うずまきウシオ転生伝   作:zaregoto

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愛情

 目を覚ますと、そこにはいつもの光景が広がっていた。白い天井。毎度のことで、ほぼ常連となりつつあったウシオであったが、今回はいつもとは違っていた。

 

「お早う、ウシオ」

 

 ベッドの隣りにある丸椅子に腰掛けながら、アスナが林檎の皮を器用に剥いていた。

 

「お早う、アスナ」

 

 アスナも病院服を着て、体のあちこちに包帯を巻いていた。どうやら、自分より先に目が覚めていたらしい。

 

 腕を支えにゆっくりと体をおこす。アスナはナイフを側にある小さな机に置いて、それを手伝おうとしたが、ウシオは手でアスナを制止した。

 

「イタチは?」

 

「そこよ」

 

 アスナに促された方を見ると、ベッドに腰掛けながら眠っているサスケの背中を擦る、イタチの姿があった。

 

「イタチ」

 

 サスケのことを思ってか、小さな声で「おはようございます」と言って、少しだけ微笑んだ。

 

 ウシオもそれに応じて微笑む。

 

「痛っ・・・」

 

 体の感覚が覚醒してくると、痛みがぶり返してきた。

 

「大丈夫?!」

 

 アスナが心配して、丸椅子から大袈裟に立ち上がった。その際、リンゴの皮を剥くのに使っていたナイフがカランといって落ちる。

 

「大丈夫、大丈夫」

 

 腹部をさすりながら、無理矢理平気そうな顔をした。

 

「・・・・・・」

 

 しかし、嘘だということはバレているようで、ジッとウシオの顔を見て何も言わなかった。

 

「分かったよ、分かった。痛いよ、久しぶりに」

 

 ウシオはそう言うと、体を横たわらせた。

 

「あれから、どうなったんだ?」

 

「あれから・・・」

 

 あれから半日ほど経っていた。外が真っ暗になっていることがそれを物語る。

 

 どうやら、比較的外傷の少なかったアスナは、医療班が到着する頃には目を覚ましていたらしい。大事をとって入院というかたちにはなったが、怪我は見た目ほどではないという。

 

 俺とイタチはかなりの重症を負っていたが、何故か大事には至らなかった。こうやって目を覚ますことができたのだから、そうなのだろう。イタチは俺より少し早くに目を覚ました。

 

 シデノは逃亡した、ということになっている。古い記録にあるチャクラが、里からなくなったかららしい。恐らく、サクヤ隊長の体を奪ったシデノだろう。

 

 アスナが三代目から聞いた限りでは、後を追うことはしていないらしい。三代目曰く、追っても無駄だということだ。追ったところで、恐らく勝ち目はないということだろう。

 

「クソ・・・」

 

 ウシオは小さく毒を吐いた。聞こえないくらいの声で言ったつもりだったが、アスナの耳には届いていたようで、アスナは顔を伏せた。

 

「お前がそんな顔をする必要はないだろう。封印が出来なかったんだ。その時点で、殺すつもりで戦わなきゃいけなかった」

 

 仰向けになり、天井を一点に見つめながらつらつらと述べる。

 

「だけど、出来なかった。俺はどこかでまだ、あの人を探していた。必ず戻ってきてくれると。そう思いたかった」

 

 目には少しずつ水滴が貯まる。

 

「強くなったはずなのに。父さんと母さんが死んで、オチバ先生が死んで、もう誰も失わないように、強く、なったはずなのに。クソ。クソッ!また、助けられなかった!!」

 

 吐き出した言葉が、天井に吸い込まれる。アスナはそれを聞いて、嗚咽を漏らしていた。

 

「結局何も変えられない!どれだけ鍛錬を重ねようと、何も変わらない・・・」

 

「ウシオさん」

 

 イタチがウシオに声をかける。ウシオは何も言わず、イタチからの言葉を待った。

 

「それでも、俺たちは生きています」

 

 イタチはサスケの背中を擦りながら言った。

 

「生きているのだから、まだ望みはあります」

 

「イタチ・・・」

 

 イタチがそう言うと、アスナはイタチの名前を口からこぼした。そして、ウシオの方へと振り返る。

 

「サクヤさんを救う方法が、きっとどこかにあるはずよ。世界は広いんだから、きっと」

 

「・・・・・・そう、だな」

 

 二人に励まされ、滲み出していた涙を拭う。

 

 今回は、まだ居なくなったわけじゃない。まだ、生きている。なら、方法はあるはず。

 

 きっと叶わないような願いなのだろう。もし叶うなら、サクヤが既に試しているはず。

 

 それでも、願わないわけにはいかなかった。

 

 もし諦めれば、今度こそ。

 

 今までのウシオの人生は、失ったものが多すぎた。もちろん戦争中だったこともあるだろうが、それでも、ウシオの年齢からすれば多い方だろう。

 

 ウシオの中にはあってならない感情が、少しづつではあるが、芽生え始める。黒く、薄暗い、負の感情。

 

 これまでは、次の希望がウシオの手の届く位置に偏在してくれていたが、今回ばかりは違う。失い、そして断たれた。恐らく、好意と呼ばれるそれを感じた女性を。

 

 ウシオの青い瞳に黒い炎が宿る。

 

 ガラッ。

 

 その時、病室の扉が開いた。3人は突然の事に少し驚いたが、入ってきた人物を見て、その驚きを消した。

 

「父上?」

 

 三代目火影、猿飛ヒルゼンが病室へと入ってきたのである。

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「俺が、上忍?!」

 

 ヒルゼンが入ってきて早々、衝撃的な言葉が告げられた。

 

「ああ、そうじゃ」

 

 あんな事件があったが、試験の結果を有耶無耶にすることはできなかったらしい。試験は、砂隠れとの交流もあるが、互いの戦力を見せ合う場であったため、脆弱な部分はみせらななかった、のだろう。

 

 木ノ葉は動じていない、という意思表示か。

 

「でも、あの時失格って」

 

「ん、あぁ。あれか。うむ、あれは忍として、そして1人の人間として抑えるべきところではあったがな」

 

 バツの悪そうな顔をするヒルゼン。

 

「正直な話、儂も腸が煮えくり返りそうじゃったよ。お前が行かなくとも、あと数分遅ければ、儂でもシカクでもチョウザでも、あの場にいる子を持つ大人が声を発していたろう。まぁお前のように拳を振るうことはなかったじゃろうが」

 

 そう言いながら、ヒルゼンは頭をかく動作をする。

 

「しかし言っておくが、それが要因で上忍になるわけではないぞ。お前たち3人が昇格するのは、シデノ様との一件があったからじゃ」

 

「あったからじゃって、私たち、いまここで大怪我してるんですけど。任務だったら失敗してるんですけど」

 

 アスナがそう口にする。

 

 その通りだろう。現に、敗走し、人死にも出ている。あそこでどうにかしなければならなかったはずだ。たまたまいなくなってくれたから良いものの、そうでなければ、砂隠れの人間も里にいた中だ。最悪の場合、国家間の問題にもなってくる。

 

「お前たちは分からないじゃろうが、あの、シデノ様と相対し、重傷で済んでいる時点で、既に実力は測る必要はない。儂なんて、初めて組み手をしてもらった日には、時が飛んだしの」

 

「は?」

 

 ウシオがハテナを言葉にし、3人は訳が分からない、と言いたげな表情でヒルゼンを見やった。しかしヒルゼンの顔は、懐かしいような苦しいような、複雑な表情だったのでそれ以上言うのをやめた。

 

 しかしヒルゼンは口を開いた。

 

「気を失って目が覚めたら、1週間後じゃった」

 

 なるほど。そりゃ、時が飛んだと思うわな。納得はできないけど。

 

「そんなことはどうでもいい。つまり、重傷を負わせているということは、それなりにシデノ様は力を出して戦ったということ。そして生きて帰ったこと。恐らく、お前たちが行ってきた任務の中で最も危険で、大変なものだったであろう。もう一度言うぞ」

 

 現代に戻ったヒルゼンはコホンと、一度話を止め、再び真剣な表情になる。そして、一瞬の間があり、口を開いた。

 

「魂喰サクヤ班、猿飛アスナ、うちはイタチの両名は下忍から中忍へ昇格。そして、その隊を率い、全員を生還させたうずまきウシオは上忍へと2階級の昇格とする!」

 

 静まりかえる病室。本来ならそれは火影室において、粛々と厳かな雰囲気で行われ、少しのガッツポーズとともに迎えられるその言葉なのだろうが、今は違う。その場にいる3人の誰もが、それを良しとしていなかった。

 

「三代目様、俺たちはそれを受けるわけにはいきません」

 

「ええ、父上。私もそう思います」

 

 2人の決意が言葉となって、病室を包む。

 

「じいちゃん。俺たちはサクヤ隊長とその喜びを分かち合いたいんだ。だから・・・」

 

「むぅ・・・」

 

 ウシオの一言で、ヒルゼンは押し黙ってしまう。

 

「では、これを」

 

 静寂が包んでいた病室であったが、ヒルゼンがそれを打ち破る。

 

 ヒルゼンは懐から綺麗な封がされている便箋を取り出した。

 

「サクがお前たちに宛てたものだ。安心しなさい。まだ誰も開いておらん」

 

 本来なら検閲が通るはずだが、ヒルゼンが気を使ったのだろう。

 

 ウシオは、それを恐る恐る受け取った。動けないウシオとイタチを気遣って、アスナは2人のベッドの間へと位置を移した。イタチは、眠っているサスケを起こさないように、ベッドから少しだけ身を乗り出した。

 

「開いて、いいのか?」

 

「いいにきまってるでしょ、早く!」

 

 アスナは待ち切れない様子だ。イタチは、声にこそしないが、同じ考えのようで、その便箋を注視している。

 

「あけ、るぞ」

 

 ウシオは、ゆっくりのその便箋を開く。そして、2つに折りたたまれた手紙を開いた。

 

 サクヤ隊長の字だ。均整の取れた綺麗な字。

 

 3人はそれぞれで、それに目を通した。

 

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 拝啓、私の班の皆へ。

 

 この手紙を読んでいると言うことは、恐らく私はこの世にいないでしょう。そして、シデノ様から稽古をつけてもらった後だということ。怪我は、きっとしているわよね。あの人だもの。

 

 事の詳細は、ヒルゼンくんから聞いていると思う。シデノ様からヒルゼンくんへ話してくれていると思うから。話してなかったら、この手紙を読むことはないだろうしね。

 

 本当は一人一人に手紙を書きたかったけど、多分この一枚で限界だと思う。今も、何を考えているのか自分でも分かってない。これが私の考えなのか、シデノ様の考えなのか。だから、ゆっくり、書いています。

 

 アスナさん。貴女は本当はとても優しい子。人の気持ちに寄り添えて、背中を押すことができる子。人付き合いが苦手だから、強く当たって、思ってもないことを口走っちゃうけど、大丈夫。貴女の側にいる人は、貴女を慮ってくれるから、安心して下さい。

 

 イタチくん。貴方はとても優秀で、だけど甘味が好きな普通の男の子。優秀だから、これから沢山の任務に着くことがあるだろうと思います。でも、これだけは覚えておいてください。任務に、囚われすぎないで。貴方は一人の忍であると同時に、一人の男の子です。大切なモノを両天秤にかけるようなことがあったら、必ず誰かを頼ってください。

 

 ウシオくん。貴方は、そうね。私にできた初めての教え子。あの病室で出会ってからまだ1年も経っていないけれど、素敵な思い出でいっぱいです。私ももう少し、あなたたちと一緒にいたかった。あなたは多分、私の初恋の人に似ています。言動も仕草も、何もかも。私を地獄から救ってくれたあの人に。だからでしょうか?初めて私は、生きていたいと、そう願ってしまった。だからこそ、私は、ここにいてはいけないのでしょう。

 

 私は、変わってしまうけれど、変わりません。私は、アタシですから。

 

 このあとは、任せることにします。

 

 きっと、これが最

 

 この先は読めなくなってしまっている。

 

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 ウシオは一人、阿吽の門の上に腰を落としていた。

 

 月に照らされ、阿吽の門の外に広がる森が遠くまで見えている。雲もなく、奥に見える山々まで見通せた。

 

「静かだ」

 

 昨日は、多くのことがあった。

 

 中忍試験があり、俺は上忍に推薦され、そしてサクヤ隊長が居なくなった。

 

 戦乱が終わり、一歩ずつ平和へと近付いている。近付けているはずだ。そのはずだが、俺にはそうは思えなかった。

 

 そもそも、平和ってのはなんなのか。争いがないことが平和?それもそうだ。だが、この世から争いがなくなることはない。

 

 人が人である限り、争いがなくなることは決してないのだ。人には性善説や性悪説なんてものがあるが、どちらにせよ争いがあるのは必然といえる。

 

 ならどうすればいいのか。それは、たとえどんなことをしていても、自らの行いへの責任を持つことだろう。善にも悪にも、それぞれの矜持があり、それに対する責任が必ずある。

 

 しかしこれでは問への解にはならない。解は、ないのだ。

 

 解はある。それは、人が人ではなくなること。感情のない無機物になること。この世から人がいなくなれば、全てが上手くいく。

 

 それが、不可能なことくらい分かっているのに、最近はそういう事ばかり考える。

 

 母さんから、人というものを教えてもらい、父さんから、男というものを教えてもらった。それなのに、もう元に戻っている。

 

 自分がいた世界。前の日常。ここよりも平和で、残酷でもあった世界。その世界にいたときのように、意識が暗く深い溝へと落ち込んでいく。

 

 自分がどれほど醜く弱い存在なのかを、痛感させられる。

 

 自分は変われたのかと思っていた。前のような自分ではないと。

 

 しかし、やはり人は変われない。変わることなどできない。消えずに残る、この心のモヤモヤが無くならない限り、きっと俺は、ずっとこのままだ。

 

「どうかしたのか?雷遁の小僧」

 

 不意に、声をかけられた。阿吽の門の外に立っている人影から。

 

「アンタは」

 

「酷い顔だな」

 

 珠喰サクヤの体を持った、志布志シデノ。

 

「・・・!!」

 

 ウシオはその場で瞬間的に影分身を作り出した。そしてそのままシデノへと特攻する。

 

「おっと」

 

「水遁・水時雨!」

 

「土遁・土雪崩の術!」

 

「雷遁・電電六刺!」

 

 シデノは特攻してきたウシオを軽々と躱す。

 

 それを見たウシオの影分身それぞれが、術を放った。

 

 しかしシデノはその術をすんでのところで躱す。

 

「戦ったときとは違った性質の術を使ったな。合わせて五遁すべての性質を使えるわけか。猿がそれに近かったが、そこまで完成されていなかった。・・・やはりお前、面白いな」

 

「ここで何を」

 

 ウシオには分かっていた。誰かを傷つけたかったわけではないことを。この人の本質は純粋な善。しかしそれでも、ウシオにとっては、サクヤを奪った人間でしかなかった。

 

「最後の挨拶だ。もうここに戻ってくることはない。アタシは、アタシのやるべき事をしなければならないからな」

 

「逃がすと思うか」

 

「逃がす?アホなことを言うな。お前、まだ下忍だろう?確かに他の有象無象よりはできるかもしれないが、アタシにとってはお前もその有象無象と変わらないんだよ。ただ、伸びしろがあることは確かだが」

 

「俺は・・・!!」

 

 ウシオは再度シデノに向かって特攻した。その最中、右手で螺旋丸を作り、雷遁の性質を込める。

 

 形態変化までは行えず、そのままの形で突っ込んだ。しかし。

 

「!?」

 

 シデノへと着弾する直前、シデノは右へと体をそらし、その動きの中で、ウシオの螺旋丸を生成している方の腕を掴んだ。そして、そのまま地面へと叩きつける。

 

「ガハッッ!?」

 

 その衝撃で螺旋丸は消え去り、代わりにシデノか掌を踏みつけた。

 

「あの時は時間があったから二段階目の形態変化まで見逃してやったが、今回はな。確かにその術は強力だろう。チャクラコントロールが出来ていれば誰でも使える。印を結ぶ必要もないしな」

 

 シデノは踏みつけていた足をどけ、ウシオの頭の上近くでしゃがみこんで、顔をのぞく。

 

「だが、時間がかかりすぎる。まず初めの生成から性質変化を加えるまで少なくとも5秒。再度形態変化を行って恐らく4秒。その他の要因が重なって発動から、少なくとも15秒はかかる」

 

 シデノがウシオの顔へと手を近づけた。そしてそのまま頬を擦る。次の瞬間には優しくペチペチと叩いていた。

 

「これ程欠陥のある忍術があるか。戦場で使っていたら、恐らく誰にも当てることができずに不発に終わる。まぁ性質変化を加えなければ、奇襲性からして中々の術ではあるがな」

 

「五月蝿い」

 

「アタシは扉間が指揮していた複数の班の指南役をしていた。これでも見る目はあるほうだがな」

 

「五月蝿い!!」

 

 瞬間、右手に螺旋丸を生成し、地面へと叩きつけた。その衝撃で螺旋状の攻撃痕と砂煙が舞った。

 

 少しだけ怯んだシデノのスキを見逃すことはなく、ウシオは両手に力を込め、うつ伏せの体勢から後方へと跳躍した。

 

 そしてすぐにクナイを構える。

 

「やってやってもいいが、お前は確実に負ける。勝ち筋はどこにも無い。そのくらい、お前にもわかっているだろう?」

 

 正直、図星だった。昨日の疲労もあるが、万全の状態で挑んだところで、全ての攻撃を往なされ終わりだろう。

 

 死の社での戦闘は、3人で協力していたから善戦できた。

 

「まぁいい。今回は別に戦いに来たわけじゃない。あの時この話をすればよかったのかもしれないが、猿がいた手前な」

 

 そこまで言うと、シデノはウシオの目を見据えた。それに答えるように、ウシオはクナイを構え直した。

 

「アタシと一緒に来ないか?雷遁の小僧」

 

 ウシオは、クナイの構えを解いてしまった。突飛な言が、耳に届いていたからだ。そのせいか、少しだけ間があり、反応に遅れてしまった。

 

「は??」

 

「お前の才能は、ここで燻らせるようなものではない。類稀ないチャクラコントロール。忍術のセンス。そして途方も無いチャクラ量。あぁ、チャクラ量に関しては、お前の年齢から見て、の話だが」

 

「何を・・・」

 

「猿から聞いたぞ。お前の忍道は、自分の守りたいものを守り抜くこと。ハハッ。酷く、独りよがりな忍道だ」

 

 ゆっくりとウシオに近づくシデノ。

 

「だが、それでいい。だからこそ、お前は強い」

 

 シデノの背後の月が、シデノを照らし、シデノがしている水色の石が着けられたピアスが美しく光った。

 

「アタシは、湯の国で湯治をするつもりだ。もしその気があるのなら、来るといい」

 

「アンタ、何を言ってるのか分かってるのか?俺はアンタを」

 

「それでいいさ。お前たちはアタシからサクを解放するために動くんだろう?ならば願ったり叶ったりだ。アタシも、こんな世界もうたくさんだからな」

 

 サクヤ隊長のしないような、無邪気な笑顔でシデノは言った。

 

「あ、それとだ」

 

 シデノは思い出したように印を組み始めた。

 

「火遁・篝火」

 

 掌に青い火種のような火遁を、シデノは作り出した。そして、シデノはロウソクを吹き消すような仕草で、それをウシオの居る方へと吹いて飛ばした。

 

「!!」

 

「大丈夫だ。危険はない」

 

 ウシオは身構えたが、シデノの棘のない声を聞き、素直に体で受けた。

 

 火遁はウシオの死門の位置に着弾し、そこを中心に体を包み込んだ。

 

 熱いが、燃えているような熱さではない。陽気な陽だまりに包まれているような感覚だった。

 

「アタシはこう見えて医療忍者だったんだよ。ま、ミトのお小言のせいでやる気なくしたけどな」

 

 体の痛みが、徐々に消えていく。

 

「どうして」

 

「どうしてって、痛いの嫌だろ」

 

 まあ、そうなんだが。

 

 ウシオは、少し拍子抜けしていた。そして先程までの怒りなんかすでに消えていて、少しだけ、この人に興味が湧いていた。

 

「ま、あれだ。昨日の敵は今日の友ってやつだ。まぁ友は選ばせてもらうがな」

 

 そう言うと、シデノはくるりと後ろを向き、湯の国へと続く道へとゆっくりと歩みを進める。

 

「ちょ、まって」

 

「覚えてるな?湯の国だからな」

 

 シデノは背を向け歩きながら、手をヒラヒラさせてウシオへと念を押した。

 

 ウシオはただ、シデノの背中を複雑な心境で眺めるしかなかった。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 戦場は儚く、日常は尊い。

 

 それに気づけたのは、きっとこの子とともにあったからだろう。

 

 アタシはきっと、復讐のためだけに意識を保つのだと思っていた。アタシを殺した里にだ。

 

 そもそも、あの里に未練なんてない。柱間とマダラに誘われたから建立の立役者なんて言われることになってしまった。気恥ずかしい。ただ、それだけだ。それだけの感情しかない。

 

 しかし、この子の中にいると、優しさがアタシを包み込んでくれているような感覚があった。

 

 こんな感覚久しぶりだった。柱間を隣に、反対の川岸にいるマダラと他愛ない話をしていた頃を思い出していた。

 

 アタシは変わった。なんて言うとおかしいとは思う。あれほど人を殺し、嬲ってきたアタシが。言ってはいけない。

 

 この術の寿命が近づくにつれ、アタシの意識とこの子の意識が混ざり合っている。

 

 この子の感情が流れ込み、アタシの感情も流れ出す。この子からは白く、アタシからは黒い。そのせいで、この子の意識はズタズタだ。

 

 それももうすぐ終わる。あと少しで、寿命だ。わかる。この子が、私が消え、アタシが残る。・・・なぜ、死を選ばなかった。

 

 そんなこと言わないでくださいよ。私だって死ぬのは怖いのですから。

 

 ああ。

 

 これは、貴女への罰なんです。貴女が嫌っていた世界を、私のために生きてください。そして、本当の寿命を迎えてください。貴女なら、この世界でもきっと、寿命で終わることができます。

 

 ああ。

 

 あれ?聞こえていますか?

 

 もちろんだ、聞こえてるさ。

 

 良かったです。多分私にはわからないと思うので。夢か現か、おそらく、そんな認識も不可能だと思います。

 

 アタシの思いが、世話になったな。

 

 ええ。貴女の悲しみを深く理解できました。だから最近は、とっても寝付きが悪いんです。

 

 そうらしいな。

 

 だから、貴女にお願いがあるんです。あの子達を、私の班の子達をお願いします。

 

 あの3人組か。

 

 ええ。

 

 猿の娘に、うちはの小僧、それに、うずまきの小僧か。

 

 あの子達は、もうほとんど私から学びました。まだ班を結成して間もないのに。最後は、私が貴女の力を使って独り立ちさせようとしたのですが、きっと間に合いません。なので。

 

 アタシに任せるってわけか。

 

 ええ。

 

 面倒だな。

 

 嘘ですよね。

 

 隠し通せないか。だが、アタシ流にやらせてもらうぞ。

 

 それは、ちょっと不安かもです。今の子に貴女の攻めが耐えられるかどうか。

 

 お前の教え子だろう?

 

 ええ、そうですね。そうです。私の初めての教え子。

 

 なら、大丈夫だろう。

 

 そう、ですね。・・・ああ。もう時間ですね。

 

 そのようだ。

 

 私のチャクラが、貴女のチャクラに書き換わる。

 

 違う。お前は上へ行くんだ。空よりも高い場所へ。

 

 お伽噺のようですね。

 

 人生なんて、そんなもんだろ。

 

 確かに、そうでしたね、今まで。

 

 ・・・・・・。

 

 それでは。

 

 じゃあな、私。

 

 ええ、お願いしますね、アタシ。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

『アタシと一緒に来ないか?雷遁の小僧』

 

 あの事件から数日、退院したウシオは、洗い物をしながらシデノから言われたことを思い返していた。

 

 ナルトは三代目から買ってもらったであろう絵本を真剣に読んでいる。

 

 付くづく思い知らされた。自分の弱さを。結局、サクヤ隊長は救えず、隊の人間はみんな大怪我を負った。

 

 弱さの対義語は、強さ。強さを求めるなら、恐らくシデノに着いていった方が得策だろう。あの人は強い。長い年月を、サクヤ隊長の中で過ごし、共にあった。そして、心を強くした。悟りを開いた、と言ったら少し大袈裟か。

 

 しかし、ナルトの元を離れるのは、得策とは言えない。

 

 ヒルゼン曰く、今回、シデノ、もといサクヤ隊長があのような事件を起こしたのは、ナルトを守るためだったらしい。

 

 中忍試験へやってきた砂の下忍。彼らの付き添いが、どうやら戦争過激派だったらしく、試験会場にいた者たちに加え、数人がそれだった。

 

 彼らはどうやら、ナルトを攫い、ナルトの中の尾獣を解き放つ予定だったようだ。

 

 その隊を率いていたのは俺が殴り飛ばしたリラの親父だった。リラと俺の試合が終わった瞬間が、作戦開始の合図だったらしく、会場にいなかった砂の忍は、事を移したようだった。

 

 しかし、それを察知していたサクヤ隊長が極秘裏に、行動を起こした。誰にも言うこともなく。何か問題があった場合、それこそ戦争がまた始まってしまう可能性があったからだ。それを避けるため、木ノ葉とは関係なく動いていたらしい。

 

 その最中、サクヤ隊長からシデノへの変異が始まり、サクヤ隊長は事件を起こした。

 

 シデノがこの里に恨みをもっていたなら、ナルトを救うことなんてしなかった。むしろ放置していたほうが簡単だったろう。

 

 結局この事件は、有耶無耶に片付けられる事になった。当の犯人を砂へと返し、そこから砂からの発表はない。事が発展することを避けてか、三代目火影も追求はしなかった。結果的に、被害を受けたのは砂だったからだ。

 

 ナルトを攫うことも、尾獣を解き放つことも出来ず、忍を数人失うことになったのだから。

 

「・・・はぁ」

 

 ウシオは、三代目、もとい木ノ葉の今回の対応について、不満しかなかった。失ったものは大きい。

 

 今回の事件、砂が攻撃を仕掛けてきたことを発表することはもちろん出来ず、代わりに珠喰サクヤが犯罪者として認定されることになった。丸く収まったと言えばそうなのだろう。しかし。しかしだ。

 

「これでいいのか?じいちゃん」

 

 ウシオはそう、口から溢してしまった。

 

 やはり、イタチとアスナは中忍になり、俺は上忍になるそうだ。一度下した指令を取り消すのにはかなり骨が折れるらしい。

 

「はぁ・・・」

 

 ウシオは大きくため息をつき、妙な考えを頭から消そうとする。

 

 数日前、病室で昇格の知らせを直接聞いた時にもらった、サクヤ隊長の手紙のおかげで、少しは気が晴れたというのに、また暗くなっている。

 

 俺は元来暗い人間だ。それで転生前、特に困ったことはなかったが、ここでは違う。ナルトを守らなければならない。そして、ナルトからは強く、頼れる兄だと思われなければならない。

 

「頑張らないとな」

 

 ウシオたちの班は全てが中忍以上となった。そのため、担当上忍なしでの任務につくことができる。また、即席で作られた班での緊急任務などにも対応できる。

 

 たくさんの任務をこなす下忍とは違い、任務の数も最初のうちは少ない。少ないというよりも、ないと言ったほうがいいだろうか。

 

 下忍には担当上忍がつき、その忍は名が広く知られている場合が多い。これは、依頼をする人間が安心して任務を任せられるようにするためだ。

 

 だからこそ、三代目は俺を上忍へと指名したのだろう。そう思うことにする。

 

 キンッ。

 

 瞬間、右手首に違和感が走った。その拍子に、持っていた皿を床に落としてしまった。

 

 大袈裟に音を立てて、皿は割れてしまう。

 

「なんだ?」

 

 ウシオは右手を開いたり閉じたりしながら、感覚を確かめる。次に手首を動かす。しかし、すでに違和感はなくなっていた。

 

「だ、大丈夫か兄ちゃん」

 

 音に驚いたのか、ナルトが心配そうな顔でキッチンを覗き込んでいた。

 

「大丈夫大丈夫。少し疲れが出ただけさ」

 

 ウシオは少しだけはにかみ、ナルトに背を向ける形で、割れてしまった皿を拾い上げていく。

 

 度重なる膨大なチャクラの使用か、度々右手の感覚がなくなることがある。それどころか、たまに意識が遠くへ行ってしまうこともあるくらいだ。毎回、ナルトに心配されるので、病院へ行ってはいるのだが原因は不明。

 

「ほんとかぁ?最近の兄ちゃん少しおかしいぞ??この前だって、夜一人でブツブツ言ってたし」

 

「夜一人でブツブツ?なんだそりゃ?」

 

 それは初めて聞いた。たまに寝付きが悪いことがあったが、それか?

 

「うん。何言ってるのかは分かんないんだけど、ぎょくがどうとか、やめろとか、すくえとか。誰かと話してるみたいなのもあった」

 

「・・・・・・」

 

 身に覚えがないことが一番怖い。ストレスだろうか。三代目に言って、少し休養をもらわなければならないかもしれないな。

 

「兄ちゃん?」

 

「ナルト」

 

 割れた皿の処理を終えたウシオは決心したような顔をしてナルトへ向き直り言った。

 

「湯治に行こう」

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 シデノは蒼い炎を身に纏い、倒れている3人を1人ずつ抱きかかえ、祠の直ぐ側にある大樹のそばの花畑へと横たわらせた。

 

「イテテ・・・」

 

 体の節々の痛みから、軽く伸びをする。

 

「はぁ・・・」

 

 久しぶりの体だったのに、はじめから酷使させすぎた。もうほとんどチャクラが残っていない。

 

「こいつらほんとに下忍か?肝が冷えたぞ。サクに頼まれた手前、ギリギリで勝つような素振りを見せちまったら、面目ないもんな」

 

「かなりやるでしょう?彼らは」

 

 遠くの方から、男の声が響く。聞き馴染みはないが、声色には、おぼえがある。

 

「お前、猿か?」

 

 暗がりの方からゆっくりと現れたのは、三代目火影ヒルゼンであった。

 

「お久しぶりです、シデノ様」

 

「サクの中からは見えないからな。お前、老けたな」

 

「あれからかなりの年月が経ちましたからな」

 

「そうか・・・そうだな」

 

 ヒルゼンは祠の方までやってくると、ゆっくりと手を合わした。

 

「あなたがまだ健在であったころ、ここは慰霊碑のあるただの空間でしたが、あれからここは重要な場所となったのです」

 

「重要?」

 

「ええ。ここには、あの方たちが眠っているのです」

 

「柱間たち、か?」

 

 

 

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