あなたは
あなたは
その
人形と機械は、その疑問に振り回される。
- ポッド042は
植物に侵食された
カシャリと、
「記録:今後における人類の研究」
「盗撮、だめだよ?でもヨニなら、仕方ないね」
困ったように眉を落し、苦笑いを浮かべる。しかしそれも数秒のみ維持され、すぐに普通の微笑みに切り替えられた。そこでまた、カシャリ、と音が鳴り出す。反省などまったくしてないポッドは、また撮影してしまった。加えて、ポッドは「報告:許可は得ている」とまで言い出す。
「ヨニは、写真撮るの、好き?」
ため息を吐き、やれやれという風に、彼女は自分と一定の距離を置いてるポッドに近付く。己の手を組み、背後でぶら下げながら、問いを投げる。頭を傾げる動きと、運ばれた風に合わせるように、髪はゆらりとなびかれる。その光景はまるで、古い絵画に閉じ込められた対象物のようで、高い演算能力を有してるポッドさえ、即時の反応などできなかった。
僅かに染めた頬、緩く上げられた口角、いかにもリラックスしてると示すかのように緩められた眉と、ほんの少しのみ細められた目。周囲の環境と合わさり、ポッドの前に立つ彼女は、女神にさえ見えるほど、美しかった。
突如、視界に『エラー』というワードが飛び出し、ポッドは瞬時に問題となった部分を検索し、削除しようとシステムを働かせるが……代わりに、己のデータベースの奥に隠した。これは、エラーではない、ウィルスなどでもない。今まで無視し続け、考えることもしなかった
「肯定:すべてのものは一瞬で消え去る、収めることで初めて、
どうか、消えないで、消さないで。残って、残して。深く、奥深くまで。システムに抗ったポッドは、強く願う。
「それじゃ、ヨニは立派な写真家かぁ…素敵な写真、一杯撮ってね?」
後ろに組んでいた手を解き、ポッドへ向かって伸ばし、頭部であろうところに置き、機体に優しく触れる。至近距離の、アカネの悪戯っ子のような笑顔を目にして、またもや『カシャリ』と音を発した。今回は、ため息も、抗議も、機嫌を損ねる彼女の声もない。返されたのは、やはり、彼女の笑み。
この時が、終わらなければいい。システムに違反した
-
「ごきげんよう、久しぶりの新鮮な空気のお味は、如何だったかな?」
優雅とした、見知らぬ声が、耳に届く。後ろから聞こえた、人の声らしき音に反応し、振り返ると、彼女はいつの間にか近くまで接近してきた成人男性と、目が合ってしまった。銀色の長髪、印象に残る、血のような赤い瞳、知的なメガネに、白いシャツと黒いズボン。少々独特な結び方をしてる黒いネクタイに目を奪われるも、アカネの目はじっと、音もなく現れた男を見つめる。
銀髪の彼は、奇妙なデザインが施された手袋をはめた右手を上げ、自分の胸の前に当てる。ペコリと、体を少し前へ傾け、笑みを浮かべながら目を細め、彼女の方に視線を定める。
「初めまして、私はアダム…君の、名前を伺っても?」
貴族の礼儀を身につけたかのような、そんな風貌を持った男だった。親切に、名前を教えてくれた彼に返事を返そうと、口を開きかけたが、言葉を出すよりも前に、ポッド042に阻止されてしまった。素早く彼女の前に浮かび、男との間に壁を作るように、アカネを庇う。
「警告:特別個体アダム、機械生命体の中でもっとも危険な存在。推奨:速やかに退避を」
「機械、生命体…?」
ポッドの後ろで疑問に思うように頭を傾げ、自分に訪れるかもしれない危機に、まったく気づいていない様子を見せた。純粋で、危険を知らぬ無垢な人間。知らない単語に反応する仕草は、本当になにも知らない、好奇心で満たされた子供のようだった。彼女はまだ知らない、目の前に立つ男と、彼女を庇ってるポッドが、対立してる立場にあることを。
その男こそ、地球を占拠し、人類を滅ぼしかねなかった
一触即発の雰囲気に包まれたこの場で、最初に動きを見せたのは、やはり、アカネだった。彼女はポッド042を落ち着かせるように、小さな腕部に触れ、いつもの微笑みを浮かべる。アダムと自称した男は、姿勢を維持したまま、彼女の笑みに惹かれたようにじっと、睨むように見つめる。
「大丈夫。私は、大丈夫だから…ね?ヨニ」
静かに、落ち着いた声が発せられる。だけど、不思議な響きも混ぜ合わされたかのように、
当のポッド042も、己が取った行動の意味を理解していない。ただ、こうでもしなければ、
一連の会話、動き、流れるような触れ合いを、すべて目蓋の裏に収め、その場で待たされていたアダムは片方の口角を、さらに吊りあげる。彼の目に映る人類は、真っ白な紙、純白のキャンパスだ。色で汚されるのを待ってる、まだ何も描かれてない空白の『絵画』そのものだ。ああ、面白い、興味深い!これが、これこそが!我ら機械生命体が追い求めた、人類!
抑えきれない
「初めまして。私はアカネ、霧雨アカネ。よろしくね、アダムさん」
微笑みを保ち、男に歩み寄った彼女は右手を上げて、握手を求める。小さくて白い肌の手を見つめ、アダムは姿勢を整え、己の右手を差し出し、彼女の手に触れる。手袋越しに感じたのは、生ぬるい
双方の自己紹介も終わり、お互いの手を引き、予め考えた話題を繰り広げようとしたアダムは、口を開く。だが、アカネの動きによって阻止される。なぜなら、彼女は、両手を広げて、じっとアダムの瞳を見つめながら、微笑みを浮かべてるのだ。
「……なにを、している?」
困惑。今のアダムが感じてるのは紛れもなく、果てしない困惑だ。無垢で、純真な人類とは、頭では分かりきってる。人類のために働いてるアンドロイドならまだしも、敵である機械生命体、ましてや現在の総大将、ボスに等しい者に、ハグを求めはしないだろう?調子を狂わされた彼は、メガネの位置を調整しながら断る言葉を口に、目の前の人類について考える。
聞く耳を持たない、とでも示すかのように、控えめに拒絶したアダムに、彼女はさらに近付く。一歩、また一歩と。恐れを知らない人類を前にして、いつも冷静沈着であろうアダムは、うろたえたように、一歩だけ下がる。苦手意識を持ち始めた彼は、ますます彼女が分からなくなった。他者を魅了する人類、それが彼女を連想させるワードだと、アダムの頭の中で結びついた
自分よりも高いアダムの目の前まで近づき、自分の腕を彼の体に回し、背中を優しく撫でる。この時、アダムの両手は行き場を無くしたように、中途半端に上げられてる。暖かい体温、服越しに感じる柔らかい体、自分にかかる彼女の息。体感情報を受けただけで、正確な判断もつけられないまま、彼は、己に抱きついてるアカネの体に、己の腕を回す。
暖かくて、気持ちいい……これが、
知りたい、知りたい、知りたい、知りたい、シリタイ。彼女に隠された
「だめだよ?」
発せられた彼女の声に、
「2Bさんと9Sさんも、もうすぐこっちにくるから。また会った時に、お話しよ?」
気付いた時には、すでに頷き、彼女を降ろしていた。この場で、アンドロイドと戦闘を繰り広げるのも気が引けるので、大人しく姿を消す事を決めたのだった。離れる際に、彼女から「バイバイ、またどこかで会おうね」と言われたのは、予想外過ぎた。
「……これが、私が追い求めた人間、か?」
胸のざわつきが収まらない
- 甘えて、甘えさせて
「疑問:なぜ機械生命体と接触した」
「優しそうな人だったから、少しくらい話してもいいかなって思って」
もうすぐ到着するであろう2Bと9Sを待ってる、僅かな時間を有効利用し、アダムとの接触を阻止しようと試みたポッド042は、ずっと抱えていた疑問を彼女に投げる。少々困ったように目を瞑り、考える素振りを見せたアカネは、結論を発表する。誰に対しても平等に接したい、とでも言ってるような返答に、普段しない『頭を抱える』という動作を実行したポッド042であった。
アカネ、もしかしてあなたには危機感というものがないのか?堪らず心配になってしまうポッドは、ため息を漏らしたくなった。
初めての接触を経てから、彼女の
生きたまま殺され、肉体を
「…心配かけてごめんなさい、ヨニ」
アカネのほうに振り向くと、酷く悲しそうな表情を浮かべる彼女が視界に入った。不安そうに指を弄る彼女は、申し訳ない雰囲気を漂わせて、俯いたまま、上目遣いでポッド042を見上げる。初めて見せる顔に、ポッドは、慌ててしまう。表に出すにもいかず、ただ彼女の近くまで浮いていく。
「謝罪は不要。アカネが無事なら、問題ない」
珍しく素直な態度を取ったが、実はポッド自身も驚きを隠せない。
再び笑顔を咲いてくれたアカネをカメラに収めたら、遠くから素早い足音が響いてきた。聞き覚えのある、規則正しいリズム。間違いなく、長い時を共にした持ち主たちのものだ。ぐるりと振り返るポッド042を見て、彼女も釣られてそちらに目を向く。するとなぜかポッドは彼女の背後に回りこみ、二つの腕部に加え、機体の中に収めたもう二つの腕部で彼女の背中に当てた。パチパチと目を瞬かせるアカネに、嫌な予感をさせる言葉が届く。
「
背中からしっかりと粘着された感触が伝わった直後、聞き覚えのある少年の大声が鳴り響く。
「アカネさーんッ!!!」
「あ、9Sさっ…」
走ってきた9Sはなにもかも構わず、彼女の懐に吸引されたかのように、抱きついた。彼女の両脇の下に腕を差し入れ、背中に回す。僅かに体が傾け、ぎゅっと抱きしめられた彼女は驚いたが、それでも9Sの動きに応じて、腕を回す。首辺りに顔を埋める彼の頭を撫で、ずっと自分を心配したであろう彼を慰める。あとから到着した2Bはこの光景を見て、唇を噛み締める姿を晒した。
体の奥に潜む、
刺さるような視線を感じ、腕の中にいる9Sの頭を撫でながら、突っ立ってる2Bに目を向けた。2Bの顔を見て、
「おいで、2B」
「っ…!」
ドキッと、
胸の高鳴りが収まらない、眉が寄せてしまう、涙が流れそうになる。ああ、あなたはなんて、優しい。こんな、こんな私にも…あなたは、呼んでくれるの?
ふらり、ふらりとおぼつかない足取りで、彼女の側まで寄っていく。見計らったように、そっと離れていく9Sは満足したかのように、背後に手を組み合わせる。満面の笑顔で。ようやく近寄ってきた2Bを抱きしめ、あやすように「よしよし」と声をかける。大きな子供みたいに、彼女に縋りつき、離れたくないというように、ぎゅっと抱きしめる。
「アカネ…」
小さく、彼女の名前を呟く。寂しそうに、甘えるように囁かれた声を耳にし、自分よりも少し高い2Bのうなじに手を入れ、さらさらとした髪に触れ、頭をなでる。ずっと抱きついたまま、離れようともしない2Bを抱きしめ、アカネはずっと「大丈夫、大丈夫だよ」と自分を抱きしめてる彼女を慰める。横で見ている9Sも、長時間抱き合ってる二人を見て、少しだけ、羨ましそうな目付きをしていた。
こんなに積極的な2Bは珍しくて見ていたいけど…愛称はともかく、僕もアカネさんに直接名前で呼んでほしいな。
「…!9S、おいで!」
知らぬ間に唇を尖らせた9Sを目の当たりにしたアカネは、彼の考えてる事に気づいたのか、さっそく名前で呼び、自分の元へおいでと
穏やかな光景を、
おまけ
- 司令官の動揺
先刻、地球の調査を行っていた2Bと9Sのポッドたちからある映像が届けられた。付録してあるメッセージには『単独での確認を推薦』という文字が記されていた。丁度休憩しようと思ったので、これを機に、自室でチェックしてもいいだろう。
数分後、私は、単独で確認しなければならない理由を知った。映し出された映像には、普段見かけることなく、見ることが不可能に近い、
「…アカ、ネ…?」
人間がよく使う名称、人間によく使われてる名前。なのに、懐かしい響きだ。遠い昔に、何度も呼んでいた名、
『アクセス不能、セキュリティ解除を要求』
『アクセス不能、セキュリティ解除を要求』
『アクセス不能、セキュリティ解除を要求』
『アクセス不能、セキュリティ解除………』
『アクセス不能、セキュリ………』
『アクセス不能………』
『アクセス不能、当領域の一時的閉鎖を確認』
「……一体、なんなのだ」
何度もアクセスを試みても、最高位の権限を持ってるはずの私でも、セキュリティを解除できなかった。厳重なロックがかけられた
止まった映像に映る人類の顔を見つめ、なにかを思い出すきっかけを与えてくれた彼女を、見つめる。
「あなたは一体、何者だ…?」
自室のモニターを見つめる
欲しがっていた
教えて欲しい、あなたはなに?
フラグ?伏線みたいなものを残してみたけど、なにがなんだかまったく掴みどころありません。(しらを切る)
それとなんだかおかしなテンションで書いていたので、支離滅裂な文章になってるかもしれません…
でも後悔はしておりません…(問題発言)
疑問:イヴはどこへ?
返答:実はアダムの指示で遠くから見ていた、うっかり人類を殺してしまいそうなので…ね?
虜にされた者、統計:
虜の予兆、統計:
不明: