え、今更ですかそうですか……
――私は負けられない。
あの人が消えたあの日から。
あの人から受けた願いだから。
私は
配点(信念)
『GIRARARARARAAAAAAAAA!!』
封時結界の中を四足の巨体が走り回る。
全身のヒレが大鎌のように鋭くなったトカゲ型の
私のいる位置は距離も近く、その分声量も大きく聞こえる。
――でも、
……そんなの、関係ない……ッ!
体が本能的に震える――だからどうした。
耳が
恐怖を糧に、
――痛みを、活力に。
【Fire】
愛機の無機質な声と共に
大トカゲの顔に着弾したのを横目に、前足と鎌が届かない
着地同時に鎌の間合いと木々にぶつからないように気を付けながら、直線短加速と
攻撃の際に身体を捻じるように、下から掬い上げるように回転を加えることで、攻撃と攻撃の間のタイムラグが少なくなるのを、温泉街での戦いで理解した。
私のような長物にとって回転はいい起爆剤。
特に大鎌は重心や刃の形によって扱いづらいのが常だ。
増して私の扱える魔法のほとんどが加速、射出、近接で、
ある意味では尖っていると言ってもいい戦闘スタイルだ。
だからこそ、この
射出のモーションには加速が付き、
遠心力による投擲はつくづく便利だと思った。
「バル、ディッシュッ!」
【了解】
――シックルズ・ボルト
愛機の鎌型魔力刃が横並びに六つ並ぶ。
一斉射から順射も可能と我ながら有用性のある魔法だと自負している。
無論、横並びのまま近接使用も可能だが、少しリーチが短いのが欠点だ。
とどめの
赤紫の流星が大トカゲの背中を大きく窪ませながら落ちてきた。
幾度となく、私達の前に立ち、
今は敵の……たった一日だけの友達。
「――ひなた」
「ご機嫌如何かな? 雷光姫」
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「言っておくけど――」
「皆まで言うな。ただ少しばかり――横取りにな」
未だ大トカゲの背中に乗るひなたは、そのまま右拳を大トカゲに宛がい、単純な魔力衝撃が叩き込まれる。
びくりと跳ね上がる大トカゲは光に包まれ、中指大の小さなトカゲとジュエルシードに分かれる。
ひなたがジュエルシードを拾い上げた瞬間に、フェイトがアックスモードのバルディッシュを振りかぶりながら接近する。
それに気付いたひなたがギリギリのところで顔を反らし、バック転とハンドスプリングで距離を取る。
「ず、随分過激じゃないかフェイト嬢。前髪掠ったんですがねェ」
「悠長なこと、言ってられないから」
「それ今は俺のセリフだと思うんですが――ッ!?」
手首の小さな動きでプロペラのように回転するバルディッシュ。
その勢いのまま、小さな小鎌が六つ連続に飛来する。
ひなたは即座にジュエルシードを封印しつつデバイスの中にしまい、ナックルスピナーを起点に円錐状の魔力刃を両手に展開。
それで六つの小鎌を連続で切り払う……が、次の瞬間には黄金と赤が目の前にあった。
刹那の一瞬、ひなたの脇腹と胸に痛みが走る。
逆手に振り抜かれたバルディッシュの柄と、フェイトの雷を纏った掌底だ。
「――ッ」
「手加減はしないし、できない。貴方が敵である限りは」
その言葉の直後、ひなたの腹部に強化されたフェイトの拳が
ミキメキと嫌な音が体内に酷く響く。
――だが、
「――」
機械にように、あるいは開閉式の人形の口のようにひなたの口が歪んだ形でガパリと開く。
その歪み方は、まるで嗤っているかのようで――
急いで退避しなければならない。早く速くハヤク。
心臓と脳が命令する――だが動けない。
ひなたの腹部に捩じ込まれたフェイトの腕が、ひなたによって掴まれている。
逃れられない。一瞬で理解するには十分すぎる状況。
顔を上げれば直ぐ目の前にひなたの顔がある。
……あれ? この距離って……
頭突きするにも唾を飛ばすにも自爆するにも有効すぎる距離。
寧ろ第三者からすれば――
……ば、抱きついて……ッ!!!
手を繋ぐどころか二段飛ばしで色々素っ飛ばした状況とも。
かつての魔法勉強時代の時に覗き見た漫画の一つの光景。
「(き、きききっききき――!)」
「つーかまーえた。さて、大人しく話を――「きしゅうぅぅー……」――、はい?」
奇声(?)と共に顔を真っ赤にして気を失うフェイトに、動揺を隠せないひなた。
互いに動けない状況を作って、フェイト自身の目的を聞こうとしたが、捕まえたと思ったらいきなり顔を真っ赤にして気絶された。
流石にこのまま放っておくわけにもいかず、フェイトを楽な姿勢に寝かせて起きるのを待つひなたであった。
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これはだいぶ昔の話。
私がリニスと一緒にテレビを見ていて、
少女マンガが原作のドラマを見ていた日の夜。
時代的にませていた時の私は母さんに、
「お母さんもこんな感じの恋ってしたの?」
と聞いた。
母さんは頬を染め、少し焦り、しどろもどろとした後、深呼吸して、微笑みながら、
「テレビみたいにベッタベタなことはしたことないわねー。気付いたら傍にいて、気付いたら結婚してて、気付いたら貴女がいて」
苦笑気味に、腐れ縁もここまで来ると良縁なのね、と語っていた。
父さんは私が生まれる前に交通事故で死んだと聞かされていた。
いつも父さんの話をする母さんは、少し呆れながらも、とっても嬉しそうにしてた。
それから、それから――
気付いたらいつものベットの上にいて……――お、て――
リニスが魔法を教えてくれて――■か、め■――
アルフが家族になって――お■あ、と■――
それから、それから――おか■さ■を、■め■あげ■――
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「起きたか、居眠りさん」
「――ふぇ?」
目の前には逆さに映るひなたの顔。
何も理解しないまま顔に熱が集まり、思わず勢いよく頭を上げてしまう。
ゴッという鈍い音が頭の痛みをさらに自覚させる。
涙目のまま周りを見渡すと、隣に立て掛けられたバルディッシュと布団のように体に被さるフェイト自身のバリアジャケットのマント。
そして心配げにフェイトを見つめるアルフ。
「だ、大丈夫かい? 二人とも」
「思いのほかフェイトが石頭なのがよくわかった……」
「え、あ、ごめん……」
少しだけ体を持ち上げていた肘が辛くなって再び寝転ぶ。
そこで、頭の後ろに枕のようなものがあるのを感じる。
……直ぐ頭上は木で、その手前にひなたがいて……この枕は?
しばらく考えて、思い当たった。
この少し硬めだけど、温かみのある、肉質があるこの枕の総称――
……ひ、『膝枕』されてるの私!?
生まれてこの方、(かつて)母親とリニスぐらいしか膝枕をされたことしかないが、異性にされたのは初めてで――再び顔に熱が集まる。
「あわ、あわわ、あわわわわわ……!」
「え、何、何なのこの子。この子の頭の中で何が起きてるの」
「さ、さぁ……? アタシにもちょっと……」
困惑するひなたとアルフを余所に、バルディッシュは微笑ましく思っていた。
何を隠そう、フェイト・テスタロッサには少女趣味な妄想癖があるのだ。
その結果、突飛な行動があることも知っている。
かつて、リニスによる情操教育中に一悶着があったことも。
それで常時険しい顔をしていたフェイトの母が珍しく色々と焦っていた表情を見せていたことも。
そして、この後、
フェイトはマントを胸元に抱えながら、バルディッシュを回収し、さながらソニックムーブ並みの速さでひなたから離れる。
そして、
「ひ、日野ひなたさんッ!!」
「え、あ、はい?! 何でしょう!?」
「せ、せせ責任、取ってもらいましゅかりぇぁッ!!」
ではァッー! と加速魔法を起動させてその場を飛び去っていくフェイト。
少し遅れてアルフがそれを追っていく。
一人取り残されたひなたは、
「――なんでさ……」
そう一言、呟く他なかった。
――後日。
あるデバイスの報告によって、
幼馴染は爆笑し、同級生たちは様々な目を向け、異界の者達は生暖かい目線をし。
某所の一室では、
ある女性が苦笑と共に青筋を立てていたトカ。
着実に集まり始めるジュエルシード、確実に終息に向かう物語。
しかし同時に、戦いが激しくなることを意味している。
十八話「おわりの一歩」
覚悟しなければならない。
全てが
そうそうとない。