――走る。疾る。
少年が少女を横抱きに、木々の間を走り続ける。
その後ろからは、ヒトの姿でありながら、ヒトの力ならざる怪力を
「やぁやぁ、はやてさん」
「スモークチーズなら家や」
「レアチーズになって出直して来い。……じゃなくてさ」
「スライスチーズも家や」
「お前の晩飯それにするぞゴルァ。……じゃねぇよ。後ろの『あれ』さ」
「……わかってる。わたしもメガネキャラになるところやった」
二人が言っているのは、無論、謎の男のことであった。
見た目は、くたびれたスーツを身に纏った中年男性。
しかし、二人の目には『普通とは異なること』が起きていた。
「テレビでもない目に砂嵐とはこれ如何に」
「普段なら中二病展開キタコレなんやけど……」
「どう考えても厄介事フラグです。本当にありがとうございました」
「そうやなぁ……五時、八時下や」
はやての二つの単語。
その直後にひなたの背後から鋭い木片が勢いを伴って飛んでくる。
しかしそれを、ひなたは見ずに、一本目を避け、二本目を跳んで躱す。
「とうとう足まで狙い始めたぞ、あのとんでも」
「理性ないような動きしといて、よー狩りしよんなぁ……ああ、本能かなぁ?」
「速攻保健所行き確定ですねわかります。……なんかノイズがおかしいんだけど」
そう。『普通とは異なること』とは、視界に映る男の姿に、極彩色のノイズが掛かっているということだ。
それだけではない。
周囲の光景にもノイズが走る。
垣間見える極彩色の奥には、陰鬱とした雰囲気の森と緑の炎。
その中心である男の姿は、ノイズの向こう……異形の姿が表に現れつつある。
「そろそろ本気でヤバい件」
「色んな意味でなー。あ、四時右上に降り下ろし、九時下から突き。六時加速突きや」
「はやての認識能力、も色んッ、な意味でヤバい件。おおっと!」
先程からはやてが言っているのは、男の攻撃が来る方向だ。
木片らしからぬ軌道を描く攻撃を、はやてはひなたの死角を埋める形で支持していたのだ。
――異常なまでの空間認識能力。
それが今の、現状でのはやて最大の武器だ。
「ここではやてちゃんからのバッドニュースや」
「Don’t 来い」
「許可として受け取るで。おっちゃんは化物になりましたー」
「わーわらえなーい」
「ひなは物理的にもなー」
【笑えない冗談です】
「「ですよねー」」
――あれ?
今この場で、この状況でそう思ったのは仕方ない。
明らかに聞き覚えのない声が会話に入ってきたのだ。
後方の男? ――違う。そもそも女っぽい声だ。
はやて? ――違う。間違ってもお堅い口調なやつではない。
ひなた? ――違う。声変わり前とはいえ、そこまで声は高くない。
むしろ、その声は電子音声というやつだ。
「うぉー、いッ!?……こ、れ以上の新展開とか、日野さん過労死しちゃうんですがねぇえッ!!」
【疲労状態46% 過労死とは程遠いと断言します】
「精神的なッ! 状態だっての……んで、君は?」
【型式番号:SD―01F 正式採用型、BTA式インテリジェントデバイスです】
その電子音声は機械的に、事務的に淡々と答える。
何処から声がするのか、二人は気になるものの、
背後からの攻撃がそれを許さない。
ひなたとの言葉が所々おかしいのはその所為だ。
「とどのつまり……なんだ?」
「
「どこぞの愉快犯型魔術礼装的な? ぅぉっち!?」
【検索該当。非現実的と断言します】
「たしかにあれと一緒にしちゃいかんわな」
「アンバーさんのことは後や」
あれ、どないするんや、と指差すはやて。
後方の男、その姿は既に人ではなく。
――腕が長く肥大化し、くびれの欠片もない球体のような胴体。後方に垂れ下がった枝状の尾。
――まるで足のような手を無理やり生やした顔の無い頭蓋骨のような。
【検索該当。
「要は危ない物……って認識でええんかな? デバイスさん」
【肯定。ジュエルシード……総数21からなる結晶体で、ただ一つでさえ大きな魔力を内包する物質であり、このままでは近隣周辺に多大な被害となる可能性:92%】
「九時三時六時下。なら、どないすればええのか、教えてくれんか?」
【了解。既に策はあります】
……できれば早く助けが欲しいんですがねェ!?
ここで敵情報。
『玉頭骨/ぎょくとうこつ』
幼少から大学まで天才として名の通っていた男のジュエルシード融合体。
勉強漬けで徐々に頭の固い性格へと変化していた性格が、大きな頭蓋骨として現れ、それを支えているのが『
元々は、人に気配りのできる好青年であったが、周囲の馬鹿さ加減、片思い相手の最悪の正体、親からの言葉によって生まれた無意識の