※にじファン時代とは一話の内容が異なります。
きちんとにじファン時代の一話は載せますので、安心してくださいby作者。
pixiv版とは一話の内容が異なっております。
あちらの方がにじファン時代の第一話ですので、早めに読みたい方はpixivへGO!
イズモ地方の高山地帯に建てられた。第十三階層都市『カグツチ』。
かつて黒き獣の襲来によって、有害物質である魔素が大量に産まれた。
この魔素は短期間で地上のあらゆる部分を覆い尽くし、現在の人類は地上での生活ができない状態となっている。
その状況を打破するため、人類は地上から遠く離れた高山地帯に都市を建設した。これが現在の階層都市である。
いくつかある階層都市、その中の十三番目に出来た階層都市、それがカグツチである。
カグツチに限らず、地上の魔素から最も離れた階層都市の最上層うにはこの世界を牛耳る巨大組織、『世界虚空情報統制機構』――統制機構の支部が建てられている。
そしてそこから一つ位の下にある上層部には、富裕の貴族や統制機構の関係者が住まう。
そこからさらに下の、下層部には貧困な物、難民、原住民族が多く暮らしている。
裕福な物は危険な魔素から最も離れた所で下の者を見下し続けている。そしてその上にいる統制機構こそが、この世界の全てを牛耳っているというのが、この世界の現状である。
そんな世界を支配している統制機構、その組織に属する一人の少女は、久しぶりのこの"舞台"に……心を躍らせていた。
「いやぁ、去年の七月から約一年。休んでいた分また頑張らないといけないですね~」
その少女の名はノエル・ヴァーミリオン。
統制機構第四師団に属する。階級は少尉、士官学校を卒業した立派な衛士である。
青と白の軍服を身にまとい、その長い金髪は帽子の中に隠している。
少女らしいその顔立ちは、実年齢よりも少し幼げに見える。
閉ざされた舞台から"約一年"経った今でも、少女は何も変わっていない。
ドジだが仕事熱心で頑張りやなところも、料理が殺人的に下手くそなところも。
「さてと、ラグナさんは元気かな。一年経ってさらに強くなってたらどうしよう」
ノエルが口に出した。ラグナという名前。
それはノエル達統制機構が追う犯罪者であり、そしてかつて黒き獣から人類を救った六英雄の一人でもあり。
そして、なんだかんだでこのカグツチの住民から愛されている。尖った銀髪で人を食ったような顔をした、世界一馬鹿な犯罪者である。
そんな男にノエルは再会するために、男のいる路地へと向かう。
街中から出て住宅街、その中心にあるスナック『アルカード城』。
その近くの広い路地に、その男はいる。
「ラグナさん久しぶりです! ほらいつまでも休んでないで、"蒼魂"復活の時なんですよ!!」
そう、ノエルはいつもの場所で、ラグナに声をかける。
だが、そこにいた"男"の雰囲気は……何かが違っていた。
「ふっ。この舞台も久しぶりだな。にじファンが閉鎖されて約一年。ハーデス先生がpixivに移転して繋げている間に新作だのアニメ化だの……長い間に色々あったな……」
そうカグツチの景色を見ながら耽る男。
その銀髪――だがノエルの知っている銀髪とは違う。
上に尖っているのではなく、背中まで伸びている。
そしてその男の格好も、赤と黒のコートではない。
赤い鉢巻と白の胴着を着ている。原作でいう剣士という表現より、格闘家という表現がお似合いだ。
当然ノエルはそんな人物を知らない。ノエルはいつも彼のいた場所に居座るその男に声をかける。
「あ……あなた誰ですか!? 見知らぬ人がどうしてこんなところに!?」
そう驚き問いただすと、男は聞きなれた声でふっ……と笑い、ノエルにこう言葉を返した。
「変わってねぇなノエル。しっかしこの街並みと同じでおめぇも何一つ変わってねぇ。一体この一年てめぇはなにやってたんだ?」
「そ、その声は……」
「おいおい、休んでいる間に俺の顔まで忘れちまったってか?」
そう、その声はノエルの良く知る男の声。間違いない。
そして、男はノエルの方を振り向く。
「俺だよ俺、ラグナ・ザ・ブラッドエッジだよ」
そう名乗る男は、確かに本物のラグナである。
だが他の人がよく知るラグナとは、少し……というよりかなり印象が異なる。
まず髪の毛だが、ツンツンの銀髪がロン毛になっている。
そして頬には獣にでも引っ掻かれたような傷があり、格好も先述の格闘家スタイル。
この一年、ラグナは統制機構から逃げ回っていたというよりは、山に籠って修行していましたと言ったような、そんな雰囲気を漂わせる。
「誰ーーーーーーー!?」
無論、ノエルからすればラグナが変化しすぎなのか、人目で見てもラグナだと確証を得るには至らない。
思わずいつも通りにそうツッコミを入れる。それに対してラグナはというと、呑気にこう一年を振り返る。
「だからラグナだって。一年もすればこんだけ髪も伸びるだろ? てめぇ俺に床屋行くだけの金があると思ってんのか?」
「いやいやそりゃそうですけど! にしても変わりすぎでしょ!? 統制機構と戦うっていうよりシャ○ルーと戦ってたみたいになってるでしょ! 殺意の波動に目覚めたみたいになってるじゃないですか!!」
一年経っているとはいえ、明らかにラグナが別作品の主人公みたいになっているので、ノエルには何が何だか分かっていない。
そんなノエルに、ラグナは呆れたようにため息をついた。
「はぁ~。ったくおめぇまさかあの"約束"忘れたんじゃねぇだろうな?」
「約束?」
ラグナは約束と口にしたが、ノエルにはまったくと言っていいほど覚えがない。
「にじファンが閉鎖されたあと、俺ら打ち合わせしたじゃん?」
「いや、覚えてないんですけど……」
「新しい拠点が見つかるまでの空白の時間を使って、力を蓄えて必ず再会しようぜって……」
そう、かつてにじファンにて連載されていた蒼魂。
結局最終回まで書き切ることができず、打ち切りという形で終わってしまった蒼魂。
だがいつかは再会し、ハーデス先生と並んで最終回まで書き切ろうと内では計画していた蒼魂。
いつかの再会に向け、ラグナ、ノエル、ニューは別れ際にこう約束をしたのだった。
――二年後に、イカルガ地方で!!
「いや知らねぇーーーーーーーーーーーーー!!」
ノエルはそれらの全容を聞いても、約束をした覚えもむしろそんな約束があったことさえも身に覚えがなかった。
だがラグナはそのあるかどうかもわからない約束のために、こうして二年という空白の時間を修行に費やし、更に己に磨きをかけたのであった。
「つかイカルガ地方って、クロノファンタズマでもそんな時間経ってないからね!!」
「場所と時間なんてどうだっていいだろ? 大事なのは互換とインスピレーション」
「インスピレーションじゃねぇよ!! しかもそれ違う作品の約束! 誰もお前らの事なんて待ってないからね!!」
そうノエルは激しく抗議するのだが、ラグナからすればお構いなし。
むしろノエルがあまりにも変わり映えのないことに呆れを通り越して失望すら抱き始めていた。
「というか、一年の間にいったいどれだけのことをやればそこまで変わるんですか……」
「一年? なに言ってんだおめぇは……」
ノエルの言った"一年"という単語に、ラグナは静かな瞳をノエルに向けこう訂正する。
「言っておくけど実際は一年でもこの作品内では"二年"経っていることになってるからね」
「な、なんですかその引きのばし。嘘でしょ? だってこの作品タカマガハラでループしててあまり時間進まない設定のはずでは……」
「嘘じゃねぇよ。いつまでそんな初代の設定引っ張りつづけてんだこのバカ。俺の変わりようを見ればわかるだろうが」
そう、ラグナが当たり前のように決められことを説明するように言うのだが、ノエルにはまだ納得しきれていない。
そんな中、後ろの方からまたも聞きなれた声が二人の耳に入ってくる。
「ただいま~。今帰ったよ~」
そう甘く響き渡る声を、二人は知っている。
いつもラグナに甘えてばかりで、なのに三人の中では一番凶悪だった少女。
銀髪を後ろで結えた。眼帯をつけた赤目の少女……なのだが。
「やっほ~。久しぶりだね二人とも~」
いつもとは少し違い、なにやら勢いあるテンションで二人の元へ近づいてくる。
そこでノエルはあることに気がついた。
その少女はノエルよりも身長が小さかったはず。だが久しぶりに再会した少女はノエルを上から見下ろすまで身長が伸びていた。
160cmは優に越えている。そして格好も白のレオタードではなく青のチャイナ服。
そして髪型も三つ編みではなく白の布でお団子を作っており、キャラ像がライチと被ってしまっている。
「えっと……誰ですか? ライチさんの弟子かなにかですか?」
「誰って、私だよ私~」
そう言ってその少女は、つけていたグラサンを取り外すと。
そこからは、見慣れた赤い目がノエルに映り込んだ。
「ν-13だよ~」
「ニューちゃんーーーーーーーーー!?」
その人物は紛れもなくニュー。だがやっぱり外見だけではニューとは決めつけられない程変化してしまっている。
幼い外見も立派に成長しており、ライチ顔負けの大人の雰囲気を醸し出している。
どこかの国際警察のようなチャイナ服も良く似合っている。そしてそのふくよかな胸も、タオカカレベルにまで成長していた。
「え、えーーー!? ニューちゃん、いや……ニューさん!?」
「ノエルちゃんはまったく変わっていないようだね、ラグナは結構変わっているみたいだけど~」
ラグナ、そしてニュー。その二年という空白を得て、多大に変化した二人。
無理やり感は否めないが、もう両者ともブレイブルーのキャラを超越した、より長い歴史を持つ格ゲーのオーラを全身から湧き出していた。
そのオーラに圧倒されるノエル。だがそんなノエルに心配する様子も無しにニューは二年の疲れを口に出し始めた。
「もう長旅続きで疲れたよ。眠たい着替え用意してよもう寝る」
「いや、そんな悠長なこと言ってる場合じゃ……」
そうノエルが全部を言い終わる前に。
ニューは今までとは比べ物にならない早さのアクトパルサーを使い、高速移動は愚かチャイナ服からネグリジェに着替えまで終わらせたあげく、ノエルの頭の上に乗って見せた。
その瞬間的な速さを見せつけられ、ラグナはニューの成長に対抗心を抱く。
「速い、こいつ二年の間にネグリジェの似合う大人の女に成長してやがる」
「いやいやそんな冷静に言うことでもないでしょ!? つか頭の上に乗る意味あったんですか!?」
「ニュー、おめぇどこで修業してやがった?」
「色々あったんだよねぇ。急に夜中テレビ見てたら吸い込まれてP1グランプリなんてものに参加させられたり、あぁそこに土産あるから」
そうニューは他作品の事などお構いなしに修行の逸話を話し、買ってきた土産を指さす。
その動作とほぼ同時にラグナが姿を消す。するといつのまにか買ってきたお土産のまんじゅうを全て食いつくした上に、ノエルの頭の上に乗って見せた。
「お土産ってこれの事か。わりぃもう全部食っちまった」
先ほどのニューへのお返しなのか、今度はラグナが修業の成果を見せつけた。
「速い、土産を進める前にもう全部食べちゃうなんて。ラグナはこの二年の間にとんでもないいやしんぼに成長しちゃってるよ」
「いやそれ成長じゃねぇだろ!! つかあんたら人の上に乗らないと成長の成果見せられないのか!?」
二人の成長の実験台にされたノエル。
そしてラグナとニューは改めて修業の成果を噛みしめながら、これから先のブレイブルーに向けて意気込みを見せる。
「これで俺は大切な弟と妹を守れる力を手に入れたわけだ。大変だったが手に入る物も大きかったな」
「私もラグナに愛される立派な大人の女になれた気がするよ」
「ちょっと待ってーーーーーーーーーーーーーーー!!」
このままだと本気で取り残されてしまうと危機したノエルは、大声でこの現実の非情さを叫んだ。
「ちょっとこれマジなの!? 私の知らない間に二年の月日が経っていたなんて、そんな話全く聞いてないよ!! なんで私だけ取り残されてるんですか!!」
「怠けて家でパソコンとかネット通販とかやってるからそうなるんだ。努力ってのは人の見えない所でするもんなんだぜ」
「休止を利用して勝手に修業したことにしてるあんたらに言われたくねぇわ!!」
珍しく立派なことを言っても、やり方が汚すぎてノエルからすれば修業が劣化しているようにしか見えなかった。
だがどんな結果とはいえ、今こうして三人の中で変わっていないのはノエルただ一人だけ。
徐々にノエルの中から劣等感が生まれ始める。こんなやり方とは言え、こうなった以上は自分も二年の月日を得て生まれ変わった上で再会したかったと。
「そういや、デッドスパイクのやつまだ帰ってきてないのか。二年間あの技なしで生き抜くのは辛かったんだ、せめて二年分の力をつけてきてもらいたいもんだな」
「え、あんたの技まで修業しに行ったんですか!? つかそれどんな状況!? 自分で技鍛えるならまだしも技って勝手に修業してくるもんなんですか!?」
ラグナいわく、あの別れの際にデッドスパイクが一時的に離脱。
ラグナからすれば貴重な飛び道具、CS2では貴重なコンボパーツでありCPではようやく飛び道具らしい飛び道具となったラグナの生命線ともいう技。
それを失い二年。未だデッドスパイクは返ってこない。このままではラグナの性能に支障をきたす。
そんな不安もさながら、遠くからSEが聞こえてきた。
「お、この効果音は……」
聞き覚えのある効果音を頼りに、ラグナはその方向へと走っていく。
ラグナを追いニューとノエルも道の方へと向かう。
すると、そこには先ほど話題に出ていたデッドスパイクの姿が。
デッドスパイクは特に変わらない姿を三人に見せた。ひょっとしたら威力がアップしているとかあるかもしれないが、外見は何も変わっていない。
「なんだ、デッドスパイクは何も変わってないじゃないですか」
そう、ノエルが安心していると……。
メキメキ……。メキメキメキ……。
なにやらデッドスパイクが音を発して、邪悪なオーラを増大させている。
「え? なにこれ?」
ノエルがその不思議な状況を理解できないような眼で見つける。
デッドスパイクのオーラは徐々に膨れ上がり、やがて凶悪な獣の姿ではなく、人の姿を形作っていく。
ラグナとは正反対の黒い胴着、そして眼は血走るように赤く染まっている。
そしてそのオーラは、まぎれもない殺意の波動。
背中には『天』の文字が、その背景にも大きな天が映し出されている。
「とんでもない技使えるようになってるーーーーー!?」
それはどこかで見たことのある即死技。
デッドスパイクは二年の間に人の姿になる術を身に付けた挙句、コマンドは波動DからA・A・→・B・Aという特殊なコマンドへと変わってしまっている。
「デッドスパイクおめぇ、二年の間にディストーションドライブに進化したのか……」
「あんたそれでいいのか!? 気軽にもう使えねぇだろ! まるまる性能も異なってるし!!」
「成長したからでしょ? ねぇデッドスパイク~」
「成長っていうか全く別の技になってますけど!!」
今までは牽制やコンボの繋ぎとして幅広く愛されていたデッドスパイク。
だが二年経った今では、ゲージを100消費する投げ技へと変貌した。
ノエルはその仕様を心配しているが、ラグナとニューは満足しているようである。
『ノエル姉さん、なにやらワシはしでかしちまったようでもうしわけありやせん』
「姉さん!?」
なんとこのデッドスパイク、人間の言葉をしゃべられるまでに成長しているようだ。
ノエルの事を姉さんと呼び、成長の経緯を話し始めるデッドスパイク。
『ワシは主人であるラグナの兄貴のために必死に己の技を鍛えました。ところがその最中に殺意の波動に目覚め、気軽な技からゲージ100%を消費する危険な技へと変化してしまいました』
「いったいどんな修業したらそうなるんじゃ!!」
『心配しないでくだせえ、けじめはちゃんとつけます! この尾から伸びてる尻尾、この尻尾の一本や二本束ねてちょんぎって……』
「物騒なこと言わないで!! いいからそこまでしなくていいから!!」
人の形をしたデッドスパイクはけじめといっては尻尾を切って誠意を見せようとしている。
それを必死に制止するノエル。と、その際になにやらデッドスパイクの尻尾の先に、何かがついているのを発見した。
「なんだこれ?」
その何かをラグナが手に取る。
するとそこについていたのは、小さいデッドスパイクだった。
「小さいデッドスパイクがデッドスパイクの尻尾の先についてる!!」
『兄貴、姉さん。少し昔話をしていいですか?』
そうデッドスパイクは哀愁漂う顔を浮かべ、その全てを話し始めた。
『ワシは己の技の飛距離を伸ばすため、いずれは画面の端から端まで伸びる立派な飛び道具になるため、己の尾の部分を公園の砂場で焼き続けた』
「それ何の意味があるの?」
『来る日も来る日も特攻野郎Aチームを尻尾に見せ続ける』
「それ何の意味があるの!?」
最初から後半まで、飛距離を伸ばす修業とはあまり関係ない内容が飛び出る。
だが、その意味な下げな修業はある日、とある変化によって意味が生まれる。
やがてデッドスパイクの尾の部分には、イボができ始めた。
そのイボは日に日に大きくなっていき、それと同時にデッドスパイクは小さくなっていった。
それらの日が続いたある日、デッドスパイクは人間の姿になれる術を身に付けたのだった。
『自らのあるべき姿からその姿をイボへと変換する。偶然の産物とは言え、ワシはこの力を手に入れたのです』
「理解できるか!!」
どうにもその内容がややこしいというか、ツッコミどころが多すぎるのかノエルは激しくツッコミを入れた。
『このワシと普段のデッドスパイクは魂は違いますが、己の肉体で繋がっています。ハザマとテルミみたいなもんと思ってくれて結構です。いわば……イボ兄弟(異母兄弟)』
「うまくねぇよ!!」
うまく締めくくったつもりだが、ようはダジャレである。
こうしてラグナ、ニュー、デッドスパイクの三人は二年間の成長を形として露わした。
だがどうだろう、その中でノエルだけは、何も変わっていない。
料理もへたで、胸も成長していない。大人っぽくなったわけでもなく、ドジが治ったわけでもない。
たまに作るポエムも聞くに堪えないもの。そう、ノエルはこの三人に……完全に置いて行かれたのだった。
「ひどいですよ。私一人残してみんな好き勝手修業だの何だの成長して……認めない! 私は絶対に認めないーーー!!」
「おいまてナイチチ!!」
ノエルは己の劣等感に負け、その場から走り去ってしまった。
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「おなか……空いたなぁ」
路頭に迷い、オリエントタウンまで辿りついたノエル。
仲間の元へ帰ろうにも、またあの人たちを見れば成長していない自分と比較し、寂しい思いをしてしまう。
いったいどこへ行けば、この変わり果てた景色を抜け出し、いつも見慣れた景色にたどり着くことができるのか。
そうノエルが元気を無くしていた時、向こうから良く知る人物が歩いてきた。
「あら少尉さん、どうしたの元気なさそうね」
その人物とは、ライチ・フェイ・リン。
オリエントタウンで医者をしている人物。時よりノエルの姉のように、優しくしてくれる女性だ。
まだ子供を抜け出せていない自分とは違い、立派な大人の女性。胸が大きく、チャイナ服から時より見せる肌がアダルトさを演出している。
ノエルはそんなライチを見る。相変わらずの美人で思わず嫉妬してしまいそうになる。だが、この時ばかりはその相変わらずな彼女に安心感を覚えた。
「ライチさん。お久しぶりです。その……」
「どうしたの? ジロジロと見て」
「いえ、安心しました。ライチさんまで見違えるほどの変化をしてたら、私どうしようって思っちゃって」
ノエルはそう安堵し、今までのいきさつを話した。
久しぶりに会ったラグナやニューが、あげくのはてにデッドスパイクまでもが二年間の時を得て成長したこと。
そしてそれによって自分が取り残され、悲しみに暮れている事も。
「そう、辛かったわね」
「ライチさん、私怖いんです。何も見えない暗闇の中、私はみんなと光に向かって走っている。けどそんな中で、他の人たちは足が早くて、私よりはるか先へと進んじゃって。私だけ、取り残されちゃうんじゃないかって……」
「少尉さん。あなたは幸せ者ね。だって、暗闇の中でも進むべき目標が見えているんだもの。本当に寂しい人は進むべき場所も見えずに立ち止まっているもの、そして本当につらい人は……前も後ろもわからずに先頭を走っている人」
ライチはノエルに説く。ノエルはただ憧れの人を目指して進んでいればいいと。
それだけで幸せで、それよりも辛い道を歩んでいるであろう者もいることを。
ラグナは確かにノエルに合わせてくれるような優しい人ではないかもしれない、直線ではなく周り道が多い人かもしれない。
「ラグナさんはあなたにとっては敵かもしれない。けどあなたは、あの人の進む道に興味を持ったから、あの人の進むべき道が正しいと信じているから。ラグナさんについて行ってるんでしょ?」
「……」
「少尉さん、それは幸せなことよ。どんだけ離れてしまっていても、足さえ止めなければきっと見えるわ。だから頑張って、遅くはないわ少尉さん」
ライチは、ライチなりにノエルを励ます。
ライチは今まで必死に頑張ってきたノエルを見てきた。だからこそわかる。ノエルの成長は遅いだけで、止まっているわけではない。
今からでも間に合う。その足さえ止めなければ……。
「ライチさん、うぅ……ライチさーーーん!!」
その優しさに心打たれ、ノエルはライチに抱きつく。
その小さな少女の体を、優しい手がそっと抱き寄せる。
ライチと"バング"、二人の大人が必死に前を向き走る少女を、温かな気持ちで応援するのであった。
「それでこそノエル殿でござる!! 拙者も負けぬようこれからも漢の道を突き進むでござる!!」
「もうバングさんったら、張り切りすぎてあんまり私達を置いて行かないでくださいね。どこまでもついて行きますけど」
二人の温もりを感じて、ノエルの気持ちは晴れただろうか。
否、ライチの隣にいたむさいオーラが、ノエルの心を更に闇へと落としていく。
なぜライチの隣にバングがいたのか、そしてどうしてそこまでライチと友好的に接しているのか。
「がっはっはノエル殿、そんな立ち止まっていると置いて行くでござるよ~」
「まってバングさん~」
「ライチ殿、時に今日の晩御飯はなんでござるか?」
「今日はバングさんの好きな辛さ五百倍の麻婆豆腐よ」
「お、おぉそうか肉まんでござ」
「辛さ五百倍の、麻婆豆腐よ」
「そ、そうでござるな! あは、あはははははは!!」
そう、二人は肩を並べ診療所へと入っていく。
どうして、あんなにも二人はイチャイチャしているのか。
ノエルは目ん玉を見開いて、目から黒い涙を流しながら二人について行く。
「せっかくだし、少尉さんも食べてって!」
「ぬはは! 拙者の"妻"は料理が得意でござるからな。今度ノエル殿も習いに来るでござる!」
「まぁバングさんったら褒め上手なんだから! 早く……"三人目"のこの子にも食べさせてあげたいわ」
「さ、三人目って……まさか……」
「あら、言っちゃった。もういるのよ……お腹の中に」
「ら……ららららららライチ殿ーーー!!」
この二年で、ライチとバングは結婚し、すでにライチは妊娠までしていた。
それらの会話の一部始終を聞いて、ノエルは確信。
そしてただ無言で、無表情で後ろを振り返り、何かを追い求めるように走り去って行った。
「あら少尉さん?」
「追わずともよいでござる。見よあの後ろ姿を、きっと拙者たちの新しい命のためにも、この世界の治安を守るために支部へと向かったのでござろう」
「少尉さん……。私達が幸せに暮らせる世界を……守って」
「ライチ殿……守ってくれるでござるよ。きっと……ノエル殿なら」
そう、ライチとバングの二人は、走り去るノエルの背中を見つめ、平和を託した。
一方で、全てに絶望したノエルは、もはや美少女とは呼べない凶悪な表情を前面に出しただ走る。
走る。走る。どこまでも走った。
そしてついた先は魔操船の発着場。目の前に見える広大な空に向かい、己の全てをぶちまけた。
「神様ーーー!! 私が何したって言うんですか!! たった一年休んだだけでこんな仕打ちあんまりだ!! あのむさい忍者でさえあんな美人の嫁さんもらうまで成長しているのに、どうして私だけ……私だけ時が止まってるんですかーーー!! 教えて誰か教えて! 私の居場所はどこにあるんですか!? どこ行っても完全に邪魔もので厄介払いで、私の居場所は……どこにあるんじゃーーーーー!!」
非情な現実、受け止められないが故の必死の叫び。
だが広大な空はその叫びすら受け流す。ノエルは涙にならない涙をぼろぼろ流しながら、ただ必死に叫ぶことしかできない。
「ひどいよ。まるで私一人だけ知らない世界に放り出されたような気分だ。こんなのってないよ……あんまりだよ……」
どこかの絶望しきった魔法少女のようなセリフを吐き捨てながら、ノエルは地に体をなしつけ絶望感を噛みしめる。
居場所もなく誰も自分を認めてくれない世界。
圧倒的な虚無感を抱いているその時、後ろから足音が聞こえてきた。
今度は誰だ。誰が現れその成長をノエルに見せびらかすのか。
もう誰も見たくはなかったため、ノエルはそれに気づかないふりをする。
「お、誰かと思えばノエル少尉ではないか」
そう鋭く耳に入るかっこいい女の声。
振り向かないノエルの肩を叩く女性、その女性の名はバレット。
カグツチの中心街でラーメン屋『蹴流出射無亭』を営んでいる褐色肌の女性、服装はいつも着ているラーメン屋の制服。
いつ見てもかっこいい人で、それが二年という月日を増してさらに色っぽくなっている。
思わず女性であるノエルでさえも、その姿には見惚れてしまいそうになるほどの。
「バ、バレットさん……」
「最近食べに来てくれないから心配していたぞノエル少尉、その……あまり女性が涙を見せるものではないぞ。女は隙を見せてはいけない」
そうアドバイスを送り、ノエルの隣に座るバレット。
「大切な人が自分から離れてしまうその感覚はよくわかるぞ。私もかつてはパートナーがいた。共に世界一のラーメン屋になると意気込んだその男は、イカルガ内戦の犠牲になった」
「そっか、バレットさんは今一人でラーメン屋を」
「あの男の遺言だからな。ラーメンは時間が経てば伸びるように、私も日々変わっていかねばと思うばかりだ。そう、伸びないラーメンがないように、女はかっこよさを求め、どこまでも突きやぶろうとするものだ」
バレットは己のラーメン道を人生に例えながらノエルを励ます。
「バレットさん、その……ありがとうございます」
「気にするな。なんだその、礼を求めるというわけではないんだが、私の方もよろしいかな?」
そう言って、バレットはノエルの手を取った。
そしてノエルのつけている白い手袋をはずし、素手を握る。
「ちょっバレットさんなにを……」
「初めてで緊張するのだが、ノエル少尉だと平気だ。ノエル少尉が少年らしい部分があるからなのかな?」
「な、なんのことですか?」
「だから、良いかな?」
二人は見つめ合う。
当然ノエルにはそんな趣味はない、ノエルも一人の乙女である。
だがバレットの女としてのかっこよさが、ノエルの性別に対する感覚を麻痺させる。
思わずノエルは顔を赤らめる。
「い、いいですよ! 何されるかわかりませんけど……」
「そうか、そう言ってくれると助かる。じゃあ……触ってもらうか」
そう言って、バレットはノエルの手を己の股間の部分に近付けた。
「え、えーーー! バレットさんまさかそういう趣味が……い、いや私は違います! ど、どうしよう、承諾しちゃったし、でも……いくら悲しみで前が見えなくなってるからってそんなこと」
「いくぞ、私がラーメンのように……これから先も伸びてゆくためにな」
「ちょ……やっぱり気持ちの整理を……!」
ノエルがそう言い終わるより先に、ノエルの手がバレットの股間の部分に触れた。
その瞬間、ノエルに電流が走った。
何かがおかしい、そこにあるはずのないものがある気がした。
ノエルも乙女だからわかる。乙女にはないはずである。だからこそノエルは違和感を感じずには居られなかった。
「……バレットさん」
「おぉう。どうしたノエル少尉?」
「……いやあの、その、なんか"ついてる"んですけど」
「つい先日"工事"が終わったばかりなんだ。だがまだそれが正常なのか異常なのかわからなくてな、女性に触られて少しは伸びた気もするんだが、やはりラーメンのようにはいかないな」
バレットは色々模索しながら、妙に納得したように眼をつむった。
二年の月日の間にバレットが考えたナニか、そして工事という単語。
ノエルは問う、そんなバレットに対して。
「工事って……なにが?」
「"ナニ"だ」
「……何?」
「男になるための突貫工事だ」
それを聞いた瞬間、ノエルは顔色が漂泊し、バレットに迫るように叫んだ。
「何をしてんのじゃ己は!! 伸びるとか突き破るとか……そういう意味かーーー!?」
「やはり軍隊では女は生き残れない、ラーメン屋もそうだ。女のくせに伸びる感触も理解できずに世界一のラーメン屋になんてなれるわけがないと思ってな」
「どうしてそんなややこしいことをしたんだあんたは!?」
「そもそも昔軍隊にいた時からむさい男どもに卑しい目で見られるのが嫌でな、いつか男になりたいとは思っていたんだ。だがラーメンのように味を全て変えては店の信用にかかわる。こうラーメンは面とスープの割合が大切なんだ。だから上は女、下は男。私のこの覚悟、わかるだろ?」
「わかるわけねぇだろうが!!」
尤もらしいようにバレットは言うのだが、ノエルからすればそれはアホというか馬鹿というか愚かというか、とにかくバレットが間違いまくっている事は理解できた。
「色々あるのさ。それに女の料理に男の料理を組み合わせることで更にパンチの効いたラーメンになることだろう」
「あんたの存在自体がパンチ効きすぎてんだよ……」
もう付き合いきれないと、ノエルが白けていた時。
後ろの方から、そんなバレットに挑戦をしかけるような、そんな声が聞こえてきた。
「あいや待ったお二人さん!」
そう舞うように響く宣言が、バレットとノエルを襲った。
「おいおいバレットよぉ、おめぇさんそんな粗末な物までつけてCPの新キャラの衝撃を一人占めしようだなんて、おめぇさんも酔狂なことしてくれんじゃねぇか」
「お、お前は……」
「両者CP新キャラ、ホモォパンチとホットパンツ。ガード削りと投げキャラ。出し抜かせなんてさせやしねぇんだぜ」
その"男"は、そこに舞台があればひたすら主役を取ろうとする。
それが新キャラ人気の争奪ならなおさら、男は舞うように、踊るように、ドリルのように周り観客を魅了する。
最強の強者が揃う最高の舞台、その観客と……全ての美少年を一人占めするために。
「俺は考えたんだ。どうして愛しのカルルくんが俺に振り向いてくれないかってな。だから俺は辿りついた、おめぇさんがその粗末な物をつけている間に……俺は!!」
そう言って、男は舞いその場に降臨する。
その男の名は……。
「アマネは……取ったどーーーーー!!」
そして、二年の月日が流れた蒼の舞台は、とんでもない方向へと加速していく。
BBのキャラが銀魂でいう誰の役割を演じるのか、そこに力を入れて書いています。