交錯特異点A 氷樹未踏結界   作:タングラム

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前回のあらすじ。

突如首都にわき出した害虫を排除した一行。
そのさなかリリィウッド騎士団長の一人であるスグルとも知り合い、最終的にはひとまずの安全を確保した。

したはず、なのだが―――


8節 蒼く歪む 愛国花

 首都リリィウッドに突如わき出した害虫を退け、一夜が明けたその翌朝。

 

 朝早くから澄み切った空気に槌音が響き、復旧作業が行われているその最中。

陸斗らカルデア一行と仮契約をした花騎士達の一行は宿の一室に集まっていた――

 

 

 復旧のためのざわめきで普段では有り得ない時間に活気があふれている中、その場だけはある種の緊張感を漂わせていた。

 

 それは、銀髪狐耳の女性――花騎士・ヒガンバナが持ち帰ってきた蒼一色の結晶体からあふれていた。

 三角錐を組み合わせたかのような人工的な形でありながら、どこか霊的な力すら感じられる多角結晶体。

 

 

 

「(この形、見覚えしかないんだが…)なぁヒガンバナ、こいつはどこで?」

 

 陸斗の推しはかる声に、数秒思案してから彼女は口を開く。

 

「それだけどね、害虫のなかに一際蒼い体色が目立つのがいたのよ。それを他の害虫と同じように倒したら出てきたわね――生命の結晶じゃないみたいだし、何かしらって」

 

 

 彼女の話を引き継ぎ、今度はアルジュナが口を開く。

 

「生命の結晶――この世界でのいわば魔術資源ですか。ですがマスター、この形は」

「ああ」

 

 彼の視線と目線に陸斗が確信を得たかのように頷き、口を開く。

 

「コイツ…まるで真っ青な聖晶石だな?」

 

「聖晶石・・・ですか?カルデアでの召喚に必要だって事は陸斗さんから聞きましたけど・・・・・・?」

 

 彼の言葉にホトトギスが問いかける。

 それを聞き取り、陸斗が答えた。

 

「確定されてない未来の凝縮体、可能性の権化、そしてカルデアの召喚での唯一の触媒――だとしても、何でこんなもんが」

 

 そう、感情を抑えるように話す彼の目線はまさに疑惑の眼だった。

 

 

 

 

 何時の間に端末を取り出したのか、ダヴィンチが画面と蒼い聖晶石を交互に眺めうなりを上げる。

 その様子を興味深そうにサクラが眺め――そして、声をかけた。

 

「ところでダヴィンチちゃんはなにをしてるのかしらー?」

「それがね・・・サクラ、これ見て」

 

 彼女の差し出した画面をオッドアイの瞳孔が左右に動き、文字を追う。

 

「分かる範囲で解析かけてるんだけどねー、まさかこの天才の解析を阻む物があるとは」

「どういう事なのかしら?何か不透明な物があるの?」

 

 きょとんとした顔でサクラが答える。

 

 一方のダヴィンチの表情は晴れない。

 

「ああ。皆も聞いて欲しい」

 

 

 

 

その言葉にざわついていた卓上が静まった。

 

 

 

 

「この蒼聖晶石なんだが、確かに一部の構成はカルデアで使われていたモノと同じだ。その他に、混ぜ物のような形でマスター君――リクト君の蒼い令呪に近い魔力反応も出ている。けど」

 

「けど、何だい?キミにしちゃあ歯切れが悪いじゃんか」

「それを今から言うの。だからね――」

 

 

 

そう彼女が次の言葉を話そうとしたところで、奇妙なざわめきが一同の耳を叩いた。

ある者は妙な予感を感じ取り、ある者は経験から殺気に近いような物を察する。

 

 

「良いところで・・・マスター君!」

「ああ、全員話は後だ、ひとまず様子を見に行く――皆、警戒は解くな」

 

 

 それぞれに頷き、英霊と騎士の一団が席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

ほとんど同時刻、首都リリィウッド南門―つまり陸斗らが入場した門、その大橋で。

一人の女性がぼんやりとした目線を保ったまま橋の上に立っている。

 

 

水色のツインテールに、蒼い花を模した髪飾り。

背丈としてはやや小柄であり、またその身体はメリハリも大きく、フリルをあしらった紺色の薄い外套をまとっている。

 

そして普通であれば感情豊かで幼げさを感じさせる顔立ちと土色の瞳は「なにも考えていない」様にうつろな表情。

また、左腕一本でその姿に見合わない巨大すぎる両手斧を支えていた。

 

 

 彼女――リリィウッド哨戒部隊の一人、花騎士のネモフィラが姿を現したのはこの膠着状態から十数分前のこと。

しばらくの間行方知れずだった哨戒部隊が戻ってきた、と言う話に担当の守衛が出向き声をかけたが、全くの無反応。

それを意に介さず、彼女は仁王立ちの体勢のまま微動だにしていないのである。

 

手を出すわけにも行かない、元老院でわざわざ対応を協議している場合でもない、と堂々巡りのまま時間だけが過ぎていた――

 

 

 

 

 

 

 

そしてその門の近くへ、陸斗一行が到着しようとしていた――。

 

 

「妙だな・・・ってあの人は俺の受付をしてくれた兵士か、ちょうど良かった・・・」

 

 

頷き、彼は兵士へと声をかける。

 

「お疲れ様です――何事なんですか?」

「なんだ――って君は先日の。実はな・・・・・・」

 

いぶかしげな表情で振り返った彼だったが、特徴的な一行の姿を見ると僅かに緊張感を緩ませ、事のあらましを語って聞かせる。

 

 

 

「行方不明だった花騎士?」

「そうなんだ。哨戒部隊が行方不明だったんだが、その内の一人があの大橋に陣取ってしまってな、俺たちでは手出しをしようにも出来ないでいたんだ」

 

 

そう話を終えたと同時に、陸斗の脳裏に響く念話。

 それは――

 

 

【マスター、その陣取ってるヤツからかも知れねぇが猛烈な殺気が止まらねぇ。この城門の裏側からでもはっきりと分かるぜ】

 

 翠眼を城門の向こうに向け睨んでいるモードレッドからだった。

 

 

『まさかあの殺気の正体がソレだとでも言うのか?こういう時の直感は――信じたほうが良いか、分かった』

 

 

 

「――大丈夫か?」

「え、ああ、少し考え事を。よかったらその陣取っている花騎士の件、俺たちに任せて貰えませんか」

 

 

 唐突に見えたその提案に彼は驚きの表情を見せた。

 

「良いのかい?解決してくれるのなら助かる」

「引き受けました。それと」

 

 

 

一度話を区切り、陸斗が兵士に向き直る。

 

「念のため、自分たちがここの対応をしている間は誰も手出しをしないで欲しいんです――お願いします」

「分かった、他の仲間にもそう伝えよう」

 

 

 

兵士と別れ、陸斗は待機していた一行に合流。

 そして門が開かれ―――仁王立ちしていた蒼髪の少女と目が合った、瞬間。

 

 

 

 

 

『!!!!』

 

 さながら突風が吹き付けたかのような勢いで猛然と駆けだし、ためらいなく両手斧が振りかざされる!!

 

 

「させっかよ!」

 

真っ先に対応したのはモードレッド、赤雷をまとわせたクラレントが両手斧と真っ向から激突し火花を散らす!

 だがそれを意に返さないように少女がうなり声を上げた。

 

 

 〔ウアアアアア゛!!!!コロス、カルデアノマスター、コロス!!〕

 

そのまさしく咆哮という轟きに陸斗が驚きの表情を見せるが、それでもなお少女は止まらない。

 二撃、三撃、四撃と加速していく猛撃に徐々に押され始めるように見えた、だが。

 

「仮契約とはいえ、私たちのマスターを殺すとは聞き捨てなりませんね!!」

「やらせるわけには行かない!」

 

 

ツバキとモミジが抜剣し、それぞれに剣撃を引き受ける。

 

 

 その間に小太郎ら後衛組の護衛で下がった陸斗が念話のチャンネルを開いた。

 相手は――

 

 

 

【マスター君、あの子の状況を解析してみるよ!】

『是非とも頼む、時間はどれくらいかかる!?』

 

【5分――いや、2分で終わらせてみせるから!】

『分かった、ヒガンバナはダヴィンチの支援を頼む!同じ花騎士だ、何かの助けにはなるはずだ』

 

【引き受けたわ!】

 

 

 念話を一度きり、術士の二人が距離を取る。

 その間にも猛撃の嵐は止まらない――!

 

 

『続いてアーチャー4名!』

 

【は、はい!】

【どうしますか】

【何かしら?】

【なんだい?!】

 

『ビリーとサクラは攪乱程度であのツインテールをけん制、ホトトギスとアルジュナは害虫に備え周囲を警戒しろ』

 

 

 了解、と四者四様の返事が返る。

 銃士二名が照準を合わせ、弓士二名が周囲の警戒へと入った。

 

『小太郎、オジマンディアス、ハゼラン。三人には俺の護衛を頼みたい。害虫が寄ってこないとも限らないからな』

 

【承知】

【太陽たる我を護衛などとは不遜であるな、だが引き受けたぞ!!】

【分かった、大兄様】

 

 大まかに、と言う状態ではあるが布陣を設定した陸斗が、狂い踊る蒼花を睨む―!

 

 

 

 

 

 

 

 

 *       *

 

 

 

 

 

 

 

 

 〔デテイケ、コノクニカラデテイケ!!〕

 

 悲鳴とも慟哭ともとれる叫びと、それに応えるように風を切り裂き、斧が轟く。

 

「そんなわけに行くか!」

 

その剣戟を切り返しモードレッドが吼える。

 入れ替わりに二刀を構えたツバキが切り込んだ。

 

「いい加減にうるさいですよ、ひとまず黙りなさい!!」

 

乱撃には乱撃をぶつけろ。

 そう言うかのように手数で勝る二刀の応酬に狂戦士の動きが止まり――全力で振りかぶった一撃を持って襲いかかった!

 

 〔グ、ジャマヲ、ズルナァ!!!〕

「っ痛、なんて力・・・!」

 

二刀を交差して辛うじて防ぐ彼女だったが大股歩きで五歩ほどはじき飛ばされ、残った衝撃に手をしびれさせる。

 

 〔ア゛ア゛ア゛ッッッ!!〕

「―――!!!!」

 

死が、迫る。

 害虫の鎌や切っ先とは比べものにならないほどの死が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*        *        *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の陸斗ら後衛組は――

 

 

【何よ、このよどんだ空気――ダヴィンチ、これの解析はどう?!】

【ああ――あの子を狂わせている気配の元はコイツか!】

 

「なんだ、二人とも何か分かったのか?!」

 

鬼気迫る勢いの念話に、陸斗がたまらず声を出す。

 それに応えたのはダヴィンチだった。

 

「ヒガンバナの見立てが当たったよ、あの子凶悪な催眠術をかけられているかのような状態なんだ」

「・・・・・・――って事は?」

 

その言葉に陸斗は僅かに考え込み・・・古い記憶を呼び起こした。

 あれは確か第一特異点(オルレアン)の―――!

 

「まさか、狂化かよ?!」

「途中の工程は違うけど結果から見ればまさにそう、あの子意識に蓋をされて闇雲に暴れているんだ!」

 

「けどどうする、どうやって止める?!前衛の三人がかりとはいえ長く保つ保証はない!」

 

 

《いや、打開策ならばある。アレがサーヴァントでなくまだ花騎士というのなら!》

 

焦りを隠せない陸斗にかけられた声の主は―――

 

 

 

 

 

 

 

 *       *       *

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、首都南門の橋上では――

 

 

 

 

 

 

 

ツバキは辛うじて刀を翳そうとするが、それよりも先に突然の弾幕が狂戦士の足を止める。

 

【ツバキちゃん大丈夫?】

【ええ―――助かりました!】

 

その正体は照準を合わせていたサクラとビリーの連射だ、はじけ飛ばされた砂礫が即席の煙幕となる!

そして振り向いた先には砲剣の切っ先が!

 

 

 

「足を止めたね?!貰ったぁ!!」

 

 

狂戦士の横をくぐり抜け、振り向きざまに砲剣を抜き払ったモミジだ。

その一撃に反射的に反応した狂戦士の体勢が崩れる。

 

更に――

 

「この距離なら、逃がさない!」

 

至近距離でトリガーが引かれ、魔力が刃へと流し込まれる!

 

 

 〔グア゛ア゛ア゛ッッ?!?!〕

 

モードレッドの魔力放出に匹敵する一撃を、しかも奇襲で受け、狂戦士がたたらを踏む。

 

「よくやったモミジ!――コイツはおまけだ!!」

 

 

戦闘の間に魔力の補充を終えたモードレッドが二度目の魔力放出を得物に乗せる。

赤雷剣と化したクラレントが狙うのは――がら空きに見えた胴だ。

 

 たまらずに狂戦士は得物を剣の軌跡の予想位置へ翳し、防ごうとする。

 

 

 

 

 瞬間、赤雷の騎士が、嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

「その得物、へし折らせて貰うぜ!!」

 〔――――――――?!?!!?〕

 

 

剣と柄が触れた一瞬。

その一瞬で両手斧は分断され、刃は勢いのままに凍結した水面を滑る。

 

《後は任せよ!!》

「って、その声――ちっこいの?!オイなにす―――」

 

 

モードレッドの誰何の声は届かない。

蒼光は一瞬で彼女の前を駆け抜け、それでもなお噛みつかんとする形相の狂戦士の耳元へとしがみつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《花騎士の自負があるなら目覚めよ、―――――(・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉が彼女の耳に入り、認識した瞬間。

変化は劇的だった。

 

今にもまた暴れ出しそうな様子から――完全に動きを止め、その場に倒れ伏す。

そしてその彼女から紫色の靄めいた物体が流出していった。

 

 

【アレが彼女を…ここで討ち滅ぼす!!合わせなさい!】

【はい――――!!】

 

まるでよろけているかのように逃げようとした物体に、二筋の矢が突き刺さる。

勿論、物質的な状態ではない。

 

片方は神威のカケラを宿した炎、もう片方は正の言葉を連ねた詩文の矢――

一溜まりもあるはずがなかった。

 

 

 

「…、あれ、私…何を?」

 

靄が焼却されたと入れ替わりに少女は意識を取り戻す。

暴威をもって暴れ回っていたことすら覚えていないような、眼をまばたきさせた表情で…。

 

 

 

 

 

 

*     *      *      *

 

 

 

南門大橋の騒動のその後――

 

 

英霊と騎士の一行は拠点としている宿の一室へと戻ってきていた。

少女のことは守衛達を通じて陸斗らに任せる形になったために、ひとまず罪を問うことは当面置いておくこととなったという。

 

人的被害がなかったことも良い方向に向いた理由だろう。

 

「本当に、本当にご迷惑をおかけしました!!」

 

蒼髪ツインテールの少女――花騎士のネモフィラがこれ以上ないまでに深々と頭を下げる。

 

 

「まぁ、催眠術めいた物がかけられてたなら仕方ない。そういえば守衛から聞いたが、君はこの国の哨戒の担当者の一人なんだっけか?」

「ええ――こんな時でなかったらリリィウッドの魅力を余すことなく紹介したかったですけど…」

 

 

普段であれば活発その物である表情は伏し目がちだ。

話していて思い出したのか、陸斗は一つ質問を投げかけた。

 

「そうだ、この近くで人を隠せそうな場所なんて知らないか?」

「え――それこそ、たくさんありますけど…特に難解な場所と言えば…エレンベルクの樹海でしょうか?」

 

 

ネモフィラ曰く。

 

「その樹海は北はウィンターローズとの境界に、東はベルガモットバレーに接しています。この国の中でも群を抜いて深く、また警戒がしきれていないほどの深い森なんです」

 

と語るのだった――

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