しばらく歩いたところ、急に景観が変わった。
これまでの荒廃的で不健康そうな森やら山を歩き抜け、水の都のような街に行き着いた。
空気が澄んでいるとでもいうのか。なかなかに清々しくなる美しい景色が一面に広がっていた。
「冥界にもこんな場所が有るんだなぁ……」
ロスは先程まで抱いていた冥界のイメージと目の前の景色が180度違っていたので、思わず声を漏らしてしまった。
ロスのその言葉を聞いたルキは自慢げに語る。
「わたしはほかに農場とか都市とか色々見たんだよ!」
「今日で冥界に対するイメージがスゴく変わったぞ」
いつの間にかルキはフードを外していた。
突然、黒歌とルキが街を探索したいと言い出した。
そこにロスが待ったを掛ける。
「ルキはともかく黒歌は街に入っちゃダメだろ」
「なんでにゃ!!」
「お前、自分が指名手配犯だってこと忘れてないか?」
「あっ……。」
こいつマジか……というロスの呆れた呟きは黒歌の耳に入らなかったようだ。
綺麗な街を前に探索すら出来ないなんて……と、黒歌は本気で落ち込んでいたが……
「まぁ、変装すれば指名手配犯だってバレないんじゃないか?」
「そ、その手があったにゃ!」
その時ルキがここまで歩いてきた時みたいに仙術を使えばいいのに……と、言ったのを聞いたロスはそれか猫になればなんとか誤魔化せるんじゃ……こいつ、意外と騙しやすい。と呟いたのを黒歌が知る由もなかった。
「じゃ、ここは気配が悪魔に一番近い魔族であるルキに変装グッズを買ってきてもらおう。人間のオレが行っても攻撃されるだろうし妖怪の白音も買いには行かせられないしな。ルキ、頼めるか?」
「うん! でもわたしお金持ってないよ?」
「おっと、そうだったな。おい黒歌、さっさと財布出せ」
「ぐぬぬ、理不尽って怒鳴りたいのに私の為に言ってるって分かってるから無闇矢鱈と怒鳴れないにゃ……」
黒歌は、はよよこせと手を差し出しているロスの手に財布を乗せる。
ちなみにこの財布に入っているのは、はぐれ悪魔になる前の眷属時代に稼いだ金である。決して黒い金とかでは無い。
「……どうやら人間界とは通貨が違ったようだな」
よくわからない文字と数字が描かれている。
「だがまぁ、たくさん入ってるのは確かだ。ルキ、頼んだぞ」
「うんー!」
「あ、ついでに人数分のご飯も買ってきてくれ」
「わかったー!」
ロスはルキに黒歌の財布を渡してお使いを頼み、ルキはそれを快諾して街の中に入っていった。
待機組、というかルキ以外の面子は待っている間暇だった。
とはいってもロスは白音(猫)を愛でまくり、白音(猫)はなされるがままになっている。
実質暇なのは黒歌だけだった。
しかし、移動時のように白音に構おうとすると拒絶される。その上ロスから実の妹に避けられてやんの〜プ〜クスクスクスと、煽られる。
もう無くなってしまったと思われる妹の、白音の信頼を再び勝ち取らなければならない。だが、まだ時期では無い。
そう、時期では無いのだ。
時間が問題を解決してくれるとは言ったものの白音はロスに絶賛依存中だ。
まずい。非常にまずい。
このままだと完全に妹を奪われる。
ロスに白音の姉様ポジションを兄様ポジションに変えられてその座を完全に奪われる。
仕方が無かったとはいえ年端もいかない妹の目の前で主殺しというスプラッタな場面を見せるべきではなかった。
焦っていたとはいえあとの事を考えれば失策だったといえる。
しかし、あの時自分が動かなければ白音は高確率で仙術を扱い切れずに力に飲まれて最悪死んでいただろう。
それを考えればあの時の自分の判断は英断だったと自分を慰められる。
とにかく、時期ではないが黙って時が流れるのを待つ訳では無い。
時間を掛けて白音の警戒心を徐々に、徐々にと解くのだ。
「あの時黒歌を見捨てないで正解だったな。アニマルセラピーの効果は絶大だ」
「にゃ〜ん♪」
だから、今はただ……耐えるしかない。
黒歌はプルプルと肩を震わせる。
「ロスさん!」
ロスはルキが戻ってきたんだなと声のする方へ顔を向けた。
瞬間、世界が止まった。いや、世界が凍えた。
3頭身ほどだったルキが7頭身ほどの身長になっていて着ている黒い服は肌が出まくっていてかなり刺激が強い。
しかもボディビルダー並にムキムキになっていた。
口紅も唇に厚くべっとりと塗られている。
「ちょっと過激かなぁ」
「お……おぉう……」
「ちょっとオシャレしてみた」
「あぁ……そうか……」
ロスは戸惑っていた。
こんな時、どう反応していいのかが分からない。
いつも通りなら黒歌はルキに間髪入れずにツッコミを入れるのだろうが、今の黒歌はロスを睨みつけて下唇を噛んでいるだけだ。
チッ、こういう時のお前だろ! と、言いたかったがなんとか飲み込み、ルキに視線を戻した。
────そしたら……。
ボディビルダー並の体がポーンと上半身と下半身がさよならしていた。
そしてさよならした下半身の方の中にローブ姿のルキが入っていた。
それを見たロスは顔色をさらに悪くする。
「え!? どうしたのロスさん!?」
ルキは女性ボディビルダーの着ぐるみを脱いでロスのもとに駆け寄る。
「ロスさん照れてるからやっぱ脱ごうと思ったんだけど……ロスさん!?」
違うんだルキ……。
「ロスさん!?」
ツッコミたくても……。
「ロスさん!?」
オレのキャラ的に、ツッコミは……。
「ロスさーん!?」
くっ……出来ないんだ……!!
*
「と、いう訳でルキが食料と黒歌の変装グッズを買ってきてくれた。まぁ、取り敢えずは腹ごしらえだ」
ロスは先程のことを無かったことにして話を進めた。
食べ物のほとんどがファストフードだったのだが、たまに食べる分には悪くない。
そんなこんなでロス達は少し遅めの朝食……というか時間的に昼食を食べた。
黒歌は久しぶりにまともな食事にありつけるとガツガツ食べて、ルキはモシャモシャゆっくり食べて、ロスは自分も食べながら細かくちぎったファストフードを白音(猫)に食べさせていた。
そしてご飯タイムは終了した。
「さて、ルキはそのままでいいとして黒歌はこれから変装タイムだな。あの岩陰で着替えてこい。変装グッズはすでにルキが岩陰に置いてきたらしい」
「にゃ!? ………ロス、覗かないでよね?」
「減らず口叩いてないでさっさと行け」
「痛っ!! 蹴ったにゃ? 女の子を足蹴にしたにゃ!?」
「早く行けよ。お前が街を歩き回りたいなんて言ってるからオレ達はこうして待ってやってんだろうが……!」
黒歌はロスの怒気にブルッと震えて一目散で岩陰に直行した。
ロスは溜め息をついて白音に目を落とす。
「お、どうした。ご飯食べたからおねむか?」
「にゃ〜……」
白音(猫)は一つ欠伸をしてウトウトし始める。
ロスは白音(猫)を優しくゆっくり撫でる。
撫でられたのが気持ちよかったのか白音(猫)は喉を鳴らして、そして気分良く夢の世界へ旅立った。
そして変装をし終えた黒歌がとぼとぼと現れた。
「…………」
黒歌は何も語らなかった。
もはや諦めたと言っても過言では無い表情でオレ達の前まで来た。
ルキは黒歌を見て似合ってるよー! と興奮してるのだが、オレは何も言えない。
オレは黒歌から顔を逸らした上に何も言えなかった。
どうせアフロとか鼻眼鏡みたいな変装道具を買ってくるんだろうなぁ、と思ってたんだが……いや、ちょっとはそうかもとは思ってたさ。
だが、まさかルキがさっき着ていた女性ボディビルダーの着ぐるみが変装グッズだなんて────酷すぎるっ!
「どうやらルキの美的センスは壊滅的らしい。だから黒歌、深く考えるな」
「ロス……」
オレを見上げる黒歌の目は死んでいた。
「なんだ……街、楽しんで来いよ……」
掛ける言葉が見つからねーから無難にそう言っておいた。
黒歌はとぼとぼと街へ歩みはじめた。
そしてルキが楽しそうに黒歌の後について行っていた。
それから2時間────。
スヤスヤと寝ている白音(猫)に癒されながら黒歌達の帰りを待っていると、誰かが空からやって来た。
黒髪ツインテールで色々と露出の多い変な衣装を身に着けた女性が目の前までやって来たのだ。
「休憩がてら領地の見回りをしてたらビックリ! まさか冥界で人間に会えるなんて☆」
「アンタは……」
こいつ……魔界の中層、その下の上ほどの力を持ってやがる。冥界の悪魔にしては強過ぎるぞ。
……何者だ?
「私? もしかしなくても私の事を聞いてるんだよね! 私はセラフォルー・レヴィアタン! 気軽にレヴィアたんって呼んでね☆」
セラフォルー・レヴィアタンを名乗る奇抜な服装をしている黒髪ツインテールはきゃぴるーん♪ と、擬音に出てきそうなポーズを取りながらウィンクしてきた。