(カワツル=イタヤ)
その日の試合を終えたヤシオは会場近くのバーで食事をしていた。
壁に埋め込まれたテレビは彼が楽しみにしていたラフエルの報道番組の時間となった。
若手アナウンサーがスタジアム内の特設スタジオから呼び掛ける。
「ここからは現在開催中のラフエルリーグのコーナーです。今夜も素敵なゲストが熱戦を解説してくれますよ! 今日担当してくださるのは熱いキャラクターでお馴染み、ダンデ・ローズさんです!」
「やぁどうも! ダンデ・ローズだ! 現地に呼んでくれるとはありがたいかぎりだ!」
がっしりとした体つきの中年男性が登場した。一言二言くらいで血管が切れそうなくらいのテンション。ラフエルでは有名人らしい。
「やはり予選を突破したトレーナーの皆さんには鬼気迫るものがありましたね」
「そうだな! 目的はそれぞれ違うにしても、リーグに出るからには勝ちたい! 1番高い場所に立ちたい! それがトレーナーの性だ!」
「ではさっそくまいりましょう。Vのフリをお願いします」
「任された! ポケバトゥゥゥゥレディィィィィゴォォォォォ!」
画面が切り替わりミントの顔写真が表示された。
「やはり話題となったのはミント選手の試合ですね」
「うむ! 彼女はとにかく強い! わしの見立てでは対戦相手のロウ選手も綿密な作戦のもと臨んでいたが、それでも押しきれなかったな!」
また画面が切り替わった。
「ここを見てほしい! ミント選手のギャロップがロウ選手のオーダイルに攻め込まれている……ように見えるが! ギャロップは攻撃をあえて受けながら敵に狙いを定めている! そしてドン!」
ギャロップが『つのドリル』でオーダイルをねじ伏せた。スタジアムが一瞬静まり、そして爆発のような歓声があがった。
「とかく一撃必殺は当てるのが難しい! 10回やって3回当たれば上出来ってとこだろうな!」
「ではなぜミント選手は『つのドリル』を? 一部メディアでは圧勝を確信したためなんて声もあるみたいですが」
「それは違う! むしろ逆だ逆! まずは相性だ! もちろん交代してもいいがそれだと後続に負担をかけてしまう! あとは他の選手に一撃必殺を戦略としてちらつかせる狙いもあっただろう!」
「次はシンジョウ選手の試合だ! 炎タイプのエキスパートである彼に対抗するなら水・地面・岩といった相性を突いた攻撃が有効だし、実際パリッシュ選手もそう考えていたのだろう!」
「しかしシンジョウ選手の試合運びは危なげなかったという印象ですね」
「いわゆるタイプ統一パの妙だ! 相手は当然相性のよいポケモンを固めて攻めてくる! それは脅威ではあるが逆に考えれば『相手の思惑が読める』ということだ! あとはそこをケアできれば統一パが脆いなどということはない!」
「なるほど。メンバーの選出から戦いが始まっているんですね」
「次はわしの知り合いでもあるコウヨウ選手だ! 実は彼女はあるバトル施設の元締めなんだが、日々たくさんのトレーナーを見ているもんでよく情報交換をしているんだ!」
「なるほど。ダンデ・ローズさんはポケモンバトルのトレンドの研究でも有名ですものね。情報網を他地方にも張り巡らせていると」
「わはは! 彼女の試合の特徴は勝ちパターンの多さだ! 経験に由来する引き出しの多さが武器でどんな状況からでも豪快に攻めていけるのが強みだな!」
映像が切り替わった。メガシンカしたフシギバナがスワンナを『やどりぎのタネ』で絡め取っている。『エアスラッシュ』による反撃を受けてはいるがまるで意に介していない。
「これは彼女が得意とする持久戦だ! この少し前に放った『はっぱカッター』に『やどりぎのタネ』を紛れ込ませることで作戦を気取られないようにするという戦術だ! この映像だと飛行タイプの技を食らってはいるが、フシギバナは体力を回復する手段を豊富に持っている! それにタフに鍛えられてる!」
「なるほど……」
「それだけではない! 火力でゴリ押したりスピード勝負を仕掛けたりもできる! 破天荒というほかない!」
映像が切り替わる。コウヨウの他のポケモンたちも対戦相手に同情するレベルで大いに暴れていた。
「様々な組み立てができる柔軟性がコウヨウ選手の武器というわけですね」
「うむ! この後の試合も楽しみだな!」
「それにしても今日は一段とテンションが高いようですが」
「そりゃそうだ! ここには強いトレーナーがたくさんいる! わしの考えとしてポケモンと同じくらいトレーナーも強くならなければいけない! その手段は色々あるがわしの道場で体を鍛えるのがいちばん! 何かあった時に備えて強い体と心を育むのだ! そしてわしの道場ならそれができる! 見学も体験も年中無休で受け付けているぞ! 画面の下に表示されている番号にすぐ電話だ!」
「生放送なので番号は出ませんがありがとうございました。他に気になった試合はありましたか?」
「うむ! そしてもうひとつ紹介したいのはヤシオ選手とジュリオ選手の試合だ! 接戦をなんとかものにした形ではあるが特にわしが注目したのは」
「すみませんここでお時間です。スタジオにお返ししまーす」
「あぁん」
ヤシオはがっくりとうなだれてグラスになみなみと注がれたボーリック・ナイトを飲み干した。
「まーたオレんとこはカットかい。プロフェッショナルも再放送されねぇしついてねぇべ。どーせオレなんてカットの申し子なんだ。カット太郎なんだい」
そんなヤシオの肩を叩く者があった。
「まあまあ。次の試合で目立てばいいじゃない?」
このようなバーに似つかわしい赤を凌駕する燃えるような紅髪の女性だった。
しかしムーディーな雰囲気にならない理由がある。ヤシオがちょうど今見ていた人物だったのだ。
「あんら。あーたコウヨウさん?」
「ご名答! 君はヤシオくんだよね。こっちで一緒に飲まない?」
「せっかくだしそうすっぺや」
コウヨウのテーブル席には先客がいた。
「オトギリくん、ヤシオくんを連れてきたよ」
「あぁ……」
「ども。オレヤシオっていいます」
「オトギリだ……」
どうにもこのオトギリ、元気がない。
「ごめんね。オトギリくんも準々決勝進出者なのにさっきのリーグ特集で名前を出してもらえなかったからいじけちゃったの」
「俺はいじけてなんかない……」
「なるほど。オトギリさん、そんなことで悩んだってしょうがないですよ。生きていれば大変なことだってたくさんあるべ?」
先ほどまで同じことでいじけていた者の台詞とは思えない。
「オトギリくんの次の相手はミントちゃんでしょ? 優勝候補に勝ったらオトギリくんで1コーナー作れちゃう勢いなんじゃない?」
「それもそうだな。ほら、コウヨウさん。たんと飲んでくれ」
「立ち直りはっや」
オトギリが復活しコウヨウのジョッキを口切りいっぱいまで満たしていく。
「ぷっはぁ! そうだそうだ、若人よ元気であれ! 私も四捨五入すれば若人! 次の試合ラガルドさんに絶対勝ーつ!」
ラガルドは確かな実力をもつプロトレーナーとして有名な人物だ。そちらも激しい勝負になるだろう。
「ヤシオさん、といったか。次の相手は?」
「パンデュールだ。今から楽しみでしょうがねぇ」
「パンデュールくんか。試合を見てたんだけどあの子も凄いよね。執念で戦ってるっていうのかな、他の人たちとはちょっと違う雰囲気があるのよね」
「そうだいね」
「でもあの子はよく分からないんだよね。私、決勝トーナメントに出てる人みんなと仲良くなろうとしてるんだけど、パンデュールくんは話しかけようとしたらすすーっといなくなっちゃって」
「きっとシャイなんだろうな」
オトギリは自分の言葉を噛み締めるように頷いたがヤシオは別のことを考えていた。
その日眠りにつくまで。
「しゃあ! やんべ!」
日がやや傾いた昼下がり、最終調整を終えたヤシオは足取り軽く準々決勝に向かおうとしていた。
周囲に人影はない。この時間は誰もが観客席か関連施設のライブビューイングで観戦をしているのだ。
しかし例外もいた。
暗がりから現れた人相の悪いスキンヘッドの男がヤシオに話しかけた。
「おい。メインスタジアムはどっちだ?」
「あっちですよ。これからオレが試合すっから応援してくれっと嬉しいです」
迷子対策にとシンジョウとミント、さらには初戦終了後のジュリオからもメインスタジアムまでの道のりを繰り返し叩き込まれていた。
そしてヤシオ自身は気がついていないが服のポケットというポケットに地図のメモを入れられ、万全の体制が整っていた。
「そうか。じゃあそうするか」
その手のことには疎いヤシオですら分かる筋肉量に内心驚いたが、テスケーノ然り厳つい見た目であっても勝負を愛する者に悪人はいないというのが彼の信念だった。
「そんじゃ行きますか。オレは選手通用口つーとこから入るんで途中まで案内しますよ」
「それには及ばないな」
ヤシオの足下が崩れ、何かが飛び出してきた。
「うぉい!? なにすんだ!」
大顎がヤシオを掠めた。咄嗟にボールから飛び出したハッサムが彼を突き飛ばしていなかったら胴と脚が泣き別れしていたことだろう。
「仕留めにいったんだが。そいつに感謝するんだな」
「サンキューハッサム。ったく、試合前なのについてねぇべ」
大顎の主、いかくポケモンのワルビアルがこちらを睨み付けている。その巨体に似合わず地中を猛スピードで移動するポケモンだ。
もちろん野生の個体ではないことは明らかだ。
さすがのヤシオも状況を把握した。目の前の男は悪意をもってワルビアルに自分を襲わせている。理由に心当たりはないが敵であることは間違いない。
「『かみくだく』!」
「『バレットパンチ』!」
試合に向けて調整を済ませていた鋏であれば大顎とも十分にやりあうことができる。
ワルビアルは深追いせず、後退した。
「今のでなんとなく分かっただろ? 言葉より行動で示すってのが俺の主義でな」
「わけわかんねぇよ。あんたなにもんだ?」
「オレはアバリス。『暴獣』のトップだ。こうして直接名乗ってやることは二度とない。覚えておいて損はないぞ」
「オレはヤシオ。何度でも名乗ってやるがトレーナーのトップ志望だ」
「ほう。お前も自分のペースを崩さねぇってか。いいねぇ、そういう奴のほうが潰しがいがあるってもんだ!」
それに呼応するかのようにワルビアルが動いた。今度はヤシオたちにも構えがあった。
「ハッサム、『いわくだき』!」
「穴に飛び込め!」
攻撃をかわしてワルビアルは先ほど飛び出してきた穴に身を潜めた。
「どこから出てくるか分かんねぇべ! 足下に気をつけろ!」
「ほう、素直なんだな」
なんと、飛び込んだ穴からそのままワルビアルが飛び出してきた。そしてハッサムの胴に噛みついた。
人間には計り知れない痛みに見舞われハッサムは身をよじらせて苦しんでいる。
「その顎はやべぇぞ!」
「それだけじゃねぇ」
突然ハッサムの体が燃え上がった。
「『ほのおのキバ』か! 頑張れハッサム、『いわくだき』だ!」
力が完全に入らないながらも両腕の鋏からの『いわくだき』がワルビアルを強かに打った。
これにはたまらず牙の拘束が解かれ、互いに敵のリーチから逃れる格好となった。
スタジアムに向かうこの平坦な道。しかし地中というフィールドを活かせるのがワルビアルだ。
4倍の弱点を突かれたのと同時に弱点を突いた攻撃を連続で当てることができたが、先制され本来の威力を出せなかった分どちらが有利かは歴然だった。
「『じしん』!」
アーボックがサンダースに仕掛けようとして阻止された時の記憶がまだ新しい。
「させるな、押さえるんだ!」
ここはミント戦の経験が活きた。ハッサムは鋏で体を押さえつけて上下の体重移動を封じる。しかしそれはワルビアルのリーチに入ることを意味した。
再びワルビアルの大顎がハッサムを掠めた。
「『バレットパンチ』!」
完璧なタイミングで技を放ったがワルビアルはヤシオたちの予想以上に俊敏に動き、鋏を踏みつけた。
「『いわくだき』!」
「甘いな」
空いているほうの鋏は両腕で抱え込む。攻撃の手段を絶とうというのだ。
「『ほのおのキバ』!」
これも大ダメージとなった。
「炎への弱さがハッサムの泣き所ってのはガキでも知ってる。甘かったな」
「オレにとってはおっさんのがよっぽど甘ぇ。糖尿に気をつけたほうがいいがね」
「負け惜しみを、なっ……? どうした!?」
ワルビアルが地面に足をとられて動けなくなっていた。否、足下の砂が渦を巻いてワルビアルを引き込んでいる。
「『すなじごく』だと!?」
「そう。こっちに来てから砂漠のエキスパートと知り合ったんだけどもな。道案内のついでに色々レクチャーしてもらってたんだ」
威力は低いがバインド効果のある技だ。すぐに抜けることは難しい。
「そのまま『むしくい』!」
本来ハッサムの顎の力など知れている。しかしこの場では非常に有効な攻撃だった。
相当効いたようでワルビアルは膝をついた。
「テクニシャンか。ご丁寧なこった。ワルビアル、立て!」
意地を見せなんとか起き上がり『すなじごく』から脱した。
「まあいい。こうなったら力比べだ。ワルビアル『かみくだく』!」
「こっちも決めにいぐぞ! 『ばかぢから』」
両者がぶつかろうとした瞬間、突如として地面から光が溢れた。渦を巻くそれはアバリスとワルビアルを包みこみ虹色に輝いた。
ホヅミから聞いていたし、何よりヤシオにとっては忘れられるはずもないものだった。
「Reオーラ! 峡谷でクロックがやったアレか!」
「お前も知っているのか。俺にも経験がある。そういえばあの男はキセキシンカがどうとか言っていたな」
もはやアバリスの言葉はヤシオに届いていない。
ヤシオは無我夢中で光に向かって手を伸ばしたが、その手に輝きが呼応することはなかった。
「滑稽だな。お前は選ばれなかったんだ。正しい心を持ったトレーナーが聞いてあきれるぜ」
ワルビアルが真っ直ぐに突っ込んでくる。その能力が大幅に上昇していることはもはや疑いようがない。
「『ばかぢから』!」
全身の力を集中しようとしたハッサムだったが動き出すことができなかった。
ポケモンはトレーナーと呼吸を合わせて戦っている。それは指示を出す側と受ける側といった単純な問題ではなく、両者の意思の疎通が様々な方法でなされることで互いの良さを引き出し合うということに他ならない。
ハッサムはその呼吸の乱れを感じ振り向いた。そしてそのまま固まってしまう。
無理もないことではあるが彼らはReオーラが人間に与える作用について無意識のうちにその可能性を排除していた。
ヤシオの腹にいつの間にか肉薄したアバリスの拳がめり込んでいた。
「おっ……何すんだ……」
最後の食事からしばらく経っていたが、それでもヤシオは口内が酸っぱい何かで満ちていくのをぼんやりと感じた。
トレーナーはただポケモンに指示を出すだけの存在ではない。ポケモンとともに戦う存在だ。
この言説は間違っていないが、だからといって腕まくりをして自分のポケモンに加勢しようとする者はいないだろう。人が鍛えたところで上限は知れているし、それを超えようと鍛えるのであればその時間をポケモンとの特訓に割くのが普通だ。
ポケモンにトレーナーを襲わせようとする連中と向き合わなければならないPGであればその限りではないが、それでもポケモンを戦わせながら自分も相手トレーナーを攻撃しようとする敵というケースはそうそうあるものではない。
そしてそんな暴力に裏付けられた強さを理解するにはヤシオの世界はまだまだ狭かった。
「予定ではさっさと片付けるつもりだったんだがな。こんなに粘られるとは思わなかったぞ。確かにお前の勝負の腕はそれなりだ。あのまま続けてりゃこっちも痛手を負う可能性だってあった。リーグに出てくるだけのことはあると認めてやるさ。……だが、
アバリスの手刀がヤシオのこめかみを打ち据えた。
呼吸もできなくなるほどの痛みが身体中に走った。そのまま立っていることもできず、ヤシオはうつ伏せに倒れてしまった。
「あいにくだがこれはトレーナーどうしがお行儀よくやるポケモンバトルじゃねぇ。強さだけがモノをいう殺し合いだぜ。ったく、なーにがトレーナーの祭典だ。まあだからこそ壊してやらなきゃなあ?」
ヤシオを見下ろすアバリスの瞳が残虐の色に染まる。
バラル団とは違う。荒淫と放蕩を肴に隅から悪事を貪ってきた色だ。
「やらせねぇぞ、オレはこの大会――」
盛り返そうとしたヤシオだが頭を踏みつけられ、そのまま動かなくなった。
不測の事態にハッサムはヤシオを庇おうとしたがトレーナーの指示がなくてはそのパフォーマンスはどうしても落ちてしまう。
握力が失われたのかヤシオの手からハッサムのボールが離れ転がった。懐からも5つのボールがこぼれ落ちた。
「さあどうするよ。哀れお前のご主人様はのびちまった。他の手持ちも聞いとけ。まとめてかかってきてもいいが俺のワルビアルはちょいと凶暴でな。そのままボールに戻らないならこいつのやわい喉なんざ一噛みで砕いちまうぜ?」
トレーナーを人質にとられてはどうすることもできない。ヤシオのポケモンたちはボールの中で沈黙し、ハッサムも自らボールに戻った。
「さーてと」
アバリスは小刀を取り出しヤシオのボール全てに細工を施した。
「ボールの開閉スイッチはもう作動しない。これで抵抗はできねぇなぁ?」
そのまま小刀を振り上げる。ボールがカタカタと揺れた。
「約束が違う? 俺は慈悲深いんだ。ワルビアルの手をわざわざ汚させねぇしお前らには特等席での見物を許してやる。まあ、ただこいつをブッ刺してぇだけなんだけどなぁ!」
人間もポケモンも己の存続を自然に考える。それが命あるものの原理だからだ。しかし他者の原理を曲げようとする存在についてヤシオは真に理解していなかった。
最後の一刺しを食らわせんとアバリスが踏み出す。その足が踏みつけているのは地面ではない。
己の絶望だ。或いは己の卑劣だ。
「お前は何でもない。俺がそう決めた」
その言葉を否定するかのように複数の気配がこちらに近づいてきた。
「おーいヤシオ。そろそろ試合の時間だぞー。こっちにいるのか?」
「ヤシオさーん?」
テスケーノとプリスカの声がした。大会スタッフと思われる複数の足音を伴っている。
アバリスは腹立たしげに小刀を懐にしまった。
「時間をかけすぎたか。ワルビアル、雑魚に構うな。本来の仕事に取りかかるぞ。そいつはお前が掘った穴にでも落としとけ。土葬に早すぎもへったくれもねぇ」
ワルビアルがヤシオと彼のボールを穴に蹴り込んだ。
そして穴の上に備品の入った段ボールを山盛りに積んで完全に塞いでしまった。
「やり手には程遠いな。あばよ、
メインスタジアムでは準々決勝最後の試合がまさに始まろうとしていた。
【どうしたことでしょう! ヤシオ選手、試合開始時刻を過ぎているにもかかわらずまだ会場に姿を見せません!】
実況の声が虚しく木霊する。
既にパンデュールはトレーナーズサークルでその時を待っている。不思議なことに苛立った様子はない。
「だからあれだけ言ったのに。あの方向音痴、首に紐つけとけばよかったのよ」
「いや、それはさすがに」
自分達の試合を終えて観客席に陣取るミントとシンジョウにとって、本日最後の楽しみであるヤシオの試合が彼の不戦敗で終わることは由々しき事態だった。
「あぁもう! 私、探してくる!」
「よし、俺も――ちょっと待て。来たみたいだ」
フィールド反対側の入口が開いた。これでやっと試合が始まる。遅れてきた挑戦者にスタジアムが沸いた。
そしてその歓声はすぐにざわつきへと変わった。ジュリオと熱い勝負を繰り広げたヤシオの姿はなく、そこに現れたのはアバリスだった。
「遅くなったな。ラフエルリーグは俺達がぶっ壊す」
スタジアムの音響がアバリスの声を会場全体に広げると同時に似た風貌の柄の悪い集団が雪崩れ込んできた。
「せっかくのお祭りに華を添えてやろうってな。さあ野郎共、破壊だ! 略奪だ!」
野太い声に音響がハウリングを起こした。
そしてそれはラフエルリーグが壊れる音だった。