幼馴染が根源の姫だった件   作:ななせせせ

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もう今日の更新はないだろうと安心した読者さん方の心の隙間を突くような更新……!

10/12 修整




 扉を静かに、そっと開くと想像通り彼は未だに夢の世界に旅立っていた。何の夢を見ているのか気になるけれど、自重、自重。……たまに覗いてしまうのはご愛敬、で許してほしい。

 

 

「ん……愛歌……」

「! ……ふふ」

 

 

 寝ている彼の口からわたしの名前が出ただけですごく嬉しい。例え先ほど未来を視た時に視えていたとしても、知っていても――心の底から温かいものが溢れ出てくるような感覚がする。

 

 

「う……こんにゃくで人を殺すなって……」

「一体どういう夢なの!?」

 

 

 あなたの中でのわたしは一体どうなっているのかしら。

 やるなら愛歌虐殺ウィップでやるのだけど。

 

 

「……もう。起きて?」

「ん、んん……? 愛歌……こんにゃくは、射撃武器じゃないぞ」

「一回顔を洗ってきましょう……ね?」

 

 

 全く、もう。

 やっぱり覗いておくべきだったかしら。

 

 

「あ……これ」

 

 

 ベッド脇に置かれている、一冊の本。

 何回も何回も読んでいるせいで大分ボロボロになっている、彼のお気に入りの一つ。昨日は金曜日――つまりはフライデーということ――だったから、それで思い出したのかな。

 

 ――先の分かっている物語なんて、本当に好きなものでも無い限りは面白いと思わないだろう?なんて、言ってはいたけれど。

 それにしたってこれだけ好きっていうのも珍しい。

 

 

「そういうわたしも、人のことは言えない……と」

 

 

 少なくとも、未来視で視た未来通りになったとしてもなお一喜一憂するくらいに、心を持っていかれてしまっているのだから。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ――未来視が使えなくなって数年。わたしたちは小学校に入学した。

 その間にあったことと言えば、わたしに妹……綾香が出来たことくらいで、その他に目立ったことはない。

 それでも未知の未来、分かっていない明日というのは新鮮で、楽しいとか、悲しいとか、人並みの感情というものをようやく得た。――そういう意味では、ようやくわたしは人間になれたのではないかと思う。

 

 

「ひゅー、ひゅー、ひゅ……こふっ」

 

 

 そういえば、気付いたことが一つあった。未来視の光景に走るノイズが僅かに減っていた、ということ。

 今までが真っ黒になるノイズなら今の段階のはテレビの砂嵐のようなノイズというか……結局、見えないし、見るわけじゃないことに変わりはないのだけど、それでも変化があったというのは、少しうれしい。

 

 

「ぁ……こひゅ……」

 

 

 ……わたしのすぐ後ろを走る彼の、今にも死にそうな声が聞こえてくる。ちらり、と後ろを見れば誰が見たって限界を迎えた表情の彼が息も絶え絶えに、というか呼吸すらできていないような感じで、それでも――わたしを追ってきていた。

 

 地面に引かれた白線のゴールを踏み越えてわたしは止まり、彼はそのまま水道へと走り。

 

 

「おろろろろ……」

「うわぁ……」

 

 

 朝食に食べたであろうものを全て吐き戻していた。そしてそのまま崩れ落ちた。

 そこまでしてついて来ようとするなんて、馬鹿なのだろうか。馬鹿なのだろう。

 

 

「あの、先生。わたしが保健室まで連れていきます」

 

 

 もはや意識も朦朧としている彼に肩を貸して保健室まで誘導する。

 トイレにでも行ったのか、先生はいなかった。仕方がないのでとりあえずベッドに寝かせるだけ寝かせる。

 

 

「どうしてここまでしたのか分からないけれど、基本的にそんなに肉体性能(スペック)が高いわけでもないのだから諦めたらいいのに。やっぱりあなた、馬鹿ね」

「……それでも、諦めるわけにいかないだろ。嘔吐しようが、血反吐吐こうが、ぶっ倒れようが……死ぬまではお前を追い続けるよ」

「なんでそんなに……」

「好きな女の子と対等でありたいって考えるのは、そんなに変かよ」

「――ええ。とても変だわ、あなた」

「ひどいな……」

 

 

 それからしばらくして小さく寝息が聞こえ始めた。苦しそうな様子もない、正常そのもの。

 

 突然がらりと扉が開いて、養護教諭の先生が入ってきた。

 

 

「あれー沙条さんだ。どうしたの、怪我でもした?」

「あ、いえ。わたしじゃなくて……とりあえず後はお願いします!」

「あ、ちょっ、沙条さん!?」

 

 

 半分逃げるようにして保健室を飛び出た。少し走ったところで、先ほどまで走っていた時は切れていなかった息が絶え絶えになって、無性に苦しくなったために立ち止まらざるを得なくなった。

 

 突然の告白。……いや、告白といっていいのかも分からない。

 ……いやいやいや、おかしい。きっと何かの間違い。うん、そう。そのはず。

 

 

「うー」

 

 

 真っ赤になった顔の火照りは収まりそうになく。バクバクと動き続ける心臓も、茹だったような頭も、全部、全部彼のせいだ。

 

 

「やっぱり馬鹿……」

 

 

 こうなっては次に顔を合わせた時にどういう顔をすればいいのか分からなくなってしまう。あれがもし告白だったなら、やっぱり、返事はしないといけないわけだし。でも、わたしたちにはまだそういうのは早いというか……

 

 ……結局、正常な思考に戻ったわたしが校庭に戻ったのは授業終了の五分前くらいだった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 彼が居間に顔を出したのは、わたしがちょうどお皿を並べ終えたところだった。

 お父さんに挨拶をして、綾香の突撃を受け止め、最後にわたしの頬にキスをする。いつもの朝の風景。

 

 

「……最近ガス漏れ事故が多い。気を付けるといい」

「そういえば、そうですね。学校なんかはパイプとか古そうですし、危ないかも」

「まあ、大丈夫かもしれないが……」

 

 

 さりげなくそこでわたしを見たのは……何かあったら何をしてもいいってことかしら。言われるまでもなく、なんでもする気だったのだけど。

 

 

「……全身青タイツの男性がトラックに轢かれて意識不明の重体とか、怖いな」

 

 

 ニュースを見ていた彼がぽつりと零す。確かに、ここ最近はトラック事故なども多い。そういったことはわたしが隣に居れば問題ない、のだけど。

 

 アレはどうでもいいので放置していたけど、あまりにも騒がしいようなら潰しておく必要があるのかもしれない。万が一、ということもあるのだし。

 

 

「……愛歌?」

「ううん、なんでもない」

 

 

 

 

 ……善は急げと言うし、夜にでも調べるべきね。




話すネタがないなぁ……

そういえば、いとこからSAOが帰ってきました。
ようやくもう一つもかけそうで安心。……でも文体とかいろいろな不安がありますね

次の話は?

  • スイート
  • ノーマル
  • ビター
  • デーモンコア

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