美声で船を惹きつけ、船員や船ごと海に沈ませたり、
嵐を呼ぶという記述がいくつかあった。
けど、人魚の伝説は、果たして本当だろうか…?
考えずにはいられない9Sは、あらゆるデータを漁った。
前書きどう書けばいいか忘れちゃった……
(あけおめです…新年早々に本編じゃなくてIFを投稿した事を許して…ください…)
かつてこの星は、お伽話でしか存在しない生物が生息してるという噂と、限られた記録があった。その生物は容姿こそ人類と同じだが、人とは決定的に違う部分がある。性別はすべて女性であり、下半身は魚のそれと全く同じ。これは人類なのか?それとも魚類と分けるべきか?この疑問をめぐって、当時の人々は判断を下せずにいた。だがのちの時代、人でも魚でもない生き物、彼女たちは相応しい名を得た。
幻想であり、凶暴でもある生き物の名は──
呆然と記載された過去の資料を目に通し、キラキラと輝く銀色の髪を持つ
驚きのあまり、呆然と自分を見つめる人魚と視線を交わし、ひらひらと尾びれを揺らす彼女は小さな微笑みを浮かべて、唇を動かす。
「初めまして、ニンゲンさん。君は、なにをお求めかな?」
甘くも柔らかく見える人魚の微笑みは、かつて多くの人類を惑わせたとされている。だけど、9Sは人類ではなく、人類によって作られた
人間さん。目の前にいる人魚はたしかに9Sを『人間』と称したのだ。まさか彼女は僕を人間と間違えてるのか?或いは、人類が月に逃げ込んだ事を知らないのか?資料によると、人魚はあまり人間界と関わりを持とうとしない、物語に登場する幻想生物のように、己の領域でひっそりと暮らす。ならばこの場合だと、後者である可能性が高いだろう。あまりにも特殊な状況を前にして、彼は考えずにはいられなかった。
顎に手を当てながら考えにふける9Sをじっと観察し、知らず知らずに近寄っていった人魚は、相変わらず甘く薄い笑みを浮かべていた。そっと手を伸ばし、黒い布で作られた服の袖を控えめに引っ張る。反射的に俯いていた顔を上げた9Sの視界は、ほとんど人魚の顔で埋め尽くされていた。
思わぬ急接近に、一瞬固まる。思考を遮られた9Sを気にも留めず、人魚はじっと彼の顔を見つめる。
「あら……とても似てるけど、ニンゲンじゃないんだね!」
どこか嬉しそうに話す人魚は、人間を嫌悪してる気配もなく、ましてや人間にとても似てるアンドロイドの自分を嫌ってる素振りなども一切なかった。思わぬ友好な態度に、驚きを隠せない9Sだった。記録によると、人魚は一族を重んじる種族であり、自分たちを害しかねない人間や他種族に対しては攻撃的だと記されてる。
だがこの人魚はどうだ?攻撃的というより、あまりにも無害で、無防備で、世界の汚れた一面など知らずに育ってきた純真な幼子のようで、とても資料や記録に載っていた人魚とは思えなかった。
未だ柔らかい雰囲気を放ち、ゆらりと尾びれを動かす人魚を見つめ、9Sはさらなる好意を示すために、口を開く。
「初めまして、人魚さん。僕は9S……あなたの言う通り、人間ではなく、アンドロイドです」
「あんど…ろいど?人工的に作られた、ニンゲンの事?」
「いえ。
「でも、私にとってはニンゲンさんと違わないよ。君も、立派な『ニンゲン』さんでしょ?」
「そ、れは……」
頑なに己の事を『人間』と称する人魚に対し、ヨルハ機体で随一賢いスキャナーモデルである9Sも、さすがに返答に困った。どうやら目の前にいる美しい生き物は、天真爛漫なだけでなく、頑固なところもあるようだ。その点については、正しく人間らしいと言うべきだろう。
それにしても、人間とあまり関わりを持たない一族にしても、随分と理解力があるようだ。現段階で最新鋭の技術によって作り出された
嫌な顔をせず、かと言って頭を傾げる等の動作もなくスムーズに会話を継続するかの人魚は、きっと賢い部類に入るのだろうと勝手に決めつけた。もっとも、彼女に関しては『勝手に決めつけた』というよりも、行動そのものがなによりの証拠と言ったほうが妥当かもしれない。
「ごめんね、なんか困らせたみたいだね…」
「どちらかと言うと、初めて言われて、どう反応すればいいか──あぁ、これこそ『困ってる』と言うべきでしたね」
「よし、じゃあこの話題はここまでにしよう!うん、それがいい!」
「あはは、助かります」
「うーん、なら次は……そうだ!」
軽いショックで
「9S、君はなにをお求めかな?」
なにを言い出すかと思えば、彼女を発見して間もない頃に聞かれた質問だった。悪意も敵意もなく、あくまでも柔らかい雰囲気で「初めまして」と挨拶してきた彼女の姿を思い出し、続いて今さっきの言葉を口にした事を思い出す。あぁ、確かにそんなことを言っていた気がする。
察するに、
「いいですよ、人魚さん。僕の…僕たちの願いは、自分たちで叶います」
「なるほど、私では手に負えないようだね」
この地上に起こる戦闘、戦争行為はすべて月に逃げ延びた人類のため、この星を再び人類の手に戻すべく行われたものである。いくら願いを叶えてくれる人魚さんでも、こればかりは叶えられない。彼女は人魚ではあるが、半分が人間という性質もあり、もし彼女が戦闘に加われば、我々アンドロイドはきっと彼女を守るかのように戦うだろう。そうなれば、効率は下がり、さらには希少種でもある人魚を失うことになる。
半分が魚介類とはいえ、もう半分が人類である彼女を、できれば失いたくない。足手まといなんて直接言ってしまえば、彼女が悲しむ。できるだけオブラート、かつ己の願いを伝える言葉を選んで伝えた。彼女は察してるのかは不明だが、しょうがない、という風に苦笑いを浮かべる。
「じゃあ……代わりに私のお願い、聞いてくれる?」
尾びれをひらひらさせながら、彼女は小首を傾げてこちらを見上げる。さきほどから陸に上がらず水面に浮いてる彼女が気になるが……
彼女は一体何を望んでるのか、なぜ会って間もない僕にお願いを告げるのか。様々な疑問がグルグルと頭の中を乱す。だが彼女は今の時代では弱き存在、できることならば、協力しても構わないだろう。
「はい」
「ありがとう──私のニンゲンさん」
黒真珠のような瞳は、一瞬にして
一気に後ろに飛び、一定の距離を保てたおかげで9Sを掴もうとする手は空回りしてしまい、宙に止まった。まさか掴み損ねるとは思えず、人魚はきょとんとした表情を9Sに向ける。さきほどと打って変わり、柔らかい雰囲気を漂わせてる。あまりの変わりように、9Sは恐怖を覚えざるを得なかった。あれが、噂の人魚?美しく、優しい態度で接してきた人魚が、なぜあんなにも恐ろしくなるのだ?
「…残念。今度こそ見つけたと思ったのに」
「なにを、ですか……」
「君だけだよ、私を見ても逃げずに近づいてきたのは。あーあ、今度こそ手に入ると思ったけど、やっぱりだめみたい」
残念でならない悲しい表情に切り替わる彼女ではあったが、瞳は相も変わらず光を失ったままだった。もはやあれは黒真珠などではなく、この世のすべてを蝕む深淵に近い色。人魚は言った、今度こそ見つけたと。人魚は言った、今度こそ手に入ると。今更ながら、9Sはようやく人魚の今までの行動を理解した。
ずっと水辺にいたのも、ずっと水の中に入ってるのも、何気ない会話を続けてるのも──すべては自分を水の中に引きずり込むため。あぁ、やはり彼女は正真正銘、
「さようなら、9S──私のニンゲンさん」
最後に悲しい笑みを浮かべた人魚は、水の中に消えていった。同時に、鳴り響くアラームの音も、ポッドが警告を告げる言葉も止み、静寂に戻った。やけに無音に思える環境と、ショックによる思考停止に、9Sは覚束ない足取りで水没都市を去った。
レジスタンスキャンプに戻る道中、9Sはポッドの助言で人魚と接触した発端や過程、結末などを報告としてまとめ、ヨルハ部隊の最高責任者でもある司令官に直接送った。直後、脳内にあるその報告や記録に複雑な暗号やらパスコードをセットし、さらには記憶領域の最奥に仕舞い込んだ。
そうして彼の脳内に、ただ一つ残された
アカネ:私そっくりな人魚……うーん、どちらかと言うと猫のほうが好きかな?
2B:あまり関係ないと思うが……でも、そうだな
9S:確かにそうですね!気まぐれなところなんかも似てるし、なによりかわいいですから!
(それに、アカネさんはそんな恐ろしい
いつか