幼馴染が根源の姫だった件   作:ななせせせ

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やろうと思えばそれこそいつまでも続けられるのですが、現段階の構想ではあと数話で終わりになってます。
長く読みたいという方が多ければ少し話の構成を変えて長くしようかな、と考えています

10/12 修整




 懐かしさを覚えながら廊下を進み、一階へと足を進める。本当に、久しぶりすぎて感動すらしている。来なくなったのは――うん、小学校を卒業してからというのは間違いない。情けない話だが、ここに来ているような時間もないほどに勉強しなければいけなかったのだ。

 

 下に近づくにしたがって包丁がまな板を叩く音、何かを揚げる音、それから、きゃいきゃいと楽しそうな声が聞こえてくる。

 

 食卓についているのは広樹さんのみ。どうやら二人は料理しているらしく、声は台所の方からしていた。

 昔来ていた頃と同じ椅子があることに小さく感動しつつ、それに座った。

 

 1900年代後半のこの時期にスマホなんて便利なものがあるはずもなく、無言で食卓を囲み、虚空に視線を向ける男二人という微妙な構図が出来上がっていた。

 

 ちら、と広樹さんの方に目をやるとあちらもこちらを見ていたらしく、二人して慌てて目を逸らす。何をやっているかって? 俺にも分からない。

 

 不意に広樹さんが口を開く。

 

 

「……その、なんだ。勉強は大変だろうが……たまには、顔を見せに来るといい」

「……はい」

 

 

 実際はそんな簡単な話じゃない。目指す地点の高さと地頭の悪さのために、俺は勉強量が必要なのだ。それはいっそのこと諦めればいいのでは? というような壁だが、誰よりも俺自身がそれを認めたくないのだから仕方がない。

 だからこそ、中学からはここに来ることなく、勉強をし続けたのだから。

 

 

「……積もる話もある。夕食が終わったら少し付き合ってもらえるか」

「まだ未成年なので飲むことは出来ませんが、お注ぎします」

 

 

 ちょうど会話に一区切りのついたそのタイミングで幼馴染様がリトルマイエンジェル綾香と一緒に料理を運んでくる。

 

 記憶にある小さな頃の綾香も可愛かったのだが、成長した今はより可愛くなっている。もはや可愛すぎて凶器になっている。なんてことだ、これでは世界中のロリコンに狙われてしまう。

 

 と、表情には一切出さずに考える俺の前で綾香が腕を広げ、所謂抱っこしてのポーズをとる。ああ、いいだろう。撫での時間だ。

 ファ〇リーズしてるから加齢臭も気にならないはず……!

 

 

「お兄ちゃーん!!」

「おーよしよし、久しぶりだなー。大きくなったなー可愛いなーうりうり」

 

 

 脇の下に手を入れて抱き上げ、力に気を付けながら抱きしめるとそのまま頭をわしゃわしゃと撫でてやる。可愛い。ほんと可愛い。

 

 

「あうあうあう……髪型がくーずーれーるー!」

「はっはっは」

 

 

 もう十一歳なのだ。時経つの早いよなぁ……俺もまたすぐにおっさんになるんだろう。今生では結婚出来るかも怪しいところだが、出来れば優しくて可愛くて料理が出来るファ〇リーズを欠かさない人がいいな。

 

 

「……ふぅ。そろそろ食べようか」

「えっ!?今の何だったの!?」

 

 

 綾香が愕然とするのを優しく撫でて誤魔化し、席に着く。

 隣に幼馴染様が座るが、なんでそんなに引き攣った笑みを浮かべているんだ……? なにか怒らせるようなことは……リトルスウィートプリンセス綾香か。やべぇ、死んだわ。

 

 表情筋を動かすことなく顔面を蒼白にした俺に構うことなく、広樹さんが手を合わせる。

 それに続いて二人も合わせたのに倣って俺も手を合わせる。

 

 

「ではいただくとしよう」

 

 

 その一言を合図に、夕食が始まった。

 

 

 

 

 ――意外にも、最後の晩餐は静かに終わった。流石は完璧超人の幼馴染様が作っただけあってそんじょそこらの料理店のものとは比べ物にならない味だった。

 

 

「彼とは二人きりで話しがしたい。……悪いが席を外してくれ」

「はい」

 

 

 ラブリーアワープリンセス綾香は不服そうだったが、幼馴染様に促されて上の階に向かう。

 俺の方も、俺の死が遠のいたことに安堵する気持ちはあるが、幼馴染様とはまた違った絶望がやってきていた。

 

 広樹さんがワインボトルと薄黄色の飲み物を手に台所から戻ってくる。

 

 

「……すまないが、うちにはこれくらいしかなくてな」

「あ、いえ。すいませんありがとうございます」

 

 

 どうやら果汁100%リンゴジュースのようだ。未成年者に対しての気遣いが出来る広樹さんは出来る大人。

 

 

「……」

 

 

 喉は乾いていないので目の前の飲み物には手を付けず、広樹さんの話を待つ。少しの間を置いて、ワインを呷ると口を開いた。

 

 

「……君は」

「はい」

 

 

 ワインを呷る。無表情は変わらない。

 

 

「……いつになったらお義父さんと呼んでくれるんだ……!」

「いろんな意味で無理ですよ! ていうかそれでいいんですか!? もっとこう、娘はやらん! とかあるでしょう!?」

「綾香はやらん!」

 

 

 よく見れば顔はほんのりと赤くなっており、酔っていることは明らかだった。広樹さんはやたらと酒に弱いのだ。

 

 

「愛歌と付き合っていられるのは君ぐらいなんだよ……! あの愛歌があれだけ心を許しているのは君以外にいない……! 分かったらさっさと結婚するんだ!」

「ほんと面倒くさいなこの人! あーほらグラス空いてますよ」

 

 

 グラスにワインを注ぐとすぐに呷る。弱いのになぜか飲むのは早く、それゆえ――

 

 

「うっ……!」

 

 

 ダウンするのも早い。

 口元を押さえるとトイレへと走っていく。昔のままならこのまま部屋に戻り、記憶が飛んだ広樹さんは朝に痛む頭を抱えて降りてくることになる。

 

 酒が入ると昔からそうだった。変な方向に振り切れた親バカというべきか、よく幼馴染様との結婚を勧めてきた。なんでなのかは未だによく分かっていない。

 

 

「あー、もう。片づけるの誰だと思ってんだあの人……」

 

 

 軽い苛立ちを飲み込むように、リンゴジュースを一気に呷る。焼けつくような熱さが喉元を通り過ぎた。

 

 ――すごく気持ちがよくなってきた。頭がふわふわする。暑くなったので上着を脱いで適当に放った。

 うん。いい感じだ。今までにないくらい気分がいい。ボトルは――シードルとかあるけどこれだろうか。色似てるしきっとこれだろう。

 呷る。ああ、今なら愛歌だろうがなんだろうが許せる。

 

 不意にドアの開く音がしたので顔を向けると、濡れた髪を揺らしながら、上気した顔の愛歌が入ってきたところだった。

 

 

「お父さんは……もう潰れたのね」

「多分、トイレ出て今は部屋で倒れてるだろうな。……まあ、座れよ」

「え、うん……」

 

 

 横に腰かけた愛歌の顔をじっと見つめる。金色の髪も、宝石のような瞳も、白いすべすべの肌も――すべてが愛おしい。

 

 

「な、なんかいつもと雰囲気が違うわ……」

「……そうか? 例えば、どんな風に?」

「え、ええと……うひゃあ!」

 

 

 脇に手を差し込んで持ち上げ、膝に乗せる。ひんやりとしてすべすべの愛歌の肌が気持ちいい。サラサラの金髪を弄びながら撫でる。

 

 

「ふ、ふぁぁぁぁぁ……」

「愛歌は可愛いな……食べたくなる」

「え、えええ!? それってまさか……!? こ、こんなところで!?」

 

 

 なんか喚いているが、うるさい口は塞いでしまうに限る。

 抱きすくめた愛歌の身体をソファに横たえ、上から愛歌の顔を覗き込む。ずいぶんと顔が真っ赤になっているが風邪だろうか。だとしたら不味い。温めてやらなければ。

 

 

「ああ、ごめんなさい綾香。でも選ばれたのはお姉ちゃんなの……! やっぱり釣り合いが取れてなきゃいけないわよね!」

 

 

 突然わけの分からないことを言い出したし、やっぱり塞ぐか。愛歌の小さな身体に覆いかぶさって再確認したが、こいつはやっぱり小さい。成長はしているのだが。

 

 

「え、大丈夫よね私。お風呂入ったし……あーー!! だめだめ、ちょっと待ってほんと待って!!」

「うぐっ……!」

「あ」

 

 

 

 

 ――突然の浮遊感。愛歌によって吹き飛ばされたのだと理解した直後、床に叩きつけられて意識が闇に溶けた。




今思ったんですけどこの主人公意識失うとか多いですね……

次の話は?

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  • ビター
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