しかも初っ端からネタバレ内容、なのでご注意下さい。
崩壊した地球に降り立つ人類、
崩壊した世界に降り立つ人形達、
崩壊した世界を侵食する機械群。
人形と人類は出会う
- 序言
遥か遠い未来、人類は、地球は宇宙から飛来したエイリアン、やつらの作り出した『機械生命体』によって奪われた。敗れた人類は、生き残った者を連れて、辛うじて月へと逃げ延びた。己の星である地球を奪還すべく、人類は古くから伝わる技術を使い、『アンドロイド』という、人間を模した人形を作り出した。
それは、地球を奪還するため。それは、機械生命体を破壊するため。それは、エイリアンを殺すため。
ヨルハ部隊、最先端の技術で作られたアンドロイド部隊。宇宙空間、地球にもっとも近い位置にあるバンカーは、ヨルハ部隊の基地。飛行ユニットや転送装置を使い、バンカーと地球を行き来する。
いつか地球がヒトの手の戻るその時まで、人類のために奮闘する。それが、今のアンドロイドの役目である。
- 人類発見
「こちら2B、先ほど、特別個体『アダム』と『イヴ』と遭遇。それと……」
2Bはちらりと横に立つ9Sを見つめる。黒いゴーグルをつけていて、目元は見えないものの、困惑している気配は漂っている。二人も、すぐそこに倒れている『なにか』を見ていた。しかし、バンカーに報告するのは、必要な事。ならば、躊躇う余地などないだろう。未だ言葉が喉に詰まってる2Bの代わりに、9Sはバンカーへの報告を続けた。
「特別個体には逃げられましたが、代わりに女性を発見しました」
『…?女性とは、アンドロイドか?』
「いえ、それが……人間、人類の女性です」
地球のある地域の調査を担当することになったヨルハ二号B型とヨルハ九号S型──通称2Bと9Sは、担当地域にて、月に逃げ延びたはずの一人の人間を発見。
- アダムとイヴ①
「なぁ、にぃちゃん」
「なんだ?」
「なんでさっきの人間を手放したんだ?」
「あれはこの地球でたった一人の人間、暫く動向を観察したい。人間の行動パターンは様々、とされてるらしいからな」
「ふぅーん。人間って、面白いんだな」
「ああ、そうだな」
一方その頃、アンドロイドを模した
- 解決法
「僕達アンドロイドみたいに丈夫じゃないし、飛行ユニットでバンカーに向かうなんて、無理ですよ!」
「……バンカー、こちら2B。対象の人類をバンカーに移送するのは不可能」
思考が追い詰められ、仕方なく、またもやバンカーに通信を送る。9Sの言う通り、アンドロイドならまだしも、生身の人間が上空の気圧に耐えられない。たとえ気圧に耐えたとしても、宇宙と繋ぐ大気圏で、とっくに灰になってこの世から消えてるだろう。どうしたらいいのかも分からず、残された唯一の方法は、やはりバンカーへの通信。
『司令官より命令、発見した人間はレジスタンスキャンプに預けよ、との事です』
「レジスタンスキャンプ、ですか?」
『はい。現状を判断し、この案がもっとも安全とのこと』
「分かりました。ありがとうございます、オペレーターさん!」
ポッドから飛び出した通信映像が消え、二人のアンドロイドは再び、倒れてる女性に目を向く。カジュアル風な黒いコート、白いシャツ、ブラウンの短パンに長ブーツ。どこからどう見ても、資料に記してある、昔の人間がよく着る服装だ。しかし彼らは、初めて己の創造主である人間を見る。少しなからず、困惑している。
月にいたはずの人間が、なぜ地球に?同じ疑問が、二人に降りかかる。
「ひとまず、彼女をレジスタンスキャンプまで運びませんか?」
じーっと人間を見つめる2Bに声をかけ、9Sは小さな微笑みを浮かべて、頭を軽く傾げる。彼に目をやり、なにか考えたのちに、コク、と頷く。自分が運ぼうと両手を伸ばすも、9Sに阻止され、戦闘は得意じゃないので、と付け加えられる。
確かに、偵察に特化した9Sに防衛を任せてばかりでは、彼の身が持たない。戦闘に特化してるB型の自分なら、問題ないだろう。
「それじゃ、行きましょう!」
言葉の代わりにまた頷き、レジスタンスキャンプへ向けて走り出す。
- 目覚め
無事人間である彼女をレジスタンスキャンプに保護してもらい、2Bと9Sは再び任務に戻り、約3日後に、彼らは再びレジスタンスキャンプに訪れた。
入り口付近に着いた二人は、薄々と歌声が聞こえた。
「…歌?」
「推測:先日保護した人間の歌声」
2Bの疑問に、ポッド153は即時に判断して答えを導き出し、彼女たちに回答をもたらす。歌ってる言語こそ分からないが、その歌声は、どこか悲しげに聞こえた。感情を持つ事を禁止されてるとはいえ、存在するはずもない心が、痛む、とても辛く感じる。二人は歌声に沿い、人間の元へ向かう。
「ああ、おかえりなさい。貴方も、彼女の歌声に?」
入ってすぐ、とあるレジスタンスが話しかけてきた。途切れた言葉からするに、彼女も、人間の歌声に魅了された一人なのだろう。ゴーグルをつけてるとは言え、レンズ越しに薄っすらと見える瞳は、止めどない悲しさを宿してる。歌は、人の感情を揺るがす物、それは良きことであり、良からぬ事でもある。大昔の人間が、長年の研究で得た一つの結論。この時9Sは、この結論に頷いたのは、初めてなのかもしれない。
簡易休息所のとある簡易ベッドの上に座り、歌ってる彼女の元までつくと、彼女も二人に気づき、口を閉ざす。そして、微笑みを浮かべる。
「こんにちは、今日はいい天気だね」
口に出されたのは、何の変哲もない、まるで友人とでも話してるような、穏やかな言葉だった。言葉に反応しきれない二人だが、目はしっかりと、彼女の容姿を確認してる。
真っ黒な瞳はまるで黒曜石のようで、陽に当てられた髪はブラウンのように見え、照らされた白い肌は細い血管がよく見える。彼女は、間違いなく、己の創造主で、生身の人間である事を、
彼女はじっと、黒い
「えっと、こんにちは!僕は、
「
どう返事を返せばいいのか、悩んでる2Bの代わりに冒頭を切り開き、どこかぎこちなさそうに返事を返した9Sに続き、2Bも慣れない感じで話し出した。単なる自己紹介、簡単なはずなのに、なぜか、彼女と向き合うと、うまくできないらしい。きっと、初めてお会いできた人間だから、なのかもしれない。小さな微笑みを保った9Sは、そう思った。
「よろしく、9Sさん、2Bさん。私はアカネ、霧雨アカネ。緋と書いて、アカネ」
そっと右手を上げ、二人の前に伸ばす。近くで見ると、コートを取った彼女の手はひどく華奢で、少しでも力を加えて触れてしまったら、折れてしまうと思うほどに、繊細に見える。殆どのアンドロイドは、戦闘機能が搭載されている。戦闘に特化した機体が力の加減をほんの少しでも間違えれば、血肉を持った人間を殺しかねない。
戸惑う二人に、彼女は何か
「あ、アカネさん?」
「そのままで大丈夫。はい!」
ぎゅっと、彼女は固まった9Sを抱きしめた。背中をポンポンと軽く撫で、次に、頭を優しく撫でる。予想外の行動に、9Sはやはり、固まったまま動かない。戸惑いを越した彼は、ただ呆然と、彼女にされるがままだった。
「2Bさんも」
「わ、私はいい!あなたが傷つくかもしれない…」
「大丈夫、君もそのままでいいから!」
9Sをそっと離し、アカネは2Bの元へ向かい、ゆっくりと、彼女を抱きしめる。先ほど9Sにしたように、背中を撫で、頭を撫でる。親愛に満ちたその行動に、2Bは、暖かい気持ちに包まれていた。ああ、これが、人の温もりなのだな。感情を持つ事を許されない人形は、そう考えた。
暖かい、安心する。このままずっと、ずっと……
この感覚に溺れて、深く、深淵の底まで……
ハッとした2Bは、頭の中に残った考えを振り払うように、アカネに離して欲しいと言い放つ。進んで彼女を拒絶したいわけではない。だけど、このままでは、己の中にあるなにかが、生じてしまう。それがいいものか、悪いものかも知らずに。
「分かった。ごめんね、無理させて」
2Bを離し、距離を取ったアカネは苦笑いを浮かべ、謝罪の言葉を口にする。
チクっと、胸が痛んだ。どうしてだろう?このチクチクと痛む感覚は、何なのだろう?パーツに問題が……いや、自身が故障し始めたのか?それとも、ウィルスに汚染したのか?
否定:それは『感情』。
ポッドは悩む2Bの代わりに、彼女の欲する答えを見つけ出した。今度こそ、彼女は酷く戸惑う。
「アカネさんはもう少し休んでください!僕達は報告に向かいますので!」
「ああ、ごめんね引き止めちゃって。お仕事、頑張ってね!」
「…!はい!ありがとうございます!それじゃ、後ほど!」
気が付くと、2Bは9Sに引っ張られて、アネモネのところへ向かっていた。あの、理解できない、感情を胸のうちに残して。
- 司令官の思考
最近地上に降りた2Bと9Sの報告によると、長年発見できなかったエイリアンの巣窟を発見しただけでなく、さらには特別個体の機械生命体『アダム』と『イヴ』と遭遇。挙句には、生き残った人間を発見した。
ありえない。私の知ってる限りでは、人類はとっくの昔に消え、今では月に僅かな人体データしか残ってないはずだ。なのになぜ、彼らは人類を発見したのだ。それも機械生命体とアンドロイドに満ちた、あの地球で。
「彼女は一体、何者だ……」
人類の正体を知りたい、彼女が自分の創造主であるのか確かめたい。しかし司令官という職を背負ってる限り、地球に降り立つ事は叶わず、その人類もまたバンカーに到達する事などできるはずがない。
大きなモニターを見つめる金髪のアンドロイドは、深く、重いため息を漏らした。
ヒトは感情を持つ、それは当たり前だけど。
人形が感情を持つのは、本当に、許されない事だろうか?