幼馴染が根源の姫だった件   作:ななせせせ

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やべぇ……この回で終わらせようと思ってたのに終わらなくてやべぇ……

このまま最終話書いちゃいます

10/12 修整




 顔の熱さが引いた後、理由が分からないながらも泣かせてしまったことを謝るために教室に向かう。こうして言葉にすれば簡単だが、そう出来るまでにどれだけの時間と労力がかかったかは言うまでもないだろう。

 

 あの生徒の告白を断った時間は永遠にも感じられるほどのものだったにも関わらず、未だ陽は高くあった。それだけ緊張していた、ということなのだろう。思い返せば、前世でも告白をされた経験はなかった。そりゃ緊張もするし、動揺するはずだ。

 

 呼び出された教室、というのは恐らく俺たちの教室だろう。三歳で出会ってからずっと学校は同じところだし、何故かクラスも大体一緒だった。……今更に過ぎる思いはあるが、おかしくね? 小学校から中学、高校とほぼ同じクラスとかありえない事態だ。

唯一、中学時代に一回だけ違うクラスになったけど……まあ、それにしてもだ。

 

 

「……っ、はは」

 

 

 なんて、誤魔化してみたものの。頭の中をぐるぐると駆け巡るのは、あの沙条愛歌を泣かせてしまったという罪悪感。あの女子生徒を振っている時でさえ頭を離れなかった現実。考えただけでこの心臓を抉り出したくなるような怒りが湧き出る、俺にとっての禁忌。

 

 結局のところ、『俺』という人間は沙条愛歌が好きで、好きで、好きで――狂ってしまうほどに、いや、狂っているほどに好きでたまらないのだ。

 それは、いい。この気持ちは、ずっと蓋をしていたこの感情は認めよう。けれども……知られるわけにはいかない。あの幼馴染様(・・・・)との関係はこれでいい。

 

 

「……ああ。これでいい。この気持ちは、俺が死ぬその時まで――」

 

 

 決意が完了するのとほぼ時を同じくして、教室の扉前に辿り着いた。考え事をしていたせいか、誰かとすれ違った記憶がないような……?

 まあ、気にすることでもない。あの幼馴染様が何をしたって俺は受け入れよう。流石に東京を滅ぼすのはやめていただきたいが、誰かに被害が行かないのであれば別に何をしようが構わない。

 

 ため息一つ。肺を空にしてもう一度空気を取り込んだところで扉を開けた。

 

 ちょうど西日が差し込んで橙色に染まった教室で、こちらに背を向けて立つその姿はまるで天使のように美しく、知らず顔に血が上っていく。

 

 必死に平常心と真顔を取り繕いながら、パンドラの箱からようやく解放された感情を押しとどめる。

 苦労しながら心を抑えつけ、まずは謝ろうと口を開いた。

 

 

「……沙条。その、俺には理由も分からないし、どうすれば良かったのかも分かっていない。それでも謝らせてほしい。沙条を泣かせたことは――傷つけてしまったことは、俺の所為だとは分かっているから……すまなかった」

 

 

 言っているうちに涙がこぼれたが、構わず頭を下げた。これだけは通さなくてはならないスジというものだ。

 しばらく下げていても返事がない。ああ、やはりな、と思ったところでくすくすという鈴の音の鳴るような笑い声がした。

 

 

「ふふっ……あなたはいつもそうね。頑固で、見栄っ張りで、怖がりで――なのに、蕩けるほどにお人好しで、優しい。……ね、頭を上げて? 全然気にしていないの。少しだけ傷ついたのも事実だけれど……それよりも嬉しいことがさっきあったから、もういいの」

「……そう、か。ありがとう。沙条はいつもそうだな。余裕で、超然として、絶対だ」

「そうでもないのよ? ただ、好きな人にはいつも見てほしい自分だけを見ていてほしいもの」

 

 

 不意に。振り返った幼馴染様が黒板の方に歩いていく。並んだ机の一つ一つを細く白い指先で撫でながら、踊るように。

 ああ、やはり妖精のようだ。であれば、やはり愚か者の前に現れた幻想(フェアリーテイル)か。愚か者には決してつかむことの出来ない、幻想の恋人。つまり二次元。

 

 こちらからは背中しか見えない幼馴染様の動きが止まり、何事かを呟く。

 

 

「むっ……心外だわ……やっぱり教科書(薄い本)の通り、攻めていくのが正解なのかもしれないわね……」

 

 

 なにやら不穏な空気を感じ取って後ずさろうとしたところで、幼馴染様はこちらに振り返り、後ろ手を組みながら接近してきた。

 

 

「ちょ、待て。何をするつもりだ」

「ナニをするって……決まっているわ」

 

 

 妖しい笑みを浮かべながら距離を詰めてくるのに対して、俺は後ずさっていく。

 そうして、ここが現在俺たち二人しかいないという事実を思い出し、絶望する。抵抗することはまずできないだろう。心はずっと抱きしめたいと、その先まで行きたいと願っていたのだから。

 

 だからこそ、その言葉が放たれたときに俺は反射的に答えたのだ。

 

 

「……ねえ? ここでシてみましょうか?」

「やめてくださいしんでしまいます」

 

 

 

 

 ――と、ここまでが前日までに起きた出来事だ。

 きっかけは、俺が告白されたこと。変化は、幼馴染様に対する好意を自覚してしまったこと、それから幼馴染様の行動の積極化。たった一日で世界は一変してしまったというわけだ。

 もう、沙条愛歌の傍に居続けることも難しい。まさかこんな形で役に立つとは思わなかったが、用意しといたのは正解だったといえるだろう。

 

 

「ん、とりあえずは東北の方に行こう」

 

 

 なんといってもリンゴの産地が近く、山も多い。隠れるにはうってつけと言えよう。

 親や巽さんには迷惑をかけてしまうことになるが――それでも。

 

 些細な仕草の一つ一つで、大きく流されそうになってしまう。その度に必死で抵抗しているが、正直もう持たないかもしれない。

 だってしょうがないだろう。好きなのだから。沙条愛歌という人物のすべてが、愛おしいのだから。

 

 それでも流されるわけにはいかない。この想いを知られるわけにはいかない。

 

 今まで必死に取り繕ってきた『俺』という人物は――どうしようもない、凡人であることを知られることだけは、耐えられない。




(ほんとめんどくせぇなこの気絶王)って思ったら仲間

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