ソードアート・オンライン 黎明の女神   作:eldest

21 / 46
 原作は《筋力値》と《敏捷値》しか基本ステータスは存在しないんですが、敢えて基本的な――

 STR=物理攻撃力
 DEX=命中率、クリティカル率
 AGI=回避率、攻撃速度
 LUK=幸運(アイテムドロップ率など)
 VIT=物理防御力

 といった具合にしてあります。この方が色々スキル考えるのに便利ですし。

 それでは、誤字脱字ありましたら教えてください。


第20話 迷宮のラヴァーズ

「キリトくん、スイッチ行くよ!!」

「おう!」

 

 アスナの細剣上位スキル《スター・スプラッシュ》からのキリトの片手剣四連撃《ホリゾンタル・スクエア》、七連撃《メテオブレイク》の見事な三コンボで、難敵《デモニッシュ・サーバント》を撃破する。

 二人の連携は、とても今日初めてパーティーを組んだとは思えない程の完成度で、まるで長年背中を合わせ続けた歴戦のコンビのようだ。

 だが、そんな感慨に浸っていられる程、僕にも余裕はない。何しろ、ここは正真正銘“最前線”なのだから。

 

「ふるるるるぐるるるるう!」

「……ッ!」

 

 もう一体の骸骨剣士が放った《バーチカル・スクエア》を身を捻り三度躱し、四度目でカウンターのソードスキルを叩き込む。

 

「――――はぁッ!!」

 

 赤いライトエフェクトを纏った刀身が地を這うように滑り、文字通り、敵の足元を掬う。

 カタナスキル《浮舟》。

 

「ぐるぁ!?」

 

 宙へと跳ね上げられる巨体。がらんどうの双眸に、確かに驚愕が映る。

 《浮舟》は、スキルコンボの開始技だ。

 ……一気に決める!!

 

「――――ッ!!」

 

 《AGI》を一時的に30%増加させる強化系(エンハンス)スキル《ラビット・フッド》の効果と、システムアシストによる二重加速(ダブルアクセル)

 ソードスキルのライトエフェクトと《月華》の燐光が混じり合い、迸る紅い光芒。

 

「セアァァァァッ!!」

 

 一瞬のうちに刻まれる放射状の十二の切り口。その全てから、肉体を内側から食い破るようにして吹き出す、赤黒いライトエフェクト。

 その光景はまるで、血に染まった羽根を広げる孔雀のようで……。

 

「ぐるぁぁぁぁ!!」

 

 骨の身体は、果たして痛みを感じ得るのか。

 苦悶の声を上げた骸骨剣士は、次の瞬間、四方に骨片を撒き散らし、爆散した。

 カタナスキルの最上位剣技の一つである十二連撃技《血塗れ孔雀》。

 あまり使っている人を見ないが、それはこの光景の残虐さからでは勿論無く、技の成功に要求される《DEX》と《AGI》の数値にまで未だ達していないからだろう。

 

「……ふぅ」

 

 残心し、呼吸を落ち着ける為に一息吐いてから、刀身を鞘に収める。

 

「お疲れ、二人とも」

 

 キリトとアスナに労いの言葉をかけるが、二人共に表情が優れない。

 理由が解らず首を傾げると、キリトが口を開いた。

 

「あ、相変わらず凄いな。あんた、本当に俺よりレベル低いのか……?」

「僕、レべリングはあまりしないからね。多分……キリトより5は低いと思うよ」

 

 現時点での僕のレベルは86。対してキリトは91なので、以前よりは差は埋まったものの、やはりレベル差5の壁は大きい。とはいえ、数値の壁は技術で越えろがモットーなので、彼に後れを取るつもりは毛頭ないが。

 そんなことを考えていると、今度は苦笑を浮かべたアスナが口を開く。

 

「ティンクルさん……平気なんですか?」

「え?」

 

 平気なのかと問われ、しかし、僕はやはり首を傾げざるを得ない。

 アスナが死霊系モンスターを苦手としているのは知っているけれど、スケルトン系は実態があるから平気だったはずだ。

 

「さっきの技……出来れば動物型モンスターには使わないでほしいです。――少なくても、わたしの見える範囲では」

 

 そこまで言われ、ようやく理解が及ぶ。

 《デモニッシュ・サーバント》の場合飛び散ったのは骨片だったが、その他多くのモンスターに使用すると、代わりに飛散するのは――

 

「ごめん……善処するよ」

「お願いします」

 

 普段一人――正確には二人だが――で居ることが多いから、あまりその辺の配慮をしたことが無かった。

 少なくても、こういう戦い方は人前では慎むべきか……仮にも、周りに女性と思われている今は。

 歩くのを再開して一、二分。何やら考え込んでいたらしいキリトは、顔をアスナと僕の方へと向ける。

 

「まあ、たしかにちょっとグロいけど……。でも――殆どのソードスキルって無機質な感じがするのに、カタナスキルだけはデザイナーの趣味が色濃く出てると思わないか?」

「うーん……言われてみればそうかも。わたしの細剣スキルもキリトくんの片手剣スキルも、基本技が《垂直(バーチカル)》だったり《直線(リニアー)》だったり……無味乾燥っていうか……」

 

 そう言われ、何と無くだがその理由を思い付き、僕はそのまま口にする。

 

「もしかしたら、カタナスキルだけデザイナーが違うのかもね」

 

 恐らくソードスキルのデザイナーも茅場のはずなので、カタナスキルが異色に見えるのは、このセカイの創造主が関わっていない“異端”だからなのかもしれない――と、思ったのだが。

 

「それは流石にないと思うけどな。スキル一つだけデザイナーが違うなんて、そんなことないだろうし」

 

 そうやって否定されると、反論しようがない。

 僕は肩を竦め、別の話題を振ることにした。

 

「それは兎も角、さっきの《軍》ことだけれど……」

 

 現在、僕らがいるのは最前線である七十四層迷宮区の最上部付近なのだが、迷宮区に入る前、手前の森林で《軍》――正式名称《アインクラッド解放軍》――所属のプレイヤー集団を目撃したのだ。

 正直言って、彼らが何処に居ようが僕自身は別に構わないのだけれど――彼らが所属する《軍》は“解放”など最近は名ばかりで、守るはずの《はじまりの街》に定住する低レベルプレイヤーに重い課税を強いるなどあまり良い噂を聞かない。それに、《軍》は長い期間迷宮区攻略に関わらなかった。

 《軍》の台頭は《聖竜連合》辺りが良い顔しないだろうことは目に見えているし、それに何より、この急な方針転換に嫌な予感を禁じ得ない。

 

「そのことなんですけど……」

「アスナ、何か知ってるの?」

 

 そう尋ねると、アスナは少し自信無さそうに話し始める。

 

「ギルドの定例会で聞いた話なので正否の程は解りませんけど……《軍》が方針変更して上層エリアに出てくるらしい、って」

「……それでいきなり最前線の未踏派エリアに殴り込みか」

 

 キリトが呆れ半分感心半分といった感じで唸る。

 

「規模は?――前は迷宮区に多人数で入って、その混乱が元で半壊……方針変更を余儀無くされたんだったはずだけれど」

 

 そもそもSAOはMMORPGにしては珍しく――というか、Multiplayer(多人数型)に反して少数……特にソロやコンビの方が経験値効率が高く、何より戦い易い。

 だから迷宮区で人海戦術などやろうものなら、狭い路地で挟まれたり袋小路にかち合ったりして身動きが取れなくなり、そのまま壊滅……ということになりかねない。

 

「なので、前回の教訓も踏まえて少数精鋭部隊を送るそうです」

「たったそれだけの教訓の為に随分高い授業料を――……ごほん」

 

 思わず皮肉を言いそうになり、慌てて咳き込んで誤魔化すが――まあ、手遅れだろう。気にせず続ける。

 

「なるほど、その第一弾がさっきのパーティーなわけだね」

 

 権力の誇示が目的か、或いは内部崩壊を抑える為の楔か。……これだから似非共産主義は。

 どちらにせよ、慣れない高レベルのMob相手に長時間戦闘するのは無謀と言わざるを得まい。

 だが――

 

「幾らなんでも、今日ぶっつけ本番でフロアボスに挑むことは流石に無いだろうし、迷宮区に入ってからここまで一度も見なかったことから考えても、今日はもう帰ったんじゃないかな?」

「……それなら良いんだけどな」

 

 キリトの奥歯に衣着せた言い方に眉根を寄せつつも、これ以上余計なことは考えないことにする。

 

「――集中しよう。いつMobが出てもおかしくないんだから」

「《索敵》してるからその点は問題無いよ。……それより、さっきの指輪だ。指に嵌めるだけで隠蔽効果があるなんて狡いだろ」

 

 そう言って、キリトは自分のコートをバサバサ引っ張って示す。

 

「それは君が好きで着てるんだろ?」

「あーやっぱりそうなんだ」

「うるさいなぁ!良いだろ別に!!」

 

 僕ら二人のからかいに不貞腐れるキリト。これだからからかい甲斐がある。

 それにしても――

 

「もーキリトくん、冗談だから怒らないでよ。……ふふっ」

 

 恋する乙女の顔、なんてベタな形容がしっくりくる程、幸せそうなアスナの笑顔。

 問題事は両者にダメージが少ない方法で切り抜けるのが常の僕が、今回に限ってあんな方法を取ったのは、勿論ストーカー気質のクラディールへの嫌悪感も有ったのだけれど、本当は里香にアスナを頼まれたというのが大きい。

 

『アスナがキリトに告白できるように協力してあげて』

 

 何ともお節介だが、実に彼女らしいお願いだ。

 今は一緒にはいられないけれど、それ以外の願いなら――好きな人の……里香の願いは、出来得る限り叶えたい。

 ――ああいう手合いは口で言っても引くような玉じゃないし、力技になってしまった。……それでも結局、クラディールは尚食い下がり、アスナが自ら護衛の任を解くという嫌な結果になってしまったけれど。

 それでも、こんな笑顔をしてくれるなら、主義に反することをやった甲斐もあったというものだ。といっても、キリトが隣りにいれば、アスナはいつもこんな笑みを浮かべているのかもしれないが。

 そんな彼女の好意に気付かないキリトは、一体何処に目を付けているのだろうか。

 非難の意味を込めて、キリトの横顔を見詰める。

 

「……?どうした、ティンクル?」

 

 こういうのには気付く癖に、鈍いのか何なのか。……このすけこましめ。

 

「何でも無いよ」

 

 口には出さず、僕は足元に着いて来ているイナバ――昨夜名付けた――を抱き上げる。

 

「ま、もう暫らくはこの子で我慢だ」

「……?」

 

 キリトは訳が解らないといった風で首を左右に振ったのだが――

 

「お、おい!!」

 

 急に大声を上げ、立ち止まるキリト。

 

「な、何よ?……急に大声出して――って……ああ!!」

 

 コントか、と内心思いつつも、アスナが指差す方向を見やる。

 視線の先には巨大扉。まず間違いなく、その先にはフロアボスが待ち構えていることだろう。

 扉に近づき、キリトは後ろを振り返り尋ねる。

 

「ど、どうする?」

「覗くだけ、覗いてみる……?」

 

 キリトに並んだアスナはその強気な台詞とは裏腹に、子供が親と逸れない為にそうするように、彼のコートの袖を掴んでいる。

 それなら――吊り橋効果、狙ってみるか。

 

「そういう前振りいいから、サッサと開けよう」

 

 言いながら、躊躇無く扉に手を当て押し開ける。

 

「ちょっ――――……あ、あれ?」

 

 アスナが恐怖で声を上げるが、言い切る前にその声は、途中で疑問のそれに変わった。

 

「……見えないな」

 

 扉の先は暗闇が広がるばかりで、中を見通すことが出来ない。

 

「いっそ二人で入ってみたら?」

「嫌ですよ!何言ってるんですか!?」

「……いや、その必要は無さそうだぞ、二人とも」

 

 キリトがそう言ったまさにその瞬間、入り口付近の松明に、青白い炎が灯った。

 そして、鬼火のように見えるそれは、徐々にその数を増していく。

 

「き、キリトくん……」

 

 不安からか、アスナはキリトの腕に抱き付くと、剥き出しの肩を震わせ始める。

 

「あ、アスナ……」

 

 うわー僕お家に帰りたい。

 桃色に見える空間を呆れながら横目で見ていると――暗闇の先、遂にフロアボスらしき巨躯が朧気に浮かび上がった。

 目に映るのは、黒山羊の頭部に青く輝く瞳。次いで、縄の如く盛り上がった筋肉に包まれ、更にその上を青い体毛に覆われた巨大な体躯。

 その姿はどう見ても――

 

「――――――……Baphomet(悪魔)

 

 呻くように小さく呟き、更に視線を凝らす。

 悪魔の頭上。出現したカーソルには、《The Gleameyes》……輝く目。

 

「キリ――」

 

『グルァァァァァァァァア゛ァァァァァァ!!』

 

 轟くような雄叫びに、僕の声は掻き消される。

 そして、悪魔は口と鼻から青白く燃える呼気を噴出しながら、右手に携えた巨大な剣を振りかざし――そのまま真っ直ぐ、地響きを打ち鳴らし、猛スピードでこちらへと向かってきた。

 だがまあ……慌てる必要は無い。何故なら、フロアボスはボス部屋から出ることは出来ないのだから。

 

「二人とも、これからどうし――」

「うわぁぁぁぁ!!」

「きゃぁぁぁぁ!!」

 

 だのに、二人は同時に絶叫すると、一目散に逃げ出した――僕を置き去りにして。

 

「ひでー」

「自分で仕向けておいて何言ってんのよ?……しかも、思い切り棒読みだし」

 

 呆れたような声が虚空から聞こえたかと思うと、ノイズが僅かに走り、僕の背後に白い手が現われ……そのまま僕の肩を掴んだ。

 

「止めろよ、その登場。……ホラー映画かよ」

 

 僕がそう悪態を吐くと、空中に開いた穴が広がり――純白のドレスを纏った少女が地面へと降り立った。

 カツリ、とヒールの音が薄暗い回廊に響き渡る。

 

「少しは驚きなさいよ」

 

 いつも以上に不機嫌そうなアウローラは、僕を蔑むような眼差しで見詰めてくる。

 

「怒ってるの?」

「怒ってる……?怒ってるですって!?」

 

 くわっと目を見開くアウローラ。

 

「怒ってるに決まってるでしょ!?私、あの坊やが泊まったせいで昨夜も今朝もご飯食べ損なったんだから!!」

「お前AIだろ!!」

 

 扉の手前ギリギリに迫っている悪魔の顔を完全に無視して、僕らは醜い言い争いを続ける。

 

「AIだからって何よぉ!?私だってお腹くらい空くのよ!!」

『ぎゅるぎゅるぎゅるぅぅぅぅ』

 

 腹の虫まで空腹を訴えるように、タイミング良くアウローラの腹が鳴る。

 

「精巧につくり過ぎだろ……」

 

 恐らく、僕が想像もつかないような凄い技術が空腹を再現する為だけに使われているのだろうけれど……この機能、果たして必要なのだろうか。

 

「解ったよ……ほら」

 

 昼食にしようと今朝つくっておいたサンドウィッチをストレージから取り出し、バスケットから取り出してからアウローラに手渡す。

 

「……しょぼいわね」

「文句言わないで食えよ」

 

 僕がそう言うと、アウローラは嫌々といった体で咀嚼し始めた。

 

「――で、あなたの思惑通り事は進んでいるわけだけれど、気分はどうかしら?」

「食いながら話すなよ……。まあ、そうだね――凄くヤキモキするね、あれは」

 

 逃走する際、あの二人……バッチリ手繋いでたし。

 

「……アルカナは、果たして正位置と出るか逆位置と出るか――アルカナといえば……」

 

 扉を見やると、悪魔の青眼と目が合った。

 大アルカナの“悪魔”に描かれているのは、このバフォメットだといわれている。

 

「お前が本物の悪魔なら、願いを叶える為に魂を捧げるのも吝かではないのだけれどね」

「……そんなことしたら、ソバカスが悲しむわよ?それに、こいつは願いなんて叶えてくれないし」

「だから勿論、こんな所で死んでやるつもりは無いさ」

 

 そう言って、僕はアイテムポーチから《回廊結晶(コリドー・クリスタル)》を取り出す。

 

「――……座標固定。これで次回来る時は、ボス部屋前までショートカット出来るね」

「あっさり使うわね」

「こんな物、使ってなんぼでしょ」

 

 感心したようなアウローラの呟きに、僕は肩を竦める。

 ――さて。

 

「そろそろ追いかけますか……二人とも心配してるだろうし……」

「じゃ、私は退散するわね」

 

 そう言って、再び電子の海へと還っていくアウローラ。

 

「……結局、全部食べちゃったのか」

 

 バスケットの中は見事に空っぽ。

 ……僕のお昼ご飯だったんだけどなぁ。

 溜め息を飲み込んで、来た道を引き返す。――でも、一旦立ち止まって、僕は振り返った。

 

「首洗って待ってなよ?」

 

 閉まっていく扉を睨みながら、僕は独りそう呟いた。




 アウローラさん空腹可愛いლ(╹◡╹ლ)

 活躍めざましいティンクルさんですが、キリトくんとマトモにやりあったら、プレイヤー中最高の反応速度によって敗れることになります。

 キリト>ティンクル>ヒースクリフ>キリト

 みたいな三竦みのつもりで書いてます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。