交錯特異点A 氷樹未踏結界   作:タングラム

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前回からのあらすじ

リリィウッド滞在二日目。

プロテアそっくりの人影が衛兵を殺傷した事件に騒然となった街中を抜け、陸斗は花騎士にして忍びのハゼランとも仮契約を行う。

そして彼が市街地を離れたとき、事件は起きた。
突如害虫がわき出たとしか言えない状況に陥り、事態は一気に修羅場へと化す!!






7節 白百合 黒煙に染めて

「モードレッドから聞いてはいたが、なんてこった――」

 

スフィンクスの上から惨状を見て取り、陸斗がうめく様につぶやく。

清らかさをたたえていたリリィウッドの街並み、そのそこここから煙が上がっている。

 

だが、ただ黙って攻められているはずがない。

何せこの国は千年に続く害虫戦線の目の前であり、花騎士や兵士の質は他の五国と比べても肩を並べるほどだ。

 

証拠に、規律正しく連携する花騎士の小部隊と害虫にとどめを刺していく衛兵の動きも見える。

 

 

 

「上手く持ちこたえているわね――陸斗クン、私はここから別行動を取るわ。いいかしら?」

 

彼の肩を叩き、ヒガンバナが確認を取る。

それを聞き、彼は僅かに渋る顔を見せた。

 

「一人で良いのか?それにどこから敵が来るか――」

「私なら大丈夫よ!何より国を守らなくて何が花騎士だというの?!」

 

そうか、そうだよなと小さく呟き彼は答える。

 

「分かった、ならどこか高台に・・・・・・」

「それも大丈夫!私の魔力を甘く見ないでよね!」

 

 

そう言うが否や、彼女は軽やかにスフィンクスから飛び降りる!

声をかける間もなかった。

 

だが目をこらしてみれば、何時の間に展開したのか巨大な傘が彼女のいる位置に開いている。

 

 

《マスター、僕達はどうすれば?》

 

傘――落下傘を呆然と見送り、多少混乱していた陸斗の頭に念話が届く。

視線を回すと、その先にはこちらを見ている小太郎とハゼランの姿。

 

数秒して思考と息を整え、彼は返事を送る。

 

《――、よし、二人とも花騎士や衛兵の人たちを援護して回ってくれ。ハゼランは小太郎の案内を任せて良いか》

《分かったよ、リクト大兄様》

 

大兄(おおあに)様――ってえらく古風じゃないか?》

《良いでしょ?コタロウが私にとっての兄様なら、その雇い主のキミは大兄様》

 

ハゼランのあくまで純粋な念話に彼は頭をかく。

 

《分かったよ、呼び名くらい好きにしてくれ――それはそうとして、頼んだぞ。戦況につながることがあったら随時念話を頼む》

 

《承知》《任せて》

 

 

念話が途切れ、二体目のスフィンクスが城壁の高台へと降りていく姿を見送った。

 

 

小太郎たち二人が降りていった姿を見送り、彼は近づいていたオジマンディアスにも声をかける。

 

「オジマンディアス、悪いけどこのまま俺の護衛を頼めるか?小太郎以外のカルデアメンバーと合流しようと思う」

「で、あるか。あろうな!花の騎士はともかく、戦場の小兵は愚策であろう」

 

橋の中程に二人は降り立ち、オジマンディアスがスフィンクスを送還する。

 

「マスターよ、分かって居るであろうな?」

「ああ。戦闘は最低限に――だろ!」

 

 

そう言葉を交わし、一人と一騎も駆けだした。

 

 

 

 

 

*      *       *

 

 

 

 

 

 

視点は小太郎達の側に移る。

 

 

「降りたのは良いけど――ハゼラン、ここはどのあたりか分かりますか?」

「待ってて、確認する」

 

小太郎の問いにハゼランは何度か周囲を見回す―そして。

 

「北区画―中流以上の住宅街だね、けど、これは――」

「そうか・・・この光景はそう何度も見たくないモノですが」

 

 

目をこらせば、あちこちに蟲の残骸と――朱の血だまりが散乱している。

 

「コタロウ兄様、どうしようか?」

「……」

 

ハゼランの問いに小太郎は僅かに考え込み、そして告げる。

マスターである陸斗なら、この状態を見て多少は尻込みするかも知れない。

 

だが、その後に取ろうとする行動も長いつきあいのなかで彼は察していた。

 

「生存者や残敵を探しつつ、次の区画へ向けて移動する。これが良いでしょう」

「分かった、それなら周りを探してみよ?」

 

 

だが、動き出そうとした二人の耳へ重い足音とかすかな悲鳴が届く。

 

「害虫!!」

「それに住人か!」

 

顔を見合わせもせず二人は駆けだした――

 

 

 

 

忍びの二人が到着する少し前。

 

「急げ、東区画の訓練棟へ!!」

 

何人もの衛兵が住人達を守り、あるいは誘導している。

不意に現れた害虫は主に南区画を主に暴れており、それでもいつここまで来るか時間的猶予も不明。

 

それでも彼らは古くからあるマニュアル通りに動き出していた。

つまり、首都東区画――先日モミジらが使っていた訓練棟を始めとした軍用施設の一部を避難場所としてそこへ住民を収容すると言う方法を。

 

だが、そんな彼らの頭上に不吉な羽音が響く。

その羽音に住民達が思わず顔を上げるが――その視線が、彼らが最後に見たものだった。

 

 

「~~~~~!!!!」

 

声にならない悲鳴が、恐慌へと変わる。

生き残った者達の目の前に居たのは、無機質な目を向ける数匹のトンボ型害虫だった――

 

 

 

そして、時間は二人が駆けだした時点へと戻る。

 

 

「くっ……これは…」

「そんな――」

 

 

二人が見た物、それは先ほどとは比べものにならないほどの血だまりと死屍累々の姿。

頭を振って冷静さを取り戻したハゼランがまず口を開く。

 

「他の花騎士はどこにいったの……?」

 

呆然としたその言葉に小太郎が辛うじてという状態で口を開いた。

 

「これだけの襲撃だ、手が間に合わないと言うことも十分に考えられます。害虫、その物量は侮れないと思ったほうが良いでしょう…」

 

そう話した彼の耳に瓦礫が動く音が届く。

すかさずそちらへ振り向き、警戒しつつ近づくと――

 

「――、キミ、は」

「ここの住人ですか?僕達はあなた方を助けに来た者です。ハゼラン、手伝って貰えますか?」

 

上手く空間が空いたのだろう、壮年の男女と少女の三人が暗がりから小太郎を見つめている。

口を開いた男は息も絶え絶えで、時間をかけられる場合ではないと言うことはすぐに察せられた。

 

小太郎の説明を受け、ハゼランが準備にかかる。

 

「てこでどかす時間はない。非常に荒くなるけど、覚悟して――コタロウ兄様、中の人たちにもそう話してくれる?」

「分かりました。三人とも、身体を動かさないで――ハゼラン」

「うん―――!」

 

小太郎の合図に合わせ、ハゼランがクナイに結ばれたワイヤーに魔力を流す。

瞬間、分厚い瓦礫の表面だけがはじけ飛び人一人を救い出せる空間が空いた。

 

「よし、救助を――」

 

 

そこへ何かをこすり合わせるような声が響く!

見れば蜘蛛型の害虫をはじめとした群れがこちらへと近づいてきていた。

 

その姿に民間人の三人がおののく。

だが、彼らに向けハゼランが優しげに声をかけた。

 

 

「大丈夫。私の名にかけて貴方たちをやらせはしない――兄様、ここの人たちをお願い」

「ええ、任せました。さあ…」

 

 

ハゼランが、鋭さを増した眼で害虫を睨む。

 

 

 

「これ以上は一歩も進ませない」

 

 

冷酷に告げ、同時に飛翔。

彼女の動きに対し、害虫の振るう鎌は遅すぎた。

 

だが、援護射撃とばかりにトンボ型害虫が体当たりを仕掛けようとする。

 

「甘いと言ったよ」

 

瞬間に次のクナイを抜き払い、彼女が空中でもう一度「跳ぶ」。

ソレと行き違いに害虫がその場を通り過ぎ――不意にもがいた。

 

「私の鋼糸は誰も逃がさない――ここで、終わらせる」

 

その瞳はあくまで無感情。

声に応えるかのように張り巡らされたワイヤーが光を反射する―

 

脳天を貫き害虫が絶命したことを確認し、彼女は蜘蛛型へと向き直る。

 

 

 

 

その一方で小太郎は民間人の一家を助け出していた。

 

「さあ、捕まって!」

「う、うん…」

 

子供を助け出し、そのまま両親も助け出す。

そこまで終えたところで強烈な爆風と爆発音が響いた。

 

とっさに小太郎が彼らの盾になり、顔を覆う。

 

それが晴れると――

 

「―――、ふぅ。終わったよ」

 

砂埃の向こうから歩いてくるハゼランの姿があった。

目立った傷はない。

 

「無事で何よりです。ハゼラン、僕はマスターと連絡を取ります。この一家の護衛を頼みます」

「それぐらい問題ないよ」

 

 

言葉を交わし、小太郎は念話のチャンネルを開く。

 

 

【マスター、小太郎です。状況報告を行いたいのですが宜しいでしょうか】

『―――、どうした?』

 

【ええ。民間人の一家を救助しハゼランを護衛に付かせて待機しています。このままだと危険なのですが、避難場所のような物は分かりませんか?】

『それなら首都東区画にある訓練棟だ、俺もカルデアの連中と一緒に居るが、かなりの数の避難民が集まってる』

 

 

その念話に彼の表情が少しほころぶ。

 

【よかった、その一家もそちらへ送りたいと思っています、このまま向かって良いでしょうか?】

『…ちょっとまて、帰還してきた他の花騎士と一緒にそっちへ向かう。目印になるものはあるか?』

 

 

陸斗の念話に小太郎が周囲を見回す。

やがて――

 

【大樹に取り込まれたかのような祠が目の前にあります】

『なるほどな――それなら俺も見覚えがある、少し待ってろ』

【承知しました】

 

 

返事を答え、念話が途切れた。

 

 

 

 

-*-*-*-*

 

十分ほど後になり、陸斗を始めとしたカルデアの一同と…その後ろに背が高くメガネをかけた男と和風甲冑を身につけ、頭には緑から赤にグラデーションした紅葉の髪飾りをつけた女性が小太郎達の現在地へと集まっていた。

 

その様子をみやり、まずアルジュナが声をかける。

 

「この状況からよくぞ無事で…」

「ハゼランのおかげですよ。それとマスター」

 

小太郎が怪訝そうな目を向けたのは、彼らの後ろに立っていた男女二人組だ。

 

「彼らは一体――」

「あ、紹介しとく。この人はカミサカ・スグル。リリィウッド騎士団長の一人だそうだ」

 

 

陸斗のセリフが途切れるのを待ち、長身の男が進み出て口を開く。

 

「僕はカミサカ・スグル。対害虫連合第224騎士団の団長をしている。こっちは妻のアカリだ」

「えっと、カミサカ・アカリです。民間人の方を助けて貰ったと言うことで…ありがとうございます」

 

スグルの方は急所になる箇所を鉄板で補強し、関節部分には革をあてがったクロースアーマーと言うべき甲冑を。

またアカリの方もそれと同じような甲冑を着込んでおり、二人の装備には共通して「焔と緋の風車」の印が刻まれている。

 

「アカリ…?花の名前じゃないんだ?それに紋様がおそろいなんだね」

 

妙だな、と漏らしビリーが疑問を口に出す。

それに答えたのはスグルだ。

 

「ああ。花騎士として世界花の加護を与えられたモノは本名を一度預けられ、引退するときにまた名前を返されるという契約をするんだ。あとこの「焔と緋の風車」は僕の騎士団の紋章、旗印だね。拘るところはもっとこだわるから、まだまだシンプルだよ」

 

 

そうあっけらかんに話したスグルの言葉に、陸斗は内心とんでもない事を聞いた気がすると思いながらも話をつなげる。

 

「ここ以外の害虫の襲撃は収まってるんだが、ヒガンバナはまだ行き先が分かってないんだよな?」

「ええ。一人だけで心配ですが…」

 

その不安にスグルが割って入る。

 

「彼女の名なら僕も知っている。確か虹の称号を持っているんだ、よっぽどのことがない限り大丈夫だとおも―――」

 

 

 

そこへアルトの声が投げかけられる。

 

 

「なぁに、皆して集まって」

 

 

 

 

その声の先にいたのは――銀髪灼眼に狐耳をした、妙齢の女性だった。

 

 

 

「え――お前、ヒガンバナ?!一人でなにしてたんだよ?!念話も通じなかったし!」

 

心配の余り非難めいた声音になった陸斗に対し、まぁまぁと声をかけつつ彼女が近寄ってくる。

よく見ればいくらかは疲労した跡が見えるが、一見したダメージはないように見える。

 

「ちょっと思うところがあってね、北側の調査と殲滅を終わらせてきたのよ」

「アンタこそちょっと待て、今殲滅って言ったか?!」

 

 

ただならぬセリフにモードレッドがかみつく。

それを受け流し、ヒガンバナが次のセリフを紡いだ。

 

「ええ。北側の害虫は制圧したわ。安全も確保済みよ」

 

 

どうやって…といぶかしげに思う一同に対し、カミサカ夫婦は何やら納得したように頷く。

 

「虹の称号に偽りなしか…リクト君、民間人の方は僕達で預かろう、いいね?」

「え、あ、はい――お願いします」

 

 

 

カミサカ夫婦に連れられ、民間人の一家が場を後にして。

 

 

先ほどより声のトーンを落としたヒガンバナは、こう告げる。

 

「ダ・ヴィンチちゃんだっけ?その人に見てほしいものがあるの」

 

 

と。




『お前の成すべき事はなんだ?』

―国を害するモノを、殺すこと―

『なら、そのモノは誰だ?』

―人理継続保証機関・カルデアのマスター、フジマル・リクト―

『なら往け、汝の使命を成すままに』

―……………―


巨斧を引きずり、狂気に墜ちた蒼き花がゆっくりとリリィウッド市街地へ歩き出したことを知るものはいない―――――
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