ポケットモンスター虹~交差する歪み~   作:ザパンギ

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私は3連単を外したことがない。外れたレースはそもそもなかったことにする。

(チュウキョウ=ナカヤマ)


砂嵐を呼ぶ女

 フリックから見てどうにも警察組織というのは無慈悲な存在であるが、それらを束ねる長の立場にある者はもはや血肉を有していない何かに思えた。

 

 バラル団特別対策チーム室長のカネミツも、配属されたPGたちに指示を飛ばしているであろうデンゼルもそうだ。彼らは前線で体を張り続ける若者やポケモンたちをボタンひとつで届く用度品の類いだと信じ込んでいる。

 

 実に嘆かわしいことだった。

 

「貴方もそうは思いませんか」

「はい?」

 

 スタジアムを一望できる大会委員長特別室が今日の彼の城だ。モニターも設置されており全試合をオンタイムで観戦することができる。

 

 しかし全てが思い通りになる空間ではない。フリックの隣には席を勧めても頑なに座らない男がいる。

 

「ときにカネミツ室長。こんな場でお聞きするのも心苦しいが、室長は今回のバラル団の動きをどのようにお考えですか」

 

 そのような内に秘めたものをいちいち外に出していては市長は務まらない。行政を預かるとはそういうことだ。だからこのように話しかけることもする。

 

「どう、と一言で申し上げるのは難しいでしょうな。しかし一地方の秘密結社という枠に収まらない存在になってしまっているのは間違いない」

 

 まるでその質問を予想していたかのようにカネミツはそう言った。背筋もネクタイも、背広の裾に至るまでピンと伸びている。

 

「とするとなぜラフエルリーグを?」

 わざわざ警備を固めやすいリーグを狙うことに意味があるのか。フリックはカネミツに意見を求めた。

 

「そもそも犯行声明が本当であるという前提で話を進めますが、他地方でもリーグが襲われた例はあります。力を蓄えた悪がその脅威をアピールし、目的を果たそうという段階に移ったと捉えるべきでしょう」

 

 シャルムフリーダムマッチの一件もある。

 手の甲に浮かんだ筋から彼がこの事態を忌々しく感じていることは明白だった。

 

「バラル団は次の段階へ移行する、というわけですか。不吉な予言ですな」

 カネミツの推測はフリックにとって興味深いものだった。だからこそ気持ちを圧し殺してでも会話をする価値を見出だせる。

 

「もしくは」

 続きがあるようだ。

 

「彼らは歴史に選ばれようとしているのかもしれません。これまで悪事を働いてきた他地方の組織はその悉くが若く意志あるトレーナーによって破れ去ってきました。今回もバラル団に対し勇敢に立ち向かったトレーナーたちの報告を聞いていますがそれでも全体的にみればその勢いは留まることがない。だからこそ――」

 

 悪は悪であるからこそ挫かれる。カネミツはそう主張した。

 

「なるほど。そうなるとあなた方はリーグ開催を決定した私や協会幹部をさぞ恨んでいらっしゃることでしょう」

「いえ。ここがなければ別のどこかが、というそれだけの話です。来ると分かっているなら対策もできる。PGも全力を尽くしてくれています。我々には身を滅ぼそうとトレーナーたちの晴れの日を守る責務があります」

 

 バラル団を止めるためならどこまでも無慈悲になれる。彼はそういう男なのだ。

 

「その言葉に救われました。それなら私も安心してトレーナーたちを応援することにしましょう」

 

【予選Aリーグ、決勝進出者はヤシオ選手!】

【予選Bリーグ、決勝進出者はハイネ選手!】

 

 場内アナウンスが響いた。先に開始された予選の結果が出始めているようだ。

 

「どうです。決勝進出者が出揃ったら誰が優勝するか賭けでもしませんか? 大きくベットするのが私の流儀でしてね」

 

 カネミツがきっちり30度頭を下げた。

「すまないが私はこれで。警備については先ほどお話しさせていただいた通りですので」

 

 もう一度頭を下げ、カネミツは足早に部屋を出ていった。フリックが話を振らなければとうにそうしていたのだろう。

 

 一人きりになった。

 艶消しブラックの瞳は再びスタジアムへと落ちていく。

 

「歴史に選ばれる、か。面白いことを言う。そんなものに価値などないだろうに」

 

 開会式の時には晴れ渡っていた空が曇り始めていた。

 

 

 

 

 

 初日の全行程を終えて夕方。ヤシオは早めのディナーのためにスタジアムのフードコートに来ていた。

 トレーにはホットドッグが鎮座しているのだが、ヤシオはそれよりも通話を優先した。

 

「おっミオすけ? オレだよオレオレ。や、イズっちじゃなしに。今ラフエルリーグにいんのよ――そりゃあもう。予選はもうバッチシだ。ガーりやって勝ったからな。ここをホップとして次でステップてわけ。え? ストップしないように、ってウマイこと言うんじゃねぇよ。そんじゃあな。決勝トーナメントはよそでも中継するみたいだし応援してくんなね」

 

 相手の声は聞こえないがよく知った相手なのだろう。

 

 ポケギアのライブキャスターアプリを切った。そしてホットドッグにありったけのチリソースをぶちまける。そして大口をあけてかぶりつこうとしたその瞬間、見知った顔を認めた。

 

「シンジョウさーん! こっちこっち!」

 

 どうぞどうぞとヤシオは隣の席を勧めた。

 トレーの角度を一定に保ちゆっくりと歩いてきたシンジョウはヤシオのトレーを見て目を丸くした。

 

「相変わらず凄いものを食べてるな」

「大味こそ正義だんべ。それよりその糖分の暴力みたいなのは何ですか?」

「ヒメリパフェのホエルオーサイズだ」

「なんて?」

「ヒメリパフェのホエルオーサイズだ。大きい。うまい。以上だ」

 

 暫し沈黙の妖精が二人の間を飛び交った。

 賑わうフードコートの喧騒も初日の戦いを終えた二人には心地よい。

 

「お互い無事に予選を突破できてよかったな」

「そっすね。オレ途中からですけど試合見てましたよ。タイプ相性の悪い相手なのにあっさりひっくり返しちゃって」

「かえってそういう相手の方が慣れているんだ」

「えっぐいなぁ」

 

 ジムリーダーとしての経験の賜物ということらしい。

 

「そっちはどうだったんだ? 正直そんなに心配はしていなかったが」

「いやあ、強かったですよ。決勝トーナメントで当たってもいいくらいの相手でした」

 

 自分の強さを誇るでもなく、かといって卑下することもない。どこか通じ合うところがあった。

 

 ここでヤシオは何かに気がついた。

「そういやアルナは? 一緒じゃないんけ?」

「このタイミングでか」

 

 砂漠で自らを発掘してくれた恩人のことを忘れるはずがない。もっともこの場に本人がいたら『こないだ名前を忘れてただろーが!』と言うだろう。

 

「アルナはあの後別の調査に行くとかで出かけていった。『リーグは絶対応援に行く! 二人とも全勝してね!』と言っていたんだが予定より難航しているんだろうな」

「無駄に声真似上手いっすね……っていうかさらっと物理的に不可能なことを要求してきたな」

 

 ヤシオは知り得ないことだが、アルナにもバラル団とのちょっとした因縁ができてしまっている。しかし彼女の旅路についてシンジョウは心配していなかった。

 

「他の予選で凄そうな人いました?」

「目の届く範囲だと隣のリーグにいたパンデュールだな。あのガブリアスは相当厄介だ」

「うわぁガブリアスけ」

 

 トレーナーが揃えばバトル談義に花が咲く。ヤシオもシンジョウも予選の戦いや他のトレーナーについて熱く語り合っていた。

 

 そしてトレーナーが揃えばさらにトレーナーが引き寄せられる。 

 

「あらあら。聞き覚えのある声がするかと思ったらこないだの二サス男にイリスの友達じゃないの」

「おっ! タカビーだけどめちゃくちゃ強いミントさん!」

 

  特に席を勧められたわけではないがミントはのっしのっしとこちらへ来てヤシオとシンジョウの対面にどっかりと腰をおろした。いつの時代も遠慮や奥ゆかしさといったものから解き放たれた者は強い。

 

「タカビーってなによ。それはもうめちゃくちゃ神憑り的に強い勝負の女神の化身というのは認めるけど」

「いやそこまでは言ってねぇべ。あと神を重ねがけすんなし」

 

 スルーしてパフェと格闘していたシンジョウだったが諦めて闖入者に目をやった。

 

「ミントも相変わらずだな」

「もちろん。私の強さは永久不変よ」

「そういうことじゃないんだがまあいいか」

 

「あんれそっちもお知り合いで?」

 

 聞けば共通の知人を通して付き合いがあったとのこと。ヤシオは世間の狭さとチリソースの旨味を感じた。

 

 そしてそんな男二人の乱れた食生活を見逃すミントではない。

「二人とも食生活がなってない。その真っ赤な塊と糖分の交響楽団はなに!? 私を見てみなさい。このバランスの取れた食事! 最強は体の内側からも作れるの!」

 

 尊大なだけではないストイックさも彼女の魅力なのかもしれない。

 

「サンキューオカン」

「ありがとうオカン」

「オカン言うな!」

 

 バランスの取れた食事は人を饒舌にするようで、火がついたミントは自分の優勝について既に確定したかのように語りだした。さらに過去の大会の思い出話を挟むものだから止まらない。

 

「どうよ?」

 ひとしきり捲し立ててどん、と胸を張った。彼女のライバルもよくやる仕草だ。

 

「やっぱミントさんはすげぇ。あんだけベラベラ話してて一回も噛まねぇんだもん」

「そこ!?」

「そういやキャモメーズがエテベリア選手を獲得してましたけどどうみますか」

「私に聞かないで!?」

 

 シンジョウがスプーンを休ませた。

 

「まあ話は長いがミントの強さは本物だ。鍛えあげられたポケモンたちと個々の長所を活かした的確な戦術は新人トレーナーたちのいい見本だと俺は思ってる」

「うんうん。たしかにあのサンダース強かったもんなぁ。電気タイプの王道ってかんじ」

「そう! そういうのもっとちょうだい!」

 

 褒めて褒めて地獄に福音が鳴り響いた。

【お待たせいたしました! 決勝トーナメントの組み合わせを発表いたします!】

 アナウンスが流れた。そして各テーブルに設置されたモニターに決勝進出者十六人の名前が横一列に表示された。

 

【組み合わせは抽選ソフトにより厳正に行われます】

 

「このノリ、町内会のビンゴ大会を思い出しますね」

「なんか冷めるからやめなさいよ」

 ヤシオとミントが小声で言い合う。

 

【それではご覧ください!】

 

 予選リーグ順に並んでいた名前がシャッフルされる。そして並びが変わったところでトーナメント表として浮かび上がった。

 

【ご覧の組み合わせで決勝トーナメントを行います! 試合は明後日から行います。出場選手の皆さん、今日はゆっくり休んでトーナメントに備えてください】

 

 再びフードコートが賑やかになった。決勝トーナメントに出場する者もそうでない者も組み合わせに興味がないはずがない。

 

「席替えみたいでドキドキしますね」

「なんか冷めるからやめなさいよ。えっと、私は第一試合。相手は――誰でもいいか。勝つんだから」

「俺は第五試合だ。ミントとは別の山だな」

「オレは第八、って最後じゃんか。うわぁ、対戦相手のジュリオって人予選をこんな短時間で片付けてるんかよ」

 

 とはいえ予選が最初だっただけに最後の試合というのは少し拍子抜けではあった。

 

「またお預けになったが準決勝で勝負だ。ヤシオ」

「燃えてきたなぁ。試合できるのを楽しみにしてます」

 

 大きなパフェ(シンジョウ)真っ赤なホットドッグ(ヤシオ)火花(カロリー)を散らす。

 

「けっこうけっこう。勝った方が決勝で私にボッコボコにされる権利を得られるのよ」

 ここまでくるとミントの操縦法も分かってくる。経験に学ぶものは多い。

 

「じゃあ初戦の相手の情報収集と調整があるので俺はこれで失礼する」

「そっすね。オレも宿舎に戻ります。お二人ともちっと早いけどおやすみなさい」

「ちょっと!?」

 

 いつの間にかそれぞれ完食しシンジョウとヤシオは帰っていく。

 

「もう行っちゃうの。まだ話は終わってないのに」

 一瞬のうちに二人の背中は遥か遠くへ。これは諦めるしかない。さすがのミントも話し相手がいなくなってしまったことに意気消沈してしまった。

 

「ここいいかな」

 しかし救いはあった。

 

「もちろんオッケー! 座って座って」

 

「悪いな。他の席はみんな知り合い同士で座ってるからなんか入りづらくて」

 目の前にトレーを置いて一人の男が腰かけた。年の頃は先ほどの二人と同じくらいに見える。その手の道に明るいとはいえないミントでも彼の服の下の鍛えあげられた肉体を感じ取った。

 

(まあ人間が戦うわけじゃないけど)

 

 黙って食事を始めた男だったが不意に顔をあげた。

「あんた、ミントだろ?」

「有名人は辛いわね! サインしてあげようか?」

 

 男の目付きが鋭くなった。

 

「さっきここに座っていたのがヤシオで合ってるか?」

「え、そうだけど」

 

 ヤシオのサインを欲しがるとは物好きを通り越して変人や変態の域だ。しかしラフエルは多様性を受け入れる場所。あえて何も言わなかった。

 

「そうか……あれが……楽しみだ」

「もしかしてあんた」

 

「ジュリオだ。明後日の試合俺はあいつに勝つ」

 

 

 

 

 

 時間は少し遡り、テルス山。この場所を久しぶりに訪れる者がいた。

 サンバイザーにタンクトップ、膝丈のズボンと動きやすさを重視したまさに探検に特化したお馴染みのファッション。

 

「原点回帰!」

 アルナがテルス山に帰ってきた。しかし今回の目的は砂漠ではない。

 

 6匹のポケモンたちをフルオープンにしてともに歩いていることからも普段とは違うものが窺える。

 

「このあたりかな」

 地面に触れて土の柔らかさを確認した。帳面にメモを取り、端末にもデータを送信しておく。

 

「湿性砂質未熟土ちょい粗め。ここなら掘りやすいかな。ワルビルおねがいね」

 ワルビルの首に小型カメラを取り付ける。こうなると慣れたもので、ワルビルはこくりと頷いて地中へ消えていった。

 

 ルシエでヤシオのジム戦を見届けた後アルナは再びラフエルの遺跡を巡る旅をしていた。

 砂漠マニアであると同時に考古学の徒である彼女には過去からのメッセージを受けとることが現代を生きる者の使命であるという考えがあるのだが、それ以外にも調査を進めなければならない理由があった。

 

「やっぱりラフエルで何かが起ころうとしてる。悪い奴らっていつもそう。こういう時だけ昔の人を頼ろうとしちゃって。ねぇ?」

 

 地上待機の5匹ともそうだそうだとでも言いたげにアルナに同調した。

 

 あの後訪れたラフエルの遺跡の全てでバラル団もしくはその痕跡に遭遇した。その度に撃退したりPGに通報したりと善良な市民として振る舞ってきたアルナだったが、それは彼女の愛する過去の遺産が侵されつつあることを意味していた。

 

「あの日、ここにもバラル団がいた。何かやる前に逃げちゃったしその後PGの捜査も入ったはずだけど今はほったらかし。だったら今回はあたしがなんとかする! えいえいおー!」 

 

 自分一人でどうにかなる相手だとは思っていないができることはやっておきたいと思う正義感は持ち合わせていた。

 

 ワルビルが戻ってきた。カメラ映像を確認する。読みが当たっていたようだ。

「ありがと。そんじゃ行きますか」

 

 アルナはヘッドライトを装着し、ポケモンたちをボールに戻してからワルビルが大きめに掘った穴に飛び込んでいった。

 

 嫌な予感ほどよく当たる。

 

「やっぱりそうだ。山の地下にしては不自然に歩きやすい。誰かが大掛かりにここを掘ってる」

 

 本来地中というより砂と土に埋もれた洞窟のような場所というイメージで、当然整備などされていないため入ることはできてもこのようにスムーズに動くことはできない。

 

 壁面や足元を観察する。一般人なら見落としているわずかな痕跡もその目は見逃さない。

 

(見っけ)

 

 爪のようなもので掘った跡があった。誤魔化そうとカモフラージュされているがその部分だけ下の層が薄く見えている。

 

(かなり新しい。この先にまだいる可能性が高いね)

 

 足音を消して慎重に進む。どちらへ行くべきかは点々と続く痕跡と蓄えた地学の知識が教えてくれる。

 

 行き当たるのにさほど時間はかからなかった。開けた空間の手前でアルナは足を止め物陰に隠れた。中から漏れてくる明かりが緊張を掻き立てた。もちろんその光源は人工のものだ。

 

 そっと覗くと柄の悪い男が二人何やら作業をしている。スキンヘッドとモヒカンが妙に似合っていた。

 

「それにしてもよ、バラル団の連中も好き勝手してくれるよなぁ!」

 

 スキンヘッドが大声を張り上げた。アルナは慌てて耳を塞いだ。

 

「まったくだ。俺らの名前で予告を出すだけならまだしも出すだけ出して何もしないってのはいただけねぇよ。こっちだって信用商売なんだからな」

 

 スキンヘッドもモヒカンも口ぶりからしてバラル団ではないようだが堅気の者でないことも明らかだった。

 

 それにしてもよく喋る。静かな空間に二人なのでそうでもしないともたないのだろう。

 

「依頼でもないことをやるのは屈辱だがそれでもバラルの天下よりはマシだってのがリーダーのお考えだ。分かりやすくて助かるぜ。今ごろはもうリーグに向かってるだろうから俺らもここでやることやってさっさとリーダーたちに合流しようぜ」

 

 心拍数が跳ね上がった。

 バラル団以外にもリーグを狙う存在があって、そのトップが直々に出ようとしている。

 

 早鐘を打つ胸を押さえつける。そして脳内に選択肢を並べ結論を出した。

 

(やるしかない!)

 その行動に明確な理由はなかったがだからこそそれが理由だった。

 

「おいこら! ここは悪巧みをする場所じゃないぞ! 見た目通り悪そうな奴ら、とっとと自首しろー!」

 

 男たちは一瞬ぎょっとしたが、すぐに下卑た笑みを浮かべた。

 

「退屈な仕事かと思ったら神様も粋なことをするじゃねぇか」

「まあ連れ帰るとしてだ。ここは俺が先に味見をしてやる」

 

 彼らの狙いがその若い肢体にあることを悟ったアルナだがここは冷静に動いた。

 

「もっかい言う。あんたらがここで悪いことをしようとしているならあたしが許さない」

 

「そりゃおっかねぇ。是非とも許してもらいたいところだなぁ」

「そうだな。なんならそっちが許して~って泣いてもいいんだぜ?」

 

 男たちはガマガルとアイアントを繰り出した。やる気のようだ。閉じた空間、逃げ場はない。

 

「イシズマイおねがい!」

 アルナはイシズマイで迎え撃つ構えだ。

 

 男たちはまた笑い出した。

「ププッ、おい見たかイシズマイだってよ。ガマガル、『ハイドロポンプ』!」

「アイアント、『アイアンヘッド』だ!」

 

「『てっぺき』!」

 イシズマイは殻の硬度を高め『アイアンヘッド』を防いだ。元から高い防御力がさらに高まっているためまさに鉄壁の守りといえる。

 

 アイアントは怯んだが今度はガマガルが前に出た。

「バーカ! 一番痛い『ハイドロポンプ』は防げねぇぞ!」

「そうかな?」

 

 スキンヘッドには強力な水流がイシズマイを飲み込むビジョンが見えていたがそうはならなかった。

 

「なに!?」

 

 イシズマイにヒットする直前で水流が大きく逸れていった。そして別のところに命中する。

 その理由が水飛沫をあげて登場した。

 

「水分補給バッチリ! マラカッチ、『エナジーボール』!」

「『よびみず』か! ガマガル、『ようかいえき』!」

 

 特攻が上昇していれば打ち負けることはない。渾身の『エナジーボール』がガマガルを一撃でノックアウトした。

 

「調子に乗るなよ! 『シザークロス』」

「『がんせきほう』」

 

 マラカッチを狙ったアイアントも岩タイプ最高火力に沈んだ。

 

「どーだ参ったか!」

 予想外の反撃に男たちは揃って尻餅をついた。

 

「参った。降参だ」

「とても敵わねぇ」

 

 俺達では。

 そう呟くと同時にアルナの背後に何かが猛スピードで迫った。

 

「『ニードルガード』」

 アルナの窮地を何度も救ってきたマラカッチの得意技が攻撃を弾き返した。

 

「今のを防ぐとは。誰だか知らんが喧嘩を売ってくるだけのことはあるじゃねぇか」

 アルナが隠れていた反対側から男がもう一人現れた。金の首飾りをじゃらつかせた目つきの悪い小男だ。

 

「先輩!」

「これもう勝ったわ!」

 敗北したにも関わらず二人とも威勢がいい。

 

「ガマガルもアイアントも『あなをほる』ポケモンだけど手や足にその跡がなかった。つまり穴堀りをするポケモンともしかしたらそのトレーナーがいるって思ってたんだ」

「素晴らしい洞察力だ。気に入った。そんなトレーナーを慰み者にしようとはお前たち、迂闊だったんじゃねぇか?」

 

「へぇ……」

「返す言葉もねぇ」

 

「まあ関係ないことだ。『ドリルライナー』」

 

 先ほどは目で追えなかったが今回は見えた。トゲの塊がまっすぐに突っ込んでくる。

 

「イシズマイ、『てっぺき』!」

 

 火花が散った。

 くるくると回転しながら降り立ったのはサンドパン。

 

「あの爪の跡。やっぱり!」

「おっと、誰が一発って言ったよ?」

 

 『ドリルライナー』のおかわりがイシズマイを弾き飛ばした。さすがにこれは予測ができなかった。

 

 サンドパンの隣にもう1匹が並び立つ。こちらも鋭い爪を武器とするポケモンだ。

 

「ドリュウズ!?」

「そうだ。こいつらを組ませれりゃシンプルに強い。ガキでも分かるカンタンな理屈だ。ドリュウズ『すなあらし』!」

 

 途端に砂嵐が吹き荒れた。地上と違い抜けていく場所がないため、視界もほぼ効かずいつもより激しくトレーナーとポケモンを襲う。

 

「マラカッチ戻って。ノクタスお願い!」

「砂を食らうマラカッチを下げるか。妥当な判断だ。サンドパンやれ!」

 

 サンドパンはその鋭い爪をイシズマイに向けた。

 

「『シザークロス』!」

 

 爪と鋏の応酬はリーチの差でサンドパンに分があった。さらにイシズマイの攻撃がサンドパンを捉えきれていない。

 

「『すながくれ』。便利な特性だよなぁ?」

「くっ」

 

 馴染みの深いものにやられる展開は辛い。

 

「おっとこっちがお留守だ。『アイアンヘッド』」

「ノクタス!」

 

 ドリュウズの技は先ほどのアイアントと比べ物にならないほどの威力があった。なんとか視認できるくらいの砂嵐の中、その緑の体がすっ飛んでいった。

 

「どうしたどうした! 『ブレイククロー』!」

 サンドパンの爪が連続でイシズマイを捉えるたびにダメージが増していく。

 

「『てっぺき』だかなんだか知らんが今のイシズマイは豆腐より脆い。次のポケモンを出そうがこっちの砂嵐ゴールデンコンビは破れねぇぜ?」

 

「さっすが先輩!」

「やっちまえー!」

 

 ギャラリーと化した三下たちも有利を察して楽しそうに声援を送る。

 

「砂嵐ゴールデンコンビか。悪者のくせにいいことを考えるね」

「はぁ?」

「それならこっちは砂嵐ゴールデンチーム! 天然物の砂嵐に打たれてきたキャリアが違うんだ!」

 

「自棄でもおこしたか? こっちのポケモンはまともに攻撃を食らってない。もうお前は負けてんだよ」

 

「そうだそうだ!」

「先輩ニヒルでかっこいいですぜ!」

 

「やれ」

 ドリュウズとサンドパンが今度はアルナを直接狙った。

 直ぐにでも逃げなければ危ない場面だが、アルナはその場に仁王立ちしている。

 

「ダブルで『ドリルライナー』!」

「……あたしの勝ちだ! 『がむしゃら』!」

 

 サンドパンとドリュウズが地面に叩きつけられた。たった一度の攻撃で2匹とも大ダメージを受けたようだ。

 

「クソッ、イシズマイはボロボロのはず。新手を出しやがったのか!」

「違うんだなぁこれが」

 

 砂嵐が晴れた。アルナの前に立っていたのは。

 

「マラカッチだと!? いつの間にまた出した!? お前はあの後ボールに手をやらなかったはずだ!」

 

「悪者の癖に変なところで素直なんだね。あたしはマラカッチを引っ込めてない。ノクタスはフェイク。だいたいあんた、ノクタスがいるのをちゃんと見たの?」

 

 言われてみれば男は激しい砂嵐で相手のポケモンを輪郭と色で判断していた。

 

「マラカッチだからなんだってんだ! サンドパン『きりさく』だ!」

 

「『がんせきほう』」

 サンドパンは岩の塊をぶつけられて倒れた。

 

「まだだ! ドリュウズ『つのドリル』!」

 

 アルナとマラカッチとで目が合った。両者頷く。

「できるもんなら避けてみな! マラカッチ、『ニードルアーム』!」

 

 金属質な打撃音で勝負に幕が降りた。

 

「先輩が」

「嘘だろ先輩」

 

「……こんなことがあっていいわけがねぇ。俺が負けるなんてことはねぇんだよ!」

 男は上着の胸ポケットから何かを取り出した。小型の装置のようだ。

 

「このオモチャを預かっておいてよかった。俺がこれを押せば天井が崩れてお前ら皆生き埋めだ」

 

 二時間サスペンスでよく見る爆弾の起爆装置だ。作るのにはさほど難しい技術はいらないとテレビでとりあげられていたが、アルナも本物を見るのは初めてだった。

 

「先輩!?」

「それはまずいですよ!」

 

「るせぇ! 元はといえばお前らがこいつの侵入を許したのが悪いんだ!」

 

 説得しようにも今しがた勝負で打ち負かした相手をどうにかできる文句の用意はなかったし、取り押さえようとしてもその前にボタンを押されてしまうだろう。

 

「こういうのは躊躇なくやるに限る。地獄でまた会あらららら」

 

 装置が男の手を離れて宙に浮いた。

 さらに不幸は続く。男三人の体にロープのような糸が巻きつきそのまま捕縛してしまった。

 

 面食らうアルナの元に女性が駆け寄った。そして先ほどの装置の配線を切り、鞄にしまった。

「よかった。間に合ったみたいね」

 

 事態が飲み込めなかった。

 

「えーっと?」

「私はラフエルオフィスサービスのミヅ、いやホヅミといいます。暴獣構成員の逮捕へのご協力、感謝します」

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