ロスと黒歌はサイラオーグのあとを追いかけた。
サイラオーグと従者はある部屋に入っていった。なので、ロスと黒歌もその部屋に入ろうとしたのだが、なんか部外者が入れる空気、雰囲気ではなかったので入るのははばかられた。
「サイラオーグ様、やはりミスラ様をシトリー領の医療施設へ移した方がよろしいのでは?」
と、従者がサイラオーグに提案する。
ロスはなんのこっちゃと部屋の中を覗き見てみると、ベッドの上で女性が苦しんでいた。
「ロス、中どうなってるの?」
「ん? ああ……、部外者が立ち入っていい感じじゃなさそうだ」
さっきの部屋に戻ろう。と、踵を返そうとしたその時、サイラオーグから「待て」と静止が入った。
「気付いていたのか」
「消す気の無い気配くらい感じ取れるに決まってる」
サイラオーグから「入れ」と言葉を発せられ、ロスと黒歌は一度顔を見合わせ部屋に入った。
ロスは一度中を見たから少し反応が薄いが、黒歌は初めて見たので少し表情に変化が見られた。
「お母さん、病気なのか?」
「ああ、原因不明の不治の病だそうだ……」
────ん?
不治の病……? この程度の障害がか……。悪魔ってのはよっぽど進化と進歩が遅いんだな。
「流石にもうバアル家で療養するのは難しくなっている。やはりそろそろシトリー領に病室を移すべきだろうか………」
「ほい」
ロスは床に伏せているミスラとやらに手をかざして魔力を込めた。
「おいっ! 何を────!」
サイラオーグはロスに静止を掛けようとしたが、はばかられた。
ロスの手から放たれる魔力の光に触れたミスラは苦悶に満ちていた表情を一変させた。
「症状が良くなってきています!」
「信じられないほどの回復傾向です!」
「なっ!?」
サイラオーグは信じられない。という驚愕の表情でロスを見た。
その視線に気が付いたロスは気怠そうに一言………。
「お母さん、治って良かったな」
その一言を聞いたサイラオーグは「ああ……ああ……」と母ミスラの病が治った事を自覚してポロポロと涙を流して泣き始めた。
*
「ありがとう。君には本当に、感謝してもし足りない。何かお礼はできないだろうか?」
「気にするな……って言いたいところだが、それじゃお前の気が収まらなそうだ」
「フッ、分かってるじゃないか」
「じゃ、一つだけ。北欧への近道にオレ達を誘導してくれないか?」
サイラオーグはキョトンとした表情で「北欧?」と漏らすが、すぐに気を取り直して……。
「分かった。それと、お前達は悪いヤツじゃなさそうだし、これ以上の尋問はいらなそうだ。何より、俺がしたくない」
「それは助かる。じゃ、ルキもそろそろ菓子を食いきった頃だろうし、そろそろオレ達は行く」
「そうか……お前達が何を成そうとしているのかは知らんが、達者でな」
「ああ、お母さんと仲良くな」
「フッ、当たり前だ」
「じゃあな、サイラオーグ」
ロスは黒歌とルキを回収して水先案内人の誘導に従って旅路に戻った。
「こちらにお立ちになって下さい。こちらから北欧へ転送させます」
「よし、行くぞ二人共」
「うんー!」
「何しに行くのか未だに分かってないけど……分かったにゃ!」
白音を抱いているロス、未知の転送魔法に興奮するルキ、若干不満そうな表情を浮かべる黒歌は転送の魔法陣に乗った。
*
気が付いたらそこは見慣れた地。
そして肌を撫でるこの風の感覚、覚えている。
ここは北欧。
「……ついに来たか」
ロスは目の前の景色を一望した。
黒歌とルキは「ほへ〜」と気の抜けた声を口から漏らしていた。
水先案内人は一つお辞儀をしてからバアル領へ帰っていった。
「取り敢えず王都に行くか」