回転割砕の魔導右腕(ライトアーム)   作:変色柘榴石

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お久しぶりな人と主役級の脇役が登場。
正直新ライダーに荒ぶった。


A's5「悲しむ魔の侵食者」

 ガシャンと大きな音が鳴る。

 その音に気付いた守護獣が近寄ってくる。

 物静かな声色に、僅かに心配の色を入れて(たず)ねてくる守護獣に、よそ見をしただけだと返す。

 少しの間を開けて、そうか、と帰ってくる。恐らくは誤魔化せただろうか。

 

……いや、これは多分。

 

 少しおどけて、気付いちゃった? と(たず)ねる。

 それを聞いた守護獣は、やはり、と言った。むしろこちらがやはりと言いたい。

――気付かれていた。自分の異変に。

 

 最近、左手ばかり使うな、と守護獣は言う。

 右腕が思うように動かない。当初ワンテンポ遅れた右腕の反応がツーテンポ遅れて大きく違和感を感じてしまい、自然と左手を重視するようになった。

 八月上旬のことだった。

 

 常人よりも広い視野を持つお前が余所見程度でコップを倒すのか? と(たず)ねてくる守護獣に、そんだけ本に集中してたのさ、冗談交じりに返す。

 左目の焦点が合わない。今では曇りガラスを数枚越しに外を見ている様で不便だ。左目だけで見た守護獣の姿も、青と白の楕円にしか見えない。

 今でこそ補助魔法で左側に近く補助魔法を使っているが、距離感が掴み辛いのが唯一の難点だろう。

 

 ……何時からだ。守護獣が(たず)ねる。何かを抑え込んでいるようにも感じる声色だ。

 その問いに、七月に入った辺り、かねぇ……、と考える様を見せる。

 

 不意に肩を掴まれる。守護獣の人型形態だ。最近多く見ている気がする。

 その目には、怒りと悲しみ、疑問が映し込まれていた。

 

 

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 何故だ。何故気付いてやれなかった。

 目の前の幼い少年は、誰にも悟られずに身体を壊し……いや、恐らくは削っていたのだろう。

 闇の書が主の最も近くにいる高魔力保有者を放っておくはずがない。それが解っていながら我らが楽観視していた。何もしなければ大丈夫だと警戒を怠った罰とでもいうのだろうか。

 

 詳しく聞けば、視覚の半分は奪われ、触覚の二割、嗅覚の八割、味覚の四割。

 最近では聴覚に違和感を感じるらしい。

 想定以上の事態に、絶句を禁じ得なかった。恐らくは魔導適正だろう。

 我ら近接戦闘に適性を持つベルカがリンカーコアに異常をきたすと、戦いに必要な五感から奪われる。

 主は幼さ故に与える魔力が身体に現れた。恐らくそれが、主の歩けぬ理由だろう。

 思わぬところで主の異常が見つかったが、問題は目の前の少年だ。

 

 最初はリンカーコアの発熱感覚。耐え切れず数日後には吐血したそうだ。それが以前、洗面所で感じた違和感の(感じたことの)ある臭いだろう。

 触覚と味覚だけは得意の魔力循環で遅らせていたものの、止めるまではできなかったらしい。

 確実に勘付いたのは俺だけであり、他の騎士や主達など少年に近しい者達は少年の違和感に僅かながら気付いているらしい。

 

 何故頼らない。我らはそこまで頼りないか。我らに信用は置けないか。

――信頼しているから、心配を掛けたくなかった。

 悔しそうに、苦しそうに少年は言葉を漏らした。

 

 五感が取られる原因の一つは魔力にあるが、もう一つあると少年は語る。

 共依存の緩和。つまりは精神の抑制。

 肉体は兎も角、精神まで制御させれば無論代償はつく。それも精神異常者のは比例して代償は高くなるんだろうな、と自傷気味に言う少年。

 その目の前の絶望、悲痛さに言葉の出ない俺を余所に、独り言のように少年は語る。

 

――互いに寄りかかり過ぎて、互いに落ちて、間に入った他者に縋った罰、かな。これ。

 

 表情があるのなら、自傷気味に苦笑しているだろう能面のような少年の顔は、確かに悲しげに見えてしまった。

 

 

 何が守護獣か。何が守護騎士か。何が、ベルカの騎士か。

 主の異常に気付けずして、主が信を置く最愛の友を助けられずして――何が騎士か。

 

 一人何もできずにいる我を、お許しください。我が主達よ。

 そして、我が守護獣の名において……あなた達の仲間を巻き込むことをお許しください。

 ですが――お仲間たちなら、なんとかできるのではないかと言う希望観測――否、希望を以って、あなた達二人を……

 必ず、闇から救い出して見せます。

 夜天の守護獣、()()ザフィーラの名に掛けて。

 

 

 

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 最悪の状況だった。

 目の前にはギチギチと音を鳴らして嘲笑う人型のクモの化物。

 その手前には、人間態になったザフィーラが強靭らしいクモの糸に縛られて身動きが取れない。

 加えてひなた自身にも、最悪のタイミングで発作が起き、口の端から吐血した跡がある。足下は覚束ず(おぼつかず)、左目の焦点は定まらず、右腕はないのではないかと錯覚するぐらいに感覚を失っていた。

 

『ギギギ……そこの犬ッコロには驚いたが、所詮この“バクグモ”さまにゃー叶わねぇのさ!』

 

 ザフィーラが念話で必死に逃げるように言うが、聞こえているのかいないのか。ひなたは荒い息でその場に立つのみだった。

 

――事の発端は単純だ。

 段々と足下が不安定になってきたひなたをザフィーラが背中に乗せて、図書館に本を返しに行こうとしていた。

 闇の書の恩恵か否か。共依存の症状は抑えられており、八神家の男二人で気兼ねない散歩でもしようかとした時の矢先――ベルカ式の封時結界ともミッド式の結界とも違う、禍々しい空間に閉じ込められたのを感じた瞬間に、クモの怪物が襲い掛かってきたのだ。

 

 更に襲ってきたのはひなたの発作……正確には呪いなのだろうか。ひなたは咳き込み吐血し、それを瞬時に理解したザフィーラが怪物と応戦――が、その結果は芳しくなく、絶対絶望とも言うべき状況となってしまったのだ。

 

……あー……まじやっべーわ……これ。

 

 何もできない状況に苦笑いをこぼそうとするが――やはりひなたの顔は“ほぼ動かない”。

 糸に巻きつかれ身動きが取れないザフィーラを素通りし、こちらへと吟味するような仕草でゆっくりと歩いてくるクモの怪物。

 

――諦めない。諦めたくない。諦めてなるものか。

 気力を搾り上げる。精神を奮い立たせる。魂を燃やす。

 しかし――体は動いてくれなかった。

 

『さーてさって……人間制圧の第一歩だ』

「……っ」

 

 

《召・喚――テ ン グ》

 

――風が、噴いた。

 

 

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 風の吹いた方向から誰かが歩いてくる。

 男の背格好は二十歳前後。ラフな格好だが、一番目を引いていたのは『葉届神社』と達筆に書かれた扇子と、どう見ても普通ではないベルトだった。

 その後ろにはひなたと同じくらいの背格好をした“狐耳の少年”が控えており、その少年の目は怪物を含むひなた達を観察しているようにも見える。

 

「ひゃー……あっぶねぇあぶねぇ。なんとか間に合ったな」

「ああ、そうだな――尤も(もっとも)な話、お前がシュークリームを齧りながらバイクに乗るからであって」

「性格キッツイぜこのキツネ憑き……」

「何かな」

「なんでも?」

 

 口調こそ軽いものの、その二人の視線はクモの怪物……バクグモから離れていない。

 そして男は、なるほどなるほど、と何かに納得している。

 

「土蜘蛛かと思ったけど――なるほど、捕縛に特化した蜘蛛妖怪か。基本にして根本。しかしその実、応用性が効かない。糸を纏めて槍にすることも、剣にすることもできない、本当に“捕縛特化”なのか。面白いね」

『なっ……!』

 

 まるで新しい玩具を見るような純粋な目でバクグモを見る男を余所に、狐耳の少年がひなた達に近寄ってきていた。

 少年は、静かにするように、とジェスチャーで指示し、音も無くザフィーラを縛る糸を爪で斬る。自由になったザフィーラはひなたを背負い、少年と共に少し離れた場所に離れる。

 

「んじゃ、時間稼ぎも済んだことだし。片付けるかな」

『なにっ!? き……キサマァァァッ!』

 

「そう、いきりなさんな」

 

 男が何処からか取り出したのは六角柱の綺麗な水晶。中に何か入って居るようにも見えるがひなた達のいる位置からではよく見えない。

 ベルトのバックルの、その上部部分にある白いボタンを押す。

 するとカバーがスライドし、中から六角柱状に嵌め込む“窪み(くぼみ)”があるのが見えた。

 

「こんな話を知ってるかい?」

 

 水晶を握り、上から滑り込むように窪みへと水晶を嵌め込むと、何処からともなく声が聞こえる。

 

 

《ユ ウ レ イ》

 

 

 甲高くも雅な笛と、三味線だろうか。

 和風に古風で、軽快なループ音楽が流れだす。

 その様子に、バクグモが目に見えて“恐れている”。

 

『ま、まさかそれは……!』

「あ、知ってるんだ。じゃあ、知ってるね――悪を許さない妖怪がいることを」

 

 悪を許さない。

 その言葉は、ひなたの脳裏に“ある者”の姿を呼び起こさせた。

 嫌悪する悪に縛られながらも、己が正義を想い続けた機械騎士の姿。

 

 男の立ち姿は、その機械騎士の背中を彷彿とさせたのだ。

 

 

「変、身」

 

《変・身――トリツキ・go step》

 

 

 黒いアンダースーツに、死装束を無理やり金属の鎧にしたような姿。

 全体的にシンプルで無駄を全て省いた潔白的なフォルムに、そこはかとない神秘さを感じた。

 

 そしてバクグモは、恐る恐る、目の前の存在の名前を口に出した。

 

 

『お前、は――仮面、ライダー、ブランク……ッ!』

 

『さーってと……んじゃ、冥府旅行の準備はいいかな?』

 

 

 

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「ごめんなさい。ごめんなさい」

 

 なにもない闇の中。

 僅かに輝く闇色の光が、弱く弱く、明滅していた。

 

「自惚れていた。私は許されないことをした。誰にも許されない。私に力があるから」

 

 誰もいない。なにもない。ありはしない闇の中での独白は続く。

 罪を忘れないように。罰を怠らないように。戒めを絶え間なく。

 

「私がいたから。私が在ったから。私が生まれたから」

 

 かつての剣将も。あの時の王女も。かの女王も。あの王さえも。

 守れなかった。守りたかった。せめて傍にと願った自分を――したかった。

 

「私が不幸を振りまく。私が不全を押し付けた。私が悪だから」

 

 どれほど強くでも。どれほど(さか)しくても。

 どれほど幸せでも。どれほど不幸でも。

 

「私が悪業を振りまき、全て終わらせてしまった」

 

 壊れぬこの身が恨めしい。せめて壊れたかった。せめて壊してほしかった。

 どんなに死を求めても、この身の法則(システム)が許さない。

 自らを自らが罰し続けることに、

 

「私は――疲れた」

 

 優しい主も。心強き少年も。

 それを囲む仲間たちにも、不幸が迫る。全て、終わってしまう。

 

「誰か、私を――」

 

 

 

 

――__(ころ)してくれ。




・魔導適正
この辺はオリジナル。
正直ひなたのほうが重傷じゃね、とは作者も思った。
イメージは物語後半の妖怪小銭パンツこと火野映司。

・ひなたの独白
こいつ本当に小三か?

・突然の事態
本当は、何故か聖刃の家で管理局組と闇の書について対談。
ひなたがキレてクロノを煽り、聖刃の父が止め、気まずい空気の中でひなたがぶっ倒れるところだった。
“傷心の男”さんのことをすっかり忘れてて、新ライダーに興奮して衝動で書いたオリジナルライダーの設定を試すついでに再登場。
単体作品の劇場版コラボゲスト的な感じ。

・仮面ライダーブランク
怪異ベースの妖怪もの。
主人公は妖怪オタクで神社の『かんなぎ(巫女の男版)』
超古代文明ムーダーズ(ムー+マーダー)の地上侵略を阻止し、封印された妖怪たちの力を借りて立ち向かえ!(テレマガ感)

・???の独白
(アカン……アカン!)



 頼ることは開くだろうか。
 例えそれが悪だとして、咎められる者はいるのだろうか。
 古来から言われているはずだ。
 人は一人では生きられない、と。

回転割砕の魔導右腕A's(ライトアーム・エィス)
第六話「アクセル・ストーリー」

 物語は、急激に加速する。


待て、而して希望せよ。
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