多分このシリーズを投稿し始めた頃に書いたお話、二本。
加筆修正してあります。
- 見知らぬ誰か
僕は知らない間に、機械生命体の頭部に入っていたらしい。
あまりにも不確定で、あやふやな言い方をしたのは、僕自身でも、よく覚えていないからだ。自由だった頃の僕は一体、なにをしていたのか。また、どこの誰だったのかも、まったく覚えていない。記憶喪失にも似た状態の中で、僕は森に似たどこかで目を覚ました。暗い機械の丸い頭部の内部で、誰かの声を聞きながら。
「……キミも、そう思うでしょ?」
頭部の向こう、隔たりの向こうに、誰かの暖かい手が置かれた。頭部と僅かにコネクトしてるせいか、しっかりと感触が伝わってくる。小さくて、柔らかくて、暖かい誰かの手。機械越しなのに、こんなにもはっきりと感じられたことに、僕は驚くばかりだ。それと同時に、悲しい気持ちになるんだ。
ねぇ、君は…あなたは一体、誰なの?どうして、不安そうな声をしてるの?教えてよ……あなたは、誰?
「……」
どれだけ考えても、どれだけあなたに伝えようとしても、僕は言葉になんてできない。口が動かない、声が出ない。あなたの手の温もりを感じ取り、悲しい声を聞き取るだけで、なにもしてあげられない。
あなたが、誰とも知らないのに……どうして僕は、あなたをこんなにも心配してるの?
「同じ〇〇〇〇同士、これからよろしくね?」
やけに耳に馴染む
僕が、自分のことさえ覚えてないから?それとも、神さまのイタズラ?
「…じゃあね、またどこかで会おうね?」
またキミと会える日を、楽しみにしてるよ。そんな風に、別れの言葉を口にした
「あなたは、いったい……だれなの?」
どこかも知らない森で、僕はひとり、広い空を眺めた。
遠い過去の事は思い出せないけど、どうしてか、生きていける気がしてきた。もしかしたら、あなたのおかげかもしれない。声だけ覚えている、顔も姿も、名前も知らないあなたを、生きる目標として。あなたは、
……?〇〇〇さん…?
「〇〇〇さんって、誰…だっけ?」
またひとつ、思い出せないのに、口に出してしまった言葉が現れた。たしかに、はっきりと彼の名前を言ったのに、自分では聞き取れない、姿も思い出せない。〇〇〇さんは、僕にとって、大切な存在?それとも、最大の敵?
「僕は、誰なの…?」
次々と自分を侵食する疑問に、僕はひどく焦ってしまった。だって、自分の事なのに、なに一つ思い出せないなんて、おかしいよ。
だけど、ここで立ち止まっても、分かる事なんてなに一つない。なら今の僕にできる事は、前に進むだけ。いつか、彼女のことを思い出せるように、いつか、〇〇〇さんのことを思い出せるように。
「いたたたた……あっ!あなた方は……先日の!」
- 愛しのヒトよ
長く望んでいた人間を、唯一の人間である彼女を手に入れた。アカネという名を持つ彼女を、ついに手中に収めた。
データにあった『サンプル』と違い、彼女はとても特別だった。実在していながらも、まるでこことは別の次元にいるかのような、存在そのものがあやふやな人間。さらに、彼女は一般人における『危機感』を持ち合わせていない。いや、正確には、人間の中でも危機感が薄いと言ったほうがいいか。
なにせ、初対面でこの私にハグなどという大胆な行動を取ったくらいだ。
人類を神とみなすアンドロイドのみならず、敵である機械生命体すら友好的な態度を取る彼女は、とてつもなく、人間の神秘に近い。
だからこそ、私は……
彼女を手に入れ、生きたまま、殺し、切り裂いて、息を引き取る瞬間まで、血肉を千切り続けた。なのに、何故だ。手を動かすだけで想像を超える痛みを感じるはずが、何故気にも留めず、私に触れようとする。何故酷な仕打ちをした対象にまで、際限を知らぬ優しさを与えようとする。
何故君は死ぬ直前まで、私に…微笑んでくれた?何故、その血に濡れた顔が、美しく見えるんだ?
美しい。嗚呼。なんと美しく、儚いものか。醜い感情を抱くほかの人類とは違い、君だけは、際立つほど純粋で、無垢で、穢れを知らぬ
「……アカ、ネ」
もう一度、その『顔』が見たい。なぁ、アカネ。君は、死んだのか?たかが解剖で、死ぬようなヒトではないだろう?なぁ、起きてくれ。目を開けてくれ。私がもう一度殺してやるから、だから……
「もう一度、もう一度だけ…」
……嗚呼。違う。私は本当は、ただ、君が〇▲✕だけだ。
自分が一体どんな思いでこれを書いたのかはもう覚えていませんが、きっと頭が狂った時に書いたのでしょうね…
でもようやくこのお話を出せてよかったです。
なにせ危うくお蔵入りしそうになりましたから…(苦笑い)