「は?」
「は?」
辺りを見渡す限りここは森だか山にしか見えない。しかし、空を見てみると……
「何で空が紫色なんだよ」
どうも地球とは思えない場所に突然飛ばされて、オレは心底困惑する。それに、魔法は使えるがかなりの制限を付けられているようだった。
そんなこんなと考えていたら突然「ガサッ」と、植物が揺れ、目の前に傷だらけの黒猫が飛び出してきた。
オレに気が付いた黒猫は爪を立てて、慌ててオレを引っ掻こうと跳躍してきた。
────この黒猫、魔力がある?
取り敢えずオレは黒猫の首根っこを掴み、回復の魔法で傷を癒してやる事にした。
黒猫は始めの方は暴れていたが、段々と抵抗をしなくなった。
そして、落ち着いたのか緊張の糸が切れたのか、黒猫はスヤスヤと寝てしまった。
「しっかし毛並みが綺麗な猫だなぁ。よし、この猫はオレのペットにした」
小動物は眺めているだけでも癒しになる。愛でるとなるとそれ以上の癒しとなる。いわゆるアニマルセラピーである。
しばらく眠ってしまった黒猫を起こさないように優しく撫でていると、背中から蝙蝠のような羽根を生やしたゴツゴツの男が複数目の前に現れた。
「手古摺らせやがって」
「お前には多額の賞金が掛かっているんだ。大人しく捕まりやがれ」
────は?
突然こんなところに飛ばされていきなり賞金首にされてんのかオレ……。なんかムカつくな。
「ていうか、何で人間がここにいるんだ?」
その言い方、まるで自分が人間でないかのような言い方だ。
あの背中の羽根、魔族か?
「まぁいい、この人間もまとめてぶち殺してやれ!」
背中から蝙蝠のような羽根が生えたゴツゴツした男達が襲い掛かってきた────────から返り討ちにしてやった。
ボコボコにしてやった男共に取り敢えず事情を聞いてみる事にした。
「で? 何でオレを襲ってきた」
「ふ、ふん。人間に利く口など持ち合わせてはいないわ!」
「へー」
「痛っ! 痛い痛い!!」
男共が所持していた武器の一つの剣を、生意気な口を利いた男の頬に刺しては抜いてを繰り返す。
ボコボコにされただけあって痛みで体が動かせないが、上手い具合にオレは回復してやって喋れるようにはしてやった。
男共は、始めは憤慨で顔を赤くしていたが、徐々に顔を青くしていった。しかし、頑として口を割らなかったのだが……
「なに顔を背けてんだお前ら────こいつが使えなくなったら次はお前らだぞ?」
その一言で男共はオレに屈服した。
*
「で、なんなのお前ら」
「その……俺達は……悪魔です……」
「悪魔ァ? ふざけてんなら、もう一刺しいっとく?」
剣をチラつかせて脅しをかけると男共は一心不乱に首を横に振る。
「俺は元は人間だったんですけど悪魔に転生させられたんです!」
「お、俺もです!」
「俺は純潔の悪魔です!」
「俺もd……俺もです!」
「お、俺も!」
悪魔を自称する男共は必死に悪魔であることを主張した。
どうやら魔族では無いようだ。
しかし悪魔か……昔会ったような会わなかったような……。まぁ、いいか。
「それで、ここはどこだ?」
その質問に男達は不思議そうに顔を見合わせ、そして納得したかのような顔をし、『冥界』と答えた。
「じゃあ、オレは死んだのか?」
「え?」
は? 生きてるだろ、何言ってんだこいつ。と言うかのような顔に腹が立ったので、一人の悪魔の頭を魔力弾で吹き飛ばした。
頭を吹き飛ばされた悪魔は当然絶命し、それで残った悪魔達はさらに怯え、顔を青くして震え上がった。
「説明しろ」
悪魔共は歯をガチガチ鳴らしながら説明を始めた。
おそらく、人間界から冥界に迷い込んでしまったのだろうというような事を言っていた。
そんなケースは稀中の稀らしい。で、冥界は人間界とは異なり、悪魔やらなんやらがたむろってるらしい。
他にもそんな場所があって天界やら冥府やらが存在するらしい。
悪魔の他にも天使、堕天使、死神、神と人外がいるらしい。
────その人外共、昔会った事があったような無かったような……。
「で? 何でオレが指名手配されてんだよ。賞金首になった覚えはないぞ」
「え、いや……指名手配されているのは貴方様ではなく、貴方様が抱えているその黒猫ですよ……?」
「コイツが?」
悪魔共が言うにはこの黒猫は猫魈の妖怪なのだそうだ。で、その力を買われて悪魔に転生させられたんだそうな。
妹の白猫は姉に連れられて悪魔の根城に来たらしい。
姉の方は仙術が優れていたらしく、もしかしたら妹も仙術が使えるんじゃないか? という話になり、妹の方も転生させようとしたのだが、その時この黒猫に抵抗され、黒猫にこいつらの主が殺されたんだそうだ。で、この黒猫ははぐれ悪魔として現在絶賛指名手配中とのことらしい。
あ、ちなみにこの黒猫の名前は黒歌だそうだ。
「いわく付きの面倒案件抱えた猫だったのか……けどなぁ、もうオレのペットだしなぁ……」
「く、黒歌がペットですか?」
「何か問題があるのか」
「い、いえ! そういう事ではなく! ……貴方様も男なんですねぇ、と」
「男?」
「知らないんですか? 黒歌は人型の女になれるんですよ」
ピシッ!
つまりはこいつら、オレが女をペットにしたと思ってやがったのか。
オレはブッ飛んだ特殊性癖だと思われていたのか。……かなり不愉快だな。
「いいか? こいつはただの猫だ。人型になんかならないちょっと魔力があるだけのただの猫だ」
「いや、そいつは妖怪の猫魈だから……」
「あ゛?」
「な、何でもありません!」
悪魔共に誤解されてすっごくイライラしているな。
しかし、こいつら悪魔は例え末端だろうと無いよりは使える。なら、やる事は一つ。
こいつらを脅s……こいつらとOHANASIして、これから耳に入った情報をオレに横流しさせる。
通信手段は内緒。
*
で、誠心誠意OHANASIしたらキチンと伝わったよ。
悪魔達は、始めの方は渋っていたが、剣をチラッと見せたらすぐに手の平を返した。
オレと剣のセットはこの数分で結構トラウマになってしまったらしい。
ハッ! ザマァ!!
取り敢えずあの悪魔共はオレの奴隷となる事で生存を許した。
その後、悪魔共を自由にしてやった。
一段落着いたので、片腕で抱えていた黒歌(猫)を優しく撫でる。……っと、撫でていたら黒歌(猫)は身動ぎし始めた。
「ニャ〜……」
黒歌(猫)は目を擦り、眠たそうに起きた。
その姿がとても可愛らしかったので、とても愛らしかったのでオレは撫でた。とにかく撫でた。死ぬほど撫でた。
「フニャ〜ン♪」
目を細め、とろけたようなふにゃけた表情をオレに向けてくる。
黒歌(猫)の仕草すべてがオレの保護欲を全力で駆り立てる。
「やっぱりアニマルセラピーは必要だな。さっきまでのイライラがいつの間にかどこかへ行ってしまったようだし」
黒歌(猫)を撫でながら家も、泊まるところすら無いのでどうしたもんかと周囲の探索を開始した。
しばらく歩いていたら洞窟を発見した。
ここにしよう、と決めたオレはズカズカとその洞窟内に入り込んでいった。
雨水も何も心配いらないし、しばらくここに生活拠点を置くか。黒歌(猫)はいつの間にか寝ちまったし───────ん? 白い猫、か? 黒歌の妹……の可能性はあるな。
(おそらく)妹の方も毛並みが綺麗でとても愛くるしい。
撫でようと白猫に手を伸ばしたのだが、バチィッと何か見えないものによって阻まれてしまった。
十中八九結界のようなものだろうと推測する。
無理矢理結界を破る事は出来るのだが、面倒に思ってしまったし、オレも眠くなったので黒歌(猫)を抱きしめて眠る事にした。
オレが眠った後、ぱっちりと開かれた二つの瞳がオレを捉えていたのをオレは気が付かなかった。
続けたい。