿飛アスナ!」

 

 意識を失っているガル。その周りに、ぼろぼろになった忍犬たちが心配そうに近づいていった。軍配は、アスナに上がったのだ。

 

「犬猿の仲って知ってる?今回は、猿の勝ちってことで!少しはそこで、頭を冷やしてなさい!」

 

 アスナは息を切らしながらも、笑顔でガルに言い放った。

 

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「すまない、お前たち」

 

 ガルは医務室で、側にいる無数の忍犬にそう告げていた。しかし眠っているようで、返事はない。

 

 その時、医務室の扉が開いた。

 

「無事か?ガル」

 

「ヒカゲ、ミツ・・・」

 

 同じ班員の日向ヒカゲと油女ミツである。

 

「そろそろ、その戦い方をやめたらどうだ。結果、傷つくのはお前たちだろう。たとえ合意の上でも」

 

「・・・」

 

 ガルは押し黙った。これは、自身にとっての拒絶だった。わざと辛くあたり、愛されることをやめさせようとした。しかし、自分の特殊な体質のせいで、こういうことになる。

 

「これでいいんだ。こうすれば、俺は完璧に一族から勘当される。そうすれば、忍犬と関わることはない」

 

「一族の縁ってのは、簡単には切れないぞ、ガル」

 

 ヒカゲは怒りながら言った。その時、ミツが一歩前に出て、寝ているガルの傷を見やった。そして、自分の虫をその傷へと誘導する。

 

「私の虫は、傷を治す」

 

 マゴットセラピー。特殊なチャクラを放ちながらその傷を食べることで、組織を良いものへと転換する。絵面は最悪だが、効果は絶大だ。

 

 絵面は最悪だが。

 

 コンコン。

 

 その時、医務室の扉が音を出した。そして、扉が開かれる。入ってきたのは、ウシオとアスナだった。

 

「傷はどう?ガル」

 

 先に言葉を発したのはアスナだった。ガルは少しだけ笑いながら答えた。

 

「お陰さまで。効いたよ、猿飛アスナ」

 

「だろうね、そのための拳だから」

 

 敢えて、ただの拳を叩き込んだアスナだった。小猿魔のサポートはあったが。

 

「あんたが何を考えてるか、少しだけ分かる気がする」

 

 アスナは、ガルを一点に見つめながら言う。

 

「でもね、それは少し違うんだよ」

 

「お前はお前、俺は俺。関係ないことだ」

 

「関係ないかもしれないけど、これだけは教えといてあげる」

 

 アスナはもう一歩前に出て、ガルに言う。

 

「生き物は、絶対に独りになんかなれないんだよ。自分が独りだと思ってても、必ず誰かに愛されてる。あんたは、あんたの体質ののせいで愛されてると思ってるんだろうけど、違う。本当に愛されてるから、ここまでボロボロになってもあんたのために闘うんだ」

 

 ウシオたちは知っていた。親兄弟もおらず、犬だけが遊び相手だったガルのことを。あれはガルの体質に洗脳されてるわけじゃなかった。もちろん、それもあるが、それはきっかけだったのだろう。それを差し引いたとしても、ガルは愛されていた。

 

「何も分からないくせに、偉そうなことを言うな!」

 

「起き上がらないで。食事中」

 

 起き上がろうとするガルを、ミツが睨み付けながら制止した。その迫力に気圧されたガルは、大人しく横になる。

 

「分かる、って言ったら怒られるのは分かるよ。私のなんて、ただのワガママみたいなもんだから」

 

 家族の不安定さが、少し前のアスナを作り出していた。それも、あの任務がきっかけで改善されたと言えるだろう。

 

「だからこそもう一回言うよ。この私がそう気付けたんだ。だから、あんたも分かるはず」

 

「・・・」

 

 ガルの表情が、少しだけ柔らかくなった。

 

「もう、言わないよ。もうすぐウシオの試合だから、いかないといけない。だけど、覚えておいてね」

 

「ガル」

 

 話終えたアスナに続いて、ウシオが口を開いた。

 

「愛されるのが嫌なら、同じようなやつと組めばいいんじゃないか?」

 

「は?あんた何言ってんの」

 

 感動的な終わり方をしたと思っていたアスナが、呆れたように言った。

 

「少し前の任務で、ちょっと厄介な忍犬に会ったんだ。お前が面と向かって合わせなきゃいけない相手なら、お前も気が楽なんじゃないか?アイツなら多分その体質関係ないと思うぞ。関係あってもアイツは腹ん中に仕舞いこむはず」

 

 それはまだ、ウシオが旧第三班だったころの任務。犬塚一族の忍犬ではないソイツを捕まえるために、森の中を奔走した。ソイツは里と渡り歩いて、悪さばかりしていたらしい。ある情報筋で、木ノ葉に来ていると判明したゆえに、捕獲任務としてウシオたちに与えられた。

 

「多分まだどっかで捕らえられてるはずだ。色んな里から嫌われてるからなアイツ」

 

 そう言いながら、ウシオは扉へ歩いていった。アスナも急いで、少しだけ複雑な表情で、着いていく。

 

「あとでじーちゃんに相談してみるよ。最強のコンビが生まれるってな」

 

「じゃあね、ガル。頑張って」

 

 二人は外へ出ていった。唖然とした表情で残された三人は見送る。それから、ヒカゲは吹き出した。

 

「嵐のような奴らだったな!流石は当代一のエリート!」

 

「暑苦しいぞ、ヒカゲ」

 

 笑い飛ばしたヒカゲをガルは少しだけ嫌がった。ミツはじっと食事中のマゴットを見ている。

 

「よかったな、ガル」

 

 急におとなしい声でそう言ったヒカゲ。

 

「・・・気持ち悪いぞ、ヒカゲ」

 

 ガルは笑顔を隠しながら、ヒカゲにそう言った。

 

--------------------

 

「第四試合、木ノ葉隠れの里、うずまきウシオ。砂隠れの里、ダンリ。いざ尋常に、始め!」

 

 審判である忍が試合開始の号を発する。

 

「試合前の言葉、今撤回してもいいんだよ?」

 

「大丈夫。ほら」

 

 ウシオは包帯でぐるぐる巻きにした左手を見せつけた。ダンリはニヤリと笑う。

 

「威勢がいいのは結構だけど、それで負けたら元も子もないからね?」

 

「俺は必ず約束を守る。忍として当然だろう。それに、こういう状況で本気で戦えるってのは、経験として悪いもんじゃないからな」

 

「俺を、舐めない方がいいよ。これでも砂ではやる方だから」

 

「言うだけならどうとでも言える。だから俺は、目に見える形にしただけだ」

 

「もう一度言うよ。俺を、舐めないほうがいい」

 

 ダンリから、笑顔が消える。本気、ということだろう。

 

「君たち!早く試合を始めなさい」

 

 審判が、話しているだけのウシオたちにしびれを切らし、注意した。それから、少しの間静寂が訪れる。言い知れない空気が、会場全体を包み込んだ。

 

 初動は、ダンリであった。

 

 ダンリはウシオの懐へと飛び込んだ。そして、クナイを取り出し、ウシオ切りつける。ウシオは冷静に、そのクナイが持たれている腕を掴み、ダンリを空中へ背負い投げした。

 

 しかしダンリは空中で体勢を整え、危なげなく着地する。ダンリは一瞬ウシオを見失った。ウシオは、その一瞬を見逃さず、駿足でダンリの背後にまわった。

 

「なっ!?」

 

 ダンリは背後の気配に驚きの声をあげるが、時すでに遅し。気付く頃には、ウシオがダンリの背中に掌底を食らわせ、吹き飛ばされていたのである。

 

 今度は体勢を整えることが出来ず、地面に叩きつけられながら飛ばされていた。

 

「一挙動遅いな。後の先を読め」

 

「舐めるな!!風遁・爆裂風掌!」

 

 ダンリは素早く印を組み、ウシオへと術を放った。ウシオはそれを後方へと飛ぶことにより回避する。ウシオの手前で爆発が起きる。

 

 速くて少しだけ見えにくかったが、烈風掌に起爆札を仕込んだようだ。口だけってわけじゃなさそうだ。

 

 ウシオは、あの時のチャクラ刀を抜く。そこに火遁のチャクラを流し込んだ。チャクラ刀は熱を帯び、刀身は赤く染まった。

 

「風遁と分かり、火遁で来るのか」

 

「この刀には、ほとんど雷遁しか流したことがなくてな。いい機会だと思っただけだ」

 

 このチャクラ刀は思い出の品だ。これからも使っていきたい。やはり実戦はいい。術の試しにもなる。

 

「はっ!」

 

 ダンリは跳躍し、ウシオのすぐ側まで寄った。その最中ダンリは分身の術の印組みをし、二人になっていた。

 

 ウシオは先行していた分身を切りつけた。しかしその瞬間、消え去るだけのはずの分身体が人一人吹き飛ばすほどの風を発したのである。

 

 風遁分身か!

 

 ウシオはチャクラ刀を地面に突き刺し、その衝撃を和らげた。それでも体は少し運ばれた。ウシオが通った道は、微弱な炎の道を作っていた。

 

 本体は!?

 

 ウシオは辺りを見回す。姿はない。

 

 上か!

 

 すぐに上を見ると、太陽を背にしたダンリが空中にいた。

 

「くっ!?」

 

 ダンリが太陽を隠しているとはいえ、全てではない。ウシオは眩しさに、思わず目を瞑ってしまった。

 

「いくら火遁と言えど、そのチャクラ刀一本では、この術は防ぎきれまい!!風遁・疾風斬波!」

 

 無数の風の刃が、ウシオを襲う。ダンリは勝利を確信した。この試合は、死者が出ても不問とされる。手加減をする必要がないのだ。

 

 しかし。

 

「ぐあっっ!!」

 

 悲痛な声をあげたのは、ダンリであった。ダンリは空中から地面へとものすごい速度で叩きつけられる。

 

 その衝撃で砂煙が舞った。

 

「・・・どうなったの?」

 

「大丈夫ですよ、アスナさん」

 

 試合場の上から見ていた二人は呟いた。アスナは心配そうな顔をしているが、イタチはそのような顔はしていない。

 

「チェックだ」

 

「・・くそぉっ!」

 

 砂煙が晴れると見えてきたのは、地面に俯せに倒れたダンリの首筋に、チャクラ刀を突き立てているウシオの姿であった。

 

「勝負あり!勝者、木ノ葉隠れの里、うずまきウシオ!」

 

 戦闘の続行は困難だろうと判断した審判が、試合終了の号を発した。ウシオは、突き立てていたチャクラ刀をダンリから離し、鞘へ納めた。ダンリは俯せのまま口を開いた。

 

「それは、瞬身の術か?いや、それにしても、お前は目をやられていたはずだ」

 

「飛雷神の術だ」

 

「飛雷神?それは、黄色い閃光の・・・。なるほど、そうか。お前が、閃光の忘れ形見か。赤き雷鳴」

 

 ダンリは俯せの状態から仰向けへと戻しながら言った。

 

「マーキングは・・・そうか、あのときか」

 

 ウシオは始めの掌底で、すでにマーキングを施していた。その時点で、ほとんどウシオの勝利であったのだ。あとは、隙を伺うだけ。勝利を確信してしまったダンリが、失敗しただけの話だ。

 

「勝利を確信したいときは、心の中だけにしろ。自惚れは禁物だぞ、ダンリ」

 

 いつの日かに父に言われた言葉を、そのままランダへと言う。

 

 ウシオは倒れているダンリに手をさしのべた。ランダは気恥ずかしそうにその手を掴んだ。

 

「完敗、か」

 

「そうでもない。一度は包帯を取ってしまおうかと悩んださ。マーキングが出来ていなかったら負けていた」

 

「だが、瞬殺だった」

 

 ウシオとダンリの試合が始まって、ものの数分だった。確かに瞬殺だったが、殺し合いとは本来こういうものだ。

 

 ダンリはウシオに助けられながら立ち上がる。その時、会場からは、まばらだが拍手が起こった。忍世界の未来が、この試合会場で垣間見えたのである。しかしそれをよしとはしない者もいた。

 

 同盟を組んだとはいえ、戦争の傷は癒えない。いがみ合いはまだ、続いているということだ。

 

「いい修行になった、ウシオ(・・・)

 

「・・・!」

 

 名前を呼ばれて、少し驚いたウシオだったが、なにも言わずにいた。そのまま、二人は同時に振り返り、自分達の控え室へと帰っていく。

 

 控え室に戻っていく二人の顔はどこか嬉しそうだった。

 

-------------------

 

 そのあとの結果はこうだ。

 

 第5試合、日向ヒカゲVS草隠れのザソウ。これはヒカゲの圧勝。ヒカゲの柔拳が、ザソウの全てを圧倒した。

 

 第6試合、油女ミツVS草隠れのハナ。そもそもミツは戦闘タイプではなかったが、奮闘。しかし、ハナに一歩及ばず敗退。

 

 これにて、本選の1日目が終了した。

 

 どの試合も見ごたえのあるものばかりであった。どの忍も中忍になるに値する。だからこそ難しい。この中からそれを選ばなければならない。

 

 レベルが高ければ高いほど、そのハードルもあがる。

 

 明日はもっと見ごたえのあるものになるだろう。

 

 しかし。

 

 まさかアスナが小猿魔を口寄せするとは。嬉しいような悲しいような。成長しているのだな。

 

 子供の成長というのは、とても早い。

 

「三代目、どうだった?」

 

「ん?あぁ・・・」

 

 夜月に照らされ、師と弟子が酒盛りをしていた。

 

「ウシオは?」

 

「流石はミナトの子供じゃのう。才能はもちろんじゃが、頭の回転が速い」

 

「そうか。ワシも見たかったのぉ!」

 

 本選に間に合わなかった自来也が、悔しがった。

 

「ところで、三代目。ウシオとナルトの関係はどうなっとる」

 

「現時点では赤の他人ということになっておる。身寄りのない子供をウシオが預かっておる、とな。少々無理があるかもしれぬが」

 

 自来也は頭を抱えながらため息をついた。

 

「じじいはそういうところがだめなんじゃよ」

 

「仕方なかろう。ナルトが四代目の息子だと分かれば、危険が及ぶじゃろう。あやつは良い人間ではあったが、他里には恐れられておる。恨みも買われているはずじゃ。ウシオのように自己防衛が出来れば少しは教えられるが。ナルトには、そのすべがない。本当は、ウシオとも離さなければならなかったが、ウシオから離すことは出来なかった」

 

「それは、当たり前じゃろ!そんなことしたらじじい、わしがあんたを殴り飛ばすぞ」 

 

「分かっとる。じゃから、ウシオに任せておる。時間の問題なのかもしれんがの」

 

 キセルを燻らせながら、三代目は暗い表情になる。

 

「いざとなれば、わしがなんとかする。じゃが、ワシらはウシオを信じておる」

 

 三代目はそう決意したかのように言うが、自来也は表情を曇らせる。

 

「どうした?自来也」

 

「いやぁのう」

 

 自来也は月を見ながら、続けた。

 

「アイツは、どこか危ないところがある。子供の危なっかしさじゃあない。まるで、死に急いでいるような。任務から帰ってくる度に大ケガをしておるんじゃろう?」

 

「ふむ・・・」

 

「ウシオは、どこかアイツに似ておる。一時期弟子入りしていたことがあるくらいだしのぉ」

 

 おちょこに入った酒を飲み干しながら、自来也は言った。

 

「大蛇丸、か」

 

 それを付け加える形で、三代目は言った。

 

「深すぎる愛は、良いものとは言えんからの」

 

「ウシオは、優しい子じゃ」

 

「当たり前だ、じじい!」

 

 飲み干したおちょこをテーブルに叩きつけるように置いた。

 

「ウシオをアイツのようにさせるわけにはいかん」

 

「アイツをそうさせてしまったのは、ワシじゃ、自来也。ワシがもっとアイツを見ていてやれば」

 

「三代目、間違えるなよ」

 

 自来也が三代目を睨み付けながら言う。

 

「ウシオは大蛇丸の代わりじゃねえ。アンタの罪滅ぼしのための、な」

 

「わかって、おる」

 

 分かっているはずだった。しかし、どうしても大蛇丸の姿が、ウシオと重なって見えた。

 

「お前はどうなんじゃ?自来也。アイツは」

 

「まだ見つかっておらん。悪い噂は聞くがな」

 

「そうか・・・。大蛇丸」

 

 三代目は、優しい声で呟いた。

 

「ともあれ、明日が楽しみじゃ。ウシオの晴れ舞台じゃからの!」

 

 自来也は先程までの暗さを、吹き飛ばすように言い放った。三代目は、その明るさに救われていた。

 

 明日は本選の二日目。ワシも気合いを入れねば。戦争が終結した今、一層に見極めねばならぬ。忍であるかどうかを。

 

 




 皆様お久しぶりです。zaregotoです。大変お久しぶりです。

 リアルが本当に忙しいです。移動時間に考えてるんですが、それだと明らかに足りないです。はぁ。

 中忍試験が開始しました。原作でのイタチは、たった一人で中忍試験に挑み、合格したらしいですね。今回の中忍試験は、そのイタチ出ていたであろうものより、少しだけ前になります。

 そもそも、班を組まなければいけないんじゃなかったでしたっけ?一人でいけるのかなぁ?とかいろいろ考えたんですけど、結局わかりませんでした。

 イタチのあの事件のあと、すぐに班を組めたからすぐに中忍試験に挑めたということにしておいてください。

 新キャラがぞくぞくです。今回戦ったのは、瞬殺されたランダ、犬塚一族のガル、なんか良いやつっぽくなったダンリ。

 ランダの設定としては、傀儡使いの忍者でした。しかし、イタチの強さに瞬殺されてしまいました南無。

 ガルの初期設定は、犬嫌いの犬塚一族でした。そう言えば、原作の映画で、キバがそうなってたような、と思ったのでボツ。だったら嫌いにならなければならない、って設定にすれば旨いかな、と。ゆえ、です。

 ダンリは、嫌なやつ、を書きたかったんです。ウシオが鼻をへし折る描写を書きたかった。里ではそこそこ、いやさとても優秀な忍です。それをハンデつきで倒すウシオを書きたかったのです。それで恨みをかわれてー、みたいな感じにしたかったんですけど、あんな終わりにしてしまいました。変な因縁をつくると、後々大変かなぁと。だったら、ここで友情を育んでもらおうと、思ったわけです。

 次回は中忍試験後半。いつになるかわかりませんが、首を長くしてお待ちください。よろしくお願いします!

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