「ツバキちゃ~ん、今日もよろしくね~」
「わかりました~」
カグツチには様々なメディアが存在する。
彼らはつね日頃起きている問題や、気になる人物を世に伝えることに命をかける。
最近カグツチで人気の新人アナウンサー、"ツバキ・ヤヨイ"
博識に加えて美人で当然彼女のファンは数多い。
そんな彼女は今、カグツチテレビのアナウンサーとして働く反面、統制機構の士官学校に通う毎日を送っている。
本日ツバキに与えられた仕事は、とある人物の取材である。
かつて世界を救った、六英雄のリーダーであるハクメンである。
六英雄は今では古い存在ではあるが、それを題材としたドラマや小説が数多く出ている。
そんな元となった男の取材に、ツバキは若干緊張していた。
ちなみに、ハクメンを題材とした"ハクメン伝"の初回視聴率は8%、ジンを題材とした"JIN-刃-"の初回視聴率は20%である。
「え~と、あなたがかつて世界を救った六英雄のリーダー、Hさんですよね?」
ツバキはハクメンを目の前にして、緊張した面持ちで質問をする。
一応プライバシーの保護ということで、名前はイニシャルで、そして意味は全くないとは思うが顔にはモザイクが入っている。
と、いうテレビ側の配慮などお構いなしに、ハクメンはというと……
「Hさんじゃない、ハクメンだ」
相も変わらずハクメンは名前を間違われたと思ったのか、プライバシーなど関係なく自分の名前を視聴する。
ハクメンが自分の名前にこだわる理由はある程度本編をやってもらうとわかるのだが、どこまで自分の名前が好きなのだろうが。
ツバキはそんなハクメンに驚きながらも、必死にフォローしようとする。
「え、え~とその……Hメンさんは……」
「Hメンさんじゃない、ハクメンだ。Hメンってどんだけ人をスケベ扱いすれば気が済むのだお前は」
確かにHメンでは常にスケベなことを考えて、それを顔で表しているようにも聞こえるのだが、着眼点はそこではない。
ツバキはなんかめんどくさそうな顔になり、ハクメンにこう質問する。
「あの~、名前隠さないでいいんですか?」
「HとかHメンとかそんな風に呼ばれるなら実名出された方がマシだ」
ハクメンはそう言うと、腕を組みながらツバキをどっしりと構える。
ツバキは、わかりましたといった感じで、一応プライバシーはちゃんとするためフォローを続ける。
「一応実名は出ていても、顔にモザイクかけてますんで……かける意味無いかもしれませんけど」
するとそれを聞いたハクメンが、再び怒りの表情を浮かべツバキに言い寄った。
「モザイクだと!? 貴様人の顔をわいせつ物扱いするとはどういう了見だ! 仮面の上にモザイクってどんだけ私の顔はやばいものなのだ!?」
「いやしりませんよ! てか仮面はあなたが自分でつけたんでしょ!?」
さきほどまでの緊張はどこへやら、ハクメンの態度にさすがのツバキもフォローしきれなくなった。
じゃあどうすりゃいいのよ、といった感じで困り顔をしていると、今度はハクメンがツバキ達をフォローする。
「心配しなくても私の素顔は仮面で隠れてるし、今日は取材と言うことで仮面は別の物に変えてある」
ハクメンはきちんと自分なりにプライバシーを守るため、この日のために仮面を別の物に新調したとのことであった。
ツバキはそれを聞くと、少しばかり後ろのスタッフと相談を始めた。
そしてため息をつきながら、インタビューを再開する。
「わかりました。じゃあモザイクも取るんで後で文句言わないでくださいね」
こうしてハクメンのモザイクはとれた。
モザイクがとれたハクメンのお面は、いつもの真っ白なお面ではなく、タイガーマスクのお面になっていた。
いろんなマスクがあるとは思うが、ハクメンはその中であのタイガーマスクのお面を選択したのだ。
タイガーマスクの名前でランドセルを寄付したヤツに感銘を受けたとのことらしい、これではトラメンになってしまうではないか。
「じゃああらためて質問をしますね、まず最初に……」
「おっと質問の前に、天玉うどんが運ばれてきたからそれをたべながらにしよう」
ツバキはまたもめんどくさそうな顔をした。
なんでお茶とかじゃなくて天玉うどん?と頭のなかでツッコミをしながらも、これも仕事だと自分に言い聞かす。
ハクメンはお面をちょくちょく動かしながら、食べづらそうにうどんを食べていた。
「じゃあそろそろ質問にうつりますね、ハクメンさんはどうしてこの取材に応じてくれたんでしょう?」
ツバキはようやく質問を通すことができた。
ハクメンはそれを聞いて、少し真面目な顔つきになり、少し考えながらそれに答える。
「一つ目は、我々六英雄はなんたるかを世間の人に知ってほしかった。古い存在だの、時代遅れだの、ヒーローかぶりのバカどもだのと我々のことを蔑み、統制機構を支持している人達も多い」
「世間の大多数はそうかもしれません」
ツバキはマイクを片手にそれを真剣に聞いている。
さきほどまでのグダグダはどこかへと行ったようで、ハクメンはツバキの質問にきっちりと答えている。
六英雄という存在を誰よりも愛し、そして誇りを持っているのは誰を隠そうこのハクメンという男である。
ハクメンの六英雄への、そして世界への思いはとても熱い。
「だがそれは間違いだ。我々のような者がいる反面、犯罪者や反逆者という不当な輩がいるのも事実、どれだけ蔑まれようとも、評価されなかったとしても、我々という正義は必要だ。統制機構だけでは世界の秩序は成り立たない……ずるずるずる」
ハクメンは言葉の一通りを終えると、うどんに手をつける。
とても食べづらいのか、ずるずると音がうるさかった。
ツバキは多少困惑しながらも、質問を続ける。
「そうですか、それで二つ目は……」
「二つ目は……ずるずる……ふたちゅめはあの…………うぐぐ……あぁもうこれ食べづらい! いつもの仮面!!」
「!?」
ハクメンは虎の面を取り外すと、すぐさま下に置いてあったいつものお面を取り出しそれを顔につけた。
もちろんその動作の中で、素顔がちらっと見えてしまっていた。
だがハクメンはそんなことなどお構いなしに、いつもの仮面の口の部分をカパっとあけてうどんを食べ始めた。
ツバキはその一連を見て取り乱しそうになりながらも、必死にハクメンをフォローしようとする。
「ああちょっとハクメンさん! 顔映っちゃったじゃないですか!? というかいつものお面が丸出し……」
「女が丸出しとかはしたないことを言うものじゃないぞ」
「じゃなくて!!」
ツバキもここまで必死にフォローをしてきたつもりであったが、半分は諦めモードに入ってしまっていた。
まさか自分が憧れていた六英雄のリーダーがこんなにもめんどくさい人であったとは……ツバキは初めてこの職業をやって後悔したと思ってしまった。
そんなハクメンはというと、「うどんはインタビューの席には合わないな」などと愚痴を言う始末である。
「え~と、二つ目だったか……二つ目はええと……あぁ二つ目はないな、一つだけだ。しかしこのうどん前よりも味が深くなったというか……今度黒き者にも教えてやろう」
「黒き者ってだれ? そ……そうですか、じゃあ六英雄の活動の意味を国民一人一人にきちんと考えてほしい、そういうことですね?」
ツバキはとりあえずそれなりに話をまとめる。
一つの質問でこんなにも疲れるとは……
そう思っていたとき、表ででかい音と叫び声が聞こえた。
そしてその音と同時に、パクメンが店の中へと飛ばされてきた。
「パクメン!? いったいどうしたというのだ!?」
パクメンの様子を見て、ハクメンは少しばかり戸惑いを見せる。
ツバキとスタッフ達も、その方向へとカメラを向ける。
「おぉっとどうしたことでしょうか!? 突如白い何かが店の中に飛び込んできました!」
「おっとすまない、ゴミと勘違いして吹っ飛ばしてしまった」
ツバキの言葉と同時に、冷静な口調で誰かが店に入って来た。
その男は、生きる英雄、統制機構少佐のジン・キサラギであった。
ジンはゆったりとこちらへと向かってくる。
「ジ……ジン兄さま!? どうしてここに!?」
ツバキはジンを見て思わず驚きの表情を見せる。
ツバキとジンは、同じ十二宗家の人間であり、従兄弟のような関係である。
そんなツバキを見て、ジンは冷静な口調でこう返した。
「ツバキ……まさかこんなところで合うとは、な~に僕も仕事だ。そこの白いお面を被った男に用がある」
ジンはそう言って、ハクメンの方をキッとにらみ付ける。
ハクメンも察していたのか、比較的冷静に佇んでいた。
「やはりか、貴様ら統制機構にとって……我々は邪魔か?」
ハクメンは冷静さを保ちながらジンの方を睨んでいる。
六英雄の力は強大であり、統制機構にとっては障害そのもの。
ハクメンが散々プライバシーの保護を断ってくれたおかげか、インタビューがきっかけで場所が突き止められ、ジンが自ら足を運んできたというわけである。
「あぁ邪魔だ、時代遅れの英雄は素直にどこかに隠れていればいいものの……我々のテリトリーで勝手なことをされては困るんだが。六英雄のリーダー、ハクメン」
ジンはそう言って腰の剣に手をかける。
ジンとハクメン、互いの信念は一歩も譲らんとしない。
今にも戦いが始まろうという中、ツバキが二人に割って入る。
「ちょっとジン兄さま! ハクメンさん! 二人とも落ち着いてください!! 二人が戦って何になるというのですか!?」
ツバキは必死に二人を止めようとするが、ジンは容赦をする気配がない。
敵は倒さなければならない、それが彼らの、統制機構のルールなのだ。
「邪魔をするなツバキ! 僕らにとってそいつは障害で、僕にとってそいつは非常に気にくわない。何が"英雄"だ、貴様の時代は終わったのだ。今の英雄はこの僕、ジン・キサラギだ!!」
ジンのその強気な言葉を聞き、ハクメンは挑発するようにこう返す。
「ふん、今の英雄か……その英雄が今していることはなんだ? 力で世間を、世界をねじ伏せているだけではないか? 力無き者を悪とし、力あるものを正義とする。そんな貴様が英雄とは……笑わせる」
「……なに?」
ハクメンの言葉が、ジンには聞き捨てならなかった。
ジンの誇りとプライドは、誰よりも強く壊れない。
そんなことは誰よりもジン本人が信じて疑っていなかった。
それを否定するもの、かつて英雄と呼ばれたその男が、ハクメンという男が、ジンにとっては邪魔で、そして超えなければならない相手であった。
「口が過ぎるぞ貴様、そうだ……力がなければ世界の秩序は成り立たない、貴様ら六英雄は甘かった。甘かったから負けたのだ!! 敗北した貴様らに……もう用はない!!」
ジンはそう叫ぶと同時に、剣を抜きハクメンに斬りかかった。
もちろんそこは店の中、店の従業員と、なによりツバキが困惑している。
ハクメンはなるべき被害を広げないよう、ジンの攻撃を受け止め、そして店の外へと吹き飛ばす。
「ゼェア!!」
「な……なに!?」
ハクメンの剣の柄の部分がジンの腹部をとらえる。
大きく吹き飛ばされたジンは、すぐさま体制を立て直そうとする。
だがそれよりも先に、ハクメンがジンの正面へと立ちふさがる。状況はハクメンが圧倒的に有利。
「ぐ……貴様なんぞに……」
「言うな小僧、貴様のその未熟さが、貴様の親類をも傷つけるところだったのだぞ」
ジンはそれを聞いて、ハっと我に返ると、戸惑い困惑した状態のツバキが立っていた。
ハクメンの存在に気を取られ、ツバキのことを半分忘れていたのだ。
ジンは少しばかり表情を暗くし、そしてツバキの元へと駆け寄る。
「す……すまなかったツバキ、最悪お前を、お前の仲間をも傷つけるところだった」
「いいんです、気にしてませんから……ねぇジン兄さま、どうして彼と……ハクメンさんと一緒に世界を守ろうと考えないのですか? なぜ彼を押しのけてまで英雄にこだわるのですか?」
ツバキのその素朴な質問に、ジンは悔しそうな顔で答える。
「僕が守らなければならない、僕はあいつを……ハクメンを超えなければならないんだ!! 今日はツバキもいるから退散するが、次に会ったときは覚えているんだなハクメン!!」
そう言ってジンは、他の衛士達と共に撤退していった。
ツバキはそんなジンをずっと見ていた。心配そうに、ずっと彼を見ていた。
そんなツバキに、ハクメンはそっと声をかける。
「ジンを信頼しているのだな、ツバキアナは」
「はっ!? いいい、いえそんなことは! でも昔からの幼なじみで、親戚ですから……」
ツバキは動揺しながらハクメンの言葉に応える。
ハクメンはふっと笑いながら後ろを向き、どこかへと立ち去ろうとする。
ツバキはそんなハクメンを止めようと駆け寄る。
「ちょ、ちょっと取材は!? まだ聞きたいことが……」
ツバキのその言葉に、ハクメンはこう応えた。
「さきほどの光景が私が答えるべき全てだ。統制機構も六英雄も、それぞれのやり方で世界を変えてみせる。我々は先導者として、ジン・キサラギのような未熟な者の前を立ち、彼らの目標としてあり続ける。統制機構が間違いを犯しているのならば、我々は彼らの先に立ちそれを変えるために行動する。それが……我々六英雄のあるべき姿だ」
ハクメンはそう言い残し、素早くその場を去っていった。
ツバキはそれを黙って聞き、黙って見ているしかなかった。
彼が言った言葉が彼の全てであり、その去りゆく背中が、その信念の固さを物語っていた。
かつての英雄の覚悟を見たツバキ。何か大きな事を得たような気分になり、ツバキは笑顔でスタッフの方へと振り向いた。
「さて、じゃあ私たちも撤収しますか」
そういってツバキが立ち去ろうとした時、道に手紙が落ちていたのを発見した。
その手紙には"ハクメン"と書かれている、気になって中を開けてみるとこんなことが書かれていた。
『だがやっぱり私は、統制機構は嫌いだ。ツバキアナもがんばるがいい』
ツバキはそれを見て、ふふっと笑いながらこう呟いた。
「……そうですね。それでいいと……思いますよ」
彼女の取材は、まだまだ続くのであった。