幼馴染が根源の姫だった件   作:ななせせせ

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愛歌ちゃん様を好きな人が増えるように願いつつ一話ずつ書いています……

10/12 修整




 初めてあの幼馴染様と出会ったのはもう十年ほど前になる。

 当時三歳の俺と彼女――沙条愛歌の出会いは実に平凡で、ありふれたものだった。お隣さんということで引き合わされただけの出会い。その頃すでに前世の記憶を取り戻していた俺は一瞬にして恋に落ちた。初恋である。

 

 ――当時の俺は若かった。高々五十代まで生きただけの、精神的若造だったのだ。金髪碧眼の美幼女がお隣で幼馴染でしかも笑いかけてくれた程度でころりと落ちるなんてどこの恋愛漫画だよ。

 

 直後に沙条愛歌という名前が可愛らしい声で紡がれ、記憶の端に引っ掛かりを覚え、思い出し、驚きの余り頭に血が上って気絶した。

 数週間後に玲瓏館の名前を知ってもはや否定できないかも分からんねこれは、と諦めかけ、三年後に可愛い綾香が生まれてちょっと絶望しながらも、ここがFate/prototypeの世界であることを受け入れた。

 

 ……そこでさっさと逃げだせばよかったものを、俺はとち狂っていた。

 新しい人生を得たからには病死または寿命まで生きたいし、リトルプリティーガール綾香の笑顔を曇らせたくもないし、美沙夜がファ〇リーズ案件になることだって防ぎたい……なんてことを思った。

 必死に方法を考え、悩み、その末に編み出した答えが――

 

 

 

 

 意識が急速にはっきりとしていく。先ほどまで見ていた夢の内容が抜け落ち、意識がなくなる直前の記憶が舞い戻る。幼馴染様の慌てる表情は可愛かったがなぜ殺されなかったのか。

 なんかこう、手はずと違う流れになって俺の素材的価値がなくなったとかそういうあれとか。だとしたらもう一回あんな流れになるのか。

 

 なんてことをつらつらと考えながら目を開けば飛び込んでくる、自分の家のものではない天井。とはいえ学校や知らない家の天井、ということでもなく。

 

 

「知ってる天井じゃないですかやだー……」

 

 

 ――沙条家の天井だ。

 こんなものが視界に入ってくるということはまだ確実に生きているということだ。はたして、意識のないうちに逝かせてもらえなかったことに絶望すればいいのか、まだ生きていることに感謝すればいいのか。

 

 客間の一室。泊まりに来たときはよく使わせてもらっていた部屋は当時の記憶とそう大差ない。そういえば中学に上がる頃にはもうほとんど来なくなっていたか。記憶をたどるように視線を横にずらせば、ベッド脇にファ〇リーズが置かれていた。

 そういえばこのベッドからする匂いは、この前発売されたばかりの『クランの猛犬の匂い』だ。

 

 俺がちょっと感動して自分の服にファ〇リーズしていると部屋の外が騒々しくなる。この足音の軽さからして、恐らく綾香だろう。

 

 

「……お兄ちゃんに魅了(チャーム)使ったでしょ!

私この前習ったから分かるもん!」

「……! …………!!」

「もう知らない!」

 

 

 大分不穏な感じの単語が聞こえる姉妹喧嘩を経て隣の部屋に駆け込む音がする。こっちにこないのは俺に気を遣ってか。よし、後で目いっぱい抱きしめて頭をわしゃわしゃしてやろう。

 

 立ち上がると結構酷い立ち眩みに襲われたが、まあ許容範囲内だ。むしろこの程度で無理とか言ってたら来たるべき時に鼻血吹いて倒れてました、東京滅びましたになってしまう。

 とりあえずは幼馴染様に話を聞いてみないことにはどうしようもないため、居間にでも行こうとドアノブに手を掛けたところで、ドアが勝手に開いた。

 

 

「「あ」」

 

 

 洗面器とタオル、リンゴに果物ナイフを持った幼馴染様が立っていた。翠色のドレスを身にまとい、首にやっすい感じのアクセサリーを付けた姿は普段よく見るものだ。

 驚いた表情の彼女の顔が赤く染まっていき、終いには恥ずかし気に目線を逸らされる。

 

 ……初めて見る反応にどう対応していいか分からず、こっちもつい目線を逸らしてしまう。いや、本当にどうすればいいんだ。ファ〇リーズしたせいでもないだろうし、本当にどうしたのか。

 

 

「……あ、その、目が覚めてよかったわ。いきなり倒れるからすごく心配して、それで……」

 

 

 心配した後ナニをしたのか。元々赤く染めていた顔をさらに赤くすると落ち着かない様子で髪を触ろうとして、物を持っているせいで触れずにさらに慌てた。

 

 正直これは非常によろしくない。見た目はまたとない美少女なのだ。こんな年頃の少女らしい、有り体に言ってしまえばめちゃくちゃ可愛い仕草をされると相手が根源の姫であることすら忘れてしまいそうになる。

 沙条愛歌といえば常に余裕を持って超然と何事もこなしてしまうパーフェクト超人のはず。それがこんな余裕を無くしているなど、信じられるだろうか。

 

 出会ってからの付き合いで一度も見たことのない反応をされたせいで俺も動揺してしまう。

 とにかく何らかの返事はしなければならない、と思い立ち。口を開く。

 

 

「え、あ、なんか、迷惑? 掛けたみたいで悪い……」

「それは全然いいの! わたしのせいであなたを傷つけてしまったもの」

「沙条のせいってわけじゃないだろ……半分体質みたいなもんだし? むしろ、沙条にはいつも感謝してるというか、なんというか」

「え……と、それなら、いいのだけど」

 

 

 ――失敗した。完全に自分が何を口走ってるのかも分からない。ただひたすらに照れて、動揺して、焦って。

 まるで童貞の男子高校生じゃないか……!

 

 落ち着け、落ち着くんだ。相手はあの、絶対無敵パーフェクトおねえちゃん沙条愛歌なんだ。選択肢をミスれば即デッドバッドエンド逝き、そのはずだ。ついでに言えば東京もゴ〇ラにやられた並みの被害を被る……!

 

 ここは一旦退くべき。そうするべき。そうしよう。

 なんて、帰宅することを伝えようとして顔を前に向けると――

 

 

「……あ、おひさしぶりです。広樹さん。ごぶさたしてます、はい」

「倒れたと聞いていたんだが……もう少し休んでいくといい。ついでに、一緒に夕食でも摂ろう。……綾香も寂しがっていた」

「ぐ……っ」

 

 

 まさかここで会うとは。俺の三大苦手人物……一位は言わずもがな奴だが、同率二位を占める二人が一人。沙条広樹。ちなみにもう一人は玲瓏館の親父さん。

 苦手な理由は後で説明する。

 

 ここで綾香の名前を出されてしまうともう俺に断るという道はない。完全に弱点を把握されている。

 

 

「じゃあ、やすませて、もらい、ます。はい」

「ああ、そうするといい」

 

 

 このよく分からない状態になった幼馴染様とのマンツーマンは、もうしばらく続くようだ……




一応いろんな情報を集めて年齢設定とかは矛盾がないようにしてるはずなんですが、なんかおかしいところが出てきたときはその都度修正していきます

次の話は?

  • スイート
  • ノーマル
  • ビター
  • デーモンコア

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