北欧に行くにもまずは冥界から脱出しなければならない。
黒歌が言うには北欧直通は存在しないが北欧付近に行き着く交通機関ってのがあるらしい。
取り敢えずそこへ目指す事にした。
しかし、ここにいるのは人間、はぐれ悪魔、妖怪の3人パーティだ。
悪魔の交通機関を簡単に使えるのだろうか? いや、使えないだろう。とにかく目的地に着いたらあとはその時の自分に任せようという事になった。
今はその道中である。
「よーしよしよし可愛い仔めぇー」
「白音を撫でていいのは私だけにゃん! はやく白音からその手を離すにゃーー!!」
「よしよし。白音、こわいお姉様だねぇ」
フシャー! と、黒歌が掴みかかってくるがロスは掴まれる直前に紙一重で躱し、黒歌を煽る。
ちなみにこんなに騒いでいても賞金稼ぎやらなんやらから見つからないのは黒歌の仙術のおかげである。
ロスは白音(猫)を片腕で抱き、もう片方の手で白音(猫)を撫で回していた。
始めは黒歌が白音を抱えて連れていこうとしたのだが、物の見事に恐がられていた。主殺しの現場は完全にトラウマになってしまったらしい。
実の妹に恐がられていた黒歌はそのことがショックで数分放心していた。
しかし、その隙にロスが巧みの業で白音の警戒心を解き、猫状態にさせて文字通り猫可愛がりした結果、ロスにのみ白音は心を少しばかり開いたのだ。
黒歌が放心状態から戻ってきた時、自分を恐がっている妹がロスに甘えている現場を見て膝を付けてorz……と、崩れ落ちたのをキチンと理解して見ていたロスは黒歌を煽りに煽り、現在に渡りこんな感じである。
「………おねえさまこわいです(ロス裏声)」
「勝手な解釈で白音の心情を翻訳するんじゃないにゃー!!」
「怒鳴るなよ黒歌。白音が怯えてるだろ……」
「にゃーーーーーーーーーー!!!」
黒歌は妬ましく憎たらしいロスに沸点突破してもし切れないほど憤慨して魔力弾を生成したが、ロスは白音を抱えているのでもしロスに魔力弾を撃って白音に当たったりでもしたら目も当てられない。故に適当な方向に八つ当たり気味に魔力弾を吹き飛ばした。
そんな時だ。
道とも言えぬ道に一人ローブをまとった小さな子が歩いていた。
しかし、だ。
次の一瞬でそのローブをまとった小さな子は黒歌の放った魔力弾に当たり、バタッと前のめりに倒れた。
黒歌は「やっちまったにゃ……」と冷や汗をかいてギギギと錆び付いた機械のように首を回しロスの方を見た。
ロスに抱えられている白音は、憎たらしくもロスのおかげで今の現場を見ていなかったらしくさっきと変わらずロスに甘えていた。
この時ばかりは素直にロスに感謝した。
もし今の現場を見られたりでもしていたらもう白音に本当に口を利いてすらもらえなくなるかもしれないからだ。
しかしロスはキッチリカッチリ見ていたらしく無言で黒歌に近付いて行く。
そして黒歌はロスにどんな罵声を浴びせられるのか身構えていたが、ロスは白音を撫でていた手を黒歌の肩に置いて優しい顔をして言う。
「黒歌さん。あったかいスープ飲んで、それから一緒に警察行こうか」
「急に優しくなるなにゃーー!!」
黒歌は倒れたローブをまとった小さな子の上半身を抱き上げる。
「そいつまだ子供みたいですね」
黒歌はロスのその一言に「うっ……」と声を漏らす。
「夢も希望も、その小さな手に収まりきらないくらい……持ってたんだろうなぁ」
「い、いいい、イヤな言い方するなにゃ!!」
黒歌の悲鳴に満ちた絶叫にロスは優しい顔から急に真面目な顔に変え、黒歌を見据える。
「いやいや、オレは今初めてあなたを尊敬している。先輩、マジぱねぇっす! 」
黒歌の肩に置いていた手をロスは自分の前に伸ばしてリズムに乗せて歌い出した。
「MAX残酷即刻惨殺因業殺生Let's go抹消! Hey! YO〜!」
「ラップみたいにするなにゃー!!」
悪魔の主殺しは不可抗力だったとはいえ、こんなミラクルみたいな二次被害でブタ箱入りはイヤだったので黒歌は慌てに慌てた。
そんな時、ローブの小さな子が息を吹き返した。
「はっ! まだ息があるにゃ!」
黒歌は認識阻害の役目を果たしている結界の維持の仙術とさっきの八つ当たりに放出した魔力弾で回復が使えない。
「だ、誰かー! 回復魔法を使えるお客様はいらっしゃいませんかにゃー! ヘールプミィィィィィィ!!」
「はぁ、しょうがないなぁ」
ロスは白音を撫でていた方の手をローブをまとった小さな子の頭にかざす。
頭にかざした手からは暖かい光が発生し、ことごとくローブをまとった小さな子を回復させていった。
「お前、そういえば回復できたのか……にゃん」
「まぁ、瀕死の重傷から後遺症も無く健康体にさせるくらいになら」
「それってかなりスゴイ事なんだけど!?」
それからしばらく……。
「ふ、ふぁ……ふぁ……」
意識が戻ったローブをまとった小さな子は力の無い喋りで黒歌に何かを伝えようとしていた。
「え、なんて言ったにゃ!?」
「ファ○タグレープ……」
黒歌はファ○タ? と、首を傾げていたけど偶然ロスが持っていたのでファ○タグレープを渡すことができた。
「……な、なんで持ってるのかにゃん」
「昨日の追っ手からカツアg……んん! 貰ったんだよ。後で飲もうと思って飲んで無かったのが幸いしたな」
ローブをまとった小さな子はファ○タグレープをゴクゴクと飲みきり、ふぁ〜と息を吐く。
「いやー、助かりましたー」
「ははは、こちらこそ……いや良かったにゃ……」
「あれ、その紋章は勇者の……」
ローブをまとった小さな子は黒歌の首に下げられたペンダントを見て不思議そうに首を傾げる。
「にゃん? 勇、者……?」
黒歌は道端に落ちていたペンダントを綺麗だなぁ、という理由で拾って付けていただけなのだが……スゴイ誤解を受けているようだ。
「そうですかー、私もほらー魔王なんですよー。なんか奇遇ですね」
「え?」
「え?」
黒歌もローブをまとった小さな子も双方共疑問を持ったようだ。
しかし、ロスだけは冷静に思考しながらローブをまとった小さな子を見ていた。白音を撫で回しながら。