数々の原作改変を越えて、ジュエルシードから始まった物語は遂に佳境を迎えます。
果たして、この戦いの結末や如何に?
林育怪とは何者なのか?
フェイトの目的とは?
それでは、魔法少女リリカルなのは。
回転割砕の
雨が降る。
赤金の少女――アリサ・バニングスは、執事鮫島の運転する車の中で雨の降る窓の外を見つつ小考していた。
例えば、今日学校で話し合っていた会議もどきのこと。
脱線しては直しの繰り返しではあったものの、あのままでは『家に特攻する』、なんて考えもでてきそうなものだが、かれこれ二年半……その案が一度も出なかったのは、我がクラスなりの配慮なのだろう。そう思いたい。
例えば、今日の夕餉のこと。
今朝シェフによる献立表には海鮮物とあったが……ナマコが出ないことを祈るばかりだ。
過去に一度だけ、知らずにナマコ料理を食べたことがあり、その原材料を調べて以来……食べられないわけではないが少し苦手になっている。
しかしあのシェフの料理は本当に美味しいので文句の『も』も出せない、もやもやする。
例えば、親友他一部のクラスメイトの動向のこと。
親友の一人である
休学中のあの二人も何か知っていそうだ。多分――否、絶対。
時期的に、あの動物病院の車両事故と数日前の地震。
……なのは達は数日休むようだし、帰って来たらまとめて質問攻めにしてやろうかしら。
慌てる親友とか様々な反応が見れそうなことに少しだけ溜飲が下がり、思わず口角が僅かに上がる。
そこで、少女は見つけた。
「――ッ! 鮫島、止めてッ!」
暗い雨の中、灰色と深緑が混在する道路の中、一際異彩を放つ茜色……オレンジ色の『何か』が見えた。
体躯はそこそこ大きめの、オレンジ色と赤色の毛色が特徴的な『狼』がそこにいた。
車を降り、傘を差すことも忘れて少女はオオカミに一目散に駆け寄る。
……傷こそは無いみたいだけど、気絶してるわね。
何が原因かは知らない。
何でこんなところで倒れているのかも知らない。
だからとて、そこで見捨てるような人間に育った覚えもない。
「鮫島、お願い」
「了解致しました。お嬢様」
ただ一言、具体的な命令無しに執事は動く。
執事は気を失っている狼を車に乗せる。
車は少女と狼、執事を乗せて走り出すのだった。
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『オレンジわんこが金髪令嬢にネトリ監禁されてると聞いて』
『右に同じくー』
「あー、うん。タイミング良いね。ひなたく……なんではやてちゃんも!?」
アリサが狼を拾った翌日のこと。
アリサからの『狼を拾った』というメールに添付された画像の中で『檻の中にいる狼』に見覚えのあるなのはは、ユーノと共にバニングス邸へと訪れていた。
しかしそこへなのはに一本の電話――ひなたとはやてであった。
『どうしても何も、俺と同じく巻き込まれた人ですしおすし』
『そして遅れながらなのはちゃんが物騒極まりない魔砲少女になったと聞いて』
「ぶ、物騒じゃないもん! そこまで物騒じゃないもん!」
……予想はしてたけど知られたくない人に知られちゃった気分なのッ!
確かに魔法少女と言うには『砲撃』とか『射撃』とか、魔法少女が好きなお茶の間の女の子には相応しくない物騒な単語が含まれているがもう気にしない。
最初は、確かに物騒だな……とは思ったけど気にしなければ問題ない、と思わないとやっていけない気がした。
そんな自棄になる小学三年九歳の春のことであった。
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使い魔――アルフの言葉はこうだ。
『フェイトの今までの行動は母親の為。あの子はただ、褒められたい、母親を安心させたい一心で頑張ってる』
『でも、
そう語るアルフの表情は、心なしか複雑な怒りを顔に表していた。
主が報われことが無い努力をする。それでも、あの少女は健気に戦い続ける。
しかしそれさえも、主の母はそれさえも認めない。協力者はその光景を見て
「もう、あたしは耐えられないんだ! あの子が身を削って戦う姿が。心まで削りかねないその戦いが! もう、あたしじゃ止められない……あの子は止まらないんだ!」
アルフの慟哭にも似た声が、夜の静寂に包まれた空気の中では、なのは達の耳によく通る。
アルフの訴える声は続く。
「多分、あんた達の持ってるジュエルシードを取りに来ると思う。敵であったあたしが言うのも何だけどさ……あの子を、フェイトを止めてくれないか! 頼む!」
「
「簡単に引き受けてくれるなんて思って――は?」
声の主は檻の上――アルフのいる檻の上に
檻の横には何故か誇らしげな、声の主の幼馴染の姿もあった。
「ひ、ひなたくん!?」
「いえーす。天下無敵の大泥ぼ……じゃなかった。大魔導師「かっこ予定」の、この日野ひなた。一世界を巻き込んだ家庭問題を片付けようではあーりませんか! あとはやて屋上」
「それに、はやてちゃんまで……いつのまに!?」
「この天才はやてちゃん「かっこ笑い」とインテリ脳筋のひな「かっこ嘘」に掛かればちょちょいのジョイやで! あとひな
いつのまにか降りてきたひなたと頭突き合うはやては「おう、嘘やめーや」「なんというブーメラン。これぞまさにカウンター」「可愛い方のぎんさんもやめーや」と言い合っているのを余所に、なのはとアルフは話を続ける。
「え、えっと。――うん。ひなたくんの言うように、私も受けるよ。そのお願い。私も、フェイトちゃんと話がしたいし、フェイトちゃん自身の
一息。
「私自身、誰かを助けたい……なんて大袈裟じゃなくて。ジュエルシード探しの中で、フェイトちゃんの目の……泣きそうな目の理由を知りたくて。それを知った上で、私はフェイトちゃんと仲良くなりたい。話がしたい。友達になりたい」
「だから、アルフの願いを利用させてもらう。結果上、なのはの目的こそが本題で、その副次効果でアルフの依頼を完遂か。なかなか欲張りじゃないか、え?」
話し合い(?)を終えたのか、ひなたが話に加わってくる。
ひなたの言葉に、なのはは「にゃはは……」と苦笑し、
「でも一年前に、『お前はもう少し欲を張れ。今の内はそれが最大の特権だ』って言ったのはひなたくんだよ? だから中学校まではいっぱい欲張っちゃうんだから!」
「おお、なのはがなんて立派な……お母さん聞いた? この子ったら立派になって……」
「遠慮しっぱなしの昔から、えらく成長したなぁ……お母さん感無量やわぁ……」
「い、いつから二人はなのはのお父さんとお母さんになったのかな!? 同年代の親なんて私嫌だよ!?」
檻の向こうで騒ぐ三人の姿を見て、アルフは思った。
もしこの三人の中にフェイトが入ったら、それこそ、この前のパーティー以上に騒がしくて、賑やかで……フェイトの笑顔もいっぱい出てくる。
もう何かを押し殺すような、苦しそうなフェイトの笑顔は見なくて済む。
……あたしもフェイトも、ホント……運が良いのか悪いのか。
まさに運が良いのか悪いのか。
ひなたに拾われたこと。たった数時間だけの賑やかなパーティーに参加したこと。
戦いの場で再開したこと。
そして極め付けは、また――否、まだ、
「ほら、ペットのアルフだってこんな複雑な表情を!」
「――って、あたしペット枠かい?」
「あ、アルフさん巻き込んじゃ「どうせなら姉がいいねぇ」だめ……って、アルフさんが乗っかった!?」
「ふははー! 観念しいやなのはちゃーん?」
……あたしたちを、友人として扱って
そろそろ夜中に差し掛かる頃。
バニングス邸の庭は少しだけ賑やかで――
「さぁさぁ! もう逃げ場はあらへんよ!」
「知ってるか? 俺たちからは逃げられない!」
「そうね。それに逃がさないわ」
「……え?」
「……お?」
「……おいィ?」
「……」
「色々と説明してもらいましょうか。ねぇ、な・の・は?」
まだまだ賑やかになるのは、必然なのかも知れない。
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海上に浮かぶビル街。
ミッドチルダ式のシミュレーターによって構成された廃墟のビル街の中央。
一際大きなビルの屋上。その屋上庭園の噴水の前に、なのははいた。
その身は既にバリアジャケットを身に纏い、目を閉じてその時と『相手』を待ち構えていた。
「――待ってたよ。フェイトちゃん」
なのはの背後。噴水の水面に映るのは、漆黒のマントを纏う黒金の少女。
ただ静かに、その手に漆黒のデバイスを携えて。
『(フェイト……! もうやめよう? もう、あの女の言うこと聞いたら……)』
首を振る。
どんなにひどいことをされても、それは今がうまくいかなくてイライラしているだけだから。
本当は、とっても優しい母親だから。
だから――否、だからこそ。
『(それでも、私は
いつか
……私の意志は、折れたりしない。
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……多分、これが本当に……最初で最後の、本気の勝負。
今までが本気だったわけじゃない。
でも、その傍らに暴走しかねないジュエルシードがあるから、自分もフェイトも、そちらを優先した。
勝った後も、負けた後も……どうなるかは分からない。
フェイトの目的も知らない。フェイトが捕まるかもしれない。
――だけど、今は関係ない。
ずっと気になっていた、フェイトの悲しい目をする理由を。
そして、良いとは言えない……私の我儘な願いの為。その為だけに、今は戦う。
そして、自分の周囲に出す
全ての始まりを。始まりの種を。
「ただただ、捨てればいいわけじゃない。逃げればいいなんて、もっとない」
一息。
「切っ掛けは、多分ジュエルシード。だから、賭けよう。お互いに持ってる、ジュエルシード全部」
振り返り、デバイスの剣先を向ける。
……絶対に逃したりしない。この戦いを、この思いも。全部!
その思いを込めて。
「私たちは、きっとまだ始まってすらいないんだと思う。だから、本当の自分を始める為に」
一息。確固たる、不屈の意志を宿して。
「始めよう。最初で最後の、全力全開……本気の勝負!」