この話はもしも気絶王がキアラの幼馴染であり、かつ元々気絶王がキアラを好きでいたらと言う前提のものとなります
……あと、幼馴染とは言うけどキアラが外界に出てきてからの関係です。
やや短めですが、どうぞ
日々の生活において、これ以上ないほどの幸福感に包まれる、という経験はあるだろうか。例えば、テストでいい点を取ったとか、宝くじが当たったとか、彼女が出来たとか、そういったことで幸福感に包まれることはあるかもしれない。だが、なんでもない日常が幸せであるというのはそうないことなのだろう。
だから、そういう意味では俺は結構レアケースなのだろう。本当になんでもない日常の、なんでもない一日一日が幸せなのだから。
その理由の最たるものである、隣にいる女。もう何度も手を繋いでいるのに、未だに彼女は顔を赤らめている。
「いい加減慣れてもいい頃じゃないかなぁと俺は思うんだが」
「いえ、その……触っているだけで気持ちよくなってしまって……」
いやいやと恥ずかしそうに首を振るさまはちょっと歳より上に見られる高校生にしか見えない。――だが、彼女は本来人類悪となるはずの存在だった。いや、だったというのは正しくない。これからなるはずであり、その可能性はとても高い存在だ。
ゾクリとしたものが背筋を一瞬撫でるが、その感覚を気にする前に彼女が目線を合わせてくる。若干背が低いため、自然と上目遣いになる。
「ところであなた?」
「なにか?」
「今日もご両親はいらっしゃらないのでしょう?」
「……そうだな」
やった、と小さくガッツポーズをするところとか、ちょっと外見年齢が高めなことを気にしていることとか、他にも色々と可愛いところは語りつくせないほどにある。
だが、彼女は――
「
「そんな殺生な……」
「殺生院だけにってか、やかましいわ。……あのな、現在の状況を考えろ」
「そうですね……こうして誰とも知れぬ方々に見られながらというのもそれはそれでよいものなのでしょうが……出来ればあなただけに見てほしいですね……」
またもや恥ずかしそうに首を振っているが、その発言の内容と言うか、頭の中に呆れるばかりだ。どうすればこの状況で致そうなどという思考に至るのか。流石はテラニ―様である。頭の中がエロいことしかない。
――殺生院キアラ。もしくは殺生院祈荒。Fate/EXTRA CCCにおける全ての黒幕。自分の快楽のためなら人類が滅びることも厭わず、また他人の人生を台無しにすることでしか絶頂できないという破綻者……になるはず。高校三年の今の時点でその片鱗を見せているのだから幼馴染の俺の胃痛も大変なものになっている。
彼女と出会ったのは中学の頃。生来病弱で、山の奥地に隠れるように住んでいた彼女が治療のために外界へと出てきた所で初めて出会った。
その時の俺の衝撃は大変なものだった。なにしろ俺は殺生院キアラというラスボスについての記憶を持っているのだ。その衝撃たるや、殺生院祈荒と名乗る彼女に出会ったその日に鼻血を吹いて倒れたほどである。
それから、隣に引っ越してきた祈荒と日々を過ごし――気付いたら俺達は付き合っていた。まるでスタンド攻撃のように「何が起こったのか以下略」という具合で本当に気付いたら付き合っていた。
とはいえ祈荒は黙っていれば大変な美人だし、暴走しなければ普通の心優しい女性だし、何かと可愛い所も多くある。……まあ、だから。
なんだかんだで、彼女のことを好きだったりする。
「あのなぁ! 俺たちは高校三年生なの! ……それは分かる? 受験生ってことも分かってんだろうなおい」
「ええ……ですが、そのような些事、気にすることはないでしょう?」
「するよ!? なに言ってんの!? 大学行かなきゃ就職もままならない時代なんだぞ!?」
本当にどうした、と心配になる。殺生院祈荒という女は――欲望に忠実で、他者を顧みず、人類がどうなろうと知ったこっちゃないという感じの……割と言いそうだったな! にしたっていきなりこんなことを言い出すような奴じゃない。
上目遣いに覗き込む祈荒がくすりと笑って俺の疑問に答えた。……結構な時間を一緒に過ごしてきたせいで、考えることが大体見透かされているのだった。
「――だって、卒業したら結婚するのでしょう?」
「っ!?」
「結婚して、子供をなして……そういう日々を送るのですから、大学に行く必要はないでしょうし」
「いや、ほら、お金の問題とかあるでしょうよ……」
「ええ。それも
えぇ……? と言いたくもあり、とてつもない嬉しさも感じているあたり、俺も大分アレなんだろう。……いや、主夫になりたいとかそういうわけではないんだけど。
俺にとって殺生院祈荒という女性はあまりにも魅力的に過ぎた。例え彼女の末路が魔性菩薩でも、俺にとっては他に代えようのない、たった一人の彼女だ。
「いや、まあ。祈荒が働いて俺が家事とか育児に専念するっていうのも悪くはないんだろうけど……基本的に祈荒は家事とかできないし。……ん? 待て、その場合でもお前は大学とか行かなきゃだろうし。……そもそも祈荒はどんな職に就きたいと考えてるんだ?」
「そうですね……セラピスト、というのはどうかと考えているのですが」
「ああ。確かに祈荒と話してると気が楽になったりするし、慕ってる人も多いし、向いてるかもしれないな」
「まあ……そういってくださると思っていました。ええ、ですからやはり、本日は朝までしっぽりと……」
「それとこれとは話が違うな、うん。そういう勉強とか必要だろうし、今日はやめような?」
だが――この万年発情期のエロ尼はニッコリと笑うと。
「嫌です」
「だめです」
「嫌です」
「だめでござる。今日は断食でござる」
「嫌です」
「……はぁ。分かった。一回だ、一回だけだぞ! それ以上はやらないからな!」
「うふふ……はい」
ところで、と祈荒が胸の前で手を合わせながら聞いてくる。
「結婚することに対しては何も言わないのですね?」
「――ああ。そりゃあだって、元々いつかは結婚するつもりだったし」
「へっ!? そ、そうなのですか……!?」
「最初から一生添い遂げるくらいの覚悟でお前と付き合ってるんだ。時期が多少前後したって別にどうってことはない」
そう答えていると、祈荒の顔が真っ赤に染まっていき、最後には俯いてプルプルしだす。経験から言えば、この女がこうなった時は大抵ロクなことにはならない。
「――もう我慢できませんっ。早く帰ってシましょう! ああ、もうそれすら待てない! 今! ここで! 一つに! さあ!」
「落ち着け! 色んな意味で不用意な発言をしたのは俺だからこの際ヤルことに関しては諦めるけどせめて放課後にしろ!」
「放課後!? ということは教室ですね!?」
「なわけないだろ!? ああもう全く、ほら、これでその涎拭け。そしたら学校行くぞ」
「ああ! そんな殺生な……」
「もう突っ込まないぞ」
「そんな、突っ込むだなんて……
「……ダメだこいつ」
ため息を吐きたくなる気分。本当に、なんで俺はこんな女を好きになってしまったのだろう。惚れるのに理由はないとかよく言うが、本当にそうだ。というかむしろこんな魔性菩薩、普通は惚れる理由がない。
それでも、惚れてしまったのはしょうがないのだった。
ちょっと素直になれないけど、しっかり惚れてしまった気絶王。
真っすぐ純粋な好意を向けられて絆されてしまった魔性菩薩。
一体どちらが先に惚れて、告白したのかはご想像にお任せします。
ついでにいえば愛歌様と違って敵わない相手がいないので変な紆余曲折なくストレートに恋路が進んだり。
……そういえば、活動報告とかで更新のお知らせをした方がいいのでしょうか?
みなさん更新したらすぐに謎の速さで感想を書いてくださるので今まで気にしていなかったのですが、ツイッターとか活動報告でお知らせをした方が良かったりします?
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