回転割砕の魔導右腕(ライトアーム)   作:変色柘榴石

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※2015/06/17:母の名前修正と後書きに説明追加。


A's14「日野ひなたは光と共に」(Part:C)

 桜色と闇色。それぞれの光が螺旋に絡み合う。爆発音、砲撃音、ぶつかり合う衝撃波でうねる波さえもフェイトとの戦いの比ではなかった。

 なのはが暴走態の背後に付き撃ってもバレルロールで避けられ、対し枝分かれする砲撃を暴走態が放てば間をすり抜け、掌底でのアクティブシフトが叩き込まれる。

 撃って避けて放って抜けて、叩き込んで避けて打ち込んで回って離れる。

 

 最早これは互角とも言うべき戦いだが、如何せんこの状況では暴走態に理がある。

 ――疲れ。魔力量の問題である。

 なのはが疲れを知り、魔力量に限りある、まして九歳の子供であるのに対し、暴走態はデバイスであり文字通り暴走状態。魔力は無限に等しく、体のリーチも十代後半の身体つき故に有利である。それ同様に、高出力を誇るエクセリオンガンナーを以ってしても暴走態の最大出力には程遠い。

 

「■■■ーーーッッ!!」

 

 離れてからの反転砲撃から逃げるように海面方向へと加速する暴走態に偏差砲撃で狙うも防がれ、砲撃後の硬直を狙われ暴走態の加速の勢いがついたアッパーがなのはへ迫る。間一髪で障壁(シールド)を張り、レイジングハートの柄を翳して(かざして)の二重防御とするも、衝撃を殺し切れず吹き飛ばされ、ドッグファイトの最中に暴走態の魔力に充てられて隆起した海底にぶつかり、沿うように転がり昇り、先端のところで体勢を整えてエクセリオンモードのレイジングハートの穂先を、別の隆起した海底で佇む暴走態に向ける。

 

……正直、予想以上だね。

 

 決して甘く見ていたわけではない。むしろ今まで以上……憶えている中でも最大級以上に警戒していたはずだが――暴走態はそれを遥かに上回った。こんなに悪態を吐きたくなったのはいつ以来だろうか。初のAMF(アンチマギリンクフィールド)で思うように動けなくてイライラして思わずぽろっと言ってしまった時以来だろう。多分。

 そして今の状況を見れば、懐かしのあの場面……自分の『とっておき』の再現の様ではないか。『あの時』に言われたのは、そう「一つ覚えの砲撃、通すと思ってか」だったか。今暴走している『彼女』は言わないだろう。実はこの言葉が悔しくて射撃魔法の練度も上げたのは懐かしい思い出だ。

 なら、あの日の再現と行こうか。前よりも、威力は格段に違うが……向こうも格段に強い。問題ない問題ない。

 

 ――助けたいという思い。止めたいと言う願い。もしかしたらという想いを。

 この胸の想いで、この心の魂で、この手の魔法で――絶対にッ!

 

「――徹すッ!!」

【エクセリオンバスター・A.C.S(アクセラレーション・チャージ・ストライク)、スタンバイ】

 

 弾倉を入れ替えてカートリッジを三発ロードし、足下を中心にミッドチルダ式の円系魔法陣が展開される。噴き出す魔力が尋常ではないのか、うねるように螺旋を描いて髪やスカートを靡かせる。

 

【ストライクフレーム展開。エクセリオンディフェンダー、高出力形態に移行】

 

 構えたレイジングハートから二対桜色の魔力翼が生えて、余程高密度なのだろう、本来の魔力光である桜色を通り越して紅色になったストライクフレームがレイジングハートを、より槍のように整える。

 同時に両肩近くで浮くエクセリオンディフェンダーは戦闘機のような羽を展開させ、一枚板の状態から二枚重ねのように分かれ、中から排出口と吸引口が一緒になった機器がせり出てくる。

 

「エクセリオンバスター・ACSッ!」

【ドライブ――】

「イグニッションッッ!!」

 

 ――彗星。

 光を纏い、星屑(魔力残滓)をまき散らし、一筋の光となって突撃するその姿は、正しく(まさしく)彗星の如し。

 暴走態は障壁(シールド)を展開し、ACSを受け止めようとするも、なのはの魔力放出量からなる二重の(アクセルフィン)推進力(エクセリオンディフェンダー)障壁(シールド)ごと押し込み、暴走態ごと突き出た海底を突き抜けていく。

 一際大きな隆起物にぶつかり、暴走態は隆起物に叩き付けられ、さらにはACSを押し止める障壁との板挟み。所謂、“チェック”であった

 

「――ッ」

「届か、せるッ!」

 

 障壁を構成する魔力をかき分け、魔力の穂先がその身を障壁に沈める。

 深く。深く――その身に届けと。

 エクセリオンディフェンダーが出力を上げ、アクセルフィンもより一層その翼を羽撃かせる(はばたかせる)

 進め、通し、徹せ。不屈の鋼を、一筋の槍に。

 障壁をかき分け現れ(から頭を出し)たのは紅色の魔力刃。

 

 弾倉内に残るカートリッジ三発を残さずロードし、エクセリオンディフェンダーの残滓放出量と循環速度が上がり、魔力刃の穂先に魔力が収束される。

 

「ブレイ、クッ――」

「……ッ!」

 

 

「シュゥゥーーットォッ!!」

 

 

 至近距離からの零距離砲撃。

 暴走態を括りつけていた巨大な隆起物でさえ、根元から破砕するほどの砲撃が暴走態を襲う。

 ――正真正銘、なのはの全力全開。全身全霊の一撃。最後の切り札(SLB)を除けば、今出せる最大級の砲撃……安定化を図った(エクセリオン)ガンナーでさえ影響を抑えきれず、なのはの体に少なくない負担が降り掛かっている。

 

……ここで大人しくなってくれれば最大。腕のアレ(槍射砲)さえ破壊出来れば御の字、かな。

 

 無論、なのはの体だけではない。Eディフェンダーは尚の事、レイジングハートにも負荷が掛かっている。ほぼ上位互換級にロールアウトしたとはいえ、不安なことが無いわけではないのだ。

 ――相手の再強化。この後に来るだろう、防衛プログラム本体との戦い。挙げれば(きり)が無いだろうが……今考える事ではない、と思考の一つを閉じて次の行動予測を練る。

 

 砲撃により崩れた隆起物の塵煙が晴れる。中から現れたのは、理性の感じ取れる瞳と涙を流す暗い目……槍射砲があったはずの左腕には半透明の毒々しい色の蛇たちが巻き付き蠢いて(うごめいて)いた。

 

「――なみ、だ……」

 

 ――不意に、『前』の事を思い出す。

 八神はやての体を変え、表に顕現した『闇の書』本体。自らを“道具”と言い、流す涙は主のものだと頑な(かたくな)に自分の涙を否定した女を。

 あくまで自分は、主の道具……代弁者であり、破壊者であり、復讐者であると。そう言い続け、涙を流し続けた一人の女性を。

 

「もう……」

 

 暴走態……いや、既に暴走していないだろう銀髪の管理人格(マスタープログラム)が口を開く。

 

「もう、全てが終わる。終わってしまう。私の所為で、私の行いで、私の手で……愛すべき主達の世界が崩れてしまう。人も、街も、世界も――思い出さえも、全て消えてしまう。夢と終ってしまう」

 

 憤怒さえも振り切った、絶望と諦観――悲哀の声。

 自分には何もできない。止めることも、やめさせることも、自分を壊すことさえ。

 悲しみを生み、絶望を振りまき、恐怖の内に消え果る。

 破壊あれ。呪いあれ。災いあれ。そうあることを望まぬ内に促され、その(プログラム)は実行してきた。

 

 

 ――全てに、破界あれ……と。

 

 

<>

 

 

 ――眩しい。

 最初に感じたのは、瞼の向こうが眩しいと言うこと。

 寝惚け眼(ねぼけまなこ)をゆっくり開き、周囲を見渡す。

 

 プラネタリウムのような部屋。児童書のように描かれた、天井を覆う星座の壁紙。これは憶えている。――正確には『彼女』の記憶だが、夜に映る星々が綺麗で……部屋にある機器を使えば実際にプラネタリウムになることを。

 丸い部屋。いつも『時の庭園』で寝た、自分(彼女)の部屋。――そう、いつもは家庭教師で母の使い魔である『リニス』が起こしに来てくれて……

 

「おはようございます……あら、早起きですねフェイト」

 

 そう。こんな感じに。

 

「あ――うん。おはよう、リニス」

「はい。おはようございます……って、もう! 『お二人(・・・)』も起きてくださーい」

 

 いつもアルフがなかなか起きなくて。これがなかなか、確かに起きない。こういう時は自分が冷水で顔を洗うと飛び上がって起きるのだが――いやいや待て待て待て。

 今この山猫教師は『二人』と言ったか。少し頭が寝惚けてるのは認めるが、確かに挨拶は返したはず。ちょっと聞き捨てならないので八つ当たり気味にアルフを起こそうと振り返って……思考が止まった。

 

 別にアルフが自分にはない豊満な人間ボディで裸寝してたとか獣形態で逆立ち寝してるとかそんな奇抜な話ではなく――“自分”が……“自分そっくりな人間”が寝ていた。

 自分とは比較的に体躯は幼めだ。ちょっと(よだれ)がだらしない。……自分が流してない確証はないが。

 

「まったく……真面目なフェイトを見習ってくださいな。あーもうお布団はお肉ではありませんよアルフ!」

「……ふぇいと~……それいじょうたべたらよこにものびちゃうよ~……」

 

 ……。 えいっ(キュッ)……。

 

「……う、った……あだだだだだ!?」

「――はっ。手が勝手に」

「冷静に両手の親指以外を『アリシア』の横顔に添えてシめるフェイトを見るとは……今日は午後から雨ですかね」

 

 いや別に自分の顔で満面の笑みの『お前も悪い意味でムチムチにしてやろうか』みたいなこと言われたからだとか、記憶から見るに『油断して体重計地獄を見るのはそっちなんじゃないのゲハハ』とかそういうのでやったわけではない。無いったら無い。

 ちなみに尚も続行中である。

 

「少しは助けてくれても良いと思うな『お姉ちゃん』は!」

「えっ、なんて?」

「難聴系主人公な『妹』なんて認めない! ミトメタクナーイ!」

 

「……いつもの騒がしい朝だねぇ」

 

 自称『お姉ちゃん』……“アリシア”の言葉とアルフの呟きを流しながら、朝を迎える。

 フェイト・テスタロッサ。早くもこんな状況に順応してます。

 

 

 そんなこんなで朝食タイム。本日は雲一つない快晴だそうで中庭にてさわやかな朝食……のはずだが、なにやらリニスの笑顔が遠目に見ても恐い。

 しかしこういう時は大抵にして母が何かやらかしている。技術の無駄遣いだとか努力の方向音痴というか……往々にしてそういう時は大体――

 

「いい? リニス……科学者は理想を形にする職業なの。だから童心を忘れたら科学者は科学者ではなくなるわ」

「童心に帰る前に土に還しましょうか御主人様?」

「すいまえんでした……」

 

 毎度のことながらリニスの毒舌は過激だ。事実上の上下(主従)関係が逆のようにも感じるがアクセルとブレーキのような、とても仲のいい二人なのも知っている。

 

……とはいえ、母さんが子供みたいになってるのを見るとは……流石に思わなかったケド。

 

 少し記憶を掘り返すと、嫌いらしいトマトが出た日は……なんというか嫌悪よりも悲壮感が出てた気がする。雰囲気的な意味で。

 

「ねーねーお母さんっ、フェイトったらヒドいんだよ!? いきなり私の顔を指でキュッと――」

「……今度は要望通りに横に伸ばしてみよっか?」

「な、なんでもございませんッ!!」

 

 何事かと母の目が点になってるが気にしない。そろそろ席に着かなければ朝のジュースが強制的に青汁か野菜ジュースになる。それはなんとしても避けねばならないのが、我らがテスタロッサ家の日常であった。

 

 

 朝食後、アリシアとの他愛ない話と共に本を読む。苦手な分割思考(マルチタスク)の練習だが……相変わらず『三つ』から先に進まないのが現状である。前に『集中力が高いのは良し。しかし周りが見えなくなるまで集中するのは減点です』とリニスに言われてしまった。その場合、“分割思考(マルチタスク)”よりも“思考加速(アクセルシンク)”や“高速思考(ハイスピード)”に私は適性があるらしい。名も姿も知らぬ『父』譲りらしいが……

 

 そんな噂の父は母曰く「ツンデレでチュウニビョウ乙女」らしい。いまいち『チュウニビョウ』とやらを知らないからとリニスに尋ねたところ……

 

「思春期に起きる慢性的な精神疾患です。いわゆる興奮状態……こうなればかっこいいのにな、とか、おれじつはこうなんだけどバレちゃいけないからかくしてるんだぜーとかですね」

 

 なんだかものすごく良い笑顔で説明された。それも終始目が笑っていない。何か嫌な思い出でもあったのだろうか……そのことをアリシアに話したらこう返ってきた。

 

「そっとしておこう」

 

 無駄にイケメンに返された。あと無駄に水玉の下着を見せられた。買ってもらったらしいが……今は春半ばとはいえ少し寒い。下着姿の貧相な身体で「ハイカラだろ?」と言われても正直反応に困る。いない父と自分たち姉妹を除けばナイスバディ集団なテスタロッサ家。成長してから出直して来いと言おうとしたがやめておく。

 とりあえず「かわいい」と返しておいた。何故かされたぐぬぬ顔はかわいいが、時期が時期……風邪をひくので上着を掛けたらときめいた様な顔をしていた。なんでさ。

 

 

 

 そんな長い様で短い、アリシアとフェイトの一日。

 それを全て、体で感じて、最高の……夢のような時間。

 しかし――いや、当の昔に理解していた。

 

……『ここ』は私や母さんが『欲しかった場所』だ。

 

 なって欲しかった過去。母が願った今。――あり得ない『if(もしも)』の話だ。

 体だけとなった『(オリジナル)』、孤独の狂気に加担してしまった母。それが、現実だ。

 

「……アリシア、ここは――」

「――気付いちゃうか。まぁ、私の妹で可愛い最強のフェイトだし」

 

 ミッド山中に停泊した『時の庭園』から出て、二人で散歩していた矢先。雨が降って大木の下で雨宿りする。なんだか話すことが無くて、唯一の話題を出す。それに対し、アリシアは悲しげな笑顔で胸を張る。

 

 ――違う。そんな、あなたにそんな顔をさせたいわけじゃない。

 正直言えば、“幸せ”だった。『元の世界』で知ってる笑顔とはまた別の、明るく眩しい笑顔。それはまるで太陽の様だと、そう思った。

 半日しか会話してないのに、懐かしくて、太陽のような笑顔が大好きで。その笑顔を見るだけで心が明るくなったのも確か。母が取り戻そうとしたのも、確かに理解できた。

 

「……うん。私は、アリシアの妹だもん」

「んっふふ~! フェイトの言葉でお姉ちゃん大感激!」

 

 うりうりとフェイトの頭を抱き撫で回すアリシア。フェイトはそのまま、静かに抱き締められる。

 アリシアの動きは段々治まり、未だ雨の降る大木の外へと躍り出る(おどりでる)

 

「……ここは夢。お母さんやリニス、フェイトが望んだ世界で――逆に言えば、『もう叶わない世界』……」

 

 雨の降る空を見て振り返ろうとするアリシアに、フェイトが抱き着く。

 身長は、アリシアの方が少しばかり低いが故に……雨とは違う、温かい滴がアリシアの額に落ちる。

 

「つらい、夢だよね。ごめんね……こんな(せかい)を見せて」

 

 アリシアの声に、水気が入る。

 しかし――違うよ、と泣き声混じりの言葉が耳に入る。見上げた先のフェイトの顔は、泣きながら――笑っていた。

 

「嬉しかったんだ。アリシアに会えて……楽しかったんだ。たった半日だけど」

 一息。

最高(しあわせ)だった……ッ! 『お姉ちゃん』に会えて!」

 

 この()を、絶対に忘れない。会うことのなかった姉に会って、話せて、笑い合えたこの(瞬間)を。この感情を。この想いを!

 力一杯、姉を抱きしめる。抱き返す感覚は確かにあって、泣く声も確かに聞こえて。

 そして感じた。姉の体温――消えていく感覚。

 

「お姉ちゃん――逢えて、良かった……ッ!」

「うん……うん……! 私もだよ、フェイト……!」

 

 離れる体温。繋がれた手の中に、つらい時も一緒にいてくれた、相棒(愛機)の姿。

 

「もっと、お姉ちゃんといたかった……!」

「私も、嬉しかった……もっと一緒にいたかった……ッ!」

 

 もう既にアリシアの腰から下は光となって消えている。

 別れの時は、確実に近付いていた。

 

「フェイトは、前へと進んで。困っちゃうかもしれないけど、苦しいかもしれないけど……他の子たちや、大切な誰かと一緒に――前へと歩いてほしい」

 

 それだけが私の願い。

 そう締めくくるアリシアの体は、ほとんど光になっている。

 ――これは一種の呪いかもしれない。見かたを変えたら、それは祝福かもしれない。

 しかしフェイトからすれば……大好きな姉の――自分の背中を押す、“最後の一押し”だった。

 

「――いってきます(バイバイ)。大好きだよ、お姉ちゃん」

 

 いってらっしゃい(バイバイ)……私も、大好きだよ――フェイト。

 

 雨上がり。雲の間から日差しが入る幻想的な風景の中、アリシア・テスタロッサは光と消えた。

 

 

 

 咆哮。悲憤の叫び。

 ――破壊せよ。破界せよ。悉く(ことごとく)潰えて(ついえて)消えろ。

 そう叫ぶ身体と魂に相反して、心は泣き叫ぶ。……もうすべてが終わる。なにもかも、私の手で消えて去ってしまう。せめて痛み無きよう、消えてくれ。私はそうすることしかできないから。

 

 桜色の弾幕を避け、その体に当たろうとも痛みを無視して管理人格(マスタープログラム)は空を駆け、なのはに対し拳を叩き込もうとする。

 寸でのところで防壁(プロテクション)を展開するも、管理人格(マスタープログラム)の膂力に耐え切れず破壊され、衝撃そのままに隆起した柱を壊しながら吹き飛ばされる。

 

 叩き付けられた柱から立ち上がろうとするも、塵煙の向こうから赤い光――管理人格(マスタープログラム)の赤い瞳が迫っているのが一瞬見え、半ば直感的に柱沿いに後転。先程まで居た場所には管理人格(マスタープログラム)の拳が叩き付けられ、即座にその場から離脱しようとするなのはの足が掴まれ、再び柱に叩き付けられる。

 その後の行動……動けなくなった後の拳打をほぼ反射的に避け、反発する勢いでEディフェンダーを挟んだショルダータックルで怯ませるも即座に回復。転じた拳を焦点障壁(ポイントシールド)で逸らす。

 

 逸らして土煙を上げる柱。盛り上がる土煙の向こうから、悲しみに暮れた声がした。

 

「何故だッ! 何故お前たちがいる(抵抗してしまう)! お前たちが(私に)お前たちが(お前たちを)いなければ(壊させないでくれ)ッッ!!」

 

 矛盾する声。どちらも、彼女が発する本音であり、意味は違えど同じ拒絶の意志。

 せめて安らかに眠ってくれ(終わらせる)。私の見えないその場所で。

 

 ――私が、終わらせて(この手で壊して)しまう前に。

 

 

 

 時の庭園。声なきアリシアと、リニス。母と共に過ごした場所で、全ての決着の場所。

 母が座っていた、玉座の前に広がるガラス張りの広場の中心にフェイトはいた。

 

 なのはたちに出会う前の普段着で、愛機バルディッシュを手に、静かに佇んで(たたずんで)いた。

 

「――往こう。バルディッシュ」

【Yes, sir】

 

 バルディッシュを掲げ、薙ぐ。それはまるで、過去を振り切る――否、過去を受け止めた上で、道を切り開くかのように!

 その一振りに呼応するかのように、フェイトの姿もバリアジャケットへと変わる。

 ――しかしそれは、今までのライトニングフォームでも、ソニックフォームでもない。

 ライトニングにソニックを掛け合わせ、黒色のマントは純白へと。

 

 フェイトは知らない。それは未来への原型……“衝撃”の名を冠する姿の兆しであり、未来へつなぐ『勇気の支え』であると言うことを!

 

 姉に背中を押され、家族との日々を胸に、母との日々をやり直すために決意した姿――『ブレイブフォーム』

 再びバルディッシュを掲げる。その姿は、まるで物語の騎士の様であり、胸に込めた熱い感情を、自分の愛機にも伝えられるように。

 

【ザンバーフォーム】

 

 回転弾倉から三発ロード。その斧の姿を捻じ曲げ、開き、黒金の芯を中心に黄金の魔力刃が形を成す。

 ――大剣。刀の形状であるブレードフォームとは対になる剛剣の証。作り主が願った『総てを断ち斬る閃光の刃』のもう一つの姿。

 

 

――行くんだな?

 

 

「――はい」

 

 謎の声。それはどこかで聞いたようで、最近にも似たような声を聴いた気がする。

 

 

――辛いぞ?

 

 

「大丈夫……みんながいるから」

 

 少し高いが、それは男の声。比較的男の知り合いはあまり多くないが、それでも『今の』母より少し下ぐらいの男の声。

 

 

――いい結果とは限らないかもしれない。

 

 

「それでも、出来る事はあります」

 

 本当はもう、予想――いや、もう既に確信に至っている。姿を見ずとも、その自信はあった。

 

 

――そうか。じゃあ行って来い。お前の日常(刹那)……守って見せろよ。

 

 

「……はい。リニス、お姉ちゃん――お父さん」

 

 声はない。だが、心に焼き付くのは太陽のような笑顔を浮かべる姉、月のように安らかな笑みを浮かべる師。――そして、大樹のように見守る笑顔を浮かべる青髪の男性。

 

「逢えて、嬉しかった……!」

 

 大剣状のバルディッシュを緩やかに薙ぐ。生じた魔力の稲妻は、従来の紫や黄色とは違う……『水色』だ。――本能的に判る。これは、姉と父の(魔力光)だと。

 水色の稲妻が周囲を壊していく。夢を、この手で終わらせるために。

 

「――行ってきます。私が今、居るべき場所に!」

 

 目を見開く。フェイトのその目に、別れの悲しみ、叶わぬ夢に絶望する色はない。あるのは、ただ前に進むと言う、確固たる意志一つ!

 バルディッシュを大上段に振り上げ、意志の証である言葉を紡ぐ!

 

 

「疾 ・ 風 ・ 迅 ・ 雷 !」

 

 

 主の期待に応えるように、バルディッシュの巨大な魔力刃はその身を更に肥大化させる。作り主の願った『総てを断ち斬る閃光の刃』をこの身で体現するために!

 天井を突き破り、天さえも貫かんとする黄金の魔力刃を……フェイトは、一気に振り下ろした。

 

 

<>

 

 

 闇の書の中枢にて、昏き闇に亀裂が入る。

 主である八神はやての目は、覚めた。

 

 

<>

 

 

 弾かれるように海面に叩き付けられる。石切りのように吹き飛ぶなのはを焦げ茶色のチェーンバインドで強引に引き寄せ、蹴りで方向を変え、隆起した柱を使って吊し上げる。

 管理人格(マスタープログラム)は闇の書を開き、ある魔法を発動させる。

 吊し上げられたなのはの直上……隆起した柱が運悪く視界を遮り、その向こうの空で闇色の稲妻が走っているのを確認する他なかった。

 

 そして視界を遮られたその向こうでは、アースラにも届きうる巨大な螺旋槍があった!

 

 

――対艦物理魔法:シュピラーレ・ランツェ

 

 

「――眠れェェッッ!!」

 

 取っ手を力強く掴み、落とす。それだけで螺旋槍はドリルのように回転しながら直下にいるなのはへと突き進む。

 大気を抉り、柱を壊し、直上から降りてくる巨大な螺旋槍に、流石のなのはも、その表情に恐怖を見せる。

 

 

――パワードサンダー

 

 

 ――だがそれも、一瞬だった。

 黄金の光が煌めいて、モノクロを身に纏った黄金が縦に一閃……正しく一刀両断。なのはを真正面から貫くはずだった螺旋槍は真っ二つに割れ、なのはを縛るチェーンバインドを巻き添えに海へと沈む。

 噴き上がる水飛沫の中から現れたのは、二房に分けた金髪が目立つ純白のマントを纏う少女……

 

「――お帰り、フェイトちゃん」

「……うん。ただいま」

 

 フェイト・テスタロッサ。その人である。

 互いの存在を確かめ合う会話をするその上空……管理人格(マスタープログラム)の左腕に痛みが奔り、その顔は苦悶の色に染め上げられる。

 

 状況は好転せず、マイナスが0に戻っただけのこの状況。

 そう思われた瞬間、なのはとフェイト……二人だけではなく、その場にいた魔導師関係全員にその声が届いた。

 

 

『(き……えま……! ……とのか……局の……、きこ……すか!)』

 

 

 直感でわかった。これは、『彼女』の声だ。

 闇の書内にいる二人の内、片方……『八神はやて』の声だと!

 

『(待っててね!? 今ノイズ処理して……こちらから通信精度を上げ、て……オッケィッ!)』

 

 アースラにも届いた無差別通信にエイミィが処理し、より音声は鮮明になる。

 

『(聞こえますか! 外の管理局その他諸々、聞こえますか!?)』

『(……っておい八神ィッ! どうせ通信精度低いからって言葉追加してんな!)』

『(チッ……よかったぁ! ようやく繋がったー)』

『(舌打ち! 舌打ち隠せてないよはやてちゃん!)』

 

 ここにいる全員が思った。今この時だけは、いつもの日常が返ってきたのだと。

 しかしそれも束の間(つかのま)……はやてから訂正が入り、事情を話す。

 

 

<>

 

 

 目を覚ました場所は、真っ暗な闇。

 いや、明かりの無い夜と言った方が正しいと、はやては感じた。

 よく見れば、うっすらと周囲全体に星の輝きが見える。ボール状のプラネタリウムの中にいるようで少し楽しくも感じた。

 でも星座らしい星座は見えないな、と呑気なことを考えた。

 

 しかし、はやては聞こえてしまった。

 自分以外の誰かの声。真っ暗闇の中、自分以外に誰かいる。

 でもそれは……

 

 ――泣き声。

 ――それも、押し殺す様な。

 ――泣く価値も、資格も無い。

 ――そんな思い(こえ)の、押し殺し方。

 

 誰が泣いている。

 もしかしたら、わからないだけで自分なのかもしれない。

 ――――涙を、流しているのは。

 

(今はまだ、お眠りください)

(このまま、貴女は優しい夢を――)

(辛く悲しい現実を、夢に)

 

 悲しい声。諦めた声。

 目を閉じ、優しい世界(夢の中)に閉じ籠ってくれ。

 懇願するような、そんな声。

 でも。でも。

 

「――ちょっと、黙ろうか(だまろーか)……」

(……?)

 

――――もし本当に、辛く悲しい現実だけならば。

 今ここにいる『八神はやて』はいなかっただろう。

 そんな現実“だけ”であれば、簡単に諦めてしまっただろう。

 

 しかし、しかし。

 今ここで諦めたら、今まで支えてくれた人たち。

 そして隣を歩いてくれた人々の心を、裏切り、踏みにじるということ。

 

「私は、まったくもって阿呆や……」

(何を……)

「他の皆、放っといて、自分だけ(らく)しようとした。このまま眠ってしまおう思ってもーた」

 

……だから、私は肝心な時に何もできなくて。

 

 それが嫌だからアースラに乗った。

 共に、事件を最後まで見届けようとした。

 ……そこで、『納得』してしまった。

 

「『世界の(こう)、不幸は均等である』――よく言ったもんや」

 

 はぁ、と一息。

 参ったと言った風に女性を見て、肩を竦める。

 

「ひなと二人っきりになってもうて、気晴らしに二人で外に出たらなのはちゃんと知り合って、数多くの友達が出来て……この“足”が悪化して、ひなを巻き込んでの休学。でも頻繁に誰かが遊びに来るようになった」

 

 めっちゃ複雑やわー、と疲れ果てた会社員のように車椅子の上で身体を伸ばす。

 んー……で、と言葉を続けた。

 

「どこぞの悲劇のヒロインみたく、世界は絶望しかないんや、私は絶望を知り尽くしたーとか、くっさいこと心ん中沈めて。世を儚んで世間をクソゲー呼ばわり……つかず離れずの世間(フィールド)、強制参加(ニューゲーム)ヒント(ヘルプ説明書)なし。挙句プレイヤーほったらかしのクソプログラミングの自己満クソゲーやとな」

 

 その癖プレイヤーは現在進行形の七十億。

 ハマる要素は何処にある。ハード(人間)ソフト(人生)、一つだけあれば強制参加。

 終わり(ゲームオーバーとクリア)は共通。ただ■ぬだけ。

 

せやから(・・・・)、人生は面白い」

 

 顔を上に向けたまま、はやては大きく口角を上げる。

 見る人(ひなた)が見れば「うわ、悪人面」と(こぼ)していただろう。

 

「夢は夢。現実ではないし、夢は覚めるものや。女房役は伊達で無し、なんよ」

 

 伸ばす身体を戻した顔の目の前には、泣き腫らしたような銀髪の美女。

 

 ――うん。憶えてる。

 ――お騒がせな“子”やな。

 ――身体はこんなにも育ってるんになぁ……

 

 口内の唾液が少し増えて、慌てて飲み込む。

 さて、と気持ちを切り替えて、

 

「せやから、キミの不幸はもうお終い(おしまい)や。ここからは輝きの日々」

 

 覚悟しいや? と言うが、銀髪の美女は状況が呑み込めないのか呆然として、我に返る。

 

「む、無茶です我が主! 闇はもう……」

「あー、あーあーやかましやかまし! ほれ気を付けぇッ!」

 

 は、はい! と正座で背筋を伸ばす美女に思わず、この子は一々可愛いな……と考えて、切り替える。

 

「まずは、名前や」

「えっと……名はありません」

「(アカン)じゃあ、キミが幸せになるよう、願掛けも込めて……」

 

 はやては、抱き締めた。

 車椅子対正座と不格好だが傷つけない程度に、はやては力一杯抱きしめた。

 

「私が、名前付けたる」

 

 ――ポンと浮かんだ名前だけど。

 ――何故かこの子には、相応しく思えて。

 

 ――誰かを支え、背中を押す風。

 ――自分の幸福と共に歩めるような、優しい追い風。

 

 ――幸運の追い風。

 

 ――そして、この子に祝福を。

 ――同時に、他の誰かを祝福できるような、優しい子に。

 

 ――祝福のエール。

 

 

 

「リイン、フォース」

 

 

 夜は、ついに夜明けとなる。

 

 

<>

 

 

「なげぇ。三行で」

『(新しい家族が増えました、でもガワ(ナハト)が制御不能、プランB(力尽く))』

 

 いや間違いではないけども。……こら双子。スイカの名産地とか懐かしいのを口遊む(くちずさむ)な。

 とりあえず後続の後衛局員から魔力分配(ディバイドエナジー)などで万全に準備を整えた俺とキルヒアイゼン、カンジュはスクライアやアルフを含む後衛部隊と合流して高町達のいる場所へと向かっていた。

 

 向こうの高火力(なのはと)二人(フェイト)はやる気満々でデバイスを構えるが、対するリインもどきも変だ。ナハトヴァールとは違う何かに抗っているような……

 そう思っていると、再び八神から通信が入る。

 

『(総員防御態勢ッ! 無差別砲撃の乱射、来るよ!)』

 

 嘘だろ!? 劇場版に無差別攻撃(・・)はあったが無差別砲撃(・・)だと!?

 そう焦り防御姿勢になろうと言う瞬間、一つの声と“若草色”の光が輝いた。

 

 

「スクライア式、縛闘(ばっとう)術……参ります」

 

 

――帯の型(おびのかた)三番 包み檻・反転(ラッピングケージ・リフレクト)

 

 

 若草色の魔法陣から伸びるのは俺が知る限りウィングロードやエアライナー……フローターフィールドのような足場系の結界魔法。……いや、それよりも細く、普通のバインド魔法の二回りぐらい大きいサイズの若草色の帯がリインもどきを覆うように包み込む。

 その中から聞こえる爆発音らしき爆音が聞こえる限り、恐らくは中で無差別砲撃が反射しているのだろう。……どっかの漫画にあったな。ドーム内に閉じ込めて攻撃反射するやつ。

 ……っと、そう言ってる場合じゃないか。

 

「高町! テスタロッサ! 気合入れて紡げよッ!」

『(……うんッ!)』

『(任せて、セイバ)』

 

 

<>

 

 

 準備は既に整っている。

 ユーノの特技(※本人談)により管理人格(マスタープログラム)の動きは完全に止まり、尚且つ反射により僅かながらダメージが入っていることであろうその隙に、なのはとフェイトの魔法は引き金を弾く(ひく)のみとなった。

 

「NアンドF、中距離殲滅コンビネーション!」

「理論と仮想練習で組み上げた、ぶっつけ本番の合体魔法……!」

 

 

――ブラスト・カラミティ

 

 

 三十にも及ぶ射撃スフィアからなる炸裂付加のアクセルシューターが放たれ、線を描いて着弾する。着弾の直前にユーノの放った球体の技は消え、管理人格(マスタープログラム)の全身に絡みつく闇色の蛇を撃ち抜き、壊し、破壊する。それが元凶だと、本能的に理解したから。

 止めとばかりにフェイトはザンバーフォームのバルディッシュを振り下ろし、砲撃が放たれ管理人格(マスタープログラム)が飲み込まれた。

 

 “N&F中距離殲滅コンビネーション空間攻撃『ブラスト・カラミティ』”――なのはとフェイト、両魔導師間で魔力リンクを行い、各個人の特性と魔力を共有し、その破壊力を以ってして、文字通りの殲滅を実行する高威力空間攻撃だ。

 最初の射撃魔法にも、メインこそなのはの力が使われているものの、直線加速はフェイトの直射弾の領分であり、結果弾速を速めることに成功。続くフェイトの砲撃も魔力変換資質の副次効果『磁力』による誘導砲撃に、なのはの砲撃適性が加わり、より高威力となる……が、それはあくまでシミュレーションでの話だけであり、『理論上は可能』とまでは行ったものの、実戦で確かめる余裕は今までなかった。

 

 しかし結果は成功。魔力昏倒によるナハトヴァールの切り離しはうまくいき、上手く分離したこともエイミィから報告が上がる。

 

 その一方で、もう一つの決着がついていた。

 

 

<>

 

 

 桜■■山■ 兼 林■――夜。

 

 母、ア■サ■■サ・ヒノの案により開かれた家族流星群鑑賞会。

 街灯さえも消えた高台で広げたブルーシートの上で、母とひなたが共同で作った弁当を頬張りつつライトを消した夜空には満天の星空が広がっていた。

 

「すっげー……」

 

 宝石箱と言っても過言ではないその光景に、視線が釘付けになる。

 最早星座すらも見つけ辛いほどに輝く星々に、ひなたも思わず感動の声を上げる。

 

「満天の星空……マム(母さん)ひー(ひなた)の弁当、ひーの膝枕……至福ッ……! 得難い、至福……!」

「人が感動してんのに台無しだよ。星になって、はよ」

「私が……目標……? マム、ヤバい……興奮止まらない」

「もうやだこのあね」

 

 思わず頭を抱えそうになる膝の上で通常運転で、しかし珍しく素の口調で静かに暴走する姉……日野■詩に『苦笑』しつつも、二人の目は空の星々へと向けられたまま。

 その中で一際輝く星は、紛れも無く――

 

「今日の月は、でかくて明るくて……」

「……『まるで太陽みたい』、か?」

「あらら、父さんには丸解りだったか」

「同じことを、アルカ(母さん)が昔言っていた」

「母さんと同じ脳みそ、だと……ッ!?」

「ひーなーたーくーん……それどういう意味かなー?」

 

 ひなたが母に頬をわしわしされているのを横目に、父、ミハ■ル・■・ヒノは小さく笑みを浮かべる。

 その様子に他の家族全員が、珍しい、と父を見る。普段から仏頂面で(比較的に)感情の起伏が薄い父が顔に出るほどの感情を表すのは珍しい事なのだ。

 そんな父は、月に目を向けたまま語り出す。

 

「この世界に完全な闇はない。良くも悪くも、輝いているものだ」

 

 光の無い世界。

 それは闇ではなく、“無”であると父は言う。

 それに続き、『人とは輝きである』と母は言う。

 なんでも、過去に出会った“雷のようなヒーロー”みたいな人が言ったらしい。

 だから、良くも悪くも……人は誰しも輝きを持ち、前へと進む。

 

 ――前に、なの■が言っていた。

 ――“一人”の世界(淋しい世界)を、俺と■■てが変えてくれたと。

 

 でもそれは、気まぐれが生んだ、最初の一歩。

 その一歩は“■カマ■■ノハ”のものであり、同時にひなたたち二人の一歩目でもあった。

 

 ――セ■バが言っていた。

 ――お前たちがいてくれたから、“俺の世界”(曇った世界)はこんなにも変わったんだと。

 

 しかしそれは、偶然の変化。

 その変化は“フル■■イ■”のものでありながら、同時に強がり、色褪(いろあ)せていたひなたたちの世界が変化し始めた瞬間でもあった。

 

 ――俺たちが出会い、携わってきたもの全てが……同時に、俺たち二人を変える切っ掛けでもあった。

 

 生きながらに死んで、虚勢で心を隠し、良くも悪くも自分たちから変えようとしなかった。

 そんな少年と少女の、変化の始まり。

 

「……振り切れたようだな」

 

 そう語り掛けてくる父の目には、纏わり付く何かを振り払ったかのような『清々しい顔のひなた』の姿が映っている。

 それに対しひなたは言葉に出さず、ただ頷き、膝の上から姉を退かし、前に出る。

 

 悠然と立つ、その後ろ姿。迷いも、憂いも無く。

 意思と決意を手に。右腕を振り上げる。

 天上に振りかざしたその右腕には、近と銀の二十輪。

 月明かりに照らされ輝くそれは、紛れも無く――四肢に流れる脈動を響かせる獅子。獅子の風格を以って振るう四肢。

 ――王者の力を轟かす咆哮。

 

「レオブロウ――いや、アルムバイン・レーヴェ(獅子の四肢)……《武装展開(リュストゥング)ッ!!》」

 

 

 首までを覆う黒いラバーインナーをベースに、細見のズボンが形成され、『白』と『金』の装甲が膝下から足先まで覆われ、ベルトを繋ぐように両足の脛を幅広い二重のホイール……『ラートバイン』が装着される。

 今度は両手首を挟むように嵌められたナックルの、その腕との間の(ふち)から流れ出るように光が漏れ出し、動かしやすい軽装甲が腕を覆っていき、両肩を外側が山形(やまなり)になった装甲が装着され、両手首を二重のホイール……『ラートアルム』が巻き付く。

 胸部中央に赤紫の宝玉が現れ、黒地に金の縁線、赤装飾のブレストプレート中央の窪みに埋め込まれ、胸に装着される。

 さらに腹部を覆うまでに丈の長く、しかし動きを阻害しない程度に長く黒い外套(腰マント)が身に着けられ、腰の部分で留め具が成される一方、背中から枝が生え伸びるように光が凝縮し、黒い一対のフィンブースターになる。

 多少ウェーブが入った髪も、赤紫の光によって首元辺りで纏め上げられ、日照と紅葉を模った髪止めが付けられる。

 

 新しく生まれ変わったレオブロウ……否、アルムバイン・レーヴェが騎士甲冑『スタイル・ブレイカー』展開し終わり、

 

 

【展開完了――“おかえりなさい”。愛しき我が主】

「……ああ。久しぶり、ただいま」

 

 名前、そして姿さえも一新されたひなたの“相棒”は、確かなこの手に帰ってきた。

 今ひなたに残る唯一の『肉親との繋がり』であり、今に至るこの時までには外せない重要な存在。

 ヴォルケンリッターよりも早くから居た、“三人目”の家族。

 

「久しぶり。調子、如何(どう)?」

 

 立ち上がり、歩いて来たのは姉――『日野 明詩(ひの・あかし)』だった。

 レオ……否、アルムバイン曰く“製作者”。

 明詩はデバイスコアである、ひなたの胸の宝玉に触れる。

 

【歓喜。久し振りに会えて光栄です。マイスター】

「……うん。元気してる。何より」

【決意。マイスターに託されたこの体(思い)、決して必ず】

「――うん。ありがと、私の愛娘(マイドーター)

 

 そう言って明詩が離れる直前、ひなたは何か“熱い力”を感じた。

 首を傾げていると、今度は両親がやってきた。

 

「行っちゃうか。そろそろ」

「……うん。はやても、他の奴等だって待たせてるから」

 

 真剣で、いつも“見ていた”晴れやかな笑顔とは違う、月のように静かで温かな笑顔の母。

 寂しさと嬉しさが入り混じったような笑顔に、一瞬。言葉を詰まらせるが、なんとか持ち直す。

 出たい、かと言えば嘘になる。本音を言えば、ずっと家族と居たい。離れたくない。

 

 ――でも。でも。

 ――そういう訳にはいかない。

 

 直感で感じた。

 外で誰かが戦っている。折れず曲がらず、貫く信念を胸に、誰かが戦っている。

 それは、多分。

 

……いや、絶対にそうだ。

 

 誰かは、直接には解らない。

 でも、それでも。俺たち(・・・)を助けようとしてる。

 それは、絶対に絶対。そう確信していた。

 

「まったく……」

 

 不意に腕を引かれ、母……『アルサルカサ・ヒノ』に抱き締められる。

 立って母よりも少し小さいぐらいの身長は、今は頭半分追い越すほどとなったひなたに、苦笑するような声が母から漏れ出てくる。それと同時に、不思議と“澄んだ力”を感じた。

 

「すこーし見ない間にこんなに成長しちゃって……お母さん嬉しいなぁ」

「デカい父さんの息子だしね」

「言えてる」

 

 思わず二人して噴き出し、父……『ミハエル・V・ヒノ』と目が合ったと思った瞬間に、わしわしと思いっきり頭を撫でられる。

 

「母様や母様や」

「なんだい我が愛息子」

「お父様ったら照れあでででで」

「ヤダちょっと見た鎧が痛い痛いこすり付けんなばばばばば」

「……ふっ」

 

 静かに笑いながらひなたの頭を撫でる握力を強め、逃げられないようにアルカ()の背中を抑える辺り照れ隠しなのか少しイラッと来てるのか。

 一通り満足したらしく手を放し、ひなたの胸に拳を押し付ける。そこから伝わってくるのは父の“力強い力”だった。

 

「――行ってこい。お前の信念()()してみせろ」

「……委細承知」

 

 最後はこれで十分。そう通じ合うように笑い合う親子に、傍から見ていた母娘は、仕方ない、と肩を竦める。

 ひなたはそのまま空に浮かぶ巨大な月に目をやり、拳を握りしめる。

 

「――行ってきます」

 

 返事はない。……だが、確かに分かる。笑顔で送り出してくれていることぐらいは。

 

 拳を振り上げ――虚空に叩き付ける。

 

 

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 ガラスが割れるように世界が割れ、罅から光が差す空間に出る。

 そこには泣き腫らしたような銀髪の女性と、いつもの自信に満ちた顔の幼馴染の姿。

 

「もうええの?」

 

 何が、とは言わない。互いにそれは分かっていることだから。

 

「はっ。男の子ナメんな」

「……そかそか。レオも久しぶりやな」

【訂正。当機は現在、レオブロウと言う名称ではなく、新固有名称『アルムバイン・レーヴェ』です】

「レオやん」

【肯定。愛称ですね】

「結局はな」

 

 そこから先は、互いに言葉はない。必要ない。黙祷の代わり。

 

 ん、と無言で差し出されるはやての手を、ひなたもただ、ん、と握り返す。

 今は簡単に、おかえりとただいまを。事件はまだ、終わっていない。

 

「あれ……ってか今『笑った』!?」

「おっとマジだ。『中』じゃめっちゃ動いてたから気付かなかった」

「何それ見たい」

「明日は筋肉痛だな。顔が」

【予測。言われなくとも確実かと判断できます】

 

 ざまぁ、と笑うはやてに、うっせ、と返すひなた。一方で自分はどうすればいいのかオロオロしてる銀髪の女性……リインフォースを見て二人は手を差し出す。

 

「行こか、リインフォース」

「なるほど。リインフォースか……良い名だ」

【同意。では参りましょう。この二人と二機で】

 

 おずおずと陶器のような白い手が伸ばされる。その手に、細い手と機械の手は応えた。

 

 

 

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 ナハトヴァールと管理人格(マスタープログラム)の分離に成功したはいいものの、切り離されたナハトヴァールが暴走の準備段階に入り、魔法の特性上、参加に必要不可欠ななのは、フェイト、聖刃、ユーノ、アルフ、カガミ、ブリッツ、クロノが集まっていた。

 

「再度確認が、本当に帰ってくるのか? このタイミングに」

 

 そう言うクロノの言葉に、聖刃は、多分、と返す。

 はぁ!? とクロノは驚くが聖刃は、だが、と言葉を遮る。

 

「帰ってくるのは確かだぜ。そういう奴等だし……ほら」

 

 聖刃の指差した先で、白光の柱が立つ。

 同時にその四方を、薄紫、ミントグリーン、青みが掛かった灰色、赤色の三角魔法陣……ベルカ式魔法陣が展開される。魔法陣から湧き上がる

 騎士甲冑姿のシグナム、シャマル、ザフィーラ、ヴィータだった。四方に向かい並び立つ四人の背……集まる四人の中央に白光は集中し、光る玉になる。それが罅割れ、中から現れたのは黒地金枠白線のノースリーブにタイトスカート、金色剣十字の杖『シュベルトクロイツ』と『闇の書』……否、“夜天の書”を携えた八神はやての姿があった。

 

 その背後、見覚えのある後姿に、全員が確信した。

 

 

 ――帰ってきたんだと。

 

 

「娑婆の空気は最高だァーーッ!」

『出所直後か!?』

 

 ひなたの帰還直後の言葉が“ヤの付く自由業”の出所直後みたいな反応に全員が思わず突っ込んでしまう。

 その反応に満足したのか、デバイスに包まれた左腕でサムズアップしている。それも『口角を上げて』だ。

 

「……え?」

「うそ……」

「おいおいおい……マジでか……」

 

 一瞬は幻覚かとも思った。しかし、今見た光景は一瞬でさえも目に焼き付いた。

 ――日野ひなたが、“笑った”のだ。口角を上げ、良くやったと言わんばかりの笑みを! 今ここで浮かべたのだッ!

 他の面子もそれぞれ似たような反応だ。無理もない……なのはや聖刃などの幼馴染組は久方ぶりに、フェイトなどの最近加わった者達にとっては初めて見る『ひなたの笑顔』なのだ。

 

「あはは、皆ぽかんしとるなぁ」

「まぁ、既に保存済みでファイナルアンサー」

パーフェクト(よーやった)

「感謝の極み」

 

 茶番もここまでに。はやてはシュベルトクロイツを、ひなたは右腕の拳を空に掲げる。

 これから行うは前代未聞の行為。机上の空論とされ、夜天の書の深層深くに埋もれた遺失未完技術(ノーエンド・ブラックアート)

 

 

「トライ――」

 

 ひなたが四肢の車輪を回し、

 

「ユニゾン――」

 

 はやてが杖を握る手に力を込め、

 

『――インッ!』

 

 リインフォースが四騎士と二人、そして自身のコアを繋ぎ合わせた。

 

 

 輝く輪郭のみの体をベースに、両手足の白い光が割れ、現れたガンメタルカラーの四肢のデバイスは黄金のラインが入り、左腕のナックルが“鉄槌”のような銀と真紅に染まる。

 右腕のナックルには緑色の糸が巻き付き、青と緑の菱形クリスタルが手の甲に嵌め込まれ、右足は紫炎を滾らせ薄紫の装甲になり、青みを帯びた白い棘が左足の装甲を覆い尽くて割れ、群青色の装甲になる。

 胸にブレストプレートが現れ、中央の赤い宝玉の中にベルカの紋章である剣十字が刻み込まれる。そこから白い光が剥がれ始め、リインフォースに似た銀髪のウェーブロングの女性が露わになる。

 白基調のショートジャケットに、黒いウエストマント、はやてが着ていた騎士甲冑である黒地金枠白線のノースリーブにタイトスカート。そして凛々しい顔立ちから開かれた瞳は二色……大空を表す蒼穹の青と、鋼鉄の如く固く力強い黒。

 チャクラムのように飛び回り、背中で動きを止めたのはシュベルトクロイツの先端――剣十字の輪だった。

 

 夜天の書の主であるはやての『蒐集』、ひなたの『魔力循環』、アルムバインの補助、リインフォースのアシスト……どれが欠けても完成しなかっただろう、超魔導技術……

 

 それが、『三身合一(トライユニゾン)』……遥か太古の古代ベルカに置いて、伝説の理論と皮肉され、埋もれていった技術の完成系である!

 

 

「さーて、今宵の最終楽章――始めるかね!」




・原作なのはvs今作暴走態の場合
詰みます。 詰みます(断言)

・初のAMF(アンチマギリンクフィールド)で思うように動けなくてイライラして思わずぽろっと言ってしまった時以来だろう。多分。
前なのは「チッ……クソみたいな場所だね」
局員「!?」

・フェイトの思考適性
ここまでスピード特化にしろと誰が言ったか。

・父親
予想ついた方もいるのかも。
因みにこの世界では『彼ら』は兄弟でした。
※感想で御指摘があったので説明。24話と名が違うのはある理由から偽名を名乗っていたこと。今回出た名前こそ本名なのです。

・対艦物理魔法:シュピラーレ・ランツェ
なのはwikiでは名前らしい名前が無かったので。
――尚、再登場予定。

・パワードサンダー
攻撃行動の速度ブースト、魔力刃の出力などを諸々上昇させる単純攻撃強化魔法。
ブラッドアーツとかそういうものとは、それっぽいけど無関係。

・命名式
リインは恐らく今作屈指の癒し枠(願望)

・スイカの名産地
憶えてる人いるかな……

・スクライア式縛闘(ばっとう)
【いんふぉ】NYに裏界発生予定確定

・N&F中距離殲滅コンビネーション空間攻撃『ブラスト・カラミティ』
内容諸々とかは独自解釈。原作の方に詳しい説明が在ったらいいな……

・お別れ
結論:挨拶は実際大事。

三身合一(トライユニゾン)
作者のやりたかったことの一つ。別に下駄とかは履かないしドリルも付かないし剣も持たない。拳と杖のような槍と魔法で蹂躙がお仕事。
※2015/07/01:目を赤から黒へ変更



 夜明けの時は来た。
 己が武器を掲げよ。
 全ては朝日を拝む(ハッピーエンドで終わらせる)ために。

次回、回転割砕の魔導右腕A's(ライトアーム・エィス)
第十五話「明日への魔法」

 この物語に、哀しみは不要。
 高らかに笑え。友と共に。


待て、而して希望せよ
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