交錯特異点A 氷樹未踏結界   作:タングラム

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前回のあらすじ。

突如リリィウッド南門大橋に現れた花騎士、ネモフィラ。

何者かの手によって暴走していた彼女を止めた一行は、その彼女からエレンベルクの樹海に関わる話を得る。

事態はまた少しずつ動き出していた。


9節 声は 境界を越えて

リリィウッド南門大橋の騒動から更に一夜明け。

陸斗らが滞在する宿に四人ほど客人が訪問していた。

 

言うまでもなく──

 

 

「なるほどな、エレンベルクの樹海か…ヒトを隠すのには都合が良いか」

 

キリンソウをはじめとしたプロテア親衛隊の面々。

この報告を聞くまでそれぞれに疲れた表情をしていた物の、陸斗の話で希望を見いだしたように見えた。

 

「議員…いや、プロテアさんを探すにしても、闇雲では余計な手間になる。偵察と情報は必須でしょうね」

 

生姜の風味をきかせたミルクティー…インド様式のチャイを含み、アルジュナが静かに言葉を紡ぐ。

その言葉に忍びの二人が頷いた。

 

「偵察ならお手の物だよ、ね、兄様」

「ええ。一刻も早く動きたいところですが──」

 

僅かにあかるげなハゼランと対照的に、小太郎はゆっくりと陸斗の方へ振り向く。

 

「事は俺たちだけで動ける状況じゃない、何が潜んでるか分からねぇからな」

「そこでアタシたちの出番なんだよね!」

 

腕組みをした彼の言葉に勢いよくオトメギキョウが答える。

ええ、とうなずき、リカステがまとまった話の部分を挙げていく。

 

「正面は私たちが、そしてその陽動の裏でリクト君達が動く…ここまでは良いけれどね。不安はまだあるけど─」

「これだけの戦力だ、如何様とも出来る!いざという時は我に頼っても良いぞ?」

 

彼女の疑問をオジマンディアスが一喝して切って捨てる。

そして少し落ち着いたところで、今度はモーレッドが口を開いた。

 

 

「そういや、ちっこいの」

「む?どうした、赤いの」

 

机の上から翠眼を見返すオリヴィアに、彼女は小さく息を吐き。

 

「ネモフィラ…だっけ?アイツをどうやって止めたんだよ。何かつぶやいたらプッツリと倒れるなんてよ」

「それか──」

 

うむ、と頷き彼女は一行へ向き直る。

 

「これは花騎士以外には決して明かしてはいけないのだがな…事ここに至っては言うべきであろうな」

 

彼女の言葉にまずリカステが思案顔になる。

それを意に介さず、オリヴィアは話を始めた。

 

 

「リクトは聞いたかも知れないが、花騎士といえど元は普通の人間に過ぎぬ。十分な鍛錬を積み、それぞれの目覚めのきっかけを経て花騎士となるのだ。そして契約として元あった本来の名を預け、花の名を名乗る事で初めて花騎士としての心身が揃った状態となる」

 

 

そこで彼女は一度セリフを切り、もう一度口を開いた。

 

「そしてこの「真名」はもしもの時の停止手段に変わる。ネモフィラは汝等サーヴァントと花騎士の合いの子であるようだと見当をつけ、それに賭けたのだ。結果は汝等も知っての通りだ」

 

 

その言葉に納得がいったかのようにリカステが反応する。

 

「つい半月ほど前だけど、小さい女の子が害虫の襲撃に巻き込まれたときに花騎士として覚醒した、って話があったことを思い出したわ」

「ほう?その子供はよほど才に恵まれていたようだな」

 

 

「それで、結局の所どう出るんだ?」

 

 

押し黙っていたキリンソウの言葉に陸斗は数秒押し黙る。

そして、口を開いた。

 

 

「─よし、ハゼラン、小太郎」

 

「は」

「うん?」

 

「お前等はエレンベルクの樹海へ先行して情報収集を頼む。あくまで偵察だ、戦闘は一切行わないつもりで行ってくれ」

 

「承知」

「分かった」

 

「他の皆は偵察の結果次第で動く。基本的には先ほどの方針だと思ってくれ」

 

 

そこへ褐色の手が挙がる。

 

「アルジュナ?」

「もしも、ですが小太郎達が戻って来れないことも考えられます。その場合は?」

 

 

彼の言葉に陸斗は左手甲を眺める。

そこには赤と蒼の令呪が鈍く輝いていた─

 

 

「令呪を切ってでもこちらへ戻す―けど、連絡は少なくとも一時間に一回以上はしてくれ」

 

 

 

*

 

 

 

 

それぞれに解散していった後、最後に残っていたのはダ・ヴィンチだった。

 

「先生、どうしたんだ?」

「マスター君、まだ時間あるかな?」

 

「?、あるけど…」

 

彼の問いに、彼女は僅かに言いづらそうにしつつも口を開く──

 

 

 

「もしかすると、カルデアとの連絡つながるかもしれないよ」

「なっ?!」

 

 

 

部屋を変え、ダ・ヴィンチの部屋へ移動する。

陸斗の襟元からはオリヴィアが顔を覗かせていた。

 

 

「─しっかし、お前この場所が気に入ったのか?何かこそばゆい」

「構わぬだろう?この位置が我にとってちょうど良いのだ」

 

 

そう話す二人を無視し、彼女はタブレット端末を数度操作する。

その様子にもオリヴィアは興味を示していた。

 

 

「それはそうとダ・ヴィンチよ」

「ちょい待ち、今接続の周波数合わせてるから」

 

 

しばし、砂嵐のような音がタブレットから流れ続ける。

 

徐々にダ・ヴィンチの表情も険しさを増していく。

 

だが、驚きは突然やってきた。

 

 

 

≪──・・・─い!≫

 

その声に陸斗の表情が変わる。

もう聞けないと思っていた声が、かすかに彼の耳を叩く…!!

 

「よーし、目処は付いた!後はこの周波数を─どうだ!!」

 

≪先輩、リクト先輩!!≫

「マ…シュ…?!おいマジかよ!」

 

 

≪ああ、良かった!そちらは大丈夫ですか?!≫

「─ひとまずは無事だ、通信通ったならモニターも生きてるはずだ…!」

 

≪はい…!ああ、本当に良かった―!≫

≪ちょっと変わってね≫

 

 

感涙にむせびそうなマシュの声を遮り、アルトボイスが話に割り込む。

その声にオリヴィアの表情が固まった。

 

(待て…この声、ダ・ヴィンチと同じ―)

 

≪流石『もう一人の私』、糸口をつかんで通信ライン確保するとは≫

「コピーのような存在だと言っても私だって星の開拓者だぜ?出来ないはずがない!」

 

 

フッフッフ、と全く同じ声音でほくそ笑む二人の『星の開拓者』。

通話の向こう──仮称として『管制室のダ・ヴィンチ』はひとしきりほくそ笑んだ声音の後、本題に入った。

 

 

≪『もう一人の私』、そちらのいる世界だけど、こちら側とは全然違う別世界というのは分かるよね?≫

「勿論。サーヴァントに匹敵する戦士と虫が戦い合ってるよ」

 

やはりね、と管制室のダ・ヴィンチは声を漏らす。

そして告げられた一言がもたらした物は、この場の二人と一体を驚かせるのに十分すぎる衝撃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

≪手短に言っておこう。その世界から聖杯の反応があった≫

 

 

 

 

 

 

 

その言葉にカルデアの二人は硬直し。

スプリングガーデンの一体は意味が分からないと言うかのように首を左右させる。

 

「不思議な物だが…姿なき魔術師よ」

≪うん?君は何者だい?≫

 

「我はオリヴィア、故あってリクトの道案内を買って出た者だ。それはそうと、聖杯とは何だ?彼から名前は聞いてはいるが今ひとつ要領が掴めんのでな」

 

≪そうだね──第三魔法、いわば形而上の存在を汲み上げて、物質に転換する。何でもありの願望機、願えばその結果の善し悪しにかかわらず叶えてしまうシロモノさ≫

 

あまりにも滑稽。

だがその声音は本気。

 

その内容にオリヴィアは眼を見開いた。

 

「っ?!ならばそれを手にした時点で我がこの世界の蟲を消してくれと願えば──」

 

≪叶えてしまうだろうね。機械的に、遠慮なく、一切無情に≫

 

そこまで話したところで、通信の向こうから妙なざわめきが届く。

二、三度紙がこすれる音が聞こえ・・・

 

 

≪最新の観測報告だよ、今通信している…リリィウッドでいいのか?そこと真北のウィンターローズ以外との世界の境界線が曖昧になっていると連絡がある≫

 

「待て…それってどういう──」

 

 

 

管制室のダ・ヴィンチの報告に対し、陸斗は頭を全力回転させて理解しようとする。

そして一つの光景に思い至った。

 

「まさか、第六特異点(キャメロット)の一歩手前かよ?!」

 

人理が一度燃え尽き、世界が虚無に消えていく光景。

それが彼の脳裏にフラッシュバックする。

 

「リクトよ、どういう事か説明できないか?」

「分かった、ごく手短に言えば──『世界が分割されて消える』って言えば分かるか?」

 

「!!!!!」

 

それは予想以上の衝撃だった。

 

スプリングガーデンは六つの世界花で保たれている。

それが分割され、更に小さくなったとしたら──

 

 

「(均衡が崩れ、何が起きるか想像もできぬではないか?!)」

 

オリヴィアの表情に陸斗は納得してくれたか、と思いを込めて頷く。

 

 

≪──、通信はここまでが限界のようだ、けどモニターはこのまま続ける。上手くタイミングが合ったらまた連絡するよ、それまで無事でいて!≫

「そちらの方は任せたよ!」

 

 

 

 

 

 

*

 

 

通信が切れ、それぞれに糸が途切れたかのように脱力する二人と一体。

 

「とんでもない事の目白押しだな」

「そういやオリヴィア、俺に蒼い令呪を貸し与えたときに役割がどうとか言ったよな?」

 

「……ああ。ここまで話を聞いてた以上、汝の役割はこれではっきりしたのか」

「そうだな、それにそもそも聖杯の回収はカルデアの任務、それに人理修復の最後の工程だ。ただ帰るわけにはいかなくなったな─」

 

 

 

そう話しているところへ、念話が入り込む。

 

 

【大兄様!】

【ハゼランか、どうした】

 

【目標に目星が付いたよ、こちらも少し消耗しているから戻りたいんだけど良いかな?】

【早いな、よくやった!──くれぐれも無事に戻ってきてくれ、こっちからも話しておきたいことがある。小太郎はいるか?】

 

【うん、一緒に撤収中───コタロウ兄様】

 

 

一拍おき、念話の声音が変わる。

 

【変わりました、こちらの報告は──】

【いや、そっちの報告は全員集まってからで良い。それより、カルデアとの通信がつながった】

【本当ですか?!】

 

 

 

そうやりとりし、先ほどの連絡をコタロウに、念話のチャンネルを通じてハゼランにも共有する。

 

【世界消失に繋がる…マスター、それとおぼしき現象をこちらも確認しました】

【何だって―?説明してくれ】

【はい、地図を作成しつつ偵察を続けていたのですがどうしても一方向しか進めなくなる場所がありました】

 

 

その念話にダ・ヴィンチも静かに驚きの表情になる。

 

【具体的には?】

【はい。ハゼランの話によればエレンベルク樹海の北東へ抜ける側―フラスベルグ渓谷と呼ばれる場所の入り口へ抜ける道が続いていた、と言うことなのですが…】

 

そこで一度息を整えるように念話が止まり、話を続ける。

 

【道を確認しても濃霧で何も見えず、何かを投げ入れてもすぐに戻ってきてしまう、と言う状態で─】

 

【互いに情報のすりあわせが要るようだな…今どのあたりまできた?】

【は、エダの深き森という碑文を通り過ぎたあたりです】

 

【よし分かった、くれぐれも無事戻ってこいよ】

【承知─!】

 

 

 

 

事態が大きく動き出した。

それを自覚し、陸斗は解散していったカルデアの一同、そして花騎士の一同を呼び戻す──。

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