(フダノカミ=ニギヒト)
「……おかしい」
ホヅミは端末に映し出された無数の数字群を見て、首を傾げた。
周囲の動向にかすかな不審を感じ取った彼女がまず初めたのは、金の流れを洗い出すことだった。
それが諜報活動であれ町内の運動会であれ、どれほど秘匿した活動であってもそこにはかなわず公表された金の動きが存在する。いかなる秘密計画も、人件費や光熱費なしに動いたりしないのである。
諜報のほとんどは、そうした公開情報の流れから情報を判断することにその要諦が存在し、若くして政府のバラル団特別対策チームに名を連ねる才媛である彼女にとって、そうした知識は行き付けの喫茶店でロズレイティーをオーダーするほどに日常的なものであった。
しかし判明した事実はホヅミら対策チームが共有する知識を裏付けるにとどまった。
・政府からの予算が一部このチームに充てられている。その決算に不自然な書き換えは見受けられない。
・対策チームの長である元国際警察のカネミツはかねてよりバラル団による組織犯罪について一定の知見を有していた。
・『雪解けの日』以前のバラル団の情報は政府が管理し、マスコミを通して一般に周知する部分は制限されていた。
これらの情報にはいささかの問題もない。
だがわずかな違和感がトゲのようにホヅミの心に突き刺さっていた。
国際警察を退職したカネミツはその後複数の警察組織を渡り歩き、その全てで成果をあげた。そしてそれらの組織から現政権に金が流れている。名目はあれどそのなかには公にできない性質のものも含まれている。が、それはそういうものだ、というのがホヅミの考えだ。その金はやがて少なからず民衆に還元される。度を過ぎれば野党側の格好のネタになるだけのことだ。
それは、いい。
バラル団の脅威がより明らかになった今、対策を打ち出している現政権やPGに対して世間は好意的だ。バラル団の情報も小出しに公開され、イズロード脱獄の失態についてつつく者はあまりいない。不安を抱え、混乱しつつもすがるべき存在があるというのは大きいのだ。
行政府の長は連日連夜会見を開き繰り返しインタビューに応じている。支持率は上昇の一途を辿り、未曾有の事態にありながらもラフエル地方はひとつになったといえる。
(それは違うわね)
違和感の正体がおぼろげに見えてきた。
うまくいきすぎている。政府与党とPGは民衆からの支持を集めている。
しかしこれまでの分析にカネミツの利益が全く含まれていないのだ。
確かに彼の手腕は高く評価されている。ホヅミら部下からしても彼はいいボス以外の何者でもない。この先バラル団騒動が決着した後も彼を欲しがる組織・団体はいくらでもあるだろう。
だが、それはこの際問題ではない。彼が前々からバラル団に対して様々な布石を打っていた理由にはなるまい。人間の善意に期待しすぎているというのは考えすぎか。
「ちょっと動いてみる必要がある、か」
その細い指がキーボードを巡る。
ルシエシティに向かう手段として最も一般的なのはラジエスシティからの連絡船を利用することである。ポケモンに乗って飛んでいくより安全なうえに、船旅はよい気晴らしにもなる。険しいシエトの峡谷をわざわざ進む理由を探すのは難しい。
しかし強い意志をもってその選択肢を蹴る者たちもいる。主にルシエのジムに挑戦しようという腕利きのトレーナーたちで、厳しい環境と屈強な野生ポケモンも彼らにとってはよいトレーニング相手となりうる。
そんななか別の事情で峡谷をゆく少女がひとり。
「うわぁーっ! ひみつのコハクだ! 怖い、今日ツキすぎてて逆に怖いんだけど!」
ご存知砂漠マニアのアルナは考古マニアでもあり、それはつまり化石マニアでもあるということ。そもそも砂と考古という両分野は非常に相性がよいため彼女のような両刀マニアは少なくない。
この峡谷でトレーニングをしようとするトレーナーはいても宝探しに興じるトレーナーはそうはいない。発掘作業はとても捗った。
唯一障害となる野生ポケモンについても問題ない。
「バルジーナ、ふきとばし!」
ふきとばしで相手を遠ざけたり穴を掘って地中に逃げたりすることで、互いに傷つくことなく穏便に戦いを終わらせることができる。それが可能なのも彼女のポケモンがフィールド慣れしているからだ。
「よーし今度はむこうに行ってみよ!」
そして少女は荒野を駆ける。
切り立った崖も唸りをあげる激流も彼女を阻むことはない。
そうでなければ。その選択を避けていれば。時計の針を暫し進める。
「また会えて嬉しいよ」
何か言い返す余裕などない。そしてこちらには毛ほどの嬉しさもない。
砂漠で遭遇したバラル団員がにっこりとこちらを見つめている。
なぜアルナは逃げないか? それは簡単だ。
「おいこらっ! 離せッ!」
ボールを取り出すより先に彼のゴルーグが彼女の体を鷲掴みにしてしまった。これでは何もできない。
ジタバタと暴れてみるも復讐に燃えるゴルーグの豪腕から逃れることはできない。
「せっかくここで会ったんだ。いいところに連れて行ってあげよう」
ゴルーグはアルナと男を掴んでそのまま上昇し、これまでいたのと逆方向へ飛んだ。
「ゴルーグ、ここで降下」
飛行した時間はものの数分。
上昇が速ければ下降も速い。アジトに連れていかれることも覚悟したアルナは気丈に振る舞った。
着陸とともに緩くなった手の拘束から逃れ、恋しい地面に足をつけた。そして気づいてしまう。
「これは!?」
正面の崖は大きく崩れ、足元には稲妻のようなひび割れが。覗きこむとかなり深くまで地面が裂けている。
「どえらい地震、じゃないね。さっきまでいたあたりには何もなかったし」
これだけ地面がズタズタでなければ穴を掘ってこの場からの脱出が叶っていた。
「その通り。これは地震じゃない。崖も地割れもポケモンの技によるもの。正確にはそのぶつかり合いというべきかな」
「そんな、誰がこんな」
戦いの跡というより巨大な何かがピンポイントで暴れた爪痕に思える。
「……本当はボクが戦いたかったさ。でもまあ、エンジンがかかったクロックくんには何も言えないから。いざってときに幹部さまさまには逆らえないのがヒラの悲しいところだよねぇ」
峡谷に現れたゴルーグを連れたバラル団。そしてあの時砂漠にいたもう1人のトレーナー。それが意味することは簡単だった。
「たしかヤシオくん、だったかな?
声。言葉。それは紛うことなき想いの発露。この男は決して嘘を口にしない。信頼といえばおかしな話だが疑うことへの諦めが勝った。
「それでヤシオはどうなったの!?」
「戦いで崩れた崖と一緒に落ちていったよ。クロックくんはそれでも戦いを続けようとしたんだけど時間切れで他の幹部に連れ帰られちゃったってわけ」
激流を指差した。見れば最近土砂が流れ込んだ形跡がある。人が巻き込まれたとすれば大変な事態だ。
「そんなこと!」
ハッタリに決まっている。方向音痴が過ぎる彼でもそんなことになるはずがない。そう信じたかったが到底無理な話だった。
「正直ヤシオくんについてはボクも気になっててね、こうして彼を探してたんだ。まあ結局見つけられなかったから徒労ってやつだけど、まさか君まで来てくれるとは思わなかったよ」
悪びれる様子もない。
「君を倒せなかった、いや勝ちきれなかったと言うべきか。失敗というのは自分でカバーしなくてはね」
殊勝な心がけだがそれどころではない。
ボールから繰り出したのはシャンデラ。高い特殊攻撃力を持つポケモンだ。ゴルーグを先発させなかったのは手の内がバレているからだろう。
ゴルーグの手から見下ろした限り近くに人の姿はなかった。つまり助けはあてにできない。
「言い忘れてたね。ボクはミカゲ。バラル団のミカゲ。……もう1度勝負、してくれるよね?」
とても逃げられる状況ではない。アルナは腹を括った。
「イシズマイ、おねがい!」
手の内がバレている砂漠で戦った時の手持ちを先発させるのは危険と感じた。ここは相性のいい技でセオリー通りに攻めるしかない。
「『すなあらし』!」
敵の視界を制限しつつ少しでもダメージを蓄積させる。アルナの戦法の生命線ともいえる天候変化だ。
「『シャドーボール』」
「『まもる』!」
うまく防いだがニードルガード同様連続で使うことはほぼ不可能な技。こちらからも仕掛けなければならない。
ゴルーグ同様シャンデラの技もまともにもらえば一撃で倒される危険がある。
「『ストーンエッジ』!」
鋭く尖った岩がシャンデラを襲った。急所に当たりやすいという意味でいわタイプ最高の威力を期待できる大技だ。
ダメージが大きいのかふらふらと漂うシャンデラ。未進化ながらイシズマイのパワーは相当なレベルだ。
「……もっと消極的な戦い方をする子だと思ってたよ」
回避を指示する時間がなかったわけではない。ミカゲはあえてシャンデラに苦手な技を受けさせた。
舐められている。腹立たしいことではあるにしてもアルナはむしろそれをプラスに捉えた。
「何とでも言って! もっかい『ストーンエッジ』!」
「でも甘い。いわタイプなら有利をとれるとでも思ったかな?」
再びストーンエッジが炸裂した。しかし今度はシャンデラは微動だにしない。
そんなはず、ない。視線に意識を集中させる。やせ我慢をしている様子はなくそのあたりの指示を受けた気配もない。
「どうして!? 2回も当たればかなり……」
ここでアルナは押しているはずのイシズマイが右のハサミを庇っていることに気がついた。その分技に力がのりきらなかったようだ。
「あっ!」
シャンデラがストーンエッジに紛れて『おにび』を放っていた。全く気がつけなかったことを呪うもこればかりはどうしようない。
「火傷してるんじゃしょうがないよね。『パワーじゃ勝てないなら頭を使わないとね』だっけ。あれからいい教訓になったよ」
そのままシャンデラが放ったシャドーボールがイシズマイを呆気なく吹き飛ばした。
「くっ……」
先に倒されはしたが敵にダメージを与え、じゅうぶんに仕事をしてくれた。アルナは労いとともにボールに戻した。
「イシズマイありがと。ゆっくり休んで」
2体目にバルジーナを繰り出した。あくタイプを持つこのポケモンも相性のうえでは有利だ。とくせいのぼうじんも助けになる。
「この子なら砂嵐のなかでも戦える。『あくのはどう』!」
またも相性のよい技。先ほどのストーンエッジの蓄積もあってシャンデラはふらふらと墜落した。
「『おにび』」
「真上に飛んで!」
予測さえできれば回避行動をとることは難しくない。バルジーナはそのまま高く飛び上がった。
「砂嵐を起こす要因は4つ。地表面の乾燥、土壌の柔らかさ、砂塵層の厚さ、そして強風!」
この峡谷もアルナの言葉を借りるなら『良質な砂嵐の産地』となる。土地がズタズタに荒らされていたことで砂嵐がより強力になっているのだ。
「シャンデラ、撃ち落とすんだ!」
勢いのまま放つシャドーボールもおにびも砂嵐が壁となりバルジーナに届かない。
「一気に攻めるよ! 『ブレイブバード』!」
低空飛行で一気にシャンデラとの距離を詰めるバルジーナ。かわす隙を与えず大技が決まった。
ゴルーグと戦った時には手持ち3体でやっとノックアウトした。このシャンデラがミカゲの手持ちでどれくらいの位置にいるのかは分からないがこれで互角の勝負に持ち込めたとアルナは考えた。
「……格が違うんだろうね」
一瞬の沈黙。
なんと崩れ落ちたのはバルジーナだった。
「バルジーナ!? どうして!」
たしかにブレイブバードは反動のある技だ。それでもそのダメージだけで使用した側も倒れてしまうということはあり得ない。
「!」
ひんし寸前のシャンデラが息を吹き返している。
「シャンデラって案外器用なポケモンだって知っていたかな。オーバーヒートみたいないわゆる高火力技のイメージが強いけど、実は曲者なんだよね」
『いたみわけ』。相手と自分の体力を足して分け合う技だ。イシズマイから受けるダメージを火傷で調整しつつそのまま2体目をも突破しようという凶悪な作戦だった。
アルナは次のボールを握りしめたがそれを投げて手持ちを呼び出すことができなかった。
「さあ、勝負はまだ終わらないよね?」
「あ、あぁっ、ああ──」
指が震えてボールを投げられない。戦いへの恐怖がアルナを支配した。
イシズマイの頑張りとバルジーナの奇襲がともに無駄となったばかりか現状ミカゲの戦法を破る手だてがなかった。
このボールの中のスコルピを含めてアルナにはまだ4体の手持ちがいる。戦闘の続行が不可能になってしまったわけではない。4体とも『おや』のために全力で戦ってくれるだろう。
だが震えが止まらない。誰を出してもきっとやられる。自分のために健気に頑張ってくれたとしてもだ。
さっきまでの闘志はすっかり萎み活発な少女としての姿は鳴りを潜めた。
砂嵐が晴れた。
しばらくそのまま待っていたミカゲだが、やがて無駄を悟った。
「トレーナーにやる気がないなら仕方ないね。ボクらは乱暴を好まない。でもちょっと眠っててもらおうかな」
ゴルーグとシャンデラがじりじりと迫ってくる。逃げようとするも、咄嗟に足がもつれてしまった。
適性の有無があるにせよトレーナーにはそれぞれのカラーがある。ポケモンのタイプ相性のようにそれらは複雑に絡み合い、勝負だけでなく日常にも関わってくる。
ミカゲのそれは慈悲とともに歪んでいると言えるだろう。バラル団の一員として悪事を働くというのはその表層に過ぎず、嗚呼、そう──
狂っている。激しさと穏やかさがこの男の中でうねりをあげている。砂漠で出会った時にそこへかすかなひび割れをいれてしまったのが失敗だったのだ。
アルナは目をぎゅっと閉じ、迫る災厄を自らの世界から遮断した。
ミカゲから下卑たものこそ感じないがこの現実を直視するのはあまりにも酷だったのだ。
「そのくらいにしておいたほうがいい」
閉じた世界に誰かの声が凛と響いた。
思えばあの時もそうだった。
健闘の末ゴルーグを倒したものの依然アルナが不利な状況に待ったをかけた男がいた。彼は本気を出してアルナを潰そうとしたミカゲを止め、口八丁ではあるが追い返したのだ。
「まだやるというのなら俺が相手になろう」
着地をしくじらず、誰かが目の前に文字通り降ってきた。シチュエーションの違いこそあれ、
「ヤシオ!?」
目を開けた。しかし現れた男は赤い帽子をかぶっていなかった。後ろから見た背格好も異なる。妙な訛りもない。
救世主だ。誰かは知らないがこの危機的状況を打破してくれる、そんな存在が天から降り立ったのだ。
「ジムリーダー、シンジョウ。お前がトレーナーの道を外れるというのなら容赦はしない」
峡谷が絢爛華麗な舞台に変貌したかのようだ。彼の一挙一動が殺風景な景色を鮮やかに彩ってゆく。
シンジョウと名乗った男はバクフーンを繰り出した。その背中で燃え盛る炎は火山ポケモンの名にふさわしく凄まじい威圧感とともに純粋な強さが伝わってくる。
「この子の知り合いかな」
「違う」
「ボクらを挫こうとか」
「違う」
シンジョウの返答、いずれも短く、そして鋭い。
「……成る程」
ゆっくりとミカゲは頷く。そしてシャンデラをボールに戻しゴルーグに掴まった。
「残念だけどその子と勝負できないんじゃボクはもうここにいる意味がない。帰らせてもらうよ」
視線をこちらに向けることなく、ミカゲは吐き捨てるように苛立ちをぶつけた。その言葉は独り言のようにも響いた。
シンジョウはあえて追おうとはしない。
砂埃を巻き上げ、あの時同様ゴルーグとミカゲは空の彼方へと消えていった。
「バクフーン、戻ってくれ」
口が渇いて言葉が出なかったがバクフーンを引っ込めるシンジョウを見て我に返った。
「あ、ありがと。あたしはアルナ。本当に助かったよ」
どこかの誰かと違い助けてほしいタイミングで間髪入れず手を差し伸べてくれる存在がどれほどありがたいことか。
ジムリーダーと名乗ったのが気になったがそのあたりを詳しく聞くより今は無事を喜びたかった。ごく自然に振る舞った結果として笑みが浮かんだ。
「別にいい。それよりあいつは?」
ミカゲの選択次第では激しい戦いになっていたかもしれない。それでもシンジョウは冷静だった。
「バラル団。前に砂漠で揉めたことがあって」
それは災難だったなとシンジョウはへたりこんだアルナを助け起こした。
「さっきヤシオとか言っていたな。ツレか何かか?」
「いや、前にたまたま一緒になった変な人。私より先にここに来ていたみたいなんだけど──」
アルナはミカゲから聞いたヤシオとクロックの話をシンジョウに聞かせた。
詳細は不明だが今自分たちがいるこの場でヤシオとクロックが激突し、ヤシオは倒れてそのまま行方不明となった。
正直なところアルナはヤシオにそこまで強い思い入れがあるわけではなかったが、知り合いがバラル団に襲われ行方不明ともなれば心配にもなる。
「つまりそのヤシオという青年は行方不明というわけか。とりあえずPGに連絡して捜索を頼もう。……その前に」
シンジョウはマフォクシーを繰り出し、何かを指示した。こちらもよく鍛えられているのが見てとれる。
マフォクシーは懐から杖のような枝を出し、その先に火をつけた。
「何してるの?」
「マフォクシーには未来を見通す力がある。その応用で彼の安否だけでも探れないかと思ってな」
手に持った枝に灯った炎をしばらく見つめたのち、マフォクシーは一声鳴いた。
シンジョウは眉を僅かにひそめた。
「大丈夫、彼の
そんなことまで分かってしまうとは頼もしくも恐ろしい。
「じゃあもしかしてこの近くにいるの!?」
アルナはマフォクシーに問いかけた。肯定してほしいところだったが首を傾げてしまった。
「えっと」
「こいつによると彼は近くにはいない。しかし遠くにもいないということらしいな。つまり──いや、なんでもない」
思うところがあったのだろうか。
意味不明だがシンジョウとマフォクシーが嘘をつく理由もない。いわゆる電波が繋がりにくい場所のようなものがあるのだろう。
「じゃあどうしたら見つかるのかな」
穴堀りならすぐにでもできる。しかし場所が場所なだけに現実的ではなかった。
「命に別状はないならこういうのはどうだろう。PGの捜索を待つ間ヤシオが現れそうな場所を張る。彼が行きそうな場所に心当たりはないか?」
悩むまでもなかった。
悪い意味で天性の方向感覚を持つヤシオだが、答えはそう難しくなかった。あの時砂を踏みしめながら語り合った展望。
「ルシエジム。そうだ、最後のバッジをかけてジムリーダーに挑むって言ってた!」
峡谷にいたのもルシエに向かっていたからとするのが自然だ。砂漠で会った時期からして本来ならばとっくに着いているはずなのだが、大方寄り道に次ぐ寄り道で旅が長引いたのだろう。そう考えた。
「なるほど。コスモスのところか。ならルシエで待っていればいい。その前にルシエ署に寄ってからだが」
「ルシエのジムリーダーと知り合いなの?」
「まあな、横の繋がりってやつだ」
シンジョウはマフォクシーを戻して今度はリザードンを呼び出した。
「先に乗っていてくれ。俺はPGに電話しておく。バラル団の騒動にかかりきりかもしれないが何もしないよりましだろう」
「よ、よろしく」
リザードンはアルナを見つめ、そして姿勢を低くした。万が一にでも暴れられたらと尻込みしたが杞憂に終わったようだ。
電話などそこですればいいのにシンジョウは不自然に距離をとった。だがこの1時間ほどでいろいろありすぎたアルナにとっては大した問題ではなかった。
物陰に入ってしばらく話し込み戻ってきた。
「じゃあ行くか。リザードン、あまり飛ばさなくていいからな」
2人を乗せたリザードンはルシエシティを目指して飛び立った。