当たって嬉しいのと自慢したい気持ちは私も痛いほど分かるのですが、そこをなんとかこらえていただければ……
ついでに今回大分きついです。砂糖を吐くための前段階なので超シリアス……!
10/12 修整
善は急げ、という言葉もあることだし、相手の子も出来れば早く返事を貰いたいだろう、という判断から巽さんに相談した次の日――つまりは俺が沙条愛歌に襲われた日に俺は返事を返すことにした。
差出人の生徒は同じクラスのちょっと可愛い感じの女の子だ。正直、前世であれば告白などされようものなら飛び上がって喜び、二つ返事で受け入れたところだろう。
だが、小さい頃からずっと沙条愛歌という規格外の美貌を持つ少女と共にいたためか、心が揺れることもなく。それよりも沙条愛歌の傍を離れることのリスクの大きさが怖かった。
だからこそ断ることに決めたのだが、前世でもそんなに人生経験を積んだわけではなかった俺が果たしてイマドキJKを傷つけずに振る方法を知っているとお思いだろうか。……答えは否。
灰色の脳細胞を総動員して考えたがこれといっていいのが見つからず、悩んでいたところでの巽さんの提案だった。
前日の晩に用意した呼び出しの手紙を机の中に入れ、放課後を待ち、あとは相手の生徒を待つだけ……と、思っていたところで予想外の事態が起こる。
指定した場所にいるはずのない人物がいた時ほど怖いときはないよね、っていう。
「……なんでここにいるか、理由くらいは知りたいでしょう?」
「ああ、そうだな。なぜ俺がここに来るか……というより、なぜ俺がここに人を呼び出したことを知っているんだ、
呼び出した時間よりもちょっと早めに屋上に向かった俺の前に立っていたのは、いろんな意味で予想通りというべきか、沙条愛歌その人である。最近は話すことすらほぼなかったような関係の幼馴染様が一体この俺になんの用なのか。
いつもの超然とした様子を崩さないなかに僅かな苛立ちの感情が見え隠れする。珍しく思いつつも、喧嘩腰の幼馴染様に触発されてこちらの表情も自然に険しくなる。
「本人が教えてくれたの。あなたに呼び出された、って」
「はっ……どうやって聞き出したのかは聞かないでおくが、これは俺と彼女との問題だ。沙条、お前が出てくる幕はない」
俺のそんな言葉に幼馴染様の顔が歪む。怒りと、悲しみと、狂気を孕んだ表情。今にも東京を滅ぼしてやるとでも言わんばかりのその表情に、ずきりと胸の奥が痛んだ。
だが、こればかりはどうしても沙条愛歌という人間が介在する余地のない問題だった。
「……そう。そうなるのね。これは
「何の話か知らないが、そろそろ時間だ」
その言葉に幼馴染様の肩が震える。
……俺は、何一つ間違っちゃいないはずだ。なのにどうして、こんなにも苦しいのだろうか。なんでこんなにも、泣きたくなるのだろう。
やがてゆっくりと幼馴染様が俺の背後にある扉へと歩き出す。
すれ違いざま、
「――あなたがそう来るなら、わたしもなりふり構わない。終わったら教室に来て」
という一言を残して校舎内に姿を消した。
結局、俺は何かを間違えたのだろう。どこで間違えたのか、何を間違えたのか、どうすれば良かったのかなんて分からない。前世でだってそう人間関係がうまくいっていたわけではなかったのだ。より複雑な今生において最適解を出せるわけがなかった。
それでも。愛歌の目尻に溜まっていた液体は俺が望んだ結果ではなかった。何が間違っていたのかも分からないが、泣かせてしまったことを謝るべきだ。ちょうど呼ばれたことだし、教室に行ったらすぐに謝って、それで話をしよう。
……それくらいなら大丈夫なはずだ。
そう決意して数分。パタパタと走る音が聞こえ、すぐにこの屋上へと通じる扉が開かれた。
よほど急いで走ってきたのか、顔を真っ赤にし、息も絶え絶えにやってきた女子生徒は間違いなく、俺の待ち人である。……というか大丈夫なのかあれ。過呼吸になってないだろうか。
しばらくしてからようやく呼吸が整ったのか、強張った表情をこちらに向けてきた。
「え、えと、その、ほんとに迷惑だとは思うんですけど……お返事を頂けるっていうことで、あの、もしダメでも全然気にしませんから!」
そう言いつつも半泣きになっていく。非常に申し訳ないが、巽さんの提案どおりに振らさせてもらおう。……緊張の余り手汗が滲んできた。
「あー、その。結論から言うけど、さ」
「はい……!」
「……君と付き合うことは、出来ない」
「……っ」
たった一言。それは女子生徒の心を抉り、すぐに涙を溢れさせる。直視することは辛いが、俺が招いた結果から目を背けていいはずもない。しっかりと、自分のやったことを焼きつけなければならない。
「……ぅ、ふぐっ、りゆう、きいても、いいですか……?」
ああ。やはり来るか。
「まあ、その。実は、好きな人がいるんだ」
「っ……やっぱり、そうですよね。無理だろうな、っていうのは分かってたんです。それでも、この想いを伝えたくて……すみません、迷惑でしたよね」
「迷惑、ってわけじゃないけど……ごめんな」
そう言うと泣きながら、それでも気丈に顔を上げて、必死に笑顔を作ろうとした。結果的には失敗して引き攣っているだけのものになったが、それを笑うことなど出来るはずもない。
「いえ、ちゃんと返事をくれただけでも充分嬉しかったです。愛歌さんとうまくいくといいですね……!」
――は? なぜ、ここで幼馴染様の名前が出てくるんだ?
「大丈夫です! 愛歌さんのことが好きなんだろうな、っていうことはみんな分かってますから!」
いや、待て、おかしいだろう。どこから俺が愛歌を好きだなんて話が出てきた。そんなはず、あるわけないだろう。だってあいつはセイバーだけしか見えないはずで、根源の姫で、ラスボスで、そんなあいつを――俺が好きだって?
否定しようと口を開くが、ひゅう、と息が漏れるだけで具体的な言葉を発することが出来ない。
顔が物凄く熱い。赤くなっているだろうことは間違いなく、そんな顔を見られたくなくて手で覆った。
そんな俺の様子に気付くことなく、彼女はボロボロ泣きながらお辞儀をした。
「本当に、ごめんなさい。それから、ありがとうございました」
そう言い残すとすぐに走って屋上を後にする。
あとに残されるのは、開けてはいけない箱の中身を見てしまったような、ずっと隠していたものを見つけたような、そんな気持ちを持て余す俺。
「……俺は、愛歌が好き、なのか」
顔の熱さはしばらく引きそうになかった。
よっしこれであとは砂糖吐くだけの作業に戻れるぞ!
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