幼馴染が根源の姫だった件   作:ななせせせ

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D.C.



セミラミス……セミラミスはどこ……

給料入ったら課金しようとか思ってたのにその日までピックアップ続かなくて絶望

アポイベ面白かった……
最後ちょっと泣きました


23

 逃げる。逃げる。逃げる。

 

 どこに向かおうとしているのか、どうして逃げようとしているのか、何が原因だったのか。何一つとして分からない。

 ただ一つ確かなのは、このまま行かせたらもう二度と彼に会うことはないのだろうということ。

 

 場所が分かっていても、きっとわたしはそこに行けないから。

 胸元に揺れるネックレスを祈るように握りしめる。

 

 違う。

 これは、違う。

 

 きっと何かの間違い。

 彼がわたしから逃げるなんて。

 

 

 ――でも、理解(わか)っているのでしょう?

 

 

 聞こえない。

 そんなの分かりたくもない。

 認めない。絶対に、そんなことあるわけがない。

 

 だから、ねえ?

 お願い、わたしから逃げないで。

 たった一言でいいの。ただ一言、その言葉を口にしてくれたら――

 

 

「待って……!」

 

 

 嘘。

 こんなの嘘に決まってる。

 

 

 ――いいえ、本当。貴女は捨てられたの。かわいそうな沙条愛歌(わたし)

 

 

 うるさい。

 うるさいうるさい。

 これは夢。夢に決まってる。

 

 だって、

 

 

 ――だって?

 

 

 こんな、はずじゃなかったのに。

 視界が歪む。音も遠い。けれど鼓動だけがうるさく聞こえて。

 面倒事を避けるために使っていた魔術も維持できなくなって、すぐに警官がやってくる。

 

 それを、他人事のように見ているわたし。

 

 

 ――これは沙条愛歌(わたし)のせい。彼をここまで追い詰めたのも、彼を苦しめているのも、元はと言えば沙条愛歌(わたし)が原因だもの。

 

 

 知っていた。

 分かっていた。

 本当は、ずっと。初めて会ったあの日から。

 

 彼は苦しんでいて、わたしはそれを許容した。

 いつかきっと、なんて誤魔化して、心のどこかでそれを望んでいたのだ。

 

 

 ――そうすれば、彼は沙条愛歌(わたし)のことだけを考えていてくれるから。

 

 

 だから、当然の話。

 これは彼を傷付け続けたわたしへの罰。

 

 

 ――けれど、結局どこに行っても彼は傷つく。沙条愛歌(わたし)の傍にいても、離れても、ね。そんなの、許せないでしょう?

 

 

 誰かの声。

 いえ。いいえ。

 これは――わたしの声。

 

 全く反応を見せないわたしにしびれを切らした警官が腕を掴もうとしてくる。

 そして、潰れて死んだ。

 

 

「最初から、こうすれば良かったわ」

「彼を傷付ける世界なんて、壊れちゃえばいいんだわ」

 

 

 どろり、と。わたしから黒い泥のようなものが溢れ出す。

 それは瞬く間に広がって、街を飲み込んでいく。

 コンクリートの地面も、人も、車も、ビルも、何もかも。飲まれて黒い泥に同化していく。

 

 

「うふふふ、あっははは!!」

 

 

 嗤う。

 

 もう戻れなくなったわたしのことを。

 何か大事なものを取りこぼしてしまった、わたし(怪物)を。

 

 

 ……でも、それでいい。

 元来沙条愛歌とは、そう在るものなのだから。

 

 必要なのは、ただ一つ。

 胸に抱き締めた彼を撫でる。

 わたしの傍を離れたからといって場所が分からなくなるわけもなく。危ない所に行かれる前にこっちに引き寄せた。

 当然、これから起こることを見せないように意識も遮断済み。沙条愛歌は出来る女なのだ。

 

 すでに聖杯は起動されたし、あとは待つだけ。

 発端からして狂っているこの聖杯は、一匹の獣を顕現させる。聖書に書かれる黙示録の獣。元から聖杯戦争はこれを喚び出すための儀式で、参加した魔術師は誰も彼も騙されていた。

 今までのわたしは現状に満足していて、そんなことに興味なんてなかったから放置していたけれど……

 

 うん。残しておいて正解だった。

 聖杯を使ってビーストを顕現させる。それで人理定礎を崩壊させてしまおう。

 

 ――そうしてわたしは、彼と二人で新しい世界を創り出すのだ。

 

 

「……? ああ、抑止力(番犬)ね。でももう遅い。もう聖杯には七騎の(・・・)サーヴァントが注がれているもの」

 

 

 守護者が召喚される。

 けど、邪魔はさせない。汚泥からサーヴァントを模っただけの張りぼてを作り出して、時間を稼ぐ。

 別に正面から戦う必要は無い。ただビーストが顕現するまで待てば、それでいい。

 

 

「あと一時間はかかるかしら」

 

 

 より確実にするためには、それくらいは必要。

 すでに周囲は人どころか人工物も見当たらなくなっていて、黒い海のようになっている。

 

 ……きっと、今頃は綾香もお父さんも飲み込まれているのかな。

 

 いえ。これは余計な感傷ね。

 本当に欲しいモノのためならなんだって犠牲にすると決めたのだから。

 だから、泣く権利だってわたしは持っていないのだ。

 

 

「随分と粘るのね、あなた」

 

 

 抑止の守護者は案外粘り続ける。

 文字通りこの世界の終わりともなれば当然なのだけど、少し鬱陶しく感じる。

 早く二人きりになりたい。この、煩わしくも心躍る時間はデート前のそれに似ているような気がする。

 とすれば、今のこれはデートに着ていく服を決めているようなものね。

 

 

「でも、もうお終い」

 

 

 段々と守護者の動きも鈍くなっていく。

 物量で押し込めるようにして遠くへと流してしまう。

 これでようやく、二人きり。

 

 と、思ったのだけど。

 残念なことに時間が来てしまった。

 まあでも、楽しみは後に取っておきましょうか。

 

 

 それじゃあ――また会いましょう。




第一部最終回の前に実はこんなことがありました、って感じで。
え?どゆこと?ってなった人は感想で聞いてくれれば答えます。
納得していただけるかは分かりませんが……


今更ながら、聖杯戦争が終結した状態で願いを叶えずにそのまま保持していたらどうなるのかとか全然考えていなかった……
しかもちゃっかり東京のど真ん中で聖杯の起動してますけどこれ無理なんじゃね……?
ガバガバですけど、うん。
不都合な所はキングストーンフラッシュ並みに便利な根源のちからということで、どうか。

次の話は?

  • スイート
  • ノーマル
  • ビター
  • デーモンコア

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