交錯特異点A 氷樹未踏結界   作:タングラム

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前回のあらすじ。

首都リリィウッドの宿に一度落ち着いたカルデア一行。
その最中、世界花の分霊であるオリヴィアが陸斗に憑依し、世界の異常さを説く。

また彼女の助力で同行していた花騎士の面々もサーヴァントの仮契約を行う事となった。


彼らは知らない、水面下でうごめく影が動き出したことを―――


6節 銀百合に 潜む影

花騎士一同とサーヴァントの仮契約を終えた翌日――

 

「・・・・・・」

 

むくり、と言う擬音と共に陸斗が身を起こす。

服装は寝間着として備え置かれていたローブだ、時計塔のローブは浄化の魔術がかかったロッカーに架けられている。

 

「―――っ、寒・・・」

 

ぼんやりと呟き、辺りを見回す。

男女が同じ部屋はどうか、と言う話が出たため、部屋には彼一人だ。

 

否。

左手甲に書き加えられた蒼い令呪が輝き――球体のような光を成し、彼の肩に止まる。

 

 

『起きたか、カルデアの』

「―オリヴィアか?」

 

返事をするかのように蒼光は人の形を取る。

つややかなロングヘアを後ろで短くまとめ、その頭には羽を二本留めたチロリアンハットを被っている。更にとがった耳が髪から見え隠れしていた。

 

服装は七分丈の麻に見える素材のシャツに迷彩柄のズボンをしていた。

背丈は彼から見て手のひらサイズ、十数センチほど。

 

そんな彼女が切れ長の目を向け、彼の目を見ている。

 

『汝は早起きだな?まぁだらだらしているよりずっと良いが』

 

 

 

 

それから数十分ほどして。

 

 

「こーら、朝よ、起きなさ・・・って起きてるじゃない!」

 

 

起こしに来たヒガンバナに一人と一体がにらまれたのは言うまでもない。

 

 

朝食を終えると、一人と一体はダヴィンチの部屋を訪れた。

 

「あ、マスター君」

 

戸のきしむ音に彼女が振り返る。

英霊ゆえにヒトと違い疲れは見えないはずだが、どこか疲労したような気配を漂わせていた。

 

そこへ陸斗は近づき、オリヴィアも彼のローブの襟から顔を覗かせる。

 

「先生、朝食にも来ないから何してるんだと思ってさ」

「あー、ええっとね」

 

自信満々な彼女にしては少し歯切れの悪い言葉を返し、しどろもどろに口を動かす。

やがて――

 

「カルデアとの連絡が必要でしょ?なんとかできないか四苦八苦だよ」

 

そう、小さくため息をつく。

その言葉に陸斗は驚きを、オリヴィアは興味津々な視線を向ける。

 

「できるのか?汝らと我らの世界は別世界。その間でやりとりなどと」

「できるさ。時間旅行の間もナビゲートできたんだぜ?」

 

そう話し、彼女はオリヴィアの頭を指でつつく。

 

「んに・・・そう気安く触れるでない」

「えー、いいじゃん。概念霊装のちっさいのもこうやってよくつついてたんだよ~」

 

「頭が重くなるわ・・・リクトよ、概念霊装とはなんだ?」

 

ダヴィンチの指を陸斗の頭上へよじ登って躱し、そのままオリヴィアが問いかける。

適度ないすに腰掛け、目線を上に向けて彼は答えた。

 

「俺もこれだって明確には言えないけど、俺の知ってる範囲でなら「ある法則を記録した物体」とでも言えばいいんかな」

「法則とな?どのようなものだ」

 

「例えばそうだな・・・サーヴァント用の魔力をスタンバイしてある物、魔力の通りを強化する物、わずかなりとも耐久力を上げる物なんかがある」

 

 

その彼の話を引き継ぎ、ダヴィンチも話に参加する。

 

「そして、それを私達サーヴァントが装備してその力を活用する・・・んだけど、高位の概念霊装だと元になった人物が小さくなって出てくるんだよ――ちょうどオリヴィアちゃんのサイズかな」

「我と同じ・・・カルデアの妖精とでも言おうか?」

「そうだね、そんなもん」

 

話が済んだのを見計らい、陸斗が声をかける。

 

「いくらサーヴァントでも根を詰め過ぎちゃまずいって、食事とか取ってこいよ」

「言葉に甘えようかな。マスター君は今日はどうするの?」

 

「そうだなー、この街をもう一度見て回ろうと思う。誰か空いているヤツと一緒に行く」

「おっけー、そういやオジマンディアス王が暇そうにしてたよ」

 

 

 

 

更に小一時間後。

 

霊体化したオジマンディアスを連れ、陸斗はリリィウッドを当てもなくうろついていた。

 

 

 

(む・・・マスターよ)

「(何だ?)」

 

(あの人だかりは何だ?太陽たる我より耳目を集めるとは)

「(ん?・・・待てオジマンディアス、あの人だかりはどうやら楽しい物ではないみたいだ)」

 

 

透明化したオジマンディアスの言葉に陸斗が気づき、そこへ近づいていく。

それにつれてささやかれる声は不穏な呟きばかりだった。

 

「衛兵が殺されていただって?」「夜の巡回中だったそうよ」

「凶器も見つかってないだとか」「また襲われないとも・・・」

 

 

そして、最後に入ってきた言葉に彼は耳を疑うことになる―――

 

 

「プロテア様らしき誰かがいた、だなんて――嘘だろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え・・・・・・あの、そこの人!」

 

 

呆然となった瞬間からなんとか立ち直り、陸斗はその呟きが聞こえてきた方に声をかける。

その声に反応したのか一人の男が反応を返した。

 

「俺かい?」

「あ、はい。この現場の近くでプロテアらしき姿を見た人が居た、だなんて」

 

 

その名前に男もまた驚いた表情を持って答えた。

 

「君はプロテア様を知っているのかい?!」

「はい、というよりは彼女と親衛隊の案内でここに来た者です。その彼女が殺しだなんて・・・」

 

全くだ、とつぶやいて彼が話をつなぐ。

 

「そうさ。あの人が理由もなく殺しを―まして人殺しなんてするはずがない!君もそう思うだろう!」

「はい――突然すぎて」

 

驚きに表情がついて行かない。

今の陸斗の思考はまさにそれだった。

 

それを知らず、男は話を続ける。

 

「きっと濡れ衣だ、俺はそう信じてるよ」

 

 

 

住人の男性と別れ、更に歩く。

すると、今度は――ふわふわした髪型と雰囲気が特徴の女性が陸斗に気づき、走り寄ってきた。

 

「陸斗君!」

「え――あんた、リカステじゃないか!そんなに焦って何があったんだ?」

 

事情を聞こうとする間にも、彼女――リカステは肩で息をつき、その理由を話す。

それは――

 

 

 

「プロテアちゃんが、居なくなって―――」

「な!?まさか衛兵の殺しの現場――」

 

 

「そんなはずないわ!あの子が――!!!」

 

キャンプの時の柔らかい表情とはまるで違う鬼気迫った表情に彼は己の失言を悟ってしまった。

虚を突かれた表情にリカステもはっとなり、気を持ち直す―

 

「・・・ごめんなさいね、驚かせちゃった」

「あ――俺の方こそ、ごめん。なら、なにかできないか?」

 

「それなら、プロテアちゃんを探すのを手伝ってくれないかしら?」

 

 

その言葉に彼は手をあごに当てて考え込む。

 

「探すったって何も当てがないんじゃ・・・なにか手がかりはないか?」

「そうねぇ――」

 

今度はリカステが考え込んだ。

 

「元老院から呼び出しを受けた、って言って昨夜出て行ったきりで、今も戻ってないのよ。オトメギキョウちゃんやキリンソウさんもみていないって」

「元老院ね・・・ツバキの話なら、この国の中枢だ。俺が入れるはずないだろうしな・・・」

 

「何でも良いわ、何か情報があったら教えてちょうだいね?」

 

 

お願い、といい彼女は走り去ってしまった。

 

 

 

 

*     *

 

 

 

 

一方、リリィウッド外壁部の某所。

 

黒髪をポニーテールにまとめた忍び装束の少女―花騎士にして忍びのハゼランと赤い髪で眼を隠した髪型に白い外套と忍び装束の少年が対峙していた。

二人とも壁の上に立ちながら、その足下は少しも揺らいでいない。

 

「―、行く」

 

ぼそりとした呟き声と共に彼女は得物――分銅の付いた鎖鎌を取り出し、分銅の側を回しながら赤髪の少年へ接近。

少年もまた傍らから投げ矢を取り出し、一呼吸で投げる。

 

 

静寂の水辺に金属音が幾度とこだまする。

 

「遅いよ。それしきで私は止まらない」

 

 

声と共に鎖を投げ放つ。

それは少年の腕に絡み、動きを封じた。

 

鎖をたぐり寄せて飛び込み、鎌を振りかざす――!

 

「これで、一・・・」

「取らせると思いましたか?ならば甘い」

 

 

少年の声がどこからともなく聞こえた、と把握した瞬間に不意に煙幕が立つ。

それが晴れると――

 

 

「変わり身。やられちゃったか・・・」

 

 

鎌の刃先にあったモノはいつの間にか木に布を巻いた変わり身にすり替わっていた。

それまでの殺意をかき消し、少女がゆっくりと振り返る。

 

 

その目線の先には黒装束の姿の忍び少年――風魔小太郎が穏やかな目つきでそちらを見ていた。

 

 

 

呼吸を整え、忍びの二人は外壁に腰掛ける。

 

「コタロウ君、だっけ。悔しいけど格が違うなって」

「いえ、貴女もなかなかの物です。しかし、この世界にも忍びがいるとは」

 

うん、と答えてハゼランが続きを話す。

 

「ベルガモットバレーは他の所と装いが違うからね」

 

 

そう話し、少しうつむいて小さくつぶやく。

 

――こんなんじゃ、害虫を殺しきることなんてできやしない

 

 

「害虫、ですか。ここに来るときも一度戦いましたが、あれは確かに普通の人間では手に余る」

 

冷淡に見える返事を返すと、ハゼランは少し思い詰めたような声音で話し出す。

 

「コタロウ君はさ」

「ん?何でしょうか?」

 

「家族も住んでいた場所も全部一晩の内に焼き払われて天涯孤独になったらさ、どうしていると思う?」

 

 

ぼんやりとした表情が多い彼女のその質問に彼は一瞬言葉を失う。

だが気を取り直し、それに応えた。

 

「まずは敵の正体を探る。そして確実に始末できる状況を見つけ、始末にかかる――こうでしょうか。仲間が居れば楽ではありますが、一人だけとなると」

「――考えること、同じだね。私もね・・・」

 

 

 

話を続けようとしていたハゼランが近づいてくる気配を察し、そちらへ目を向ける。

小太郎もそれに合わせて目を向けると――

 

 

「ん?マスターと・・・あれはヒガンバナさんか・・・・・・」

 

 

 

小太郎達が外壁から降り、陸斗達に歩み寄る。

街中では透明化していたオジマンディアスも実体化し、白い外套姿でたたずんでいた。

 

その彼が口を開く。

 

「小太郎よ、汝もやるではないか!斯様に可憐な者と知り合っているとはな!我が妻の二番目に美しいぞ!」

「初対面でいきなり何者?私はハゼラン。普通の忍びだよ」

 

そのテンションに引き気味の、しかし気を取り直して自己紹介するハゼラン。

冷めた眼で彼を見ているヒガンバナ。

 

だが、彼はその目線にも全く動じない。

 

「我はオジマンディアス、王の中の王だ。最も、今は同盟者たるマスターのサーヴァントであるがな!名を呼びにくかったら太陽のライダーとでも呼ぶが良い!」

 

「―もういいか?」

「おう、マスターよ済まなかったな。だが名乗りはしておくべきであろう?」

 

満足げに頷き、彼は陸斗の後ろへ下がる。

それと入れ替わりに口を開いた。

 

「俺は藤丸陸斗、人理継続保証機関カルデアと言うところから来た」

「じん・・・り・・・?何それ」

 

 

だよな、と言い陸斗は続きの言葉を話す。

 

「まぁ簡単に言ったらヒトの歴史を見る天文台だな。どういうわけか知らないがここに飛ばされてしばらく厄介になってる・・・英霊(なかま)と一緒にな」

 

彼の言葉に小太郎も同調し頷く。

 

「僕もその陸斗君のサーヴァント、仲間をしています」

 

 

 

そのセリフにハゼランが目を見開く。

 

「リクト・・・君だよね、そのサーヴァントって私でも契約できるの?」

「出来る、出来るはずだ・・・オリヴィア?」

 

襟元に視線を向けて陸斗がつぶやく。

すると小さい姿が彼のローブの襟元から出てきた――

 

「呼んだか・・・?」

「ああ。この目の前の子なんだが、サーヴァントに志願してきたんだ。契約できるか?」

 

 

彼の声に小さい生き物――オリヴィアが飛び出し、彼女を正面から見据える。

 

「―――ベルガモットバレーの子か、だが問題なかろう。前と同じ方法をしてくれ」

「はいよ」

 

そう受け答えをかわすと、その姿が蒼い光に変わり彼の左手甲に宿る。

そしてそのまま手を差し出し、告げる。

 

「俺の手を取ってくれ、それでサーヴァントとしての仮契約が出来る」

「え、えと・・・こう?」

 

恐る恐るというように彼女が手を取る。

 

 

「――、何か、変わったのかな」

「(変わったさ。俺の声が聞こえるか)」

 

不意に彼女の脳裏に声が響き、首を左右させる。

それはつい先ほどまで話していたローブの青年のものだった。

 

「ひゃ?!な、何――」

「(サーヴァントの契約が通ってるならこの念話が通じる。しばらくの間だが、よろしく―――)」

 

 

 

最後までその話を終えることは、出来なかった。

風に乗って悲鳴が聞こえ、続けて――何かが崩れる音が巻き起こる!

 

同時に陸斗の脳裏に念話が届いた。

それは中性的な金髪緑眼の騎士の声――!!

 

「(マスター!今どこに居る?!)」

「(モードレッド!さっきの騒ぎは何だ!)」

 

「(どこのどいつか分からねぇが害虫を引き入れたヤツがいる、街中で遠慮なしに暴れ回ってやがる!)」

 

 

その念話に彼の表情が険しさを増す。

ヒガンバナがそれを見て取り声をかけた。

 

「陸斗君、何が起きてるの――?」

 

ゆっくりと彼女の方へ目線を向け、かみしめるように彼は答える。

 

「首都が、内側から襲われている」

 

 

その答えに彼女の表情が顔面蒼白に変わる。

 

「(モードレッド、近くに誰かカルデアのサーヴァントは?)」

「(小太郎とオジマンディアス以外宿の中だ、どうすりゃいい?!)」

 

「(不幸中の幸いか――!すぐにそっちへ戻る!ついでにその二人は俺と一緒だ!ついでに目に付いた害虫は全部ぶった切れ!!)」

「(分かった、けどいつまで抑えきれるか分からねえ!)」

 

 

それを最後に念話は途切れた。

 

「――話している時間もない、急ぐぞ!」

 

「ならば我のスフィンクスを使え、特別に貸しだそう!」

「助かる!!」

 

 

戦闘態勢を整えたオジマンディアスが得物の錫杖を振り下ろすと、夜空のような質感を持った四つ足の獣――彼が使役するスフィンクスが二頭現れる。

 

それにまたがり、彼らは空へと飛び立った――!

 




その頃のカルデア。

「っ、この反応、陸斗君の反応です!」
「でかした!!すぐつなげられるかい?!」


「ええ――」

職員のキーボードを打つ音が早まり、マシュもそれを固唾をのんで見守る。

「―、出ました、画像、出ます!」


それに遅れて数秒、画像がつながる。
だが―それに映されたのは、地獄絵図とそれに抗う乙女、それに兵士達だった。



「これは――一体・・・」


悲惨さで言えば第七特異点に相当する。
だが、まさか別世界でそんなような有様を見ることになるとはというショックが彼らを襲っていた――


「呆けるな、まだ仕事は終わってないぞ!」

その悲惨さに引っ張られそうになった管制室にダ・ヴィンチの声が響く。


それに冷や水をかけられたように呆けていた職員達が動き出した――!


「もう少しだ、無事でいてくれ陸斗君――」
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