ウシオがナルトに教えているのは、ただひとつ。チャクラコントロールだ。もちろん、忍術や体術、手裏剣術の基礎は教えているが、基本的に教えているのはチャクラの練り方である。恐らく、これにつきるだろう。
これはナルトがチャクラを練ることを苦手としているからであった。何者かの意識的な介入も疑ったが、それ以前にナルトには集中力がなく、1つのことを長い間続けられない。まぁ、まだ3才だから仕方がないのだが。
「兄ちゃん、もう・・・」
「まだだ。あと一時間」
「うへぇ・・・」
胡座をかいた形のまま、嫌そうな顔をするナルト。隣で同じ体勢のまま、目をつぶりなからウシオが怒った。
「兄ちゃんは、昔からこれをやってるぞ。どこの馬の骨に舐められないように、誰よりも強くあろうとした。お前も、俺を越えるつもりでやってろ」
「俺ってば、足が痺れてきたってばよぉ・・・。なぁ、兄ちゃん」
「・・・はあ。分かったよ。今日はこの辺にしておこう。ただ明日は容赦しないぞ?」
ウシオは折れたらしく、その場に立ち上がりながら言った。ナルトは笑顔になり、同じように立ち上がろうとしたが、足が固まってしまい、うまく立ち上がれなかった。
「うわっ・・・」
「まったく。ほれ」
ウシオがナルトに手を差し出すと、ナルトはそれを掴んで足を震えさせながらなんとか立ち上がった。
「じゃあ、朝飯作るから待っとけ」
「お、おっす!」
少し吃りながら返事をするナルト。ウシオはそんなナルトを後目に、台所へと急いだ。
台所へと着くと、冷蔵庫を開き、食材を確認した。そこから卵とベーコンを取り出すと、当たり障りのない朝食を作り出した。
「母さんから教えてもらっておいて本当によかったな。家事全般」
まだ事が起きる前に、一通りのことは教え込まれた。そう言うと、無理矢理感が出るが実際はウシオがそれを頼んだのである。
ウシオが朝食を作っていると、壁を伝いながらナルトが台所へとやって来た。
「どうした?まだできないぞ?」
「いや・・・」
そう言うとナルトは笑顔になって言った。
「最近、兄ちゃんと一緒にいられて嬉しくってさ。修行は辛いけど、ここのところ任務で一緒にいられなかったろ?」
「まぁそうだな。長期任務の前の休暇。今後はこういうことも増えてくるだろ」
「じゃあ!もっと一緒にいられるのか?!」
「いや、その逆だ。いられなくなる。忙しくなるからな。今回の休暇は特例だ」
長期ともなれば、家を空けることも少なくない。寧ろ家にいない方が多くなるだろう。シスイのようになる。
「そうなのか・・・」
シュンとするナルト。それを見たウシオは、調理を止めてタオルで手を拭いた。そしてそのまま、ナルトの頭に手を置き、乱暴に撫でた。
「な、なにすんだよ兄ちゃん!」
「安心しろ」
ウシオはナルトの目を一点に見つめる。ナルトもそう返した。
「お前と俺は唯一無二の家族だ。俺が遠くにいても、俺はお前と一緒にいる」
「遠くにいても一緒にいる?・・・ナゾナゾ、か?」
不思議そうに考え込むナルト。それを見たウシオはニカッと笑って、その場に屈んだ。そして人差し指をナルトの心臓の辺りへと当てる。
「俺はお前のここにいる。どんなときもずっと。それを忘れないでくれ」
そうされたナルトはさらに難しそうな顔をして考え込んでしまった。
「そんな難しいことじゃねぇよ。お前が嬉しいと俺も嬉しいし、お前が悲しいと俺も悲しい。そーいうことだ」
「・・・うん。なんとなく、わかった気がする」
多分わかってないだろうな。俺も母さんによく言い聞かせられたけど、よくわかってなかった。でも、今なら分かる。父さんも母さんも、ここにいる。
ウシオは立ち上がって、調理を再開した。
「いずれわかることだ。お前が俺と同じくらいになればな。じゃ、できるまであっちで待ってろ」
「うん、わかった」
ナルトは難しそうな顔のまま、リビングへと帰っていった。
ナルトなら、きっと理解できる。ここにあるものの大切さを。そうすれば、きっと俺よりも、父さんよりも強く優しい忍に・・・。
ウシオは調理をしながら、半ば願うかのようにそう思った。
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ウシオは明日に控えた任務のため、あらゆる家事をこなしていた。
ほとんどナルトが困らないようにするためのものだ。こういうときのために、家事は教えておいてあるのだが、万が一って場合もある。食事の作り置きや、着替え、掃除、その他全てをやっていたのである。そしてそれが、今しがた終了したのだ。
「あー、疲れた」
不意に言葉がこぼれた。静かなリビングに響く。ナルトは家にいるが、チャクラを練る修行をさせているので、静かなのは当たり前だった。
「そろそろ昼飯にするか・・・」
ウシオは立ち上がり、ナルトを呼びに部屋へと急いだ。そして、部屋の前へまで行くと、ゆっくりと扉を開く。
「ナルト、そろそろ昼飯に・・・って、あれ?」
そこにはナルトの姿はなく、ヒラヒラと揺らめくカーテンだけが目にはいった。よく見れば、マンガやらなんやらが散らかっていた。
ゆっくりと部屋に入り、開いている窓の位置までやって来て、外を確認した。窓の外にある屋根の瓦に小さな靴のあとが残っていた。
「・・・逃げたな、あの野郎」
ウシオは握り拳をワナワナと震わせて、窓を優しく閉めた。リビングにある羽織を手にして、そのまま玄関まで急いだ。
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俺は屋根づたいに外へと出た。玄関を使ったら兄ちゃんにばれちゃうからだ。少し寒かったけど、マフラーがあるから大丈夫だ。
ナルトは人気のない道を歩いていた。外に出たはいいものの、人と接触するのは嫌だったからだ。向けられる悪意の視線は、幼いナルトにも理解できていた。
「ううう、さっむ・・・ん?」
修行が嫌だったからとはいえ、外に出るのは不味かったかもしれない。想像以上に寒かった。
そう考えながら歩いていると、目の前に雪の積もったブランコが表れた。
「・・・」
ナルトは無言でその雪を払い、そこに座った。
「つめたっ・・」
ズボン越しでも、雪の冷たさは伝わってきた。少し残った雪が溶け、徐々にズボンを濡らしていった。
ナルトは一人でブランコを揺らす。
明日は、兄ちゃんが任務でいなくなっちゃう。生きてきた中でこんなのは初めてだ。
ナルトは目頭が熱くなるのを感じた。その時。
「この白眼妖怪!」
ナルトの耳に、怒鳴るような、おちょくるような、とにかく燗にさわる声が届いた。そのあと笑い声が響いた。すぐにその声の方向を見ると、三人組の子どもが女の子を虐めていたのである。
ナルトは考えるよりも先に体が動いていた。マフラーを風に靡かせ、颯爽と飛び出した。
「おい!やめろ!」
「あ、なんだお前」
ナルトの声に、三人はゆっくりと反応した。そのあとすぐにうずくまっていた女の子もナルトの方を見た。
「俺は、うずまきナルト!未来の火影だってばよ!」
兄にも言ったことがないことを言う。
そう。うずまきナルトの夢は、火影になること。そして、里のみんなを見返して、兄に迷惑のかからないようにすること。里のみんなから疎まれているナルトだからこそのものだった。
兄に言わないのは、ライバルだから。兄も火影になることを目標としている。ライバルに情報を与えず、情報を得るため、言っていないのだ。まぁ実際のところ、ナルトの夢についてお見通しのウシオだった。
「未来の火影ぇ?」
「ばっかじゃねぇの?」
三人組の一人がそう言うと、もう一人がそれに続いてバカにしたように言った。
「くっ、見てろー!影分身の術!」
兄から教えてもらった術だ。分身の術と違い、相手に触れたりすることができる。実体のある分身だ。
印組をすると、ナルトの手前辺りにぽふんと、二つの煙がまった。その煙が晴れると。
「カカッテコイッテバヨー」「テバヨー」
デフォルメされたナルトがそこにはいた。
明らかに失敗である。チャクラが練り足りず、分身を作り上げられなかった。これまで成功したことは、片手で数えるほどしかない。
「「「うひゃひゃはゃひゃ!!」」」
三人組の腹を抱えてその状況を見て笑っていた。ナルトはポカンとした顔で出来上がった分身を見ていた。
「・・・ん?」
笑い声がなくなった。おかしいと思ったナルトは、目線をあげると拳が迫って来ているのが見えた。
そこでナルトの意識は途切れてしまった。
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「う、まだまだー!!今度こそ、スッゲー術をかけて・・・」
ナルトは意識を戻すと、開口一番にそう言った。しかし、側にいる少女を除くと誰もいないことに気が付き、表情を暗くした。そこで、顔が腫れ上がっていることに気が付いた。
「い、いたたたた」
「だ、大丈夫?」
痛がったナルトを心配して少女は、顔を覗きこんだ。心配そうな表情を見て、ナルトは自分の不甲斐なさを嘆いた。どうやら、何もできなかったらしい。
「どうってこと、ないってばよ・・・」
そう言うしかなかった。大丈夫なんて聞かれたらだ。
「これ、あの子たちが・・・」
そう言う少女をチラリと見ると、手にはボロボロになったマフラーが。それを確認したナルトは、大きなため息をつき、掌を横に振った。
「ごめんなさい・・・」
「気にすんな!」
こんなところで暗くなっていても仕方ない。そう考えたナルトは、立ち上がり、目の前に広がる道を歩きだした。
「あ、あの!」
それを引き留めるのは、少女。呼び止められたナルトは後ろを振り向き、少女を見た。少女は大事そうにボロボロになったマフラーを抱えている。
「ん?」
少女は意を決して、口を開いた。
「あ、ありがとう、ございました!」
感謝を述べ頭を下げている少女を見て、笑顔になるナルト。間違ってなかった。自分のしたことは。そう考え、笑顔を作った。
「へっ・・・・。じゃあな!」
ナルトはそう言うと、道を走っていった。少女はその後ろ姿をずっと眺める。そして、見えなくなった頃にマフラーを再度眺め、今起きたことを思い出していた。
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「や、やめて!」
助けに来てくれた少年は倒れ、三人組は少年の持っていたマフラーをボロボロにしていた。少女はたまらず声を出していた。普段はこんなことしないのに、何故かそうしてしまったのである。
「あぁ?」
言われた三人組はマフラーへの注意の対象を、少女へと向けた。その目を見て、少女は尻込みする。
「お前も、おんなじようにしてやるよ!」
三人組のうちの一人が、少女に迫る。少女は目を瞑り、腕で顔を隠した。やられる。そう考えたが、いつまでたっても痛みはやってこない。恐る恐る目を開けると、自分の目の前に少し大きな背中が見えた。
「え?」
いきなり現れた影が、拳を受け止めていたのである。三人組は疑問符を浮かべながら、その人物の顔をゆっくりと見上げる。
「ガキの喧嘩に手を出すのはどうかと思って少し見てたんだが、今時のガキは、女の子にまで手を出すほど腐ってるのか?」
うずまきナルトの兄、ウシオがその攻撃を受け止めていたのである。
三人組は少し唖然としていたが、何が起こったのか分かったようだった。その中でも細い体型の少年の顔だけがみるみるうちに青ざめていった。
「俺、兄ちゃんから聞いたことがある。青く鋭い目で赤い髪の毛、ハバネロの再来!傍若無人で怪力無双、百人の敵を血祭りにあげたっていう・・!」
「おいおい、俺は・・・」
その少年の話を聞いた他の二人も、何の話か分かったようで、同じように青ざめていった。
「「「ごごごご、ごめんなさいもうしませんしつれいしましたー!!」」」
そのまま、声を揃えて謝意を伝え、逃げていったのである。相当慌てていたのか、逃げる最中に転けていた。
「俺ってば、そんな風に呼ばれてたのか?・・・同期の友達なんていなかったからなぁ」
「あ、あの・・・」
少女は現れたウシオの背中を見上げながら言った。気付いたウシオは、くるりと振り向き、少女の顔を見て、笑顔を見せた。
「俺はウシオ。そこで寝てるクソガキの兄貴だ。弟が迷惑をかけたな」
「いえ、そんな」
そう言う少女に対し、人差し指を作り、口の前に持ってきて、ナイショのポーズをとった。
「このことはナルトにはナイショだ。こいつも男だからな」
そう言うともう一度笑顔になり、ウシオは少女の頭を優しく撫でた。少女は身構えたが、撫でられてると不思議と落ち着きを感じ、なすがままにされていた。
「君は、日向の・・・」
「ヒナタ・・・です」
撫でられたあと顔を赤くさせながら言うヒナタ。
「ヒナタ・・・ナルトと同い年のか!なるほど。つまり本家の人間だな?ヒカゲは知っているか?宗家の人間なんだが」
日向ヒカゲ。日向宗家の忍で、ウシオの同期だ。
「ネジ兄さんと話しているのを見たことがあります」
「そうか・・・。最近は会っていないが、元気なんだな・・・」
ウシオは表情を明るくさせ、空を見た。
「あの・・・」
「ん?どうした」
ヒナタは恐る恐る聞いた。
「あなたは怖くないんですか?私たちを。みんな、妖怪とか、化け物とか、言うから」
「ん?んー・・・」
ウシオは考える素振りをして、すぐに口を開いた。
「怖いな。みんな、ものすごい才能を持ってる」
「才能を・・・?」
怖いとは言われたが、思っていたのと別の理由で驚くヒナタだった。
「強いから恐れられるんだろな。それも才能があるから、しかし、それ以上に努力しているからだろう」
「努力・・・」
「才能ってのは確かに人に差があるけど、努力次第でそんなもんどうにでもなる。日向の人たちは才能がある上で、努力もしてるもんだから、怖くてたまらないよ。いつか、俺も追い越されるんじゃないかってね」
ウシオはばつの悪そうな顔をして言った。そのすぐあとに、まだ俺の方が強いけど、と付け加えた。対象にしているのは恐らくヒカゲ兄さまだろう。
「だから、君も自信を持てよ。そんなにおどおどしてちゃ、欲しいもんも手に入らないぜ?あ、でも喧嘩していいってわけじゃないぞ?傷つけない勇気ってのも必要だからな」
「・・・・・・」
ヒナタは黙りこんでしまった。彼らの明るさに、眩しさを感じたからだ。自分とは違い、太陽のような存在。私は完全に名前負けしている。そう感じていた。
「兎に角、このことはナイショだ。俺は帰るからな。君も気を付けて帰れよ?あ。あと、よかったらナルトと仲良くしてやってくれ。・・・じゃあな!」
そうウシオが言うと、目にも止まらぬ早さで、どこかへ行ってしまった。ヒナタを茫然と立ち尽くし、ハッとしてしまった。しまった!お礼を言えてない。
少し表情を暗くし、視線を落とすとボロボロになったマフラーが。それを優しく抱き上げ、ヒナタはナルトの側へと寄った。
「ナルトくんと、ウシオさんか・・・」
隣で意識を失っているナルトを見て、ヒナタは思った。今まで会ってきた人間とは違うタイプだなぁと。ナルトをずっと見ていると、急に恥ずかしくなって、頬を赤らめた。
そしてそのすぐあとに、ナルトは目を覚ました。
********************
「さあ、出発だ。みんな準備はいいかい?」
オチバ隊長が、そう言って他三人の顔を確認した。
「当たり前たぜ先生!バッチリだ!」
そう言うのは、もちろんカズラだ。ウシオとアヤメは静かに頷いただけだった。
「じゃあ行こう」
そう言うオチバ隊長。ウシオは見送りに来てくれているナルトの顔を見て、口を開いた。
「行ってくる、ナルト。大人しくしてろよ?気を付けて毎日生活しろ。俺がいない間も不自由ないようにしておいたから」
「分かってるって!安心しろってばよ!」
そう言ってナルトは、ウシオにサムズアップポーズを向けた。
「・・・」
ウシオは横目で近くにある木を眺めた。こちらを見る気配がある。どうやら本当に三代目が暗部をつけたようだ。安心と言えば安心だが、なんか複雑だ。
「いいこでいるのよ?ナルトくん」
アヤメが優しくそう言った。
「兄貴がいなくて清々するだろ?とりあえず、一人を楽しめよ」
茶化すように言うカズラ。
「殴るぞカズラ」
「アッハッハッハ!」
「・・・・もういいかい?じゃあ行くよ。護衛対象とは、湯の国で落ち合うことになっている」
・・・・ん?なんだ?今の。
一瞬、オチバ隊長の表情が、今まで見たことのないものになった。
しかし、もう一度見ても、元のニコニコ顔だった。
気のせい、か?
変な考えを捨て、首を振る。
「どうしたの?ウシオくん」
「いや、なんでもない。・・・じゃあな、ナルト!」
ウシオはナルトに別れを告げ、木の葉をあとにした。まずは湯の国。そして、そこから雪の国へと長い旅路が始まる。
いざ、雪の国。白の世界へ!
みなさんどうもお久しぶりです。zaregotoです。
次は雪の国篇と言ったな?あれは嘘だ。
というわけで、やっと木の葉から出発しました。実は、これを書いている最中にTheLastをもう一度見まして、どうにかしてナルトとヒナタの出会いを差し込めないかと思案していました。
そんなこんなで、雪の国入国の時間が遅くなりました。すみません。
今回の話で出てきた日向ヒカゲ。宗家の人間で、ウシオの同期です。年齢としてはカズラたちと同じなのですが。容姿はネジに似ており、髪は肩にかからないくらいの長さです。というか、完全にオリキャラです。はい、すみません。オリキャラって使いやすいんですよね。
でも安心してください。名前が出たと言うことは、確実に物語に関与するということです。
次はやっと雪の国篇です。もしよかったら、劇場版第一作目を予習しておくといいかもしれません。一応、過去の出来事の補填としてのストーリーを考えています。
それではみなさま、これからもよろしくお願いします。
P.S.
最近ボルトを見てるのですが、妄想が止まりません。どんどんどんどん案が湧いてきては消え、湧いてきては消えの繰り返しです。助けてください。このペースだと、そこまでいくのに何年かかるか。
うへぇ・・・。批評待ってます。