「は~いラグナ、あ~ん☆」
史上最高額の賞金首となったラグナの朝は、嫁?による甘い一時から始まった。
気がついたら犯罪者になってて、仕返し程度に支部に乗り込んだら一度殺されて。
んで自分を殺した少女が目覚めると隣で寝ていた。なんだかものすごく無茶苦茶なシチュエーションであった。
「いてて! おいそこ目! 口じゃねえって!!」
そんなこんなで、ニューにご飯を食べさせてもらっているわけだ。
とりあえず適当に金を渡して買ってきてもらったのは100円の卵焼きだった。
一応今の自分は犯罪者、それも世界トップクラスの反逆者なのであまり表に出るわけにはいかなかった。
こんな少女でも、おつかいや金稼ぎには使えるだろうとラグナは心の中で思った。
「じゃあニューはバイト探してくるね、ラグナは犯罪者なんだしゆっくりと隠れていてよ」
「あぁ、帰りにアルカディア買ってきてくれよ」
とりあえず愛読書のアルカディアをニューに頼み、ラグナはごろんと横になった。
空はいつも通り蒼かった、そしてラグナのテンションも偶然かブルーであった。
数分と時間が経ったところで、寝ていてばかりいるのがいやになり始め、騒動に巻き込まれるのを覚悟で外に出ることにした。
「咎追いが来たって、適当にあしらえばいいか……」
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そのころ、統制機構本部では。
「ラグナ・ザ・ブラッドエッジ、どれほどの男か一度手合わせ願いたい物だな」
ジンは机に座りながら、ラグナの手配書を見ていた。
昨日、統制機構カグツチ支部を襲撃し、支部にいた統制機構衛士数名を叩きのめした男。
統制機構の一衛士は他の軍の一士官を圧倒するほどの実力を持つと言われている。それに加え統制機構が管理する魔道書。
魔道書によって生み出される術式は、この世界に置いても圧倒的な殲滅力を有している。それらを操る衛士一軍を、たった一人の犯罪者が軽々と打倒したというのだから未だに信じられない話であった。
考える限り師団長クラスの実力者か……。だがジンは余裕の表情を見せていた。
そんな男にこの自分が負けるわけがないと、手配書をくしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てる。これを何度も何度もそれを続けていた。
「はぁ、暇だな……おい"ノエル"、ノエル・ヴァーミリオン」
ジンは何者かの名前を呼んだ。
その名は"ノエル・ヴァーミリオン"、ジン・キサラギの直属の部下の少女。
透き通った緑色の眼に、金髪のロングヘアーをしている。
師団長には一人秘書官が与えられる。このノエルは第四師団師団長のジンに与えられた秘書官。
秘書官は師団長の身の回りの管理だけでなく、それ相応の戦闘能力も求められるという。
そんな秘書官である少女は、今何をやっているかと言うと……。
「ぐ~ぐ~」
「………………」
ジンの目に見えるところでぐーぐーといびきを立てて寝ていた。
ジンは机から堅い棒のようなものを取り出し、ゆっくりとノエルの方へと向かっていき、そして……。
「起きろ障害が」
「痛っ!!」
その棒で思い切りノエルの頭を殴った。
ノエルはあまりの痛みにびっくりし、そしてジンの怒った顔を見てすぐさま敬礼した。
「し……失礼しましたキサラギ少佐!!」
よだれを垂らしながらも必死に敬礼をするノエル。
上官の前で余裕で居眠り、そんなことをしていてもノエルは立派なジンの秘書官である。
どうしてジンはこのノエルを秘書官として傍に置いているのか、理由は簡単。ジンが信用するのは何よりも自分の実力のみだからである。
だからどんなやつが秘書官になろうと、ボディガードになろうと関係ない。要はそういった部下を全く信用していないのである。
当然ノエルもジンからすれば全く信用されていない。そうとは知らないノエルを、ジンはつまらなそうに眺めていた。
「ったく障害が、上司の前でいびきを書いて寝るほど疲れていたか? どうせまた家でネトゲばかりやっていたんだろうが」
「ぐ……いいえ昨日は仕事をしておりました!!」
ジンの言葉にノエルはバレバレの嘘をついた。
ジンは尚も表情を変えずに、ノエルに悪口を言う。
「ふん? 貴様はまともな嘘をつく頭もないようだな、そしてついでに胸もないようだな」
「胸は関係ないでしょうが!? なんで胸言った? なんで胸に話が言った?」
ノエルにとって小さい胸はコンプレックスだった。
そのことに触れられると、例え上官であろうとツッコミを入れるノエル。
ジンからすれば、そのノエルの反応はすっかり身飽きているようで。
「まぁいい、貴様の胸が無かろうが僕の人生にとってはどうでもいいことだ、それよりもノエル、いやナイチチ少尉」
「なんで今訂正したんだ? ノエルで合ってますよ少佐」
ノエルのツッコミなどスルーし、ジンはラグナの手配書を取り出しノエルに押しつけた。
ノエルはひねくれながらも、手配書を受け取り目を見やる。
「これは、今世界を震撼させている反逆者、ラグナ・ザ・ブラッドエッジですね?」
「そうだ。私はこいつが気にくわない。なのでちょっと留守にするから人が来たら任務で居ないとでも適当にごまかしておけ、お前の無い胸でもそれくらいは言えるだろ」
「いや、胸関係ないよね? それを言うなら無い頭だよね!?」
何度もどこかひっかかるような言い方をされながら、ノエルはそれに反論するがジンは特に何も思わない。
そしてジンは勝手なままにそう言って、この後の予定も全てノエルに投げ捨て。部屋から出て行った。
ジンのあまりの傍若無人ぶりにノエルは少しの間固まって、ジンの足音が聞こえなくなった辺りでノエルの時が動いた。
「はぁ、本当にあの人は苦手なんだよな……」
ノエルの本心から出た言葉であった。
ジンがいないことをいいことに、いないところを見計らって時々悪口を言っている。
ノエルにとってジンは、毎日毎日暴言を吐く上司。これがノエルにとっての社内いじめというものであった。
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オリエントタウンにて……。
がやがや……がやがや……。
ラグナが人とすれ違う度に、がやがやと騒音が聞こえてくる。
右から左から、「あれ、ラグナだよな?」だの、「うわ~犯罪者がウロチョロしてるよ~」だの色々聞こえてくる。
つい先日までは普通に気楽に町中歩けたのに、犯罪者になった今じゃこうである。
人の視線が気になって、ぶらつくこともできやしない。
「図書館の野郎ども……どうしてくれるんだよこれ! 人の視線が気になって気分転換もできやしねえ!!」
ラグナはそう叫ぶと同時に、どこかへとダッシュで去っていった。
なるべく人がいないところでのんびりしたいと思い、街外れの河川敷までやってきた。
多少人はいるものの、ラグナを見ては素通りしていく、そんな連中だらけだったので助かった。
とりあえずそこにラグナはごろんと転がって、空を眺めた。
「これからマジでどうすっかな。ニューはまだ世間のことあまり知らないし、あいつに任せっきりっていうのはなんか罪悪感が……」
ラグナは今の自分の不甲斐なさを悩んでいた。
統制機構は確かに世間的には嫌われているが、かといって誰かが自分を救ってくれるわけではない。
自分は顔が利く方ではないから知り合いが多い方ではない、レイチェルやハクメンもいるが迷惑をかけるわけにはいかない。
きっとレイチェルに言えば有名になったわねとバカにされ、ハクメンには呆れられるだろう。
だからこそ言えない。ラグナはそんな自分に情けをかけられるのがなによりいやなのであった。
そんなことを色々思いながら現実逃避をしていると、コツコツと足音が聞こえてきた。
静かに耳にささやくようなゆったりとした足音、ラグナの元へ少しずつ這いよる。
ラグナは立ち上がり、その方向に目をやった。
「貴様が、ラグナ・ザ・ブラッドエッジか?」
そこにいたのは、統制機構の制服を身にまとう、金色の整った髪で鋭い緑眼の青年だった。
その男こそ、ラグナの敵である統制機構。第四師団師団長のジン・キサラギ少佐である。
昨日の衛士たちとは比べ物にならない。イカルガ内戦にて敵将を打ち取り、若くして団長まで昇りつめたエリート。
今ではイカルガの英雄と呼ばれ、戦場では知らぬものは一人とていないと言われている。
だが相手の立場などラグナからすればまるで関係ない。
問題は、相手の組織が好き放題勝手に犯罪者扱いをしてくれたこと。ただそれだけである。
そんな組織の制服が目に入り、ラグナは露骨にイヤな表情を浮かべた。
「んだてめぇ? 不機嫌そうな顔しやがって、徹夜でテトリスかい?」
「ふん、貴様のような犯罪者に口をきかれるとはな、正直憤慨だな」
「んだとてめぇ……」
挑発するジンに、ラグナは苦い表情を浮かべジンをにらみつけた。
ラグナは気にいらなかった。地位と立場だけで上に立っているだけの人間が、自分たちに取って障害になりうるというだけで、勝手に犯罪者の汚名を被せるこいつらの存在が。
古の者たちが受け継がせた力を、自分たちの利益のためだけに振りかざすこいつらの存在が。
ラグナにとってジンは、統制機構は非常に気に入らない存在であった。そしてそれはジンにとっても同じ。
ジンにとってラグナは統制機構の正義を阻む存在。そう、力こそが正義というならば、統制機構こそが世界にとっての力。
故に統制機構は絶対の正義。彼にとってラグナは統制機構に比べれば小さな蟻ごとき存在。
その蟻が統制機構に傷を付けた。力なき者が力を――正義を語った。だからこそジンは、ラグナの全てを否定しなければ気が済まなかった。
「僕の名前はジン・キサラギ、生きる英雄だ。喜べラグナ、この僕が貴様に直接手を下しにやってきたぞ?」
煽るように、ジンは冷徹な瞳をラグナに向ける。
本物の強者はその言葉一つで他者に深い衝撃を与えられるという。
ジンの言葉は自己の力を誇示したものであったが、裏を返せば己の力になによりの自信を持っているということ。
昨日の下っ端衛士とは違い中途半端な力の見せつけではない。ラグナには充分に理解できた。このジン・キサラギが本物であることくらいは。
だがそれらを抜きにして、ラグナからすれば常に上から目線でしゃべるジンに、徐々に苛立ちを募らせていく。
そして気がつけば、自分の剣に手を出していた。もう彼には関係ないのである。
相手が何者であろうとも、ラグナからすれば……ただの敵でしかないのだから。
「何が生きる英雄だこのバカ! 上から見てんじゃねえよこらぁ。仕方ねえな、遊んでやるからかかって来なジン!!」
ラグナのその言葉に、ジンの表情は一瞬にして憤怒に変わった。
犯罪者の分際で"遊んでやる"と来たラグナが気に入らなかった。この状況で己の立場を理解できずにいる蟻が気にいらなかった。
蟻など人が歩くだけで踏まれ命を散らす。だがそれを知っても蟻は地上を平然と歩いている。
地上に出なければ生きる種を得られないからだ。蟻は必至だが人からすればそんな事情などお構いなし。
ジンにとってのラグナもその程度の存在でしかない。己の顔前で、平然と笑い歩いている。
だからこそ今のジンが抱く感情が、ラグナの軽い反逆に対する怒りなのであった。
「貴様、その減らず口を二度と叩けないように切り刻んでやる。ラグナ・ザ・ブラッドエッジ!!」
そして二人は剣を抜き、ジンはすぐさま攻撃へと移った。
ジンの剣の鍔、そして切っ先を見やる。
透き通る水色に彩られた。氷の彫刻のような細剣。
世界有数の武器製造業界、その中でも特に名を馳せる"アークエネミー社"の武器である。
流石は統制機構の、それも師団長が所持する武器。手のかかりようが他の軍の兵とは段違いである。
そして扱いの難しいアークエネミー社のユキアネサシリーズを、軽々と使いこなして見せるジン。特徴的な氷の術式が、他者を魅了する芸術のようにパキパキと、描くように辺り一帯を敷き詰める。
こいつはできると。認めたくはないがラグナはそう自分に言い聞かせ、ジンの攻撃をしっかりと見据える。。
「ほう、さすがは支部1つに大打撃を与えただけのことはあるな……」
ジンの放つ技は雪華塵。
一秒間に二十回は相手を切り刻むジンの十八番とも言うべき技。
それも一度肌を切られれば切り刻まれた肌から冷気が入りこみ相手の体力をごっそりと奪う。
だがラグナはその高速の連撃を一撃一撃己の剣で受け流す。
これにはジンも、楽には倒せそうにないと思わざるを得なかった。
「だが……甘い!!」
ジンの雪華塵は一見ラグナに全て見切られているように見える。
しかしラグナの防御よりジンの雪華塵の方がほんの少しだけ速度が速い。
そのわずかな差は、技の持続時間に比例して徐々に開いていく。
三秒、四秒、五秒。秒単位のわずか間にある瞬間をジンはきっちり見極めていた。
そして訪れたラグナのわずかな隙。徐々に生まれていた僅かな差が生んだ一瞬の隙をジンは見逃さなかった。
ジンの一撃が、ラグナの左肩を切り刻んだ。その瞬間、ジンは嫌味ったらしいほどの笑みをラグナに浴びせる。
ラグナのすぐさま後ろへと下がり、傷ついた左肩を抑える。
「ぐっ!」
「どうしたラグナ? 所詮はその程度なのか?」
挑発しながらラグナの方へと向かってくるジン。
この一撃はラグナにとっては大した痛手にもなっていないだろう、だが先手を打たれたことにより精神の方はどうだろうか。
身体のダメージは連鎖するように精神にも行きとどく。そして精神的に受けた打撃は焦りとなり、その者の動き一つ一つに連動していく。
その積み重ねが、やがて避けるべき身体への致命傷へとつながるのである。
真の決闘とは相手に与えた精神的焦りによって勝敗を決する。故に……目に見る以上にジンはラグナを圧倒していた。
ラグナは優勢に立つジンを観察する。そして傷ついた左肩に眼をやり、はぁ……と一つため息をつく。
このため息は何を意味するのだろうか。ジンに勝てないことを悟り、諦めを感じてしまったのだろうか。
ラグナはなにやらめんどくさそうに頭をくしゃくしゃながら、ジンをにらみ付けた。
「なんだその眼は? 気に入らないなラグナ・ザ・ブラッドエッジ」
この状況で、ラグナは"恐怖"という物を表に出していない。
だからこそジンは気にいらないといった。諦めの前に恐怖くらいは見せてほしいと、そう思っていた。
そう言うジンに対し、ラグナは恐怖などという物は微塵も見せず、むしろ呆れを前面に出しジンにこう言い返した。
「いや、なんつうかおめぇ、カルシウム不足だなぁと思って」
この状況でも悠長な事を言っているラグナ。
先手を打たれ、ジンの実力を改めて認識した今でなお、そんなわけもわからない台詞をジンに浴びせる。
そんなラグナの態度に、ジンの表情はどんどん歪んでいく。
この男相手に精神的な優劣など無意味だ。ただ力のままにとどめをさそう。
ジンはそう決心し、ラグナに剣を振りかざす。
「いい加減、その口を閉じろラグナ!!」
ジンはとてつもないスピードでラグナに接近する。
そしてラグナの間近で、ジンは己の秘儀である凍牙氷刃を繰り出す。
ジンの剣か氷の術式が根強く帯、そして収束。
収束した冷気は巨大な三日月の形に形成され、ラグナを襲う。
本来凍牙氷刃は冷気が斬撃波となり発射されるため、遠くにいる敵も殲滅できる技である。
だがその技を間近で放つことで、とてつもない速さで、その収束した冷気を完全に"留めた"ままでラグナを切ることができる。
ジンはそれを狙っていた。だからこそ、ジンはラグナの間近まで近づいたのである。
「……あめぇよ」
しかし、ラグナはその凍牙氷刃を、ほんの一瞬の動きでスラリと交わした。
その光景に戸惑うジン。あれほどの速さの斬撃を一切の迷い、戸惑いもなく、冷静な動作でかわして見せたのだから。
そしてジンは技を放ったことで、ほんのわずかであるが隙だらけとなってしまう。
他の衛士であればこの程度の隙、ジンからすればなんともない。しかしラグナが攻撃を加えるとするならば、この隙で充分すぎるほどの攻撃時間であった。
ラグナはジンを攻撃する。ただし、ジンではなくジンの持つ剣を……である。
その衝撃でジンの刀ははじけ飛び。近くの川にぽちゃんと落ちた。
「き、貴様!!」
剣を失ったことで、ジンの主たる攻撃手段が一気に減少。
この状況、先ほどから数分とて経っていないにも拘らず、あっさりとラグナが優勢に立ってしまった。
ラグナ相手に素手で勝つ見込みなどない。剣を取りに行くにも背中を見せることになる。
完全にラグナの勝利が確定してしまった。支部を襲撃するだけに留まらず、ラグナはイカルガの英雄、ジン・キサラギに完封して見せたのであった。
「これで決着ついたろ? じゃあなジン、てめぇとはまた今度決着をつけてやるよ」
そう言うと、ラグナはなんとジンにとどめはおろか、一撃も攻撃を加えずその場を立ち去ろうとした。
これは情けなのだろうか、統制機構切っての天才が、たかが犯罪者に情けをかけられた。
このような結果があっていいものか、否……ジンは認めることができない。
今の結果を認められず、ジンは声を張り上げラグナを引き留めようとする。
「貴様! なぜ僕を殺さない!? 今の状況なら殺すことだって簡単なはずだろう!?」
ジンのその叫びが空を切る。
情けをかけられるくらいならば殺された方がマシ。その方が力の差を認めざるを得ないからだ。
今ラグナに逃げられるのは、ジンにとってこれ以上にない屈辱。
屈辱に沈むジンに対し、ラグナは静かにこう返した。
「てめぇを殺したところでなんの解決にもならねぇよ。今のは"喧嘩"だ。俺とお前のな」
「ぐ……くぅ……」
これは決闘ではない、ラグナからすればジンとしていたのはくだらない喧嘩。それ以上でも以下でもない。
だからこそ殺す理由もないし、これが情けというのも成り立たないのだ。
しかしジンは納得いかない。だがラグナからすればそういうことなのだからと、ジンの制止する声に耳を貸すことはなかった。
勝者が絶対的なルールを決めていいのだというならば、ラグナこそが勝者であり、ラグナの言葉が絶対的なものなのである。
そしてラグナは去っていった。ジンは何も言えない、なにも否定できない。
ラグナとの戦いで得られたのは暇への解消でも優越感でもない、"たかが"屈辱。ジンはこの結果に、苦い砂を食ったように顔を歪ませた。
「ふふふ……面白い人ですねあの人。勝負にも勝って試合にも勝って、そして少佐に精神的なダメージを与えて立ち去るなんて」
この戦いの一部始終を遠くで見ていたノエルは、己の信じるジンを打ち負かしたラグナを、素直にそう評価していた。
その後ジンはこの場でリベンジを誓った。己のプライドのために……。
いつかラグナを己の手で打ち倒すと、この屈辱を必ず晴らすと。
そして数時間後。
ラグナが朝いた路地裏に戻ると、ニューはすでに帰ってきていた。
「ラグナどこ行ってたの!? ってその傷!」
「あぁ……ちょっと電柱にぶつかったんだわ」
ジンに付けられた傷を、ラグナはそう言って誤魔化した。
こうしてラグナの一日は終わる。
毎日こんなことにならないように祈りながら今日は眠りについた。