キャットファイトの裏であいつは……?っていう話です。
何度か言っていますが、この第三部は本来ありえないというかIFルートというか、剪定事象みたいなやつです。
まあ、順当にいけばどれだけ障害があっても最終的に愛歌ルートに回帰するから仕方ないね。
――夢を見ている。
決まって出てくるのはあの日のどうしようもなく惨めな自分。
何よりも大切だった愛歌から逃げ出し、何もかもを投げ出し、放り捨てた畜生にも劣る性根が露呈した瞬間。
――夢を、見ている。
それを自分自身でどうしようもなく理解しているからか。
続くのも毎回、愛歌が追いかけてきて仲直りするなんていう
くだらない、と自嘲する。
自分から投げ捨てて踏みにじっておきながら、あの時ああだったら、こうであったならと壊れた幻想に縋っている。
愛歌が追いかけてこないことなんて分かり切っていたことだろうに。
元より、沙条愛歌という少女は己を見ていないはずなのだから。
自分という異分子が混入しているせいなのか、はたまた別の時空だからなのか聖杯戦争は起こらず、セイバーは召喚されることなく終わったが。
だからといって、あの根源接続者が俺のような凡人を見るはずもない。
「――ああ、そうだよ。分かってたさ。あいつに出会うその前から分かり切っていたことだった。この物語は沙条愛歌と沙条綾香、それに……セイバーの物語だ。俺のような凡人がいること自体がイレギュラーなんだって」
いや、まったく女々しいものだ。
身の程知らずの恋に身を焦がして、勝手に挫折して、勝手に自暴自棄になって。それでいて未練を捨てきれないのだから、我が事ながら寒気がする。
あの日から数年が経過して、愛歌がいない生活にもようやく慣れ始めたというのに。
それでも、まだ。
――夢を、見続けている。
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寝覚めは最悪だった。
……というか、いつもそうだった。
体中汗でべたべたとしていて、おまけに頭はがんがんと痛みを訴えてくる。
酔い、なのだろう。
「あ”ぁぁ……あったまいてぇ……」
大学生になって、成人して。
それですぐに覚えたのは酒だった。
段々と思考が薄れて消えていく感覚は、何をしていてもあいつのことを考えてしまう自分が溺れるのも無理はなく。
気付けば大学とバイト、それからたまに顔を見せに行く沙条家や玲瓏館家を除けばずっと家に籠って昼から酒を飲む駄目人間が出来上がっていた。
その生活は大学卒業後も続いて、次の日に仕事がなければ朝から二日酔いに苦しむほど酒を浴びるように飲んでいる。
依存症一歩手前、いや――もう依存しているのか。
なんにせよ、もう何もかもがどうでもいいという感情だけがいつも渦巻いている。
「……はぁ、風呂入ってくるか」
どうせ明日はシフトが入っていない日だが、流石に汗くらいは流しておきたい……と思ったのだが。
不意に鳴ったインターホンのチャイム音でそれは阻まれることになった。
こんな平日の夜に訪問してくるような人間だ。
当然、ある程度は限られてくるわけで――
「おーす遊びにき、うわ酒くさ」
「青木……お前今日伊藤さんと出かけるって言ってなかったか?」
「向こうの仕事の都合で今日はいけなくなった。ので、急遽お前の家に来たわけだ」
「そりゃご愁傷様。シャワー浴びてくるから適当にくつろいでてくれ」
「おー」
互いに気を遣わない仲とはいえ(一応)友人が来ているわけだし、さっと汗を流すだけで終わらせ、部屋に戻る――と放置したままのビール缶が片づけられていた。
「悪いな、片づけさせて」
「別にそれはいいけど、なんか最近量増えてないか? あんまり飲みすぎると体によくないぞ」
「お前はオカンか」
青木とは、高校を卒業して別々の大学に行ってもなおその友人関係が途切れることはなく――こうして週に一回程度は必ず顔を合わせるくらいの付き合いが続いていた。
「俺はお前が心配だよ……あんなにいい子ちゃんだったお前が今じゃこうして駄目人間に転落の一途だぞ?」
「失礼なやつだな……これでも仕事が出来て人当たりもいい模範的な店員で通っているんだが」
「どうだかな。仮にそうだとしても別にお前がそうしようって思ったわけじゃないだろ?」
一蹴しやがった。
それ以外にやることもなく、ただ惰性でこれまでと同じように生活していた結果としてそうなっているだけで、俺自身の意志でそうしようと思っていたわけではないが……なんでこいつこんなに俺のことを理解してるんだ?
溜息が一つ。
そうして、青木は滔々と言い聞かせるように話し始める。
「……なあ。もう八年だ」
ぴくり、と。
指先が反応したことに果たして気付かれただろうか。
「青木」
「いい加減にしろよ。いつまで昔の失恋を引きずってんだ」
「青木、そこまでだ。お前と喧嘩はしたくない」
それは間違いなく俺の本心で、青木もそう思っていることは間違いないだろうが――
「俺はむしろしたいね。思えばお前とは一度も喧嘩したことがない」
どこか皮肉気な笑みを浮かべながら、そう言い放った。
「ふざけるのも大概に――」
「ふざけてるのはお前だろ。一途にずっと同じ女を思ってます? ああいいよな感動的だね。まさに悲恋だ。本でも書いて映画化を目指すか?」
考える間もなかった。
自分が動いたことを、胸倉をつかみ上げたところでようやく認識する。
この八年、まともに動いていなかった感情が無理矢理押し出されたような感覚。
「黙れよ。お前に何が分かるっていうんだ? 焦がれて、焦がれ続けて――それでも届かない想いが、この苦しみが、お前に分かるわけないよな?」
「黙らない。結局さ、お前は酔ってるだけなんだよ。失恋した――違うな、失恋したと思い込んでいる自分に。沙条愛歌が好き? 愛してる? ああそうだろうさ。そんなことお前らと何年もいた俺は知ってる」
――でも、と。
「それがどうしたよ。ならなんで沙条を止めなかった。なんで一緒にいて欲しいって言わなかった。どうして自分もついていくって言わなかったんだよ!」
「……っ、それ、は……」
「お前は! 沙条愛歌に選んでもらえると思ってたんだろ⁉ あいつの方から手を伸ばしてくれるなんて都合のいい話を求めてたんだろ⁉ 違うかよ⁉」
「っるせえよ!!」
――図星だった、のだ。
だから否定することも出来ず、さりとて己の醜さを直視したくないが故に拒絶した。
鈍痛が走る拳と、口元を押さえる青木。
やってしまった。
今の俺は――最低最悪だ。
沸々と湧き上がる自己嫌悪と共に、どうせなら全部吐き出してしまえという妙な強迫観念があった。
「ああ、そうだよ! 俺は――俺は最低のクソ野郎だった! 自分から伝えて失敗するのを恐れて、全部向こうから動いてくれるのを待ってた! どうしようもないクズだ! あれこれ理由つけて理屈捏ねて、臆病に逃げ回ってた大馬鹿野郎だ!」
一度口にしてしまえば。
自覚していなかったようで、自覚していた自分のみっともない部分がずるずると明るみに曝される。
――そうだ。
そもそも、この俺自身が間違っていたんじゃないか。
「はっ、図星かよ。どうせまだ諦めきれないんだろ? いつか沙条が帰ってきて、自分を選んでくれるなんて幻想に縋ってんだろ? 滑稽で無様だなぁ! お前は巣立ちも出来ない雛鳥ちゃんか? 自分の口から伝えることも出来なかったチキンだから当然か!」
「お前っ――」
鎮火しかかっていた怒りがもう一度燃え上がりかけ、
「――俺が知ってるお前は! 誰よりも真っすぐだった! 誰よりも強かった! 誰よりも優しくて、格好いい男だった! 自分のために誰かの想いを踏みにじることなんてしなかった!」
それは、殴られるよりも苦しい――言の刃だった。
とっくに気付いていた。分かっていた。見て見ぬふりをしていた。
その熱量も、その苦しみも、その痛みも。
全部知っていながら――それでも、俺は。
殴ったときに切れたらしい口の端から血を垂らしながら、爛々と輝く目でこちらを睨みつけるこいつは――あの頃から、誰よりも俺たちを応援してくれていたのだ。
それ以上に、きっと。
誰よりも他人の幸せを願っていたんだろう。
「とっくに気付いてんだろ⁉ 綾香ちゃんも玲瓏館さんも、誰のことを考えてるのか、誰を想っているのか――!!」
「それ、は……」
「あーもうこの期に及んでまだうじうじすんのかよ⁉ いいから行け! 走れ! どんな結末でもいい! きちんと――
半ば蹴り出すように、外へと送り出される。
まだ何も結論は出ていないが――いや。
とっくの昔に答えは出ていた。
ただ、それを口に出す勇気がなかっただけだ。
「――すまん、ありがとう」
「世話の焼ける親友だぜ、まったく」
いつまでも止まったままじゃいられない。
たとえどんな痛みが付きまとっても、前に進むしかない。
――そうだよな、愛歌。
キャットファイトの裏で青春をしていた男たち。
部屋の中でやってますがまあ、他に入居者もいなかったということで一つ。
こういうの好きなんで手がとても進んで結果文字数が増えてしまいましたね
で、まあそれはそれとしてここからもエンド分岐があって、AルートMルートHルートがあるんですよね。
……どうしよっかな
あ、あとFGOACでプロトマーリン引けたのでなんか書きます。描くになるかもしれない。
第三部のメインヒロインは?
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沙条愛歌
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愛歌ちゃん様
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根源接続ラスボス系お姉ちゃん
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半ゾンビファブリーズ